楽曲からミュージックビデオまで、すべてを手掛ける注目のソロアーティスト
春瀬 烈、1st EP「MAGNET」制作エピソードを公開!
春瀬 烈、1st EP「MAGNET」制作エピソードを公開!
2022/05/26
バンドやボカロPとしての活動を経て、2021年から本格的にソロとして活動をスタートさせた宮城出身のクリエイター、春瀬 烈(はるせ れつ)。その才能は多岐にわたり、作詞・作曲、演奏のみならず、ミュージックビデオのアニメーションの作成、ジャケット制作に至るまで、非常に幅広いクリエイティヴに及んでいる。ここでは、そんな彼が5月25日にリリースした1st EP「MAGNET」に関して、収録された5曲の制作エピソードをじっくりと聞いてみた。ぜひ、公開中のミュージック・ビデオとともに読み進めていただけたらと思う。
取材:東 徹夜(編集長)
1曲目「風は凛として」制作エピソード
──この楽曲は、いつ頃、どんなことがきっかけで生まれた曲なのでしょうか?
春瀬:去年の8月くらいにサビのメロディーの一節が浮かんできたんです。タイトルの「風は凛として」はもともと何かに使おうとメモしてあったものなんですが、それがうまくハマりそうだなと思って広げていった感じです。
──普段、曲作りはどのような手順で行なうことが多いのですか?
春瀬:家にグランドピアノがあるので、それで作ったりもするんですが、基本的にはiPhoneのボイスメモとかを使いながら、まずは小さなミニアコギでAメロから順番に作っていきます。
──作詞に関しては?
春瀬:ほぼ同時進行ですね。
──「風は凛として」を作るにあたって、何か苦戦したことはありましたか?
春瀬:この曲のテーマは「昔の友達」なんですが、歌詞は事実しか書いてないんですね。でも、事実をそのまま歌詞に落とし込むのは、自分の中では美しくないなと思って。なので、事実を色々な比喩を用いて、リスナーそれぞれに響くように書くのに時間がかかりました。
──テーマとなった「昔の友達」とのエピソードについて、もう少し詳しく教えていただけますか。
春瀬:はい。その友達というのは中学生の時の友達なんですが、当時僕が合唱コンクールのピアノをずっと3年間弾いていて。で、休み時間になって、そいつが「何か適当に弾いてよ」って言ってきたんです。そこで、僕は持ち曲があるわけではないので、適当に弾いたんですけど、それをすごく気に入ってくれて。僕もその時のフレーズを鮮明に覚えていて。実は、歌詞にも「あの日お前が褒めてくれたピアノの音を覚えている」というのが入っているんですが、その時のフレーズがそのまま曲の中にも散りばめられています。
──そのフレーズは具体的には、曲のどのあたりに入っているんですか?
春瀬:一番わかりやすいのは、ラストのサビの転調した1回しか出てこない「風よ」のバックで鳴ってるピアノです。すごく目立ったものではないんですが、コードを分解したような音です。
──その昔の友人とのエピソードを、実際どのように「風は凛として」へ落とし込んでいったのでしょうか?
春瀬:実はその昔の友達とはだんだん疎遠になっていって、ある意味で「変わっていった」わけですが、反対に変わらないものの象徴として「風」を登場させました。「風」というのは、もちろん厳密には同じではないんですけど、例えば夏の前だったら「独特な匂いの風」が吹いて、何年も前のことを思い出したりしますよね。思い出と言うのはそういう「ふとした瞬間」に思い出せる何年も変わらないものなのかなと。そういったコントラストを出すための「風」です。僕としては、その友達に変わらないでいて欲しかったんですよね。
──何か2人の間に印象的な出来事があったのですか?
春瀬:これは歌詞にも書いたんですが、数年前に会った時にすごい「大人みたい」に笑っていたんですよね。あと、話してみると当時の「破天荒さ」、「無邪気さ」もやっぱり無くなってしまっていて。ただ、僕にとっては優しくて、何か複雑な気持ちだったんです。なので、これはいつか曲にしてやろうと思って。
──そういうことがあったんですね。では、この「風は凛として」のサウンド面でこだわったところについても教えてください。
春瀬:はい。この曲は僕としては珍しく4つ打ちでシンプルな展開を心がけていて、ひたすら4つのコードを循環させているんですが、とにかく「わかりやすいものに!」という点がこだわったところです。ギターはFender「American Performer Telecaster」を使っていて、歪みは足下でBOSS「Blues Driver BD-2」をかけています。で、シンセはCubaseの内蔵のものをエディットして、ディレイを少しかけたりしています。
──ギターには、Cubaseのエフェクトなどは使わないのですか?
春瀬:はい。僕の場合、DAWのプラグインは使わずに、足下のエフェクターで音作りをして、それを録るようにしています。DTMをやる前はバンドを組んでいたんで、なんだかんだでギターの音色は足元で作るのに慣れているんですよね。
──ボーカルに関しては、どのように?
春瀬:ボーカルに関しては、バンドが練習するようなガレージのスタジオにノートパソコンと「UR22mkII」を持って行って録っています。
──いわゆるリハスタみたいなところですか?
春瀬:そうですね。なので、隣りで練習している音が入らないタイミングを見計らってこっそり歌ってます(笑)。もともと、バンドを組んでいたり、ボカロPをやっていた時は自分の声ではなかったので、こういうことをやる必要がなかったんですけど、今は少し慣れました。
──僕は春瀬さんの中低音が効いた声が好きですよ。
春瀬:ありがとうございます。自分がバンドをやっていた時からハイトーンボーカルのブームだったこともあって、不安なところもあるんですが、そういって頂けるとうれしいです。
──ところで、春瀬さんと言えば、ミュージックビデオもご自身で作られているそうですが、そもそもミュージックビデオを作るスキルはどのように学ばれたのですか?
春瀬:どこかで本格的に学んだというわけではないんです。最初は1枚絵からスタートして、徐々にそれを増やしていった感じで。やっぱりネットに曲を上げるとなったら「まず動画が必要だ」ってなるじゃないですか。僕は小さい頃から絵は描けた方だったし、他の人に頼むとしても自分はあまり意思疎通が得意ではないので、「じゃ、自分でやろう」ってiPadを買って始めたんです。
──具体的にはどのようなソフトで制作されているのですか?
春瀬:「CLIP STUDIO PAINT」です。使い方はYouTubeとかを見て覚えました。でも、まだ2年くらいです。
──そもそも、アニメーションというのは静止画をたくさん書いて、それをパラパラ漫画みたいにしていくんですか?
春瀬:まさにそんな感じです。
──大変そうですね。
春瀬:はい。作業量はものすごいです。枚数はわからないですけど、「風は凛として」のMVを作るのに1ヶ月くらいは真面目に描いてたと思います。
──では、その「風は凛として」のミュージックビデオの見どころを挙げるとすると?
春瀬:そうですね。MVではノートに歌詞を書いているようなシーンが出てくるんですけど、そのノートはそのまんな実際の僕のものだったりするんです。なので、実は誤字脱字だったり、途中で歌詞が変わったりしていて。アニメーションの動きにもこだわっているんですが、そういったところにもこだわって作っているので注目してもらえたらと思います。
▲Fender「American Performer Telecaster」とYAMAHA「BB1024」
2曲目「月のろし」制作エピソード
──続いて、2曲目の「月のろし」ですが、この曲はどのような世界観を表現しようと思ったものなのでしょうか?
春瀬:これは「風は凛として」の次に作った曲なんですけど、「風は凛として」が「昔の友達に向けたもの」だとすると、「月のろし」は「今の友達に向けたもの」になります。ただ、今の友達に何かメッセージを伝えたいとかじゃなくて、なんとなく公園にたむろしているだけで楽しかったり、言葉にしなくてもわかる共通認識みたいなものを書いたって感じです。友達といて「お前といて楽しいぜ」って伝えるわけでもなく、友達に聴いてもらって笑ってもらえればいいなぁぐらいの気持ちで作りました。
──ミュージックビデオでは顔を隠した人物や観音像が出てきたり、青いのろしが天高く登っていくといったシーンなどが出てきますが、春瀬さんとしては、どのようなストーリーを描こうと思われたのですか?
春瀬:実はこのMVに関しては歌詞に沿って作ったわけじゃなくて、全体を通じて「不可逆性」を描きたかったんです。映像では、観音像みたいなものに向かっていく最中に、いろんなところで「のろし」を上げて歩いていくんですけど、最終的に観音像から見下ろした町には「のろし」が消えているという、まずはそういったシンプルな「不可逆性」を描いています。で、それと対になっているものとして、指を怪我して絆創膏が貼ってあるシーンがあるんですけど、それは最終的に傷が治るという展開になっていて。これもある意味「不可逆性」を表現しています。自分としては、築いてきたものが消えることと、傷ついたものが治癒していくことを通して、「消えて苦しいもの」と「消えて嬉しいもの」があるよねってことが描きたかったんです。今の友達というのも永遠ではないので、そういった空気感にも通じるんじゃないかなと。
──なるほど。今のお話を聞いて、いろいろな点が腑に落ちました。では「月のろし」について、サウンド面でこだわった点についても教えてください。
春瀬:はい。これは「風は凛として」と比べて結構ロックなんですけど、ヒップホップ的な軽さもありつつ、そこに「二胡(にこ)」が乗ってきて。これらをどう同居させるかがこだわったところになります。
──「二胡」は何の音源で鳴らしているのですか?
春瀬:スマホのGarageBandに入っている音源で打ち込みました。
──ギターのサウンドについては?
春瀬:ズームのマルチエフェクター「G1Xon」の中に入っているワウです。
──その他、ミックスなどで行なったことも教えてください。
春瀬:そうですね。この曲って、実は友達の声をいろんなところに散りばめていて。それにはWAVE「Doubler」というのを使っています。これで左右に広げて、ASMRじゃないですけど、ぞくっとするような効果を生み出しています。
──友達の声というのはどのように録ったのですか?
春瀬:Line通話をしながら僕が録ったんですけど、地元の友達5人を集めて20分くらいなんとなく会話したもので。最終的に僕がバンバンバンと適当にカットしたんで、会話の内容自体は僕もわからない状態です。ただ、MVを公開した後に友達間で「これは自分の声だ、自分の声じゃない」という合戦が起きたようです(笑)
──ところで、春瀬さんの楽曲はマスタリングを「さぶろう」さんが手掛けていますよね。さぶろうさんとはどのようにお知り合いになったのですか?
春瀬:前から自分がいいと思う曲の概要欄に、さぶろうという文字をよく見かけていて。自分の好きな曲にクレジットされているということは、自分の好みにも近いんだろうなと思って、ネットを通じて依頼しました。
──実際、さぶろうさんにマスタリングをお願いしていかがでしたか。
春瀬:やっぱり自分では出せない音の広がり方であったり、ヘッドホンで聴くと「楽器に囲まれているような感じ」なんですね。奥深さもありますし、有り体に言えば、本当に楽曲のクオリティが上がって良かったです。
▲「月のろし」のプロジェクトデータ
3曲目「神様の庭」制作エピソード
──この曲はまた雰囲気が違いますよね。いつ頃制作された曲なのですか?
春瀬:これはボカロPをやっていた時の楽曲になるんで、2年前ですね。
──どのようにできた曲ですか?
春瀬:この曲だけは本当に記憶になくて。全部を含めて2〜3日でできた曲なんです。だから、その時の自分がそのまま出たという印象ですかね。実は、音楽を作るのがちょっと嫌になっていた時期で、歌詞で「私の書いた詩のさきが ひとつ微笑むあなたなら それがどれほど僥倖(ぎょうこう)か あなたが死んで思うのです」というのがあるのですが、本当にそのままだったなと。
──「僥倖(ぎょうこう)」というのはどういう意味ですか?
春瀬:突然出会う幸せというか、思いがけない幸せですかね。
──春瀬さんの歌詞は難しい漢字が出てくる頻度が高いように思いますが、言葉のチョイスで心掛けていることなどはあるのですか?
春瀬:そうですね。例えば、小学生にも伝わるようにとか、そういうことも大切だと思う反面、自分の場合は簡単な言葉で書くと理屈はわからないけど許せないんですよね。そんな簡単な言葉だったら「歌にする意味がなくない」って思っちゃうんです。そもそもメロディーに対して使える文字数にも制限がありますし、どうしても比喩だったり、難しい言い回しを使いたくなります。
──春瀬さんは、昔から本などはよく読まれる方なのですか?
春瀬:はい。本は好きです。特に小説家であれば伊坂幸太郎さんが好きですし、アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリの「星の王子さま」はいまだにモチーフにしてしまうくらい好きですね。
──「星の王子さま」のどんなところに魅力を感じるのですか?
春瀬:僕の記憶では、最初に買った本が「星の王子さま」なんですけど、ラストシーンで王子様が蛇に噛まれて死んだのかどうなのか、わからない終わり方をしていて。それは歳を重ねるごとに、もっと自分でもわからなくなりますし。いつまで経っても解釈が変わるというか、この先もずっと読んでいくんだろうなと思います。
4曲目「厭わないわ」と5曲目「model room」制作エピソード
──今回のEPには、その他にも2曲が収録されていますが、こちらの楽曲についても教えてください。
春瀬:まず4曲目の「厭わないわ」ですが、これはEPを作るにあたって最後にできた曲で、EPに足りない「BPMが速く、ちょっと暗め」の要素を入れようと思って作りました。で、5曲目「model room」に関しては、以前から1番だけできていたものを今回仕上げた感じで、ひたすら物語を書いているような曲ですね。
──「model room」に関しては、かなり具体的な描写だなと感じましたけど、実体験が元になっているのですか?
春瀬:いえ、完全に空想です。部屋の中に男の人と女の人を立てて描き始めたら、結構自由に物語が出来てきて。そのまま描写したという感じです。
──恋愛系の歌詞も普段からよく書くのですか?
春瀬:僕は基本的にラブソングは書かないです。「model room」もラブソングではないと思ってますし。
──今のところ、ラブソングはやりたくないということ?
春瀬:僕が書く必要はないかなと思ってます。それこそ、ラブソングはたくさんあるので、僕の役目ではないのかなと。
──ちなみに春瀬さんの「役目」は、ご自身では何だとお考えですか?
春瀬:そう言われると難しいですね。でも、僕だから描けることはあるんじゃないかなと思っていて。例えば、月の曲を書こうと思っても、普通は「月のろし」みたいな曲は出てこないだろうし、さらに言えば、「月のろし」の歌詞を見て「友達の歌だ」ってわかる人はいないと思うんです。自分の中で咀嚼してできたものって、ちょっと複雑化して出てくるというか、そういったことを表現していきたいなとは思っています。
──4曲目と5曲目に関して、サウンド面でこだわった点についてはいかがですか?
春瀬:特に4曲目は珍しくハイテンポかつジャズっぽさを入れた曲なんですが、ベースであればウォーキングベース、ピアノであればクラシック曲のオマージュなんかも取り入れています。ひとつひとつのフレーズに耳を傾けてほしいというか、このあたりの隠し要素を見つけてほしい曲だなぁと思ってます。
今後の活動について
──では、そろそろお時間が来ましたので、最後にあらためて今作「MAGNET」について、一言いただけますか。
春瀬:はい。まずサウンド面では、5曲それぞれ飽きがこないようにバラエティーに富んだものを心がけました。なので、ぜひ何度もループさせて聴いて欲しいですね。あと、インタビューでもお答えさせてもらった通り、歌詞に関しては全曲「何かの居場所」というのがテーマになっています。具体的に言えば1曲目は「昔、友達といた中学校や放課後のようなところ」、2曲目は「今の友達とのわちゃわちゃしているような居場所」、3曲目は「自室で一人こもって曲を書くような場所、誰にでもあると思いますが孤独な場所」、4曲目はちょっと難しいんですけど「ずっとあったものが壊れていくような節目」というか、ちょっと「異質な居場所」。そして、5曲目はラストのサビの歌詞を見るとわかるんですけど「自分が生きていく街という居場所」を描いています。このあたりに関して、もしリスナーの方とも共通することがあれば、その辺りを深く聴いてもらえるとうれしいです。
──春瀬さんは、今後ライブなどの構想はあるのですか?
春瀬:そうですね。今はまだ人前で演奏するイメージはできていないんですけど、自分の作品をMVも含めてこだわって作っているので、もしそういう空間が作れるなら、文字通り映像と音で「自分の空間」が表現できたら楽しそうだなとは思っています。
──わかりました。では、今日はインタビューありがとうございました。
春瀬:こちらこそ、ありがとうございました。
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