歴代の音楽シーンを席巻してきた名機がソフトウェアで蘇る
Arturia「V Collection 9」徹底レビュー【Adoの楽曲を手がける今注目のボカロP・伊根によるデモトラック&インタビュー付き】
Arturia「V Collection 9」徹底レビュー【Adoの楽曲を手がける今注目のボカロP・伊根によるデモトラック&インタビュー付き】
2022/06/22
ARP 2600やMellotron、Yamaha DX7など、歴代の音楽シーンを席巻してきた名機(ハードウェア)を、独自のTAE(True Analog Emulation)技術で現代にソフトウェアとして蘇らせ、1つのコレクションとしてパッケージ化した製品がArturiaの「V Collection」です。ここでは、最新バージョン「V Collection 9」を紹介しつつ、Adoの1stアルバム「狂言」の13曲目「過学習」を手掛けていることでも話題のボカロP、伊根さんにご協力頂き、デモトラック付きのインプレッションインタビューをお届けしたいと思います。※本記事は「V Collection 8徹底レビュー」に「V Collection 9」の情報を追記したものです。
文:編集部
◉「V Collection 9」収録ソフトについて
Arturia「V Collection 9」には以下の製品が収録されています。バージョン9となって新たに収録されたのが「KORG MS-20 V」、「SQ80 V」、「Augmented STRINGS」、「Augmented VOICES」の4種類(※マークが付いているもの)で、「CS-80 V 4」、「Prophet-5 V」、「Prophet-VS V」、「Piano V 3」はデザインや機能が刷新されています(※マークが付いているもの)。
・KORG MS-20 V ※
・SQ80 V ※
・Augmented STRINGS ※
・Augmented VOICES ※
・Vocoder V
・Emulator II V
・OB-Xa V
・Jun-6 V
・Buchla Easel V
・Mini V
・Matrix-12 V
・Solina V
・SEM V
・Jup-8 V
・ARP2600 V
・CS-80 V ※
・Prophet-5 V ※
・Prophet-VS V ※
・Modular V
・Synthi V
・Piano V 3 ※
・Clavinet V
・Stage-73 V
・Farfisa V
・Wurli V
・VOX Continental V
・Mellotron V
・B-3 V
・CMI V
・DX7 V
・Synclavier V
・CZ V
・Analog Lab V
バージョン9新追加音源
KORG MS-20 V
KORG MS-20 V はパワフルなモノフォニックのセミモジュラーシンセサイザー、KORG「MS-20」を再現した音源です。ただし、他のArturia音源同様、名機をそのまま蘇らせただけではなく、そこからさらに一歩推し進めて、現代の音楽制作環境にマッチした拡張機能を追加しているのがポイントです。例えば、本体右側のパッチケーブルを抜き差しする際に、パッチング可能なところが黄色でわかりやすく点灯したり、上部の「Sequencer」を押すと文字通り簡単にシーケンスフレーズを構築できたり、「Effects」パネルでは最大4系統のエフェクト(空間系4種類、ディストーション2種類、ダイナミクス系2種類、モジュレーション系6種類、フィルター/EQ系2種類)を利用可能です。
SQ80 V
バージョン8では別売だった「SQ80 V」は、V Collection 9には標準搭載の音源となっています。
「SQ80 V」はEnsoniq社の画期的なシンセサイザー(1988年に発売されたSQ-80)を再現した製品です。「SQ-80」のサウンドは非常に太く、リッチなもので、アダムスキーのヒットシングル「Killer」で使われています。各ボイスは「DOC5503」というICをベースにした3系統のDCOから3系統のDCAに入り、CEM 3379ベースのアナログ・ローパスフィルター、ステレオDCAへと信号が流れるようになっており、エンベロープは4系統、LFOは3系統という構成でした。この「SQ80 V」では、オリジナルにはなかった以下の点が追加されています。
・MPE (MIDI Polyphonic Expression) 対応
・フェイズディストーション & トランスウェーブシンセシス搭載
・オリジナルよりも多くの波形を搭載
・ユニゾンモード
・アルペジエイター
・モジュレーション機能の強化
・15種類のエフェクトを内蔵した4系統のエフェクト
・最大16ボイスの同時発音数
・複数のSQ80 Vをそれぞれ異なるセッティングで同時使用可能
・DAWのオートメーション機能でコントロール可能
・無制限にプリセットをセーブ可能
Augmented STRINGS
Augmented STRINGSは、様々なクラシカルな弦楽器やアンサンブルサウンドを「2つの独立したレイヤー(各レイヤーで2種類のエンジンをミックスして構成可能)」で鳴らせるシンセ音源です。プリセットには「Pad」と「Strings」というカテゴリーを中心に、ゲーム音楽、映画の背景音などにマッチしそうなものが多数用意されていて、どちらかと言えば、リアルな生楽器というよりもシネマチックなライブラリーと言えます。サウンドは、「Color」や「Time」、「Motion」といったマクロノブでコントロールできる他、中央の大きめのノブ「MORPH」を使えば、動きのある有機的な音作りも可能です。
Augmented VOICES
Augmented VOICESは、ヒューマンボイスサウンドと様々なシンセシスエンジンによる音作りが行なえる音源です。プリセットは「Vocal」というカテゴリーを筆頭に、「Sequence」や「Lead」、「Pad」などが用意されており、シンプルなクワイアから現代風なボコーダーまで多彩な音色が利用可能です。また、Advanced」パネルをクリックすると、2つの独立したレイヤーが表示され(最大で2つのシンセエンジンと2つのマルチサンプルエンジンを選択可能)、エンベロープやフィルターなどを駆使したよりディープなエディットも行なえます。
バージョン9でリビルドされた音源
本バージョンではゼロからリビルドされています。
「CS-80 V」は1976年に発表されたヤマハ「CS-80」を再現した製品です。「CS-80」は国産初の本格的なポリフォニック・シンセサイザーとして注目を集め、音楽業界ですぐに広まっていきました。そのサウンドはヴァンゲリス、ボン・ジョヴィ、ジャン=ミシェル・ジャール、スティーヴィー・ワンダーなどで聴くことができます。この「CS-80 V」では「CS-80」の全ての機能を忠実に再現するだけでなく、独自のマルチモードとモジュレーション・マトリックスを備え、「CS-80」では不可能だった全く新しい音を作ることも可能です。
Prophet-5 V
バージョン8では、Prophet-5 VとProphet-VS Vは同一音源として起動していましたが、本バージョンから独立した音源となっています。
「Prophet V」はSequential Circuits「Prophet 5」を再現した製品です。まず「Prophet 5」ですが、大きな特徴は「POLY-MOD」機能になります。この機能はオシレーターAの周波数やパルスワイズ、フィルターのカットオフ周波数を変調するために、オシレーターBやフィルターのエンベロープを使用可能にし、当時の「Prophet 5」にはオシレーターのスィーピングしたシンク・サウンドなど、33種類のプリセット音色が搭載されていました。
Prophet-VS V
バージョン8では、Prophet-5 VとProphet-VS Vは同一音源として起動していましたが、本バージョンから独立した音源となっています。
Sequential Circuits「Prophet VS」は「Prophet VS」を再現した製品です。1986年から1987年にかけて製造され、サンプル波形を使用して音色エディットするこれまでにない斬新なシンセサイザーです。同時に波形を二次元的にクロスフェードさせることもでき、「ベクター・シンセシス」としてもよく知られています。「Prophet V」では、これら2つのシンセサイザーを右上のボタン(5VS、5、VS)で切り替えて表示・演奏させることが可能です。
Piano V 3
本バージョンではユーザーインターフェイスが刷新され、ビンテージグランドからモダンシネマティックまで、12種類に及ぶピアノのフィジカルモデリングを搭載しています。
「Piano V」は豪華なドイツのコンサートピアノからブライトな日本のスタジオピアノに至るまで、様々なピアノを再現できる製品です。プリセットにはアメリカ、ドイツ、日本といった国別のものからジャズ、ポップなどジャンルにマッチしたもの、さらにグラスやメタルといったユニークな材質のピアノも用意されているのですが、デフォルトのテンプレートからピアノタイプ(American Grand/Japanese Grand/German Grand/Pop Grand/Classical Upright/Jazz Upright/Pop Upright/Piano-bar Upright/Plucked Grand/Tack Upright/Glass Grand/Metal Grand)を選んだり、ペダルノイズやハンマーノイズの量、マイクのポジション、残響空間、マスターEQなどを自分好みにカスタマイズして使用することも可能です。
◉伊根さんが作成したデモトラックについて
今回、伊根さんには「V Collection 8」を使用して、3つのデモトラックを制作して頂きました。3つのデモトラックの利用法や各音源の気に入った点など、伊根さんご自身がまとめてくれましたので、ぜひ参考にしてみてください。※インプレッションインタビューはページの後半に掲載しています。
【トラック① YouTube 0:01〜】
イメージ:未来感あるエレクトロ風(ドラム以外「V collection 8」)
■今回の利用法
・透き通ったコード感のあるPluckを「Emulator II V」で鳴らしている。立ち上がりがきれいなので、細かく刻んでみた。
・前半声ネタっぽいリードは「Emulator II V」内蔵のFilterを開く形で盛り上げ。
・「Stage-73 V」エレピは素直にサブのリードとして使用。
・「Jun-6 V」、「Emulator II V」で後半のリード、掛け合い。
・「DX7 V」でシーケンス的に鳴らし、安定感を演出。
・「OB-Xa V」のサブベース、Acid Bass。
・(ドラム・パーカス系は別途サンプラー使用)
■各プラグインの気に入った機能、使用感、利用シチュエーション
「Emulator II V」
・ソースの一部をループさせる設定で、長音化できるのが嬉しい。また、ループのディレクションや境界のフェードまで設定でき、この部分だけで音色をガラッと変えることができた。継ぎ目を工夫して揺れ系のエフェクトを掛けたような効果も得られるので、今回のようにバックでコードを鳴らす際や、リードのキャラ付けの際にも利用できそう。
・Lo-Fi系のプリセットが多いイメージだったが、高周波成分多めのきらびやかな音色も多く、今回後半のリードで使用。
「Jun-6 V」
・直感的に操作でき、音作りが簡単。DCOの時点でPWM調整ができるので、簡単に音の鋭さを変化することができた。
・今回はVCFでオートメーションをかいて音色を変化させた。フィルター、LFOの深さ・周波数で揺れ感の調整が単純明快に操作できた。単調なリードに揺れや広がりをもたせたいときにとりあえずいじってみる、という使い方をしていた。
【トラック② YouTube 0:31〜】
イメージ:ダークに4つ打ち+空洞に響く感じ
ボス戦とかで流れそう(すべてV collection 8)
■今回の利用法
・様々な音色を試す意味合いで、数種選んで曲を組み立てた。
・「Stage-73 V」 少々歪んだエレピでコード感。
・「Emulator II V」 Lo-Fi系メインで音選び。ストリングスでアクセント。
・「OB-Xa V」 Sub Bass、Acid Bass、Pluck系Bassを重ねて音色変化。
・「DX7 V」 ベルで高音の装飾。
・ドラム系は「Mini V」「Synthi V」から音選び。
・「SQ80 V」でリード風の装飾、ENVとLFOで音色を大幅に変化。
■各プラグインの気に入った機能、使用感、利用シチュエーション
「Emulator II V」
・Lo-Fiサウンドも豊富で、モダンな曲調の中にもアクセント的に使ったり、落とす展開を作ったりするのに重宝する。ストリングス系の音が特にLo-Fi味を感じてよかった。ENVの調整でいかようにもできるので、今回はコード的に使ったが、Pluck風にしてリードで使うのも良さそう。
「SQ80 V」
・Sync、○分音符刻みでLFOを指定でき、望み通りのうねりを作りやすい。ハイテンポであれば、リード系、コード系のうねりはレースゲーム系の曲のような疾走感の演出にも使えそう。歌モノであれば、サビの後ろでサブ的に鳴らして装飾してみたい。
「OB-Xa V」
・ベース、フィルタのレゾナンス大小でAcid感を変化させてみた。FREQとRESOの操作で十分にエッジの変化が味わえる。シンプルなフレーズのベースを音色において前面に押し出すときに利用したい。
「Stage-73 V」
・FXのアンプシミュでクリア~歪みまで表現でき、歪ませると、コードでも単音でも鳴らしたくなる温かい質感。ちょうどよい歪みも相まって、マイナーコードの9thのぶつかりが気持ちよく、今回はコードで鳴らすことにした。
【トラック③ YouTube 0:59〜】
イメージ:メジャーコード感、リズムはマスロック
→密度高めのダンス・音ゲー風味(バンドサウンド + Vocoder)
■今回の利用法
・個人的にはエレクトロ系に合うイメージのVocoderをメインに置き、実験的にバンドサウンドを構成。
・「Vocoder V」 コード感強めのリードとして使用。
・「Emulator II V」 ①で使用したPluck系の音。リードの補強と展開強調のための装飾で使用。
・「DX7 V」 前半のシーケンス、一部不協和で鳴らしてみる。
・「OB-Xa V」のサブベース。
・(ドラムは別音源、ギターは「MiniFuse 2」経由で録音)
■各プラグインの気に入った機能、使用感、利用シチュエーション
「Vocoder V」
・Cycleモードでリズミカル系のソースを使用するだけで十分に遊べる。音色を試すときに重宝した。実際にフレーズを組み立てるときには、Keyboardモードでソースを切り替えると、好みの発声の並びやリズムが探しやすかった。
・シンセ側の編集はシンプル、F.M.つまみで鋭めのモジュレーションを浅くかけ、後半は更に前に出してみた。発音の明瞭さをHIGH FREQで抑えて、奥で鳴らす装飾としても使えそう。ブレークダウンで小さく鳴らすなど。
・ENSEMBLEひとつで左右の広がりを作れるので、曲全体の揺れ感・温かみの変化、Vocoder単体としての存在感まで操れる。
・リード的な利用でバンドサウンドに合わせてみたが、後ろで鳴らす分にもバンドサウンドで利用できそう。今後の曲で、自分での歌唱あるいはボカロをソースとして、多声のハモリを演出するような利用法も試したい。
◉「V Collection 8」収録ソフトについて
Arturia「V Collection 8」には以下の28製品が収録されています。バージョン8となって新たに収録されたのが「Vocoder V」、「Emulator II V」、「OB-Xa V」、「Jun-6 V」の4種類で(※Ver.8で新追加)、「Jup-8 V」、「Stage-73 V」、「Analog Lab V」はデザインや機能が刷新されています。
・Vocoder V ※
・Emulator II V ※
・OB-Xa V ※
・Jun-6 V ※
・Buchla Easel V
・Mini V
・Matrix-12 V
・Solina V
・SEM V
・Jup-8 V
・ARP2600 V
・CS-80 V
・Prophet V
・Modular V
・Synthi V
・Piano V
・Clavinet V
・Stage-73 V
・Farfisa V
・Wurli V
・VOX Continental V
・Mellotron V
・B-3 V
・CMI V
・DX7 V
・Synclavier V
・CZ V
・Analog Lab V
ロボットボイスやハーモナイズされたシンセボイスと言えば、1979年のボブ・モーグ氏による16バンド・ボコーダーが有名です。この「Vocoder V」は、当時のアイコン的なボコーダーを再現しつつ、自由にオーディオのサンプル素材が使用できたり、多数のエフェクトを搭載するなど、Arturiaならではの最新テクノロジーが詰まった製品となっています。使い方もとても簡単で「Advanced」を押すと表示される画面一番上のセクションで、「VOICE INPUT(マイク入力を使う場合)」または「SAMPLE PLAYER(オーディオサンプル)」を選択し、あとは下段のキーボード(キャリアシンセサイザー)を演奏すれば、その音程でボコーダーサウンドが生成されます。また、画面中央のボコーダー・セクションでは、16バンドの各帯域レベルのコントロールやパッチベイを利用したサウンドメイクも行えます。入門者にも扱いやすい、それでいて高性能なボコーダーと言えます。
「Emulator II V」は、1984年に登場し、その後のヒップホップシーンなどに多大な影響を与えたE-mu Systemの8ビット(フロッピーディスクを使用)ハードウェアサンプラー「Emulator II」を再現した製品です。特にオリジナルを忠実に再現したメインパネル(鍵盤などがあるハードウェア部分)と、オリジナルハードウェアでは不可能だった機能を搭載したアドバンストパネル(モニター部分)の2つが用意されているのがポイントで、アドバンストパネルではサンプルの呼び出し、サンプルのエディット、エフェクトなどの各種サウンドメイクが行えます。オリジナルのサンプルをインポートして使うこともできますが、プリセットにはローファイな感じのドラムキットやストリングスに加え、チップチューン的なリードもあり、まさに「Emuライク」な8ビットサウンドが含まれています。あの時代のサウンドを探している人はぜひとも試して頂きたいです。
OB-Xa V
「OB-Xa」は1980年代にOberheim社が開発したシンセサイザーを再現した製品です(OB-Xaは1980年にリリースされ、前年のOB-Xに続くOberheimのフラッグシップモデル)。「OB-Xa」と言えば、ヴァン・ヘイレンの「ジャンプ」を想起される方も多いと思いますが、もちろんあのサウンドも入っております。オリジナルの再現にとどまらず、「Advanced」を押すと展開されるパネルで各種モジュレーション、エフェクトなどが設定できる他、以下の点がオリジナルのハードウェアにはなかった新機能になります。
・1オシレーターにつき4波形が選択可能 (オリジナルは2波形のみ)
・OB-Xに搭載されていたクロスモジュレーションが可能
・モジュレーション機能の強化
・9種類の高品位エフェクトを内蔵
・最高8ボイスのユニゾン機能
・最大16ボイスの同時発音数
・分厚くワイドで動きのある音作りが可能なステレオスプレッド機能
・DAWのプラグインとして複数のOB-Xa Vを同時使用可能
・DAWのオートメーション機能でシンセパラメーターのコントロールが可能
・無限のパッチメモリー数
Jun-6 V
「Jun-6 V」は1982年に発売されたRoland「Juno-6」を再現した製品です。「Juno-6」はシンプルなポリシンセですが、その魅力は超簡単な操作と内蔵コーラスにあると言えるでしょう(これらのサウンドはマドンナの「Borderline」やエンヤ「Caribbean Blue」などで聴くことができます)。もちろん、こういった「Juno-6」ならではの音も出せるのですが、「Jun-6 V」ではさらにエフェクトにディレイとリバーブを追加し、甘美なコーラスとともに、ビッグなサウンドを表現することが可能です。また、オリジナルのJunoで切望されていた2つ目のエンベロープやLFOも用意。これらのパラメーターを利用して、より自由度の高い音作りが行えるのがポイントです。
Buchla Easel V
「Buchla Easel V」は、Don Buchla(ドン・ブックラ)によって考案、デザインされた、ユニークで多様な音色を生成できる楽器「Buchla Easel(ブックラ・イーゼル)」を再現した製品です。ちなみにDon Buchla氏は電圧で「演奏」できるオシレーターを作った人物でもあり、西海岸スタイルの電子音楽の始まりに大きく寄与した方でもあります。さて、そんな氏が手掛けたオリジナルの「Buchla Easel」は独自のデュアル・ローパスゲートと呼ばれるフィルターを搭載し、マシンの下半分に集中しているカラフルなパッチシステムが特徴なのですが、「Buchla Easel V」ではこういった機能を備えつつ、必要ではない部分を削除し、ソフトウェアのみに可能である機能が追加されている点がポイントになります。特に「Advanced」に用意されている「GRAVITY(グラビティユニバース)」は秀逸で、ゲーム物理学をベースとしたボルテージコントロールを実験感覚で味わうことが可能です。ちょっと変わったセミ・モジュラーシンセに興味がある人は要チェックです。
Mini V
「Mini V」はBob Moogによって1970年代の初頭に設計されたミニモーグを再現した製品です。「Mini V」には2種類のパネルが用意されています。1つはClassicモードで、これはオリジナルのミニモーグと基本的に同様の動作をします(追加機能:オシレーター2はオシレーター1にシンク可能。オシレーター2はキーフォローサーキットから切断することもできる。ポリ/モノ/ユニゾンのスイッチが追加されている)。そして、もう1つはExtendedモードで、このパネルは画面上部の木目部分をクリックするか、ツール・バーの右にあるOpenボタンをクリックすると拡張表示されます。Extendedモードのパネルでは、新たにモジュレ―ション・レコーダー、ボーカルフィルター、LFO、、モジュレーションマトリックス、アルペジエイターと2つのエフェクトが利用できます。このExtendedモードによって、「Mini V」の音色の可能性や表現力が格段に向上しています。
Matrix-12 V
「Matrix-12」は1985年に発売されたOberheim「Matrix 12」を再現した製品です。Matrix 12のデュアルオシレータボイスは、同社「Xpander」との基本的なパッチの互換性を維持するために、ラグプロセッサ(ポルタメント用など)、3基のトラッキング・ジェネレータ、4基のランプ・ジェネレータ(モジュレーションディレイ)に加え、同じ15モードの電圧コントロールフィルター(VCF)と、5基のエンベロープ、5基の低周波数オシレータ(LFO)を持っているのですが、Arturiaの「Matrix-12 V」では全てのオリジナルシンセサイザーの機能を網羅。さらに多くの機能が搭載されています。画面右下の「KBD」「FX」「MOD.」「PAGE2」をクリックすると、エフェクトやモジュレーションの設定などが行えます。
Solina V
「Solina V」は1974年に発売された「Solina(Solina String Ensemble)」を再現した製品です。「Solina」は、49鍵のポリフォニック・マルチ・オーケストラ・シンセサイザーで、鍵盤上部に用意された「CONTRA BASS(コントラバス)」、「CELLO(チェロ)」、「VIOLA(ヴィオラ)」、「VIOLIN(ヴァイオリン)」、「TRUMPET(トランペット)」、「HORN(ホーン)」といったスイッチを有効にすることで、多彩なオーケストラサウンドを組み合わせて演奏できるのが特徴です。なお、「Solina V」では「Advanced」をクリックすることで天板が展開し、「BASS SECTION」や「UPPER RESONATOR」などの音作りも行えます。メロトロンとは違ったストリングス系のサウンドを探している人は要チェックです。
SEM V
「SEM V」は1974年に発表されたOberheim「SEM」を再現した製品です。当時、人々は革新的なフィルターセクションを持つ「SEM」に注目しました。それはローパス、ハイパス、12時の位置ではノッチフィルターとして連続的に可変可能なマルチモード・フィルターとして知られることになり、これが競合他社とは違うOberheimサウンドを形成しました。なお、「SEM V」ではオリジナルのSEMを再現するだけではなく、トップパネルを表示することで「キーボードフォロー」、「8ボイスプログラマー」、「モジュレーションマトリクス」にアクセスした音作りも可能です。特に「8ボイスプログラマー」は強力で、最高で6つのパラメーターを使ったサウンドメイクが行えます。ちなみに「SEM」はSynthesizer Expander Moduleの略です。
Jup-8 V
「Jup-8 V」は、1981年に発売されたローランド「Jupiter-8」を再現した製品です。「Jupiter-8」と言えば、当時のポリフォニックシンセサイザー市場に旋風を巻き起こしたモデルであり、タンジェリン・ドリーム、アンダーワールド、デペッシュ・モード、プリンスなど、Jupiter-8を使ったアーティストを挙げればキリがありません。この「Jup-8 V」では実機の再現はもちろんのこと、数々のヒット曲で使われたオリジナルJupiter-8のファクトリープリセット44個も収録されています。さらに1981年当時にはなかった以下のような新機能も追加されています。
・より多くのモジュレーション機能:2基のLFO追加と10種類のソースのルーティングとミックスができるモジュレーションミキサー
・32ノートシーケンサーと32セグメントのモジュレーションシーケンサー
・ベロシティ、アフタータッチ、MODホイール、キーボードトラッキングによるパラメーターのコントロール
・内蔵デジタルエフェクト:リバーブ、コーラス、ディレイ、フランジャー、フェイザー、オーバードライブ、EQ、ステレオパン
「ARP 2600 V」は1972年に発表された「ARP 2600」を再現した製品です。「ARP 2600」は、登場から10年の間に3種類のバージョンが商品化されました。最初は青いパネルを採用していたことから「ブルー・ミーニー」と呼ばれ、その後、同じく1972年に2つめの灰色のパネル・カラーに白いパネル文字のモデルが製造され、1978年に黒いパネル・カラーにオレンジ色のパネル文字が特徴的な最終バージョンが発表されています。この「ARP 2600 V」では、その最終形の再現に加え、1976年にリリースされた2系統の独立した8ステップ・シーケンスを作成できる「16ステップ・シーケンサー」などもエミュレートされています。
「CS-80 V」は1976年に発表されたヤマハ「CS-80」を再現した製品です。「CS-80」は国産初の本格的なポリフォニック・シンセサイザーとして注目を集め、音楽業界ですぐに広まっていきました。そのサウンドはヴァンゲリス、ボン・ジョヴィ、ジャン=ミシェル・ジャール、スティーヴィー・ワンダーなどで聴くことができます。この「CS-80 V」では「CS-80」の全ての機能を忠実に再現するだけでなく、独自のマルチモードとモジュレーション・マトリックスを備え、「CS-80」では不可能だった全く新しい音を作ることも可能です。
「Prophet V」はSequential Circuits「Prophet 5」と「Prophet VS」を再現した製品です。まず「Prophet 5」ですが、大きな特徴は「POLY-MOD」機能になります。この機能はオシレーターAの周波数やパルスワイズ、フィルターのカットオフ周波数を変調するために、オシレーターBやフィルターのエンベロープを使用可能にし、当時の「Prophet 5」にはオシレーターのスィーピングしたシンク・サウンドなど、33種類のプリセット音色が搭載されていました。一方の「Prophet VS」は1986年から1987年にかけて製造され、サンプル波形を使用して音色エディットするこれまでにない斬新なシンセサイザーです。同時に波形を二次元的にクロスフェードさせることもでき、「ベクター・シンセシス」としてもよく知られています。「Prophet V」では、これら2つのシンセサイザーを右上のボタン(5VS、5、VS)で切り替えて表示・演奏させることが可能です。
「Modular V」はBob Moogによって1960年代後半から1970年代初期に設計されたモジュラーシンセサイザーを再現した製品です。「Modular V」は、大きく分けて4つのモジュールから構成され、上から順に「サウンド・プログラミング・モジュール(上部キャビネットと下部キャビネット)」「コントローラー接続ジャック」、「シーケンサー、およびエフェクト・モジュール」、「バーチャル・キーボード、およびリアルタイム・コントローラー」となっています。なお、「Modular V」では60%~200%までの間でウィンドウサイズを設定できるのもポイントです。これによってパラメーターを大きく表示させて確認したり、逆に使用中の全モジュレーターを俯瞰で見ることも可能です。「Modular V」は、オリジナルのモジュラー・システムに忠実なモジュールの仕様を残しつつも、新たなモジュールを搭載することで、よりサウンド・クオリティーとシンセシスの可能性が広がる製品と言えます。
Synthi V
「Synthi V」は1972年にリリースされたEMS「Synthi AKS」を再現した製品です。「Synthi AKS」の特筆すべき機能のひとつが「ピンマトリクス」です。このピンマトリクスによって、ノブを操作するときに邪魔になりがちなパッチケーブルを使わずにシステム全体をスーツケースに入るほどコンパクトにしています。「Synthi V」では、これらオリジナルを忠実に再現(一部は除外)するだけでなく、32ステップのステップシーケンサーやシンク可能なLFOなど、新たな機能も多数追加し、よりサウンドメイクの自由度が高くなっています。
Piano V
「Piano V」は豪華なドイツのコンサートピアノからブライトな日本のスタジオピアノに至るまで、様々なピアノを再現できる製品です。プリセットにはアメリカ、ドイツ、日本といった国別のものからジャズ、ポップなどジャンルにマッチしたもの、さらにグラスやメタルといったユニークな材質のピアノも用意されているのですが、デフォルトのテンプレートからピアノタイプ(American Grand/Japanese Grand/German Grand/Pop Grand/Classical Upright/Jazz Upright/Pop Upright/Piano-bar Upright/Plucked Grand/Tack Upright/Glass Grand/Metal Grand)を選んだり、ペダルノイズやハンマーノイズの量、マイクのポジション、残響空間、マスターEQなどを自分好みにカスタマイズして使用することも可能です。
「Clavinet V」はドイツの企業、Hohnerによって製造された「Clavinet D6」を再現した製品です。Clavinetはラバーパッドを使用して弦をたたき音を出すのですが、これだとバンドのドラムやギターといった大音量に埋れてしまいます。そこで増幅装置と組み合わせて活用するケースが一般的です。「Clavinet V」ではオリジナルの再現に加えて、Arturia独自のチューブタイプのモデリングアンプ、5つのストンプボックス、さらに「Advanced」パネルを展開することで「Bass Guitar、Dark、Boosted 2nd、3rdといったハーモニックプロファイルを選択する機能」などが用意されています。スティーヴィー・ワンダーの「Superstition」や「Higher Ground」を演奏したい人はマストアイテムと言える製品でしょう。
「Stage-73 V」はRhodesのエレクトリックピアノ「Stageモデル」と「Suitcaseモデル」を再現した製品です(画面右上の「Stage」「Suitcase」で切り替え可能)。Harold Rhodesが開発したタイン (金属棒) によるエレクトリックピアノのエレクトロメカニカルの機構やサウンドをもとに、Stageモデルでよく使われたFender Deluxe Reverbアンプのスプリングリバーブのインパルス応答(IR) もプロファイリングし、本物そのもののサウンドを再現することができます。また、ソフトウェアの利点を活かし、通常はプロのテクニシャンが触れる本体内部の音の調整部分にアクセスできるのもポイントです。
Farfisa V
「Farfisa V」は1960年代後半に発売された電子オルガン、Farfisa「Compact Deluxe Organ」を再現したモデルです。Farfisaの電子オルガンは、Hammondsやその他のトーンホィール・オルガンとは異なるサウンドを持ち、コンパクトで可搬性に優れていたのが特徴です。当時はオルガンというよりはシンセに近く、「Farfisa V」のプリセットの中に「Sound Effects」というカテゴリーが用意されているのも納得です。「Farfisa V」ではオリジナルを忠実に再現するだけではなく、ユーザーによる付加的なウェーブフォームの作成や各種エフェクト(Analog Delay、Chorus、Phaser、Flanger、Overdrive)、簡単にアクセス可能な個々のボイス・チューニングなどが搭載されています。60年〜70年代のサイケデリックなサウンドを求めている人はチェックしてみる価値があると思います。
「Wurli V」はWurlitzerのエレクトリックピアノ(1972年製リード・エレクトリックピアノ)に強くインスパイアされてできた製品です。エレクトリックピアノは音色の作り方が各メーカーによって異なる(打弦式、音叉を叩く、リードを弾く、リードを叩く)のですが、Wurlitzerはリードを叩く技術を採用しています。他社のエレクトリックピアノと比較すると、より明るく、ふくよかな音が特徴で、穏やかにプレーすると似たサウンドに聴こえ、激しく弾くと、「Bark」と呼ばれる特徴的な歪んだトーンを生み出します。「Wurli V」では、これらのサウンドを再現するだけでなく、「Advanced」パネルを開いて「Vibrate Rate(ビブラートのスピード)」や「Pickup Distance(トーンソースとピックアップの距離の設定)」なども行えます。
VOX Continental V
「VOX Continental V」は1960年代に登場したトランジスター・オルガン「VOX Continental」を再現した製品です。「VOX Continental」は、Hammondオルガンとは全く異なったサウンドを持っています。それは、サイン波に依存せず、(矩形波がフィルタリングされた)三角波を追加または代用することに起因しており(実際にはペダル・ドローバーの「〜」や「M」でサウンドメイク可能)、この柔軟性によって「滑らか」と「まろやか」、「明るい」、「開放感」、「エッジの効いた」サウンドが生み出せます。「VOX Continental V」では「Advenced」で展開するオープン・モードで、エンジンのタイプを切り替えたり(開発者JENNINGSまたはVOXを選択)、リバーブ・タイプ、ビブラート/トレモロのデプスやレートの設定なども行えるようになっています。また、アウトプットセクションにHammondオルガンで使用されることが多いレスリー・スピーカーを設定することも可能です。
Mellotron V
「Mellotron V」はサンプラーの先祖とも言える「Mellotron」を再現した製品です。キーボードのキー1つ1つにテープがつながっていて、それが数秒間再生されるという機構はテープレコーダーに近いかもしれません。「Mellotron V」では、ロングトーンはテープの限界の8秒までという点もオリジナルと同様です。またテープはMellotron Mark I、Mark II、M300、M400のオリジナルコレクションから集めたものが収録されています。ちなみにビートルズの「Strawberry Fields Forever」で使用されていたような音色もプリセットされています。さらに「Mellotron V」では、ソフトウェア版のメリットを活かし、ユーザーサンプルを"テープ"として使用できたり(ループの有無も設定可能)、エフェクトやアンプも用意されています。
「B-3 V」はクラシカルなトーンホイール式オルガンを再現した製品です。トーンホイールで音が出る仕組みは、金属製のトーンホイール(オリジナルでは91枚ものトーンホイールを内蔵)を電磁ピックアップの前で回転させ、それによって生じる電流をアンプで増幅するというものです。「B-3 V」ではこのトーンホイールに加え、特徴的なドローバーやロータリースピーカーも忠実にモデリングしています。これらオリジナルの機能に加え、12種類の強力なエフェクトペダル、Twinアンプ、ドローバーモジュレーション機能など、「B-3 V」ならではの追加機能も数多く搭載されています。
「CMI V」は1979年に発売されたサンプリング、シンセシスエンジン、シーケンスを1つのユニットでカバーした最初のワークステーションの1つ「Fairlight CMI IIx(Computer Musical Instrumentの略)」を再現した製品です。ちなみにFairlight CMIのセカンドバージョンは、1982年に約32.000ドルという価格で発売されたとの逸話があります。「CMI V」では、オリジナルを再現するだけでなく、制限されたサンプリングクオリティは44.1 kHzと16ビットに拡張され、サンプルの長さも最大で30秒となっています(もちろん任意のオーディオファイルをインポートして使用可能)。また、アナログコーラスやディレイ、ピッチシフトなど14種類のエフェクトも搭載されています。
DX7 V
「DX7 V」は1983年に発売されたヤマハのFMシンセサイザー「DX7」を再現した製品です。1980年代の音楽シーンに多大な影響を与えた「DX7」は、そのクリスタルクリアなエレクトリックピアノやベル、ガラスのように美しいパッド、パンチの効いたベースなどの音色に特徴があります。「DX7 V」では、オリジナル(6オペレーター/32アルゴリズム/オペレーターごとに25種類の選択可能なウェーブフォームなど)の忠実な再現に加え、モジュレーションマトリックスやパワフルなシーケンサーとアルペジエイター機能、最大4つのFXを同時使用可能といった、さらに機能を拡張した仕様になっています。
Synclavier V
「Synclavier V」は、1972年に開発がスタートし、その後、概して16タイプのバージョンが発表された「Synclavier(Synclavier II キーボード /DEC VT-100/640 モニターなど)」を再現した製品です。「Synclavier」は、デジタル・シンセサイザーと音楽制作機能が統合されたワークステーションで、アディティブ(倍音加算)、FM(周波数変調)、ティンバーフレーム・シンセシスの各種機能が搭載されていました。「Synclavier V」のDSPエンジンは、そのオリジナルの「Synclavier」でソフトウェア開発に携わったCameron Jones氏が担当し、FM 8ビットボイスカードのノイズフロアまで忠実に再現されているのが特徴です。SynclavierのFMシンセ・サウンドで最もよく知られている1つは、マイケル・ジャクソンのアルバム『Thriller』の収録されている「Beat It」のイントロで鳴っているゴングの音です。「Synclavier V」のプリセットに入っている「Phased Gong」がその音になります。
CZ V
「CZ V」は1980年代中期に発表されたカシオCZシリーズ(CZ-101/CZ-1000)を再現した製品です。CZシリーズの独特のサウンドキャラクターの根幹が、フェイズ・ディストーション(PD)と呼ばれたシンセシス方式です。これにより、例えばアタックの瞬間はサイン波から矩形波にモーフィングしていき、ディケイの段階で再びサイン波に戻っていくような音色変化(エンベロープで波形自体が変化)が行えます。カシオではこのことをデジタル・コントロール・ウェーブ(DCW)と呼んでおり、これによって、アナログシンセサイザーのフィルタースウィープといった音色変化を、マルチポールフィルター(VCF)を使うことなく実現できました。「CZ V」では、オリジナル同様2系統の「ライン」を使用して音作りができるだけでなく、パワフルなアルペジエイターやスタジオクォリティのデジタルエフェクトなども新たに搭載されています。
Analog Lab V
「Analog Lab V」は、同社「V Collection」に含まれる各インストゥルメントのプリセットを1つに集め、いちいち個別にインストゥルメントを立ち上げずに「TYPE(ベース、リード、ピアノ、ドラムなど13種類)」、「INSTRUMENTS(個別の音源)」、「DESIGNERS(プリセットを作成した人物)」から目的のサウンドへとアクセスできるというソフトウェアです。「Analog Lab V」では、各音源で「Liked(お気に入り)」したプリセットもまとめて表示できる他、同社「Pigments」のプリセット、「Store」ではサウンドデザイナーが作成したプリセットの別途購入も可能です。
SQ80 V
「SQ80 V」はEnsoniq社の画期的なシンセサイザー(1988年に発売されたSQ-80)を再現した製品です。「SQ-80」のサウンドは非常に太く、リッチなもので、アダムスキーのヒットシングル「Killer」で使われています。各ボイスは「DOC5503」というICをベースにした3系統のDCOから3系統のDCAに入り、CEM 3379ベースのアナログ・ローパスフィルター、ステレオDCAへと信号が流れるようになっており、エンベロープは4系統、LFOは3系統という構成でした。この「SQ80 V」では、オリジナルにはなかった以下の点が追加されています。
・MPE (MIDI Polyphonic Expression) 対応
・フェイズディストーション & トランスウェーブシンセシス搭載
・オリジナルよりも多くの波形を搭載
・ユニゾンモード
・アルペジエイター
・モジュレーション機能の強化
・15種類のエフェクトを内蔵した4系統のエフェクト
・最大16ボイスの同時発音数
・複数のSQ80 Vをそれぞれ異なるセッティングで同時使用可能
・DAWのオートメーション機能でコントロール可能
・無制限にプリセットをセーブ可能
◉Arturia製品・インプレッションインタビュー
──「V Collection」の第一印象はいかがでしたか?
「V Collection」は様々な実機の忠実な再現ということで、オリジナルを触ったことのない僕自身としては「どれもツマミだらけで」多少不安な部分もあったんですが、実際に音を出してみるとプリセットも豊富で使いやすくて。しかも、どのシンセにも「Tutorials(チュートリアル)」が付いているので、それを参考に音作りできるのがありがたかったです。最初、「Jun-6 V」を見た時に「どこから触ればいいんだろう?」と思ったんですが、その時も「Tutorials」を開いて、「DCO」という部分で波形を選んでいけばいいんだとすぐに理解できました。
──今回、3つのデモトラックを作成して頂きましたが、どのような手順で?
まずは「V Collection」に収録されている音源のプリセットから「この音を使いたいな」というのをピックアップしていって、それを3つのジャンルに振り分けていきました。そもそも僕は音の好みとして「きらびやかな高周波」や「モジュレーション系のウネリのある音」が好きなんです。で、「Emulator II V」に入っているPluck系の音がそういった好みの感じだったので、1つ目のトラックはそれを鳴らしながら作っていきました。「Emulator II V」と言うとローファイ系のイメージが強いと思うんですが、「意外とそうじゃない音もあるんだな」という自分としても新たな発見がありましたね。このトラックに関しては「Jun-6 V」のエッジの効いたサウンドも取り入れたんですが、これも僕が普段から好きなサウンドです。
──2つ目のトラックは、また少し印象の違ったものですよね。
これは最初に選んだのが「Stage-73 V」のエレピの音でした。付属のアンプシミュレーターやエフェクターで「歪み感」も調整しやすかったですし、歪んだ感じの音でコードを鳴らすととても気持ち良かったんですね。このコードに合わせて「SQ80 V」のリードっぽい音をプリセットの中から探して、さらにウネリを自分で調節して。この2つの音で組み立てていった感じです。
──このトラックのベースには「OB-Xa V」をチョイスされていますが、どのような使い方を?
実は「OB-Xa V」の音を複数重ねています。もともとアシッド・ベース系を使いたいなと思って、レゾナンスの感じが綺麗なものをチョイスしたんですが、どうしても1つだと低音が足りなくて。そこで、タイトな「OB-Xa V」のベースを3種類混ぜて使うことにしました。サブベースとかもシンプルに、リリースを短めに切って使っています。こういった音色エディットの時の操作感も「OB-Xa V」は良かったです。
──ドラムに「Mini V」や「Synthi V」を使われている点にも驚きましたが。
はい。好みのドラムの音を探していたら「Mini V」と「Synthi V」の中にありました。どちらのシンセも見た目にはドラムが入ってなさそうなんですが、「あ、ここに入っているんだ」と僕も驚きました(笑)。この辺がアナログシンセの面白さですよね。
──では、続いて3つ目のトラックについて教えてください。
これは完全に「Vocoder V」から作ってみようと思ったものです。僕は普段バンドサウンドを作る機会が多いので、あまりボコーダーには縁がないのですが「逆張り」というか、やってみたいなと思って。
──「Vocoder V」の使い勝手はいかがでしたか?
とにかく、最初から楽しかった(笑)。すぐに遊びに入れた印象です。声ネタのソースを制御する仕組みを理解する必要はあると思いますが、プリセットもあるし、ツマミもそれほど複雑ではないし。
──このトラックに関しては、ギターはArturiaのオーディオ・インターフェイス「MiniFuse 2」を使ってレコーディングされたんですよね。
はい。「MiniFuse」はとてもシンプルで、音もいいし、録りの際に「そのまま挿して使ってください」って感じで、何も悩まなくていいというか。あと、とにかくコンパクトなのがうれしいですね。今回、MIDIコントロール/キーボードの「MiniLab MkII」と共に机の上に置いて使ってみたんですが、ちょうどうまく納まるサイズでした。これなら机の上が空いて広く使えますし、別のハードを置くスペースも生まれますよね。実は僕は普段使っているインターフェイスが大きめなので、本当に小さいのはいいなと。あと、これだけコンパクトで軽ければ、外のスタジオに持ち運ぶ際にもいいですよね。ぜひ今後も使っていきたいと思いました。
──MIDIコントロール/キーボードの「MiniLab MkII」についてはいかがでしたか?
今回「V Collection」の音を試したり、実際にCubaseに打ち込んだりするのに使ってみたんですが、「MiniLab MkII」にはパッドも付いているので、「Mini V」や「Synthi V」のドラムの打ち込みもやりやすかったです。「MiniLab MkII」にはツマミも多く用意されているので、「V Collection」のアナログシンセ系をエディットする時にも間違いなく重宝すると思います。
──では、最後に今回「V Collection」をレビューしてみた感想をあらためてお願いします。
正直、オリジナルを知らない世代として最初は少し不安でしたけど、チュートリアルなども参考に、シンセいじりの楽しさを十分堪能することができました。さわればさわるほど、各音源を「もっといじりたい」という気持ちが強くなって、シンセにハマる人たちの気持ちが身をもってわかった気がします。それと、今回「V Collection」で様々なシンセに触れることで、シンセの構造を「学べた」というのも自分には大きかったです。自分で目的の音色を作り出せるというか、設計できるというのはとても魅力的なことですし、今後も自分のバンドサウンドの中に活かしていきたいです。もちろん「V Collection」のサウンドも取り入れていきたいと思っています。
▲3つ目のデモトラックのギター録音に使用したArturiaのオーディオ・インターフェイス「MiniFuse 2」
▲伊根さんの作業机に並ぶMIDIコントロール/キーボードの「MiniLab MkII」と「MiniFuse 2」
関連する記事
2023/02/21
2022/03/07
2021/02/15
ニュース
2023/12/25
2023/12/20
2023/12/18
インタビュー
2023/03/23
2022/09/15
2022/05/26
2022/01/26
特集/レビュー
2023/04/03
レクチャー
2022/11/15
2022/11/01