楽曲にアナログ感を加えるのに最適なモデルをエンジニアがチェック!

ゴールデン・エイジ・プロジェクト、カメレオンラボ、チャンドラー・リミテッド、オーロラ・オーディオ、ART、ツァール、AMSニーヴのアナログアウトボードを徹底レビュー!

ゴールデン・エイジ・プロジェクト、カメレオンラボ、チャンドラー・リミテッド、オーロラ・オーディオ、ART、ツァール、AMSニーヴのアナログアウトボードを徹底レビュー!

2018/07/15


DAWソフトとパソコンだけで音楽を作ると、60〜70年代のようなアナログの質感が出せません。そんな時に頼りになるのがアナログのハードウェアです。ここでは7機種を厳選し、音楽制作集団「SIGN SOUND LLC」に所属する小岩孝志氏、近藤圭司氏、増田康臣氏という3人のレコーディングエンジニアに音質をチェックしてもらいました。また、マイクプリとARTのアナログミキサーに関しては、試聴時に演奏をお願いしたミュージシャンのSHINGOMANさんにもコメントをいただきました。

取材:平沢栄司 写真:小貝和夫
 


 

ニーヴのキャラクターを低価格で実現した入門機にピッタリな1台

ゴールデン・エイジ・プロジェクト
PRE-73 Jr.

¥35,000
問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855
http://umbrella-company.jp/
 

近藤:正直、この値段でこの音はすごいと思いました。ニーヴならではの中低域の粘りや太さというキャラクターを持っているだけでなくて、高域にキラキラ感があって、現代的なところがいいですね。明るくて高域のスピードが速いから、ボーカル録りの時のモニター音も聴きやすかったと思います。

増田:確かにしっかりニーヴ感があって、値段を知って本当にビックリしました。他の安価な機種だとハイが妙に強調されていたり、すぐに歪んでしまったりするんですけど、これはロー感もあるし、ヘッドルームの広さも感じました。

近藤:このキラキラした感じは、 ピアノとかを録る時に、2台揃えてステレオで使ってみたいと思いましたね。ドラムのオーバートップも、ヌケ良くキレイに録れると思います。

増田:他のニーヴ系の機種とは違って、EQやライン入力が付いていないので、録音されたものに後からアナログ感を付加するような使い方は少し難しいのですが、それを差し引いても余りあるポテンシャルの高さを持っています。

近藤:アウトプットをフルにしてインプットを下げればクリーンになって、インプットを上げて過大入力にした状態でアウトを下げると歪み気味になるんですけど、この歪みにビンテージ感が出ていて、気持ちいい感じで録れました。

増田:あと、この形状が珍しいですよね。1Uの1/4のサイズで、すごくコンパクトです。作業スぺースも取らないから、宅録にはピッタリじゃないですか。

近藤:外に録りに行く時も、バッグに入れて持っていけるよね。入門機として最適ですし、本当に3万円台という値段を感じさせない音です。
 

フロントパネルにはギターやベースを直接つなぐことができるHi-Z仕様のDIインプットを装備している。また、48Vのファンタム電源も供給可能だ

マイク端子の左隣にあるインサート端子を使うことで、同社の人気EQ「EQ-73」などをつなげることができ、より幅広い音作りができるようになる
 

ミュージシャンズ・ボイス

実際にモニタリングしているサウンドは、中低域に特徴があって、マイルドに聴こえる印象でしたね。他の30万円以上のハイエンド・マイクプリと録り音を聴き比べてみましたが、僕の耳にはこちらの方が中域がキレイで艶があるように感じられました。PRE-73Jrはニーヴ系なのでサウンドが太いというか、すごくダイレクトな感じがします。

この製品について

【製品概要】
「PRE-73 Jr.」は、ビンテージのニーヴ1073の音楽的なサウンドを再現した、1/4ラックサイズのコンパクトなマイクプリだ。低価格ながらもリッチでシルキー、しかもパンチのあるサウンドを実現。なお、専用のラックマウント・トレイ(UNITE mk2/別売)を使えば、最大4台のPRE-73 Jr.を1Uラックサイズにまとめることが可能だ。

【SPEC】
●入出力端子:インストイン(標準フォーン)、マイクイン(XLR)、アウトプット(XLR)、アウトプット(標準フォーン)、インサート(標準フォーン)
●コントロール:ゲイン、アウトプットゲイン
●電源:24V ACアダプター(付属)
●外形寸法:約110(W)× 45(H)× 280(D)mm(突起物含む)
●重量:約1.42kg
 



 

中域に密度があって柔らかさを感じる、まとまりがいいサウンド

カメレオンラボ
Model 7603

¥110,000
問:㈱宮地商会M.I.D.
https://miyaji.co.jp/MID/
 

増田:音の第一印象はスッキリしているというか、低域が控えめで中域にフォーカスされている感じがしましたね。

近藤:オリジナルのニーヴを踏襲しつつも、ちょっと違う個性も持っていますね。中域に密度があって柔らかさも感じます。まとまりがいいというか、いい意味であまり主張が強くなくて、オケの中で馴染む音という印象です。

増田:入ってきた音がそのまま出るのではなくて、少し緩やかになるというか、だから出しゃばらずに優しく感じるんでしょうね。

近藤:ちょっとコンプがかかったようなニュアンスもあって、サビで強く歌った時に少しコンプレッションされた感じがするのも、音がまとまって聴こえる要因かもしれないですね。ギターのアタック感もうまくコントロールされていましたし、ピッキングが安定して聴こえました。

増田:録音済みのトラックをこれに送ってEQをイジってみたんですけど、EQポイントがニーヴ1073と同じで調整しやすいですし、効果もとても自然で耳に痛い感じはなかったですね。あと、低域がスッキリしているという、カメレオンラボらしいキャラも感じられました。

近藤:マイク録りの印象は中域が出ていてまろやかだったので、EQで少しハイを上げてみたらしっくりきました。あと、ニーヴ1073と違う点ですが、ハイのシェルビングの周波数帯域が選べるようになっているんですよ。この点はオリジナルより進化してるというか、より好みの音に近づけやすいと思います。

増田:個人的にはバッキングやバックコーラスとか、曲の土台になるパートや、曲を彩るパートがいい感じに録れるマイクプリだと思いますね。
 

入力はマイクとラインが切り替え可能で、ゲインツマミの可変値は外側にマイク、内側にラインを印字。また、マイクのインピーダンスも選ぶことができる

ミッド(左写真)とローで選べるEQポイントは、ニーヴ1073とほぼ同じになっているが、本機ではハイ(右写真)もEQポイントが選べるようになっている
 

ミュージシャンズ・ボイス

 

音がダイレクトで、素に近いという印象がありますね。歌が生々しく前に出てくる感じで、艶があるように聴こえました。ギターの場合も弾いている時の空気感や、ピッキングの強弱がダイレクトに伝わってくるので、ニュアンスが出しやすかったです。もし強くストロークした際に歪み気味になったら、コンプを併用するといい感じで録れると思います。
 

この製品について

【製品概要】
「Model 7603」は、同社の代表機種「Model 7602」を基本に、新設計のバリアブル・ゲインアンプを搭載したマイクプリだ。太くて艶のあるサウンドが特徴で、調整の自由度が高い3バンドEQにより、幅広い音作りができる。マイク入力インピーダンスは300Ωか1,200Ωを選択でき、低出力のリボンマイクでもベストなサウンドが得られる。

【SPEC】
●入出力端子:ラインイン(XLR)、マイクイン(XLR)、インストイン(標準フォーン)、アウトプット(XLR)
●コントロール:ゲイン(ライン、マイク)、ハイパスフィルター、3バンドEQ(ロー=35Hz、60Hz、110Hz、220Hz/ミッド=350Hz、700Hz、1.6kHz、3.2kHz、4.8kHz、7.2kHz/ハイ=3.4kHz、4.9kHz、7kHz、12kHz、16kHz)、アウトプットゲイン
●電源:100V
●外形寸法:482.6(W)×44.45(H)×279.4(D)mm
●重量:約5kg
 



 

低域が豊かで高域がシルキーなビンテージ・チューブサウンドを再現

チャンドラー・リミテッド
REDD.47 Pre Amp

¥320,000
問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855
http://umbrella-company.jp/
 

小岩:僕はチャンドラー・リミテッドの製品が好きで、実際に使っているんですけど、このモデルはちょっとイメージと違っていて、いい意味で裏切られました。中低域の面積が増す感じで、素直な音なんですけど地味ではないし、艶っぽさを持っているんです。

近藤:ビンテージのチューブアンプみたいに低域が豊かで、高域もシルキーに伸びますね。全体の音像が大きいうえに、上下だけじゃなくて左右と奥行きが感じられます。すごく音が立体的ですね。

小岩:録っている時の波形を見ると、今回試聴した機種の中で一番ダイナミクスがあるんですよ。

近藤:すごく生々しいというか、目の前にプレイヤーがいる感じで、ボーカルのリップノイズや、ギターのスライドノイズとかがリアルに聴こえます。

小岩:これでベースを録ってみたかったですね。低音パートは「メーターは振れているけど、聴感上はよく聴こえない」ということがあるんですよ。でも、これを通すと低音が前に出て、収まりのいいサウンドが得られる気がします。

近藤:歌を録る時に、インプットを高めにして歪み気味にする設定を試したんですけど、よりビンテージ感が出ました。真空管のサチュレーションをほんのり加えることもできるし、ビリビリ歪むサウンドにすることもできるというように、意外と細かく調整ができて、音作りの幅が広いと思います。

小岩:録った音に後からこれを通す場合、ライン入力がないので、−20dBのパッドスイッチを入れてからインプットを調整するといいと思います。

近藤:音像を大きくしたい時にこれを使うといいと思います。
 

ゲインの値をより細かく調整することができる「ファインゲイン」という機能を搭載。これにより、サウンドのキャラクターを思い通りにコントロールできる

周波数を7通りから選ぶことができるランブルフィルターというローカット・フィルターにより、ボーカルや各楽器の不要な低域を正確に削ることができる
 

ミュージシャンズボイス

中低域に粘りがあってパワーを感じます。逆に、個人的には高域がちょっと物足りなかったかな。その分、モニタリングしている時はマイルドに聴こえて、声を張る場面でも歌いやすかったです。録り音も聴いてみましたが、やはり中低域が出ていてチャンドラーらしいと思いました。ハイファイな音よりも、ビンテージ感が欲しい人に向いていますね。
 

この製品について

【製品概要】
「REDD.47 Pre Amp」は、同社とアビーロード・スタジオが共同開発で復刻した、EMI公認の真空管マイクプリだ。1968年まで同スタジオで使用された「EMI REDD.51コンソール」のサウンドを再現しており、美しいビンテージの質感をまとった音楽的なトーンが得られる。音のキャラを変化させるファインゲインを搭載しているのも特徴だ。

【SPEC】
●入出力端子:インストイン(標準フォーン)、マイクイン(XLR)、アウトプット(XLR)
●コントロール:ゲイン、ファインゲイン、ランブルフィルター、アウトプットゲイン
●電源:115~120V
●外形寸法:483(W)×88(H)×276(D)mm
●重量:約6kg
 



 

レンジが広くて色付け感もない、原音を余すところなく収録できる実力派

オーロラ・オーディオ
GTQ2

¥395,000
問:㈱宮地商会M.I.D.
https://miyaji.co.jp/MID/
 

近藤:私はオーロラ・オーディオの他のマイクプリや、ビンテージのニーヴを愛用しているので、どちらの音もよく知っているんですけど、このGTQ2も同じ質感を持っていますね。レンジが広くて色付け感もないですし、原音を余すところなく収録できるという印象でした。

小岩:ニーヴを意識しているだけあって音が太いですね。加えて中高域の伸びもあってバランスがいいので、いい感じで音が張り出してきます。特にギターの立ち上がりが速くて、強く弾いても潰れずに音が前に出てくるんですよ。

近藤:ボーカルもバッキングトラックよりも一歩前に出てくるので、楽曲の中心的なパートで使うとサウンドが際立ちますね。ギターでは静かに弾いたところから強くストロークしたところまで安定していて、低域もよく録れるのでコード感がしっかり見えました。

小岩:あと、ニーヴと同じくEQを使った時のサウンドに独特の質感があるので、録音済みのトラックをGTQ2に通して、後からEQでアナログ感を付加するのも面白いと思います。

近藤:EQの効き自体もニーヴのものと似ていますね。プラグインのEQではなく、GTQ2のEQを味付けとして使うのは有効だと思います。入力ゲインを上げていった時の歪み方もニーヴに似ているんですよ。めちゃくちゃ歪ませてもいい感じに収まるんです。

小岩:歪ませた時の音の粒立ちもいいですよね。

近藤:GTQ2はゲインの調整幅が+10〜−80dBと広いので、リボンマイクのような低出力のマイクから、出力の大きなコンデンサーマイクまで、色々なマイクに対応できる点も便利です。
 

ロー/ミッド/ハイというシンプルな3バンドのEQを搭載している。ローは80Hzでハイは12kHz、ミッドに関しては400Hz、1.6kHz、3.2kHzを選べる

入力部はインピーダンスを切り替えることができるうえに、ゲイン幅がかなり広いので、様々なタイプのマイクからライン入力まで幅広いソースに対応できる
 

ミュージシャンズ・ボイス

 

基準にしたオリジナルのニーヴ1066よりも全体的にサウンド自体がキレイで、マイルドに感じました。サビで声を張り上げた時でも、高域がキツく聴こえないので歌いやすかったですね。ギターを弾いている時にも同じ印象を受けました。マイルドなので、強くピッキングした時もハイが抜けたり、音が割れることがないので、安心して演奏できます。

この製品について

【製品概要】
「GTQ2」は、シンプルな3バンドEQを搭載している2chマイクプリだ。入出力段のトランスには、ニーヴ1073でおなじみのマリンエア社に在籍していたスタッフが製造したものを採用。非常に豊かでパンチのあるサウンドを実現している。また、Hi-Z入力も備えており、ライン録音で失われがちなギターなどのエアー感や存在感を引き出してくれる。

【SPEC】
●入出力端子:インストイン(標準フォーン)×2、マイク/ラインイン(XLR)×2、アウトプット(XLR)×2、アウトプット(標準フォーン)×2
●コントロール:ゲイン、3バンドEQ(ロー=80Hz/ミッド=400Hz、1.6kHz、3.2kHz/ハイ=12kHz)、アウトプットゲイン
●電源:115V
●外形寸法:482.6(W)×44.45(H)×279.4(D)mm
●重量:約9kg
 



 

真空管のテイストが手軽に得られる多機能な小型アナログミキサー

ART
Tube Mix

¥39,800
問:日本エレクトロ・ハーモニックス㈱
TEL:03-3232-7601
http://www.electroharmonix.co.jp
 

小岩:クセのない素直な音という印象ですけど、チューブを通すスイッチをオンにするとキャラが激変するんですよ。音の輪郭がハッキリして、それがすごく良くてビックリしました。

増田:まず、ミキサーとしてのサウンドがしっかりしています。チューブを通すと音量が変わるので単純な聴き比べは難しいんですけど、オンにした時のサウンドが良かったですね。

小岩:オンとオフで2通りのキャラクターが楽しめる感じですね。もう少し存在感が欲しい時に、EQで色々イジるのではなくて、チューブをオンにするだけでグイッと音が前に出てくる。

増田:それと、ch1とch2の両方でチューブが使えるのがいいですよね。ステレオの録り音にチューブならではのファットな感じや歪みを加えることができますからね。倍音が付加されて、他のパートとも馴染むと思います。

小岩:例えば、あまり前には出したくないけど存在感は欲しいシンセストリングスとかに通すと面白いんじゃないかな。あとは、打ち込みのドラムをちょっと歪ませるような感じで使うと、音が生っぽくなっていいと思います。宅録のデジタルな音にアナログの味付けをするのに使うのにすごくいいです。

近藤:真空管のテイストを知らない初心者にもオススメですね。「チューブの歪みってこういう感じなんだ」ということがわかってもらえると思います。

増田:3バンドのEQも効きが良かったです。DI入力があるch5もチューブをオンにできますし、ch5にはアンプシミュレーター機能も付いていて、オーディオインターフェイスとしても使えるので、ギタリストにも最適だと思います。
 

1〜5chにはハイ(12kHz)、ミッド(2.5kHz)、ロー(80Hz)という3バンドEQを装備しており、ツマミを回すだけで素早くサウンドメイクが行なえる

左下のスイッチでチューブをch1&ch2、もしくはch5のどちらに通すかを選べる。また、左上のスイッチでch5のアンプシミュレーターをオン/オフする
 

ミュージシャンズ・ボイス

 

このARTのミキサーは、インプットにチューブが入ってるんですよね。サウンドを聴いた時の印象もその通りで、チューブっぽい後ろから押し出すような感じがあって、アタックも強かったです。それと、奥行きのある音像とキレイで伸びのあるところもチューブらしいというか、効果がとてもわかりやすかったですね。これは僕も欲しくなりました。

この製品について

【製品概要】
「Tube Mix」は、木製のサイドパネルや針式VUメーターを採用した、ビンテージ風なデザインを持つ5chミキサーだ。プリアンプには12AX7真空管を搭載しており、マイクやギターなどにウォームなアナログ特有の質感を加えることができる。また、オーディオインターフェイス機能を搭載しており、本機のサウンドをUSB経由でパソコンに送ることも可能だ。

【SPEC】
●入出力端子:マイクイン(XLR/CH1、CH2)、ラインイン(TRSフォーン/CH3、CH4)、インストイン(標準フォーン/CH5)、アウトプット(標準フォーン)×2、コントロールルーム(標準フォーン)×2、AUX SEND/RETURN、ヘッドホン、USB2.0
●コントロール:レベル、パン、3バンドEQ、AUX1/2、トリム(CH1、CH2、CH5)
●電源:18V ACアダプター(付属)
●外形寸法:198(W)×84(H)×265(D)mm
●重量:2.2kg
 

以上、5台の試奏方法

今回の試奏では、DAWソフトはアビッドPro Tools、オーディオインターフェイスはアポジーのSymphony I/O MkⅡを使っています。歌と演奏を担当したSHINGOMANさんには、静かなところと声を張り上げるところがある曲を用意してもらいました。ボーカルのチェックでは、マイクにAKGのC414ULSを使い、持ち込んだマイクプリのニーヴ1066で録ったサウンドを基準にして、テスト機を通して録音したものと聴き比べています。

ギターのチェックでは、テイラーの214ceというエレアコを弾いてもらいました。DIにカントリーマンType85を使い、ニーヴ1066で録ったものを基準にして、テスト機のDIインプットに直結して録音したものと比較しています。また、ライン入力がある機種では、Pro Toolsのトラックにインサートして録り音を送り、EQの効きや歪み感など音の変化もチェックしています。
 


 

とことんサウンドを追い込める機能を多数搭載したAPI 500互換のEQ

ツァール
EQ1

¥265,000
問:オタリテック㈱
TEL:03-6457-6021
http://www.otaritec.co.jp
 

増田:見た目はAPI 500規格のユニット2台分で、音はオーソドックスでオールマイティに使えるEQという印象です。スタジオで僕らが使っているコンソールのEQと仕様が同じで、気になる帯域を思った通りに調整できました。

小岩:僕も同じ印象を持ちました。SSLのコンソールで育ってきた僕としては、SSLのEQに見た目も触った感じも似ているなと思いました。

増田:EQのゲイン幅に5dBと15dBの切り替えがあるんですけど、15dBにするとコンソールのEQと同じ印象なんですね。でも、5dBにするともっと細かく、マスタリングレベルのミリ単位の作り込みができます。

小岩:0.5dBで調整ができるということは、やはり2ミックスとかトータルに入れて補正に使うための機能なんでしょうね。サウンド自体に歪み感はないし、ステレオタイプなので位相が狂わないところも使いやすかったです。

増田:あと、各バンドのQがバンドを超えて干渉できるというか、SSLのコンソールだと近い帯域に設定したバンド同士のQをイジるのは難しいんですけど、これは帯域が被っていても気になるポイントをとことん追求できます。

小岩:QについてはSSLのコンソールのEQと比べると、幅がちょっと広めというのが僕の印象ですけど、これは慣れれば問題ないと思います。

近藤:EQのことがわかっている人が使うと真価を発揮する、プロユースの本格的なモデルですね。

小岩:確かにEQのことがわかっている人がサウンドを徹底的に追い込んでいくという用途で使うのには、すごく良く出来ているEQだと思います。
 

写真上はハイミッドの周波数を3倍の1.8kHz〜18kHzに変更できるスイッチで、写真下はローミッドを1/5の40Hz〜400Hzに変更できるスイッチだ

各バンドのゲインの変化幅と、インプット/アウトプットゲインの変化幅を、それぞれ5dBか15dBに切り替えられるスイッチを本体右下に装備している
 

この製品について

【製品概要】
この「EQ1」は、同社のアナログコンソール「AM1」のEQセクションを、API 500モジュール化したステレオEQだ。ローノイズかつクリアで音楽的な音質を実現。スイッチ操作でハイミッドを3倍の1.8 kHz〜18kHzに、ローミッドを1/5の40Hz〜400Hzに変更できるなど、音作りの幅が非常に広い。なお、各バンドを個別にバイパスすることも可能だ。

【SPEC】
●入出力端子:インプットL/R、アウトプットL/R
●コントロール:ハイ(2〜20kHz)、ハイミッド(0.6〜6kHz)、ローミッド(0.2〜2kHz)、ロー(30〜300Hz)、ローカット(25〜250Hz)、インプット/アウトプットゲイン
●電源:API 500シリーズ互換のシャーシから供給
●消費電力:250mA
●外形寸法:76.2(W)×133.4(H)×169(D)mm
●重量:約1.2kg
※モジュールのみの販売
 

ツァールEQ1の試聴方法

EQ1については、レコーディングした後にPro Toolsのトラックにインサートする形でサウンドをチェックをしました。Pro ToolsからアポジーSymphony I/Oの入出力を使ってEQ1をインサート接続しています。レコーディングした音を本機に送ってイコライジングを加え、各バンドに付いているツマミの効きや、ツマミの動きに対する音の変化具合などを確認しています。
 



 

DAWの平面的な音に奥行きや立体感を加えられるサミングミキサー

AMSニーヴ
8816

オープンプライス(¥388,000前後)
問:伊藤忠ケーブルシステム㈱
TEL:03-6277-1854
https://www.itochu-cable.co.jp
 

小岩:特に色付け感はなくて、素直なサウンドという印象ですけど、少し明るく艶っぽい感じになりますね。

増田:Pro Toolsだけのミックスだと音が平面的になってしまうところが、これを通すことによって奥行きや立体感みたいなものが出てきました。

近藤:8816に送るレベルを変えながら試したんですけど、レベルが小さい時は中高域にアタック感があって、若返ったような印象になりますね。逆に上げていくと中低域の粘りが出てきます。

小岩:確かにサミングミキサーですけど、入力レベルで音作りもできましたね。

近藤:トラック数が多い楽曲をDAWソフトの中だけでミックスすると、音が飽和してしまうような時に、8816でサミングすることで余裕が出来て、楽曲に奥行きや立体感が出てくるのでしょうね。

増田:Pro Toosだけでミックスしたものと、1回信号を外に出してこれを通したものでは混ざり具合が違うというか、やっぱりアナログのミックスは聴きやすいんですよ。

近藤:そういった意味では、これを通すことで音の分離が良くなるのかもしれないですね。ダンゴになっていたものが、ほぐれていくというか。トータルコンプやテープシミュレーターとはまた効果が違いますけど、これを使えば曲全体をうまくまとめてくれると思います。

小岩:DAWソフトの中だけでミックスしている人がこれを使うと、音作りの自由度が広がるというか、懐が深くなると思いますね。あと、ヘッドホン出力の再現性が高くて、すごく良かったです。

近藤:他にもトークバックとかレコーディングに便利な機能も入っているし、本当に色々な使い方ができると思います。
 

演奏者とのコミュニケーションのためにトークバックマイクが装備されており、左下のヘッドホンの音量ツマミを押すと、トークバックマイクが機能する

16ch分の入力は、D-Sub25ケーブル経由で行なう(8chずつ)。また、8ch分のメインアウトとインサート入力/出力もD-Sub25ケーブルを使用する
 

この製品について

【製品概要】
「8816」は、 往年のニーヴコンソールと同じトランス回路が採用されている、2Uラックサイズの16chサミングミキサーだ。ニーヴならではの艶のある存在感抜群のサウンドを、DAWソフトに録音したトラックに付加できる。ステレオ感を調整できる「WIDTH」機能やトークバックマイクなど、録音に便利な機能を多く搭載しているのも特徴だ。

【SPEC】
●入出力端子:インプットch1〜8、インプットch9〜16、インサート入力(8ch分)、メインアウト(8ch分)、インサート出力(5ch分、以上D-Sub25ピン)、スピーカーアウト×2(2系統)、メインアウト×2、ヘッドホン(以上標準フォーン)
●コントロール:CUE、レベル、パン、ソロ/カット、他
●電源:36V ACアダプター(付属)
●外形寸法:483(W)×88(H)×390(D)mm
●重量:7kg
 

ASMニーヴ8816の試聴方法

8816は、サミングミキサーとしてセットアップしてチェックをしました。Pro Toolsのプロジェクトから、リズム系、コード系、ボーカル系という同系統のトラックごとにまとめたものを、アポジーSymphony I/Oからステレオでパラ出力して、8816の各チャンネルに入力。8816でミックスしたものをPro Toolsへと戻して、Pro Tools内の2ミックスと聴き比べました。
 

試聴者プロフィール

〈L to R〉近藤圭司、増田康臣、小岩孝志

【小岩孝志】
これまでに水樹奈々やClariS、梶浦由記、沢田研二、ゲーム「スーパーマリオオデッセイ」や「Splatoon」、劇場アニメ「Fate/stay night」など、アーティストものから映画、TV劇伴、サウンドラックまで幅広い作品を手掛けている。

【近藤圭司】
これまでに宮野真守や林原めぐみ、JAM Project、銀杏BOYZ、劇場アニメ「打ち上げ花火」、ゲーム「NieR Automata」、TVアニメ「牙狼〈GARO〉」など、アーティストものから映画、TV劇伴、サントラまで幅広く手掛けている。

【増田康臣】
これまでにフジファブリックやDEPAPEPE、住岡梨奈、ちゃんみな、橋爪もも、TVドラマ「僕のいた時間」、TVアニメ「凪のあすから」など、アーティストものから映画、TV劇伴、サウンドラックまで幅広い作品を手掛けている。

※SIGN SOUND LLCオフィシャルHP
http://signsound.net

 

協力ミュージシャンプロフィール

 

SHINGOMAN(シンゴマン)
※SIGN SOUND LLC所属

2010年1月、ミクスチャー・ロックバンドAgitatoのメンバーとして、西川貴教が立ち上げたレーベル「Defrock Records」よりデビュー。2013年5月、Agitatoが無期限活動停止をしたことを機にソロ活動に専念し、サウンドプロデューサー、作詞家、作・編曲家、シンガーソングライターとして多方面で精力的に活動を展開している。

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