プロデューサーとして作詞・作曲、ミックス・マスタリングまで、すべてを手掛ける注目アーティスト
SHIMA、デビュー秘話から最新シングル「MOONWALK」までの制作エピソードを公開!
SHIMA、デビュー秘話から最新シングル「MOONWALK」までの制作エピソードを公開!
2022/05/27
アメリカンスクール在学中にスカウトされ、一時は日本のガールズ・グループとしてデビューを果たすも、どうしても「自分のやりたい音楽を作りたい」という気持ちをおさえられず、その後、アメリカの大学でミュージックエンジニアリングおよびコンピューターエンジニアリングを学んだという異色の経歴を持つアーティスト、SHIMA。ここでは、そんな彼女のデビュー秘話からデビュー・シングル「After The World Ends」、2ndシングル「CONMAN (with Sumire)」、3rdシングル「MOONWALK」に至る、ディープな制作エピソードを公開していただいた。まだ、SHIMAを知らないという人は、絶対チェックしてほしい注目アーティストだ!
取材:東 徹夜(編集長)
デビューまでのいきさつ
──プロフィールを拝見すると、アメリカの大学でミュージックエンジニアリングなどを学ばれたそうですね。
SHIMA:はい。実は高校生の時にスカウトされて、2年間、日本でガールズ・グループとしてレッスンなどを受けてデビューもしたんですが、どうしても自分で「自分のやりたい音楽」をプロデュースしたいと思ったんです。それでフロリダにある「University of Miami」という大学の中の「音楽のエンジニアリングコース」を受講して、色々なことを学び始めました。
──大学では具体的にはどのようなことを学ばれたのですか?
SHIMA:最初はレコーディングやミキシングの基本に関することだったんですが、私のコースはもっと深くて「C++」とかを学んで実際にプラグインを作ったり。私も始め「えっ、こんなことするの?」って思ったんですけど、後になって思うと、この「Plugins」というクラスを受けたことは、単にエフェクトを使うだけじゃなくて、作る側の仕組みも理解できて、良かったです。
──ちなみにどんなプラグインを作ったのですか?
SHIMA:一番最初はパンニングの「Auto PAN」。誰もいらないやつ(笑)。で、それから「Delay」、「Echo」、「Reverb」、「Phaser」、「Chorus」とか、パラメーターを変えるだけで同じエンジンで動くタイムベースのもの。それから「LFO Filter」や「Multiband Compressor」も作りました。でも、「Multiband Compressor」はフィルターをたくさん使うんですけど、私のはフェイズがズレてきちゃって、なかなかうまくいかなかった記憶があります。
──その後、ユニバーサル ミュージックから1stデビュー・シングル「After The World Ends」を2021年9月8日にリリースするわけですが、何かきっかけとなるような出来事があったのでしょうか?
SHIMA:実は学校を卒業して、最初の1年間は安定した収入が得られるソフトウェアエンジニアとして働いていたんですが、やっぱりリスクを取ってでも音楽をやりたいと思って、音楽活動をフルタイムでやり始めたんです。そしたら、ある日突然ユニバーサル ミュージックの担当の方から「興味ないですか?」って連絡が来て。たぶん、私がアップしていた曲がSpotifyのプレイリストとかに載って、それで知ったんじゃないかなと思います。
1stデビュー・シングル「After The World Ends」制作エピソード
──「After The World Ends」はどのように作られたのですか?
SHIMA:もともとデモやアイディアはたくさんあったので、それを寄せ集めて作ったんですけど、やっぱりデビューシングルなので、まずは明るくて、ちょっとテンポの高めのポップスがいいなと。ただ、最初なので何回も録り直して、色んな人にも意見を聞いたりしながら作っていった曲になります。
──使用したDAWソフトは?
SHIMA:DAWはableton「Live」です。いつも、まずコードを作って、そこにドラムをのせて、だいたいワンコーラスくらいできたら何となくボーカルを録って、リリックを書いてという流れになります。なぜ、ワンコーラスかというと、インストを最初から全部作ってそればっかり聴いていると、どうしてもボーカルの雰囲気がなくなっていっちゃうからです。なので、コードとドラムのアイディアができた瞬間に、まずはボーカルに手をつけていきます。で、最後にライザーとかのFX系の音を追加したり、ミキシングしていきます。
──曲作りでよく使う音源というのはあるのですか?
SHIMA:私の場合、音源はほとんど「Serum」です。で、他のベースとかマリンバとかはNative Instrumentsの「KONTAKT」を使うことが多いですね。ただ、「Serum」はプリセットがたくさんあるんですけど、プリセットをそのまま使うことだけはしないと心に決めていて。必ず何かしらのパラメーターはいじっています。自分の中で、他のプロデューサーが聴いて「あっ、このプリセット知ってる」ってなるのは嫌なんで。
──ドラムやビートに関しては?
SHIMA:基本的には「Live」の「Drum Rack」に、「Splice」のワンショットを入れて使ってます。
──では、歌のレコーディングにはどんなマイクを?
SHIMA:Neumann「TLM103」というちっちゃいやつです。マイクを買う時に、自分のバジェットを10万と決めてネットで調べてみたところ、そのプライスではボーカルにオススメって色んな人が勧めていたので買いました。
──ところで、「After The World Ends」にはどのような意味が込められているのでしょうか?
SHIMA:実は、ユニバーサルさんに声をかけてもらう前に、ある方にレーベルやマネージメントをお願いしていたのですが、その人とどうしても「agree(同意)」することができなくて。「あぁ、やっぱりアーティスト活動は大変だなぁ。これからどうする」みたいな感じで、とても悩んでいたんですね。でも、ユニバーサルさんから声をかけてもらって、もう一度「hope(希望)」が出てきて。この曲には、その時の「何かが終わったからっておしまいじゃなくて、悪いことがあったからこそ、次はいいことがすぐそこに待っているかもしれない」という想いが入っています。
──歌詞の中で特に気に入っているところというと?
SHIMA:この曲は最初、「晴風(はるかぜ)が吹いて 過去が吹き飛んだよ」で始まるんですが、私に「興味ありませんか?」って、DMを送ってきてくれたユニバーサルさんの担当者の名前が「はるかぜ」さんなんです。なので、実はここがダブルミーニングになっていて。実際に「はるかぜ」さんに声をかけてもらって「晴風」が吹いたんです。
──そうだったんですか。それは一生忘れられないお話ですね。あと、「After The World Ends」はミュージックビデオにも力が入っていると思いますが、撮影はどちらで行なったのですか?
SHIMA:LAの近くの砂漠です。
──映像のアイディアはSHIMAさんが?
SHIMA:はい。「After The World Ends」は「世界が終わった後」という意味なので、まさにカリフォルニアの砂漠がそんな感じなんですね。何も生きていない(笑)。しかも、これは超偶然だったんですけど、撮影で行った日の前に、近くで山火事があったんです。で、木が全部真っ黒な場所ができて。なので、撮影する予定だった場所を変えて「こっち、こっちで撮ろう」みたいになりました。全部燃えた感じが、まさに世界が終わった感じになって。撮影で借りた土地の持ち主には「ごめんなさん、山火事があったんです」って謝られたんですけど、私たちは「いえーい。超ぴったり!」みたいな感じでした(笑)
──色々な偶然が重なってできたMVなんですね。
SHIMA:そうなんです。
2nd シングル「CONMAN (with Sumire)」制作エピソード
──続いて、2ndシングルについてお聞きします。この曲ではSumireさんがフィーチャーされていますが、彼女とはいつ頃お知り合いに?
SHIMA:私がマイアミの大学に通っていた時に、友達が「ULTRA」のフェスに行くたんびに私のアポートに泊まりに来てたんですね。で、たしか2018年くらいだったと思うんですが、その友達が「Sumireちゃんという友達がいるんだけど、彼女も一緒に行って泊まっていい?」って聞いてきて。私は最初、誰か知らないから「うーん、ちょっと。。」って思ったんですけど、結局「いいよ」って返事して3泊くらいしたのかな。Sumireさんは「初めまして、家に泊まります」って感じだったなんですけど、会って話をしたら、すぐに仲良くなりました。
──その後、音楽を一緒にやろうとなったきっかけというのは?
SHIMA:彼女が私の家に泊まった時にオーディションのテープを録る話になって、私が「手伝える」って自分の部屋でSumireさんのオーディションテープを撮影したんですよね。そこで「あっ、歌上手いな」と思ったのがきっかけですかね。で、私も音楽を作っていたので、「いつかコラボしようね」って言っていたんです。
──それはまだユニバーサルさんから声がかかる前ですよね。
SHIMA:全然前です。
──まさにその時の話が現実になったわけですが、実際に曲を作るとなって、Sumireさんとはどのようなやり取りをされたのですか?
SHIMA:その頃、SumireさんがDua Lipaにすごくハマってて。「Dua Lipaみたいなトラックを作ろう!」っていうアイディアがまず出ました。で、「じゃあ、わかった」って言ってDua Lipaっぽい曲を頑張って作って。彼女にインストの状態で送ったら「あ、いいね、いいね!」みたいな。そんなやり取りを続けていきました。
──基本的にはデータでやり取りされていたんですね。
SHIMA:はい。彼女は日本で、私はまだアメリカにいたので。全部iMessageです。
──トラックメイクで使用したのは、やはり「Serum」ですか?
SHIMA:そうですね。ベースになるものは「Serum」で、ビートは「KSHMR(カシミア)」のサンプルを使っています。
──エフェクトはどんなものを?
SHIMA:iZotopeの「VocalSynth」をボーカルに使っています。あと、ビートのない「モワーン」ってなっているような箇所があるんですけど、そこにはボーカルにOutputの「PORTAL」をかけてますね。ちゃんと聴かないとわからないと思うんですが、ボーカルのピッチがオクターブ1個上がったり下がったりという音が鳴ってます。
──ミックスで何か苦戦したようなことはありましたか?
SHIMA:今回、Sumireさんの声と自分の声をマッチさせるのが大変というかチャレンジでしたね。彼女の声を録った場所と私の声を録った場所が日本やアメリカでそれぞれ違ったので、そもそも質感が違うんです。マイクからの距離とか角度も違うし。結果的にEQで整えていったのですが、これはやってみて初めて「あぁ、こういう作業が必要になるんだ」って気づかされました。
──Sumireさんから歌詞について何か要望などはあったのですか?
SHIMA:最初、この曲の歌詞はすべて英語だったんですけど、最終的にSumireさんと2人で日本のスタジオに入った時に「やっぱり日本語も入れよう」ってなったんです。それで「自分のこと神だと勘違いしてるけど いつかはバレる」という部分の作詞を手伝ってもらいました。なので、そこの部分だけは、私の歌も日本でレコーディングし直したんです。
──SHIMAさんは、ミックスだけではなくマスタリング作業もご自身でされているようですが、普段マスタートラックにはどんなプラグインを使っているのですか?
SHIMA:まずはWAVESの「SSL G-Master Buss Compressor」なんですが、すごくコンプレッションをかけたい時はアタックとリリースを短くしたLiveのコンプで処理した後に、アタックやリリースの遅い設定の「SSL G-Master Buss Compressor」をかけてます。あとはiZotope「Ozone」ですね。
──「Ozone」では具体的には何を?
SHIMA:EQで2.7kくらいをブーストして、20Hz以下と20kHz以上をカット。あと、マルチバンドコンプの「Learn」というスイッチを有効にして、そのままの設定でかけてます。で、必要に応じて「Imager」を入れて、高い音を広げて、逆に低い音をモノに近づけたり。ミキシングができている場合はそんなことやる必要はないんですけどね。それと、ミックスが綺麗過ぎる場合、たまに「Exciter」でザラ付きを加えることもあります。で、最終的に「Limiter」ですね。
──2ミックスの音圧はどのくらいにするとか決めているんですか?
SHIMA:昔はSpotifyのガイドラインとかに合わせて「-12.0 LUFS」にして守ってたんですが、ある日自分の曲をSpotifyで聴いた時に「なんか、他の人の曲と比べて小ちゃいな」と思って。で、ミキシングエンジニアの友達に聞いてみたら「それ、誰も守ってないよ」って言われて(笑)。それで、今は「-9.0 LUFS」とか「-10.0 LUFS」くらいにしています。
最新シングル「MOONWALK」について
──5月20日に最新3rdシングル「MOONWALK」がリリースされますが、こちらの曲はどのようにできたものなのですか?
SHIMA:もともとは『JEANASIS』という洋服のブランドから頼まれたできた曲なんです。最初に「こういうのを探してます」っていう参考曲をいくつか送って頂いて。で、私の方で5つくらいデモを作って、その中から選んでもらった感じです。
──歌詞にはどんな意味が込められているのですが?
SHIMA:「We’re going to the moon」というのがあるんですが、これは実際に月に行くのではなくて「不可能なことにチャレンジしよう」という意味で。一般的にはキャリアについて使うフレーズなんですけど、私はそれを「ロケットに乗って月に行こうぜ!」みたいなノリで曲の中に取り入れました。「月に行く」イコール「すごい高いレベルのゴールを目指そう」ですね。
──サウンド面でこだわった点はどこですか?
SHIMA:パーカッションですかね。Spliceにあったコンガのサンプルを使って、打ち込みました。それを実際にやっている動画(*)もあります。ただ、このパーカッションのビートは、そもそもは自分のために使おうと思ってたわけじゃなくて、ヒップホップっぽいのでラッパーにreplacements(リプレイスメント=使ってもおう)しようと考えていたんです。でも、リプレイスメントができなかったので、自分で使うことになったんです。
(*)
https://www.instagram.com/p/COLOIQZFpVp/
MOONWALKのヴォーカルを入れた動画も公開中
https://www.instagram.com/p/CdTNjmzJxrR/
──ビートはリアルタイムに入力しているんですね。
SHIMA:そうですね。「Push」を使って入力して、でも、後からクオンタイズをかけたりもしています(笑)。
──MIDIキーボードなどは使わないのですか?
SHIMA:鍵盤は使ったことがないです。
──ちなみに「Push」は昔から使っているのですか?
SHIMA:はい。大学の時に友達が「Push」を使っていたんですけど、その友達が「Push」のモデルをバージョンアップするタイミングで、安く譲ってもらいました。その頃からです。
──「MOONWALK」ではコンガ以外の音色だと、どんなものが使われているのですか?
SHIMA:コンガ以外だとマリンバ。マリンバは「KONTAKT」で、シンセは「Serum」ですね。
──歌も含めて、ミキシングなどで何か苦戦したようなことはありましたか?
SHIMA:そうですね。この曲で初めてラップを挑戦したんですが、ミックスで「Auto-Tune」を使うか使わないかで今も悩んでいて(取材したタイミングでは、まだ「MOONWALK」の完パケ前の状態)。2人にヒップホップのエンジニアに聞いてもらったら、1人は使う、もう1人は外すって言ってて。なので、この後、自分でやってみてどっちにするか決めます。明後日までに完成させないといけない状態です。
──どっちのミックスが採用されるか、楽しみにしています。
SHIMA:はい。
今後の活動について
──では、そろそろお時間がきたので、最後の質問にいきたいと思います。今後の目標を教えてください。
SHIMA:そうですね。まず今年はEPを出すのが一番のゴールです。今までずっと2年間、シングルばっかりだったので。これからはちょこちょこってシングルを出すのではなくて、プロジェクトを出す考え方というか。もうちょっと先のプランを見越して、自分のアーティストやプロデューサーとしてのサウンドを引き締めていきたいですね。
──すでに構想のようなものはあるのでしょうか?
SHIMA:はい。とにかく、今まで出してきたシングルはジャンルがバラバラで。自分でも、自分の音楽が何かを探していたというか、実験していた部分もあったと思います。でも、何曲か出して、自分の得意なものや自分らしさがようやく見えてきているので、そういったサウンドに集中していきたいと思っています。
──活動はアメリカと日本のどちらをベースにしたいと思っているのですか?
SHIMA:今は日本のユニバーサルさんと組んでいるので、まずは日本でやっていきたいですね。今後、日本語の歌詞にももっとチャレンジして、それは日本の文化にも気を付けることとイコールだと思うのですが、がんばっていきたいと思ってます。
──期待しています。
SHIMA:ありがとうございます。がんばります!
SHIMA・ビートメイキング動画
https://www.instagram.com/p/CXTucIKpBCv/
https://www.instagram.com/p/CU98ew8Jaac/
https://www.instagram.com/p/COf3UVSjpB_/
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