グラミー賞受賞アーティスト、ダニエル・ホーが明かす「Romero Creations(ロメロ・クリエイションズ)」のウクレレの魅力!
グラミー賞受賞アーティスト、ダニエル・ホーが明かす「Romero Creations(ロメロ・クリエイションズ)」のウクレレの魅力!
2017/11/01
グラミー賞6度受賞(ハワイ音楽部門)を誇るウクレレの名手ダニエル・ホー。彼がギター&ウクレレ製作家のペペ・ロメロ氏とコラボレーションしたモデルが国内で発売され話題を呼んでいる。ここでは、ペペ・ロメロ氏によって設立された「Romero Creations(ロメロ・クリエイションズ)」との出会いや、自身が監修を務めたモデル「Tiny Tenor」におけるこだわりポイントをじっくりと聞いてみた。全ウクレレファン必見のインタビューだ!
撮影:小貝和夫
──まずは「ロメロ・クリエイションズ」との出会いについて教えて下さい。
ペペ・ロメロがハンドメイドで作ったウクレレがとんでもなく良くて、友達に「ダニエルに見せたほうがいいよ」って言われたらしいんですね。それで私のところに4本持ってきてくれたんです。僕は今まで世界中のいろんなウクレレを見てきたのですが、その4本は本当に素晴らしくて感動しました。
──どんなところが良かったのですか?
まろやかなトーンです。それまで、ペペ・ロメロはパコ・デ・ルシアやジャック・ジョンソン、お父さんのペペ・ロメロ・シニアなど、一流のギタリストが使うクラシックギターを作っていたわけですが、私も9歳からギターを学んでいたし、ウクレレに求めるものもナイロン弦の良さを凝縮したようなものだったんです。
──その最初の4本というのは、具体的にはどのようなものだったのですか?
全部テナーで、形はみんな同じなんですが材が違うものでした。スプルーストップにブラジリアンローズウッドのサイドとバック、それとオールコア、あとの2本の材はちょっと忘れちゃいましたけど、とにかくスプルーストップにブラジリアンローズウッドが最高に良くて。その時に、それをプレゼントとしていただいたんですが、そのまま今でもレコーディングに使用しています。ボディはトラディショナルなもので、塗装はフレンチポリッシュ。スペイン工法で作られたものでした。
──それから、どういった経緯でペペ・ロメロ氏とコラボレーションすることになったのですか?
ペペ・ロメロという素晴らしい職人さんに出会った頃、ウクレレショップのオーナーに、どんなサイズのウクレレが人気があるのかも聞いてみたことがありました。すると、アマチュアの間では圧倒的にコンサートだという返事が返ってきました。しかし、プロの間ではある程度弦長があって音量が出せるテナーが必要になります。そこで、全長としては23インチのコンサートサイズだけど、スケールはテナーと同じ17インチという寸法のデザインを考えました。ペペ・ロメロは皆さんご存知の通り、伝統的なクラシックギターを作っていた職人さんで、サウンド面での妥協をしない、カッタウェイすら作らない人なのですが、私もどこにでもあるようなサウンドで曲は作りたくないし。お互い良いサウンドを目指すという点では一致していました。そんな中、2人で意見を出し合ってできたのが「Tiny Tenor」なんです。
──では、「Tiny Tenor」を考案する上でこだわった点を教えてください。
たくさんありますよ(笑)。ただ、最初に言えることは、他にないユニークなものにしたかったということです。そして、それは単にデザイン的にということではなく、サウンド面にも言えることです。私は従来の2つのくびれのあるスタンダードなウクレレにおいて、フィードバックが起こりやすい周波数ポイントなどもわかっていますので、まずそういった問題が起こりにくいボディ構造にしたいと思いました。途中にくびれのないデザインになったのは、そういった理由からです。また、容積は通常のテナーのサイズを確保しつつ、いかに全体を小さくできるかということを考えて、ヘッドをできる限りコンパクトにしました。
──ヘッドがサウンドに与える影響というのは?
多少サウンドへの影響はあると思いますが、基本的にはボディが一番重要だと思っています。音的なものを保つために通常よりもちょっと強めに角度をつけていますが、ペペ・ロメロには、ここは極力小さくしたいと伝えました。ちなみに、ヘッドがV字になっているのはペペ・ロメロのアイディアです。あと、ヘッドで言えばむしろ色にこだわっていて、インレイはマザーオブパール(真珠貝)で白く、ヘッドプレートを黒くすることでコントラストを付けてロゴが映えるようにしています。
──胴体に関してはいかがですか?
従来の2つのくびれのあるウクレレだと、強度が増す反面音が硬くなったり、容積がどうしても小さくなったりします。響きづらく、周波数面でいろいろなところで干渉が起きて不均一な音になるんですが、「Tiny Tenor」のようにくびれのないボディ構造の場合は全音域でのレスポンスが均一になるし、サイドの木材も共鳴板の役割をはたしてくれます。あと、先ほどペペはサウンド面を気にしてカッタウェイを作らないという話をしましたが、この「Tiny Tenor」の形だと、最初からカッタウェイがあるのと同じようなものです。どのポジションでも楽に弾いてもらえると思います。
──ボディの大きさはテナーと同じなのですか?
そうです。下の方のボディ幅はテナーと同じです。なので、前を向いて楽器を見ないで弾くと、通常のテナーを弾いている感覚とまったく同じになります。
──バックは?
バックはほんの少しアーチがかかっています。これは定在波を防止するためですね。スタジオなどでも壁を平行にしないで、少し角度を付けて作ると思いますが、それと同じ考え方です。
──サウンドホールがネック寄りにあるのも特徴的ですよね?
はい。ブリッジの周りのトップ(サウンドボード)が音響版の役割をはたすのですが、サウンドホールをネック寄りに配置したことでサウンドボードの表面積が大きくなり、その分、音量を稼ぐことができます。また、口径を大きくしているのも、歌手が口を大きく開けて歌うように、大きな音を出すためです。
──ブレイシングに関してはいかがですか?
バックのブレイシングは、ボディの三角の角度と同じ向きで3本のものが放射状に付くようになっていて、トップのブレイシングはいわゆるリバース・ファンブレイシングという構造で、バックとは逆向きに付いています。というのは、通常のブレイシングだと、一番振動してほしいサウンドボードの中心にブレイシングの木が集中してしまって、かえって鳴らなくなってしまう。ペペ・ロメロは、それを解決するためにこのブレイシング構造にして、最大の鳴りを得ようと考えたんです。
──ブリッジもユニークですよね。
まず表から弦を通して、サウンドホールから出てきたその弦に結び目を作って引っ張れば弦が張れる構造になっています。結んだ弦をスリットに引っ掛けるタイプだと、糸巻きで巻いている間抑えてないといけませんが、この構造だとその心配はいりません。つまり、弦交換が非常に簡単です。それから、今言ったような普通のブリッジだと、ブリッジ自体が常に弦のテンションで引っ張られる形になるので、湿気や木の収縮率の違いで、最悪ブリッジが剥がれてしまうことにもつながります。でも、この構造であればトップの方に引っかかっているので、そういう心配も必要ありません。あと、サウンド面でも弦の振動がよりトップに伝わるというメリットもあります。もちろん、結び目がないのでルックス的にも良いという点もあります。
──サドルはいかがでしょうか?
このモデルは、Low-G・High-Gの両方のチューニングに対応したサドルがセットしてあります。Low-Gにする時には巻き弦を張って下さい。巻き弦は弦が細いため、High-G用と同じセッティングで使用することができるからです。
──「Tiny Tenor」、「XS Soprano」、「Grand Tenor」ともに材は3種類ということですが、この3つになった理由は?
他のメーカーであればもっとたくさんの組み合わせがあるかもしれませんが、我々としては、自分たちが良いと思ったオールマホ、オールコア、スポルテッドマンゴーの3つに絞りました。コアは皆さんご存知の通り、伝統的にハワイのウクレレと言えばコア製ということで入っています。また、マホガニーはトーンウッドとして広く人気がありますよね。サウンドも素晴らしいです。そして、スポルテッドマンゴーはサウンドもルックスも非常にユニークです。木目もスポルテッドでかなり個性がありますから、たとえ同じステージに複数あったとしても、見失うことはないでしょう。サウンド的にも、コアやマホは1kHzから1.2kHzくらいの間にピークがあって、それが中域を豊かに聞かせつつ遠鳴りをよくしているポイントなんですが、マンゴーの場合はそういったピークがないんです。その分、サウンド作りも楽でイコライジングもなくパッと使えて、マンゴーの実と同じですぐに甘いトーンが出せます。そういった理由から3種類をラインナップしています。
──それでは最後に、あらためて「ロメロ・クリエイションズ」の各モデルの特徴を一言ずつお願いします。また、各モデルはどんなプレイヤーにオススメだと思いますか?
まず「Tiny Tenor」ですが、このモデルの魅力は何と言っても可搬性の良さです。持ち運びがしやすいこと、そして、ハウリングやフィードバックを起こしにくいことです。一番フィードバックを起こしやすい300Hzから400Hzくらいのポイントをしっかりと抑えていますので、ライブでギターアンプの爆音の中にあっても大丈夫です。音楽ジャンルを問わず、いろんな人にオススメできます。また「Grand Tenor」に関しては通常のテナーよりも大きいくらいなので、可搬性というのではなく、クラシックギターのようにフィンガースタイルを多用するようなテクニックのある方にオススメしたいですね。そして、「XS Soprano」に関しては「Tiny Tenor」と同じで、ボディは小さいのですが、とても弾きやすい構造になっているのが特徴です。小さいウクレレというのは厚さも薄く作ってしまう場合が多く、これだと腕の支えとなるところがなくなってしまうのですが、「XS Soprano」の厚さは普通のウクレレと同じですので、そういった心配もありません。「XS Soprano」であれば、飛行機の中でも隣りの人を気にすることなく弾けると思いますよ。席の下にそのまま置けるし、そのぐらいコンパクトですから。いずれにしても、「ロメロ・クリエイションズ」のウクレレは、どのモデルもオススメです。様々な方に様々な音楽ジャンルで使ってほしいです!
ダニエル・ホー(Daniel Ho)=プロフィール
ハワイ出身、ロサンゼルス在住のマルチ・ミュージシャン。
音楽への目覚めは3才の時。母親からプレゼントされたおもちゃのピアノがきっかけとなる。以来中学校を卒業するまでに、オルガン、ウクレレ、クラシック・ギター、エレキ・ギター、ピアノ、ベース、ドラム、ヴォーカルとありとあらゆる楽器を習得。高校時代はサーフィンと音楽の両方に夢中になっていたが、その重きは次第に音楽の世界へと傾いていく。ダニエルの音楽の才能はこの頃から一気に開花し、高校3年の時にミシガン州で開催された国際ピアノコンクールで準優勝を受賞する。
高校時代の恩師の勧めもあり、卒業後は単身ロサンゼルスへ移住。音楽専門校、グローブ・スクール・オブ・ミュージックへ入学し、作曲・編曲を専攻する。ここで学んだ音楽理論と作曲学が、マルチ・ミュージシャンとして活躍する現在のダニエル・ホーを生んだといっても過言ではない。
プロデビューは1990年。当時人気のあったスムーズジャズのバンド、キラウエアのリーダとしてまたキーボード奏者として7年間活躍、米ビルボード誌のトップ10にチャートインした実績をもつ。バンド解散後はソロとなり、現在までに、スムーズジャズから宗教音楽まで実に幅広いジャンルのアルバムを18枚リリースしている。2004年にリリースしたアルバム『シンプル・アズ・ア・サンライズ』では、ヴォーカルを全面にフィーチャーし、オーガニックなロックサウンドを聞かせている。またソロになってからは、自らの原点となるハワイの伝統的な音楽スタイルにも注目し、ハワイアン・スラック・キー・ギターを本格的に始める。独自のスタイルを取り入れたスラック・キー・チューニングは、"キラウエア・チューニング"と呼ばれ、オリジナリティー溢れる独創的な世界を作り上げている。近年は自らのレコードレーベル、ダニエル・ホー・クリエーションズを立ち上げ、レコード・プロデューサーとしても活躍。すでに40枚以上のアルバムをリリースしている。自らプロデュースしたスラック・キー・ギターのコンピレーションアルバムとオリジナルハワイアンミュージックアルバムで、アメリカ音楽界の最高峰グラミー賞のハワイ音楽部門ベストアルバム賞を、2005年〜2010年と6年連続して受賞している。
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