人に聴かせても恥ずかしくない歌声の作り方を解説!

ピッチ修正ソフト「Melodyne 4 Studio」で始めるボーカルトラック編集術【第1回】

ピッチ修正ソフト「Melodyne 4 Studio」で始めるボーカルトラック編集術【第1回】

2016/05/11


飛澤正人(プロフィール):Dragon Ashや鬼束ちひろ、THE野党などの作品を手掛けているエンジニア。生のサウンドとブレイクビーツをシームレスに融合して構築する空間表現に定評がある。

自分の曲をリスナーにより良く伝えるためには、まずボーカルトラックを心地良く聴かせることが一番大切です。ここでは、今年1月に発売されたばかりのピッチ修正ソフト「Melodyne 4 Studio」を使い、ボーカルのピッチ修正の基本や、効果的な使い方などを紹介していきます。

文:飛澤正人

Melodyneはボーカル編集の自由度が高い

プロのボーカルレコーディングの現場でよく話題になるのが「歌をどれぐらい直す?」というテーマです。もちろん、直さずに済むテイクを録るのがベストですが、「感情が入った、すごくいい歌が録れたけど、少しピッチがズレている……」とか「途中までは最高だったんだけど、着地の音がちょっとズレたね……」など、ピッチを少し直せば素晴らしいテイクになる場合は、「ピッチ修正をしてOKテイクを作る」 という選択をすることが多いのも事実です。人によって差はありますが、ボーカリストの持久力や集中力は限られているため、ピッチを直す前提で「いいニュアンス」を引き出すことに注力したり、短時間で気合の入ったテイクを録ることに尽力した方がいい結果が得られるのです。

ただ、ピッチはすべて正確に合わせればいい、というものではありません。そこで、スタジオでは「どの程度の修正をするのか?」という議論になり、それと共に、「ピッチ修正がどれくらい自由にできるか」という課題もあります。もっと言えば、「どの程度直すか」のさじ加減ができるソフトが必要になってくるということです。

そこで登場するのが、この「Melodyne」です。Melodyneが他のピッチ修正ソフトと圧倒的に違うのは、「波形」を編集するのではなく、「音」そのものを扱っている感覚で編集ができるところにあります。また、ボーカルのような単音パートだけではなく、ギターやピアノなどの和音の解析や修正もでき、取り込んだオーディオデータを元にテンポマップを作成したり、MIDIデータに変換することも可能です。また、ピッチ以外に、タイミングや音量なども視覚的に調整できます。

歌のニュアンスを確実に残しながらの修正作業から、ロボットボイスのような大胆な声質加工に至るまで、高い自由度で変幻自在にボーカルを編集できるのが、Melodyneの魅力だと言えるでしょう。

ボーカルデータをインポートした後の基本的な編集画面。縦軸が音高、横軸は時間で、blob(ノート1つ分の音の塊)の上に描かれた曲線はピッチを表わしている。DAWの波形よりも視覚的に音程を捉えやすく、直感的に編集できる

各blobは、検出したピッチの平均値に置かれる。各blobの縦軸の太さは音量を表わしていて、音量も簡単に修正することが可能だ



ピッチを修正するには、メインツールを使って、各ピッチ枠の中心にくるようにblobをドラッグする。またblobを細かく切って修正し たり、ピッチの揺れを少なくできるなど自由度が高い



ピアノのアルペジオフレーズを解析した画面。和音も視覚的に確認でき、ピアノロールエディタ上のMIDIデータを扱うような感覚で、オーディオデータのエディットが可能だ

 

タイミングの修正をする時に便利なのが、修正した部分の前後が自動的にトリムされて自然なつながりを維持してくれる点だ。音の長さをかなり大幅にストレッチ(伸縮)しても音質の崩れが少ない
 

始めに歌声の仕組みを知っておこう

上のblobを見てもわかるように、人の歌はピッチ曲線がとても複雑です。例えどんなに歌が上手な人が真っ直ぐに音程を出そうとしても、それはとても難しく、特に歌の出だしはある程度ピッチが揺れるものです。むしろそれが人間らしさであり、リスナーに心地良さを与え る要因でもあります。また、「しゃくり」や特徴的な「ビブラート」などにより、ボーカリストの個性が表われます。と、ここまでは歌い方の話です。

さて、人の声は声質や性別、そして言語によって変化するもので、その発音のメカニズムを知ることで編集や音作りに深みを加えることができるようになります。Melodyneによる歌の編集においては、ピッチ修正の他に「フォルマント」や「倍音」の特性を変化させて、別の声に変化させることもできます。下の図解では、その「フォルマント」と「倍音」について簡単に説明しておきましょう。

人間の喉と口の周辺を横から見た断面図。声帯で作られた擬音に近い「ビー」、「ブー」、「ポー」などの音を言葉として認識させるために、人は「声道・喉・舌・唇」と共鳴腔(喉と口腔内)の容積変化を使って、言語発音を作り出している。喉から舌の奥までを「第1フォルマント」、舌の奥から唇までを「第2フォルマント」と呼び、このフォルマントの音響的容積が言葉と歌声に大きく関わってく



声を含めて、ほとんどの楽器は「倍音」を持っており、倍音の量やパターンによって音色の差が現われる。この画像はA3=220Hzの音程で「あ」(上画像)と「い」(下画像)を発音した時のスペクトログラムだ。「あ」と「い」では倍音のパターンが違うのがわかる

新バージョンMelodyne 4 Studioの注目すべき新機能

Melodyneはこれまでにも革命的なピッチ編集を可能にしてきたプラグインですが、今回のバージョンアップではさらに想像を超えた新機能が追加されています。その中からいくつか紹介しましょう。

まず特筆すべきは「サウンドエディター」で、例えばボーカルをシンセのような音に変化させたり、ある特定の倍音だけをブースト/カットすることが可能です。倍音をコントロールするエフェクトと言うと、エキサイターやエンハンサーが頭に浮かびますが、Melodyne 4の「倍音」と「EQ」、「シンセ」の各コントロールは、とても高度な設定を簡単なユーザーインターフェイスで行なうことができます。

次に「マルチトラックノート編集」は最上位版(Studio)だけに付いている機能で、複数のトラックを同じ編集画面上に表示して編集することができます。これを使うと、複数のコーラストラックの混ざり具合や和声を確かめながら修正できるのでとても便利です。

またスタンドアロンで使う際には、ライブ録音したトラック全体のテンポを変更できるなど、マルチトラックでの編集機能が充実していることがうかがえます。

次回からは、これらの新機能を実践的に使う方法を紹介していきます。
◼︎倍音/EQ


「倍音」は、解析したトラックの平均値がグラフで表示される。グラフのバーを上下にドラッグするとオルガンのドローバーを操作するように声が変化する。「EQ」は周波数とノートが示されるので判断しやすい


◼︎シンセ/EQ


シンセは「スペクトル」、「フォルマント」、「音量」で構成されていて、アナログシンセのフィルターのようにかなりエグい加工ができる。設定はblob単位で反映されるので、音量の頭を突いて滑舌を良くすることも可能だ


◼︎マルチトラックノート編集/EQ


ハモリやコーラスラインなどをメインボーカルと同時に聴きながら編集できるのがかなり便利だ。倍音やEQの設定も、セレクトした任意のトラックに対して反映させることができる


◼︎高度なテンポ検出


クリックを使っていない、ライブ演奏のマルチ録音データや生ドラムのテイクなどから、高精度なテンポマップを作り出せる。生のグルーヴに合わせたグリッドが生成されることにより、テンポの異なる演奏同士を同期できる

Melodyne 4 Studio=¥100,000(※他にEditor=¥60,000、Assistant=¥30,000、Essential=¥12,000のバージョンがある)

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