約3年ぶり、“捨て曲なし!”の2ndアルバムが完成
近藤晃央『アイリー』インタビュー
近藤晃央『アイリー』インタビュー
2016/04/27
曲を作りながら涙が出たっていうのは「六月三日」が初めてでした
──「恋文」は王道的なラブソングですが、これはどういった経緯で作曲されたのでしょうか?
近藤:例えば、ポケベル全盛時代の曲に、ポケベルに関する歌詞が入っていたとして、それを今聞くとちょっと恥ずかしいって感覚あるじゃないですか。 だから僕は時代を象徴し過ぎるものってあまり曲の題材には使わないようにしているんです。でも、今回はあえて現代らしいもにトライしてみたいと思ったのがきっかけです。今はLINEなどを使って、いつでもすぐにコミニュケ―ションが取れますけど、心の距離はむしろ遠くなってるんじゃないかなとも感じるんです。そういった想いから広げて“電波で通じ合う恋愛”を題材にした曲に仕上げました。
──「あの娘が嫌い」と「理婦人ナ社会」は女性目線で書かれた歌詞とのことですが、これはどんな狙いがあるのでしょうか?
近藤:かなりマイナスな言葉を使った曲ですが、僕は男性なので、この内容を男性目線で表現すると、聴く人に「ただの愚痴」として捉えられてしまうんじゃないかなと思ったんです。だから、視点を女性にすることで客観的に聴いてもらえるようにしました。世相が暗いと音楽が自然と前向きになる傾向ってあると思うんです。だから今、人を恨んだり妬むような曲って少ないんじゃないかなとは思うんですが、僕の思う「嬉しさ」にはこういう“汚い嬉しさ”も必要だったんです。
──「アイリーズ」ではそれまでのシリアスな雰囲気が一旦落ち着きますね。
近藤:はい。この曲はアルバム全体の間奏的な意味を持たせた曲で、アルバムの中でも最後に完成した曲なんですよ。曲順がある程度決まってきた段階で、どうしても「理婦人ナ社会」から「六月三日」へのつながりに納得がいかなかったんです。だから場面転換をするためにこの曲を追加しました。
──「六月三日」は結婚するお姉さんへ送られた曲ということですが、お姉さんの反応はどうでしたか?
近藤:この曲は姉の結婚式が6月3日だったので「六月三日」というタイトルなのですが、姉は号泣してましたね。ただ、それ以上に僕が号泣しました。歌い終わった後、姉の友達から「あんなに泣いてる“新婦の弟”初めて見た」って言われて(笑)。
──お姉さんと仲がよろしかったんですね。
近藤:はい。実は僕の実家は古い家系で、僕はそこの長男、つまり後継ぎなんです。だけど東京に出てきたりしたでことで、姉には迷惑かけちゃったりしたんですよ。そんな姉が好きな人と結婚できたっていうことがまず嬉しかったですし、僕の将来を切り開いてくれたのは姉だと思っているので、自分のことのように嬉しかったんです。曲を作りながら涙が出たっていうのはこの曲が初めてでしたね。
──続く「なんのおと」はアルバムの中でも異色の曲ですが、この曲を作曲したいきさつを教えてください。
近藤:この曲は姉が出産して、生まれてきた姪っ子のために作った曲なんです。その子と「音楽でコミニュケ―ションをとれたらいいな」と思ったのがきっかけです。
──擬音語が多く使われれていますが、どういったところを工夫されましたか?
近藤:ただ「子供と一緒に歌える曲」ってだけだとつまらないから、子供と一緒に親も楽しめる曲になったらいいなと思って作りました。例えば「スヤスヤ」っていうのはほとんどの人が“眠る音”だと答えると思うんですけど、“終わりと始まりをつなぐ音”と歌詞では表現しているんです。これを見てあらためて“何の音なんだろうな?”っていう風に考えてくれたら嬉しいですね。
「当時の自分」に曲を書くことで聴いてくれる人に客観的に聴いてほしかったんですよ。
──「月光鉄道」はどんなコンセプトで作られた曲なのでしょうか?
近藤:「アイリー」には「嬉しさ」ともう一つ「IとRe:」つまり“自分への返信”という意味も込めていて、この曲はそのテーマを役割を担う曲なんです。
──いつ頃のご自分に向けられた曲なのですか?
近藤:僕、小学校から中学校にかけて3年間くらいまったく学校に行かなかった時期があって、その時の自分に向けています。いわゆる“ひきこもり”だったんですけど、最初は1日だけ休むつもりが1週間、2週間と続き、気が付けば「戻ってもいいけど、今さらもう戻れなくない?」っていうくらい時間が経ってしまったんです。戻ったら意外とみんな普通の顔してるかもしれないのに「絶対変な顔される」、「絶対気まずい空気になる」って妄想が働いて戻れなくなっちゃったんですよ。
──そんな自分に対して、この曲にはどのようなメッセージが込められているのでしょうか?
近藤:簡単に言うと「変わろう」ってメッセージを込めています。ただ、このメッセージは当時の自分だけじゃなくて、今、実際にひきこもっている人達への間接的なメッセージにもなっているんです。
──それはどういうことですか?
近藤:今、「いったい何人いるんだ?」っていうくらい社会にはひきこもりの人って多いじゃないですか。僕の身近にもそういった人が何人もいて。当時の自分もそうだったから分かるんですけど、その人たちに直接「変わらなきゃいけない」、「外に出なきゃいけない」って言うことは、まったく逆効果なんですよ。そんなことは本人も分かってるので、他人にあらためて言われても腹が立って反発を買ってしまうんです。だから、そんな人に僕ができるアプローチは「当時の自分」に曲を書くことくらいだと思ったんです。そうすることで聴いてくれる人に客観的な視点で聴いてほしかったんですよ。
──メッセージを受け入れてもらうために、少し視点をずらしたということですね。
近藤:はい。ワンクッション置くことで他人事のように捉えられてもいいから、プレッシャーを与えずに「1回聴いてみてよ」って言える曲にしたんです。
──「ともしび」では、命という根源的なテーマが歌われていますが、この曲を作ったきっかけはあるのでしょうか?
近藤:僕のおじいちゃんが亡くなった時に、初めて「自分の中に家族の血が入っている」と感じた体験が基になっています。例えば、「出したものを片付け忘れるのは母さんの血だな」とか、「誰かに優しくしたいって思ったりするのはおじいちゃんの血だな」とか。良いことも悪いことも含めて家族の“命”が自分にちょっとずつ入ってると感じるようになりました。そこから「命のつながり」について考えるようになったんです。それで、「“命”とは、自分という1つのろうそくに色んな人が炎のバトンをつないでできているものなんじゃないかな」っていう例えが思い浮かびました。風は吹けば火は揺れるし、雨が降れば火は消える。「じゃあ火が消えることは死ぬって事なのか?」というとそれは違う。誰かが火を分けてあげればもう一度火は灯るんです。「死ぬ」ということはろうそくが無くなることだと思うんですよ。火が消えるのは一時的に弱くなっているだけで。その様子を歌にしました。
──6月からレコ発ツアーが全国で開催されますが、最後に意気込みを教えてください。
近藤:ライブに向けて、これから自分の作業量がどのくらいになるか、まずそれが心配ですね(笑)。今はアルバムのテーマをライブでどんな風に表現するかということを構想中です。いろんなタイプの曲があるので、それを乗り物に見立てて、1つのテーマパークみたいに演出したら面白いかな、なんて。
──それが本番でどのように表現されるか楽しみですね。
近藤:ぜひ期待してください。 「この人、さっきの曲を歌っている人と同じ人なんだろうか?」っていうぐらい色んな世界観が1度に味わえるライブにしたいです!
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