ダジャレを交えた軽妙な文章で 曲作りのノウハウをわかりやすく紹介!
好評発売中の作曲本「神のみぞ知る!? 名曲・作曲 テクニック」の傑作コンテンツを4週にわたって公開【第1回】
好評発売中の作曲本「神のみぞ知る!? 名曲・作曲 テクニック」の傑作コンテンツを4週にわたって公開【第1回】
2017/11/27

ギタリストのためのレコーディングマガジン「サウンド・デザイナー」が発行している作曲をテーマにした単行本「神のみぞ知る!? 名曲・作曲テクニック」が、現在好評発売中だ。
この本は、洋邦のロック・ポップスの名曲を題材に、作曲をするうえで覚えておきたいコード理論やメロディの作り方などのノウハウを、著者の野口義修氏ならではのダジャレを交えた軽妙な文章でわかりやすく紹介するという、これまでになかったタイプの作曲本で、アーティストや楽曲にまつわる逸話も数多く盛り込んでおり、ロック・ポップスのエピソード集としても楽しめる内容になっている。
普段から作曲を行なっている人やプロの作・編曲家を目指している人から、これから曲作りを始めてみたいと思っている人まで、音楽に興味がある人なら誰でも楽しんで読める本書の中から、選りすぐりのストーリーを1話ずつ4週にわたって紹介しよう。
著者:野口義修
発行:サウンド・デザイナー
定価:1,836円(税込)
判型:A5版・平綴じ
総ページ数:276ぺージ
第1週目の題材曲=ザ・ビートルズ「ヘイ・ジュード」
歌メロディの音域は「平易10度(ヘイ・ジュード)」!
【意外にも音域の狭いメロディライン】
サウンド・デザイナー誌での連載は10年近く続けたので、その間に夏のオリンピックを2回経験しました。オリンピックは毎度、選手達のがんばりに感動するのですが、特に2012年のロンドンオリンピックは忘れられません。
開会式が行なわれた2012年7月28日の朝、70歳になったばかりのポール・マッカートニーがビートルズの「ヘイ・ジュード」を歌い、世界中のファンがそのパフォーマンスに酔いしれました。ご覧になった方は、曲の頭で何らかのトラブルでバックとボーカルが一瞬ズレてしまったことで、肝を冷やされたのではないでしょうか?
しかし、ポール本人は、あれこそロッカーの証だと胸を張っていました!
世界中に響き渡った「ヘイ・ジュード」の素晴らしいメロディですが、この曲には、実はある秘密が隠されています。あれだけ起伏に富んでいて盛り上がる曲なのに、基本のメロディラインのレンジ(最高音から最低音までの音域)が結構狭いのです。
最後のスキャットやシャウト部分は除き、基本的なAメロとサビは「1オクターブ+3度」のみの「ミ」から「ソ」までの音域に収まっています。

男性ボーカルの場合は、通常は楽譜より1オクターブ低い音程で歌います。楽譜は実際の音程より1オクターブ高く記譜されているのです(女性は楽譜通りです)。
【誰でも歌いやすい「1オクターブ+3度=10度」の法則】
基本的に、特定の人が歌う曲でない限り、メロディの音域は「1オクターブ+4度(11度)」ぐらいまでに抑えるのがいいと言われています。音域が広がるほど歌えない人が出てくるため、狭い音域で盛り上がるメロディを作ることは作曲家の使命であり、醍醐味であり、腕の見せどころでもあるのです。
アマチュアの方のオリジナル曲を聴くと、本人でさえコントロールに苦しむ高いキーで歌われていたり、歌の音域の幅が広過ぎて、明らかに歌えていないという人も多くいます。他にも、「キーを変えてしまうとギターリフがうまく弾けない」などの奏法的な理由から、ボーカリストの都合を無視した、歌いづらいキーにしてしまっているバンドの曲も多く見られます。
“歌もの”では、ボーカリストがメロディをキッチリと歌い、歌詞をキチンと伝えることが大前提なので、「キー」や「メロディの音域」の調整が非常に重要なのです。
そこで、ビートルズの他の楽曲におけるボーカルの音域を調べてみました。ポール作の「イエスタデイ」の場合は、キーがFメジャーで、「ヘイ・ジュード」と同じく、「レ」から「ファ」までの「1オクターブ+3度」の音域に歌メロが収まっています。
また、ビートルズ後期の傑作ロックンロール・ナンバー「オー! ダーリン」は、強烈なハイトーンのシャウトボーカルで、理想のしわがれ声が出るまでレコーディングを繰り返したという伝説の名曲ですが、キーがAメジャーで、こちらも「ラ」から「ド♯」までの「1オクターブ+3度」の範囲で歌われています!
【名曲は「誰でも歌える限られた音域」にあり】
これらの曲からわかるのは、ポールは「誰にでも歌える音域でメロディを作る」という、歌ものにおける大原則をしっかり守っているということです。
「オー! ダーリン」のハイトーンは、そのままのキーでは日本人で歌える人は少ないいと思いますが、例えばキーをCメジャーにすれば、歌メロの音域が「ド」から1オクターブ上の「ミ」までとなり、誰でも歌えるようになります(カラオケに行ったらトランスポーズで元調の「-9」または「+3」に設定してみてください)。
確かに、メロディの制約を考えずにどんどん音域を広げて盛り上げれば、感動的な名曲は生まれるかもしれません。そして、それが音域の広さを売りにするアーティストであれば問題はありません。
しかし繰り返しますが、本当の名曲は「誰でも歌える限られた音域の中でこそ生まれる」のです。狭い音域を使ったメロディ作りは、作曲家にとっては非常にストレスとなる場合もある大変な作業でありますが、高い音域へ飛ぶ直前に低い音域を挟み、次の音をより高く感じさせるといったテクもあるので、ぜひ工夫してみてください。
さて、「ヘイ・ジュード」の歌メロの音域である「1オクターブ+3度」は、度数で言うと「10度」です。この10度という音域は、ポールにとって、また我々にとって平易に歌えるレンジと言えます。
そう、歌いやすいメロディの音域は、「平易10度(ヘイ・ジュード)」と覚えてくださいね。


題材曲こぼれ話
「ヘイ・ジュード」は、通称“青盤”と呼ばれる、後期ビートルズの作品をまとめたベスト盤などに収録されています。発表当時は、ラストの合唱部分が本編(約3分)よりも長いこと、そして全部で約7分という楽曲の長さに、世界中が驚いたものでした。「落ち込むなよ 悲しい歌ももっと前向きに考えられるさ」という勇気を与える歌詞は、オリンピックで世界に発信するのには最高の楽曲でしょう。
この曲の合唱部のコード進行は「F→E♭→B♭→F」(1度→♭7度→4度→1度)なのですが、ギターでいうところの、主音から2フレット分落ちる「♭7度」のコードも、ビートルズサウンドでは欠かせない要素です。
Plus ONE! 曲作りが上達するヒント
メロディは歌い手の音域を意識して作る
ここでは、人間の声の音域についてプラスワンしましょう。
男性の声域と女性のそれは、お互い1オクターブくらい違います。ですから、譜面の表記も1オクターブ異なり、男性のボーカルの場合は、実際の音域よりも1オクターブ高く記譜します。本稿に出てくる楽譜の音域も、それに倣っています。
また、声は音域によって響きや音色が変わります。手練れの作曲家は、ボーカリストに合った音域で、サビが最もパワフルかつ魅力的に響くように、メロディを書くのです。キーが半音や全音違うだけで、ボーカリストの魅力が半減してしまうこともあるのです。人の声は本当に繊細ですね。
その他のストーリー
第2回=ワン・ダイレクション「リヴ・ホワイル・ウィ・アー・ヤング」
構成は「ああせい、こうせい(構成)」!
第3回=ヴァン・ヘイレン「ジャンプ」
「ペダルこいで登っていこう!」
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