結成15周年アニバーサリーイヤーにアルバム2枚同時リリース!
カミナリグモ、『Another Treasure』と『Another Trip』の制作エピソードを公開
カミナリグモ、『Another Treasure』と『Another Trip』の制作エピソードを公開
2022/07/06
今年結成15周年となる上野啓示さんと成瀬篤志(ghoma)さんの2人組ユニット「カミナリグモ」。彼らが7月6日に、様々なゲストボーカルを迎えた『Another Treasure』と6枚目となるオリジナルアルバム『Another Trip』を同時リリースしました。ここでは『Another Treasure』でコラボレーションした各アーティストとのエピソードや『Another Trip』における制作秘話を中心に、2枚のアルバムに込めた想いに迫ってみたいと思います。ファン必見のインタビューです!
取材:東 哲哉(編集長)
アルバム2枚同時リリースの経緯について
──『Another Treasure』と『Another Trip』を同時にリリースすることになった経緯を教えてください。
上野啓示:15周年ということで何か特別なことができればと、活動再開した2018年から二人でずっと話していました。話し合う中でまずカミナリグモの代表曲をセルフカバーしたゲストボーカルアルバム「Another Treasure」の制作が決まり、ただ旧曲だけになるので、新曲も発表しようと。配信シングルやミニアルバムでもと思ったのですが、せっかくなのでフルアルバムを作ろうということになり、なかなか並行して大変な作業量でしたが、アニバーサリーらしい特別なリリースになったと思います。
──ジャケットのデザインも大変ユニークですが、どのような世界観が込められているのでしょうか?
上野啓示:メジャーデビュー時からずっとお世話になっているデザイナーの木山さんにアイディアを出してもらって、カミナリグモらしいガラクタのロボットの木でいこうということになりました。最初は「Another Trip」の方のロボットの木しかなかったのですが、「Another Treasure」の方はロボットの木にラピュタの巨神兵みたいに苔がついたり、花が咲いたり、ガラクタのような自分たちの世界観に素晴らしいアーティストのみなさんが参加してくれて、報われるようなそんなイメージで制作してもらいました。
『Another Treasure』について
──まず、フィーチャリングされているボーカリストの皆さんはどのように人選されたのですか?
上野啓示:交流の長いアーティストから、最近知り合ったアーティストまで幅広いのですが、そこまで知り合いも多くないので(笑)、カミナリグモの曲を歌うイメージが沸きつつ、今の関係性的にお願いできる人にお願いして、みなさんほぼ即決で本当にありがたかったです。
──個人的に、どの楽曲もフィーチャーされているアーティストの個性が際立つサウンドだなと感じましたが、収録されている楽曲ごとに、制作時の印象的なエピソードなどあれば教えてください。(やり取り、レコーディング、こだわったポイントなど)
・1曲目 夜明けのスケルトン feat.海北大輔(LOST IN TIME)
上野啓示:海北さんは心を震わせるエモーショナルなボーカリストなので、そこが引き立つようなアレンジを意識しました。海北さんの中でも何パターンか歌う人格があるようで、「この人がいいかな?さっきの人がいいかな?」っていう独特な言い回しで、ニュアンスを決めていって、狙い通り胸に迫る1曲目にふさわしいトラックになったと思います。活動休止中にも関わらず引き受けてもらえたことがうれしくてありがたくて仕方ないです。
ghoma:海北さんのエモーショナルさを引き出す為に、オケはシンセのリフを基調として、グラデーションをつけています。ArturiaのMini V、Jup-8、CZ-V、Prophet Vをメインに使いましたが、Arturiaのソフトシンセサイザー系は実機のような音色の解像度と太さが秀逸で、使い方も簡単なので頻繁に使用しています。あとカミナリグモでよく使う手法ですが、ソロ音色はピアノをAmplitubeのマーシャル系で強く歪ませています。歪みノリを良くする為に前段で何種類かコンプをかけて整えました。
・2曲目 こわくない feat.竹澤汀(Cinématographe ex.Goose house.)
上野啓示:この曲はカミナリグモの代表曲でもあるので、アルバムに収録したいということが決まっていた中で、セルフカバーのアレンジの方向性やこの曲に似合うボーカリストが当初イメージできず、一番迷った楽曲でした。マーチっぽい方向性でいこうということになって、ソフトな女性ボーカルに歌ってもらえたらいうことで最近知り合った竹澤さんにお願いして、静かなのに強さや意思を感じる声質が本当にぴったりで感謝しかないです。
ghoma:女性ボーカルが似合うマーチにしようという話になって、ガラクタのおもちゃのイメージでゼンマイ・ネジ・ブリキの音を使ってリズムの上モノは構築しました。マーチングスネアやオーケストラシンバルを使う一方で、Filter前回のシンセベース、パレードの様なシンセメロディを入れる等で、音色組み合わせの面白いいびつ感みたいなものは考えました。他にもメインテーマはアナログシンセにソプラノリコーダーをハモらせる、という手法にしています。
・3曲目 November Fools feat.渡會将士(FoZZtone/brainchild's)
上野啓示:この曲に限っては、渡會くんが「良い曲だからアレンジもしたい!」と言ってくれて、基本はゲストボーカル企画だけど、アニバーサリーの自由な企画だったので、お任せしました。ラフなデモがくるのかなと思ったら、ほとんど完パケに近いアレンジをしてきてくれて驚きと感動で胸がいっぱいでした。一際個性的なボーカルとアレンジが加わったことで、このアルバム全体の幅が広がって質を高めてくれたと思います。
ghoma:渡會くんも制作環境はProToolsだったので、作業済みのセッションをもらったのですが、フレーズを考えた後ミュートしてたり、EQも作り込んでボリュームカーブもたくさん書いたりしてて、データから曲に対する愛情が伝わって来て、嬉しかったです。笑。基本のアレンジはそのまま使わせてもらって、元々原曲にあったフレーズ系をクラビネットで足して、カミナリグモっぽいと感じるようにブリッとしたシンセを要所で足しました。渡會くんがギターに使ってたavidのGREEN JRC OVERDRIVEがめっちゃ良くて、質感揃える為にクラビでも使ってます。
・4曲目 王様のミサイル feat.秋野温(鶴)
上野啓示:20年近く前に作ったカミナリグモの代表曲を、作って間もない頃から知ってくれている秋野くんに歌ってもらいたくて、お願いしました。こういうデリケートなテーマの曲で、僕が歌うと悲壮感が先行してしまうようなテイクになるところ、やさしく語りかけるような秋野くんのまっすぐなやさしい声で聴くと同じ歌詞なのにニュアンスが全然違って聞こえて、訴えるというより染み渡るような押し付けがましくないメッセージが素直に胸に入って来て、このヴァージョンでもたくさんの人に聴いてもらいたいです。
ghoma:秋野くんに似合う様に、という考えもあり、原曲のシャッフル感をやめたリズムアプローチにしました。印象的なギターフレーズ、ピアノのテーマは変えず、シリアスな中にも自分達テイストを入れる為にピアノをベース手法として採用、古びたメロトロンの音色、へんてこなシンセフレーズをいれてこの世界観を構築しました。ギターはフルアコをlineとコンデンサーマイクで収録して、弦の金属っぽい音と甘く歪ませた音を混ぜる事でキレイさと淀んだニュアンスを作りました。
・5曲目 TOY BOX STORY feat.kainatsu
上野啓示:なっちゃんは別れの曲をエモーショナルに歌うイメージがありつつも、ラジオDJを長く務めていたり、器用さ、洗練されたアーティストなイメージがあったので、当初アレンジはもっと綺麗目なシティポップを目指していました。ボーカルテイクを録った後にオケの中にどうしても馴染まなくて、各楽器に歪みを足したり、ローファイなロック色を強めていくと自然と馴染んて来て、全体の中でもボーカルを録ってからかなり音像が変わったトラックになりました。デビュー時から付き合いがあるものの勝手なイメージが先行してしまっていて、なっちゃんの本質的な魅力に近づくことができたことがうれしかったです。
ghoma:二人で制作していく時に基本は最初の1日で数時間かけて1コーラスが出来上がって、ここでほぼ大枠のアレンジや音色感が出来上がる事が大半なのですが、この曲はそこからだいぶ変わりました。クリアなテイストからローファイさを目指す為にスネアの音程を落として丸めな音を重ねたり、サビの弦楽器系をぶ厚めのシンセ音に差し替えたり。Mixの最終工程で啓示が新たなギターフレーズをメインテーマに持ってきて、それが良い存在感出してくれました。
・6曲目 白い雨 feat.成山剛(sleepy.ab)
上野啓示:sleepy.abの音楽や成山さんの声が好きで、お願いしたい!という気持ちはありつつ、カミナリグモの歌詞の少年っぽいイノセントな世界観や言い回しが成山さんに合うのかなという不安があったのですが、いざレコーディングが始まったら、歌詞の世界を飛び越えた成山さんという唯一無二の楽器のような声で、自分の楽曲が成山さん色に染まっていくのが不思議な感覚のレコーディングでした。ギターアレンジもこだわって、カミナリグモ的なsleepy.abの解釈でセルフカバー出来たと満足しています。
ghoma:成山さんとは最初、札幌と東京間でlisten toでリモートで録音しようという話をしてたのですが、たまたま東京でライブをする日程がレコーディング期間に出てきて、そこに合わせて録音できました。他のミュージシャンもそうだけど、お互いに出会った頃や一緒にライブした事等、色々と話してから録る流れが本当に楽しかった。sleepy.abの独特なディレイ感を参考にしながら、AAS Objeq DelayとWAVES H Delayで質感を組み立てています。リズムは「ロボットが歩く街並み」をイメージして、雑踏・ハッチ開閉・自動ドアの面白そうな組み合わせを考えました。リズムの中でそう感じる音を探すのに苦労しました。
・7曲目 SCRAP SHORT SUMMER feat.yoko(noodles)
上野啓示:弾き語りのライブでカバーしていただいていた曲ということもあってイメージはずっとできていたのですが、改めてyokoさんが歌うと、よりポップにキャッチーにそれでいて
オルタナティブに聴こえて、アレンジもそんなyokoさんの声と相性が良くなるようにnoodlesをリファレンスしたりして、音像を詰めていきました。その場にいてくれるだけで楽しくてやさしい気持ちにしてくれるyokoさんが大好きです。
ghoma:大好きなnoodlesのオルタナ感をカミナリグモの音色感で出す為に、ベース的なフレーズをがっつりコンプをかけた単音ピアノでアプローチしたり、原曲でも採用してますがマリンバを豪快にコンプとギターアンプで歪ませてテーマの音色を作ったり、レズリースピーカーを通さないオルガンを採用したりする等、基本的な音色に何かしら正統的ではない工夫感を加えてサウンドメイキングをしました。
・8曲目 サワー feat.カナタタケヒロ(LEGO BIG MORL)
上野啓示:とにかくレコーディングが始まって流しの1テイク目からもう抜群で、、今回のレコーディングはみんな合うだろうなと思って楽曲をお願いした中でも、衝撃的に自分の曲のように歌いこなしていたのが印象的でした。普段、ギタリストのヒロキくんの歌詞を歌っていることもあってか、とにかく楽曲への歌の混ざり方が秀逸で録ったテイク、どれも素晴らしかったです。ギターリフはLEGO BIG MORLを意識してみたり、制作を通して自分たちの音楽の幅も広がって成長できたような気がします。
ghoma:legoの緻密さを自分たちでも消化したサウンド感にしたいと思って。ひねったギターリフや面白いベースラインは啓示くんが最初に出したアイディアをそのまま取り入れて、肉付けをしていきました。EDMで使うようなキックやアタックシンバルを使ったり、シンセリフもアルペジエーター的なラインをサビに散りばめたりして、普段カミナリグモであまり使って来なかった音を混ぜる事ができたのは面白かったです。
・9曲目 春のうた feat.わたなべだいすけ(D.W.ニコルズ)
上野啓示:今回アルバム収録曲の中で唯一完全アコースティックアレンジで、だいすけさんの声でいくなら潔くギターと鍵盤ハーモニカで部屋で歌っているようなアレンジにしようということになりました。レコーディングでも色んなニュアンスで方向性を決めていき、抜いた感じやさみしさや切なさ、その奥に込めた希望のような情感をフォーキーに表現してもらえて、この曲をお願いして歌ってもらえて本当に良かったと感慨深いです。
ghoma:この曲は音数が少なかった事もあり、オケは一番フレーズのニュアンスを録音上でもこだわりました。鍵盤ハーモニカはダイナミックのShure SM57で録音する事が多いのですが、今回はコンデンサーでaudio technica AT4050で録音し、最終的にAT4050で録った高域を調整しながら丸くEQ処理していきました。ナチュラルな部屋の空間を出すのに複数リバーブを組合わせつつ、Valhalla VintageVerbをメインにして作っていきました。だいちゃんの声にマッチするアコースティックな良い空間が作れたと思います。
・10曲目 MY DROWSY COCKPIT feat.岩崎慧(セカイイチ)
上野啓示:どのジャンルでも、どんな世界観でも歌いこなす俳優さんのような岩崎くんの表現力は分かってはいたけど、実際のレコーディングで改めて圧倒されました。この楽曲のAメロ、Bメロの抜いたパートとサビのエモーショナルなパートとのダイナミクス、終わっていく独特な世界観を見事に演じ切ってくれて、アレンジも含めて一本の映画を見たようなそんなトラックになったと思います。
ghoma:以前、ライブでアコースティックアレンジしたアコギとピアノ、ストリングスのバージョンがエモーショナルな感じの岩崎くんに合いそうと思って、それをベースにしつつ、ピコピコシンセやキック等の音を足しました。サビのリズムを埋める為にドラムのベーシックなリズムループを作り、ギターアンプで歪ませたものをうっすら混ぜています。でも細かな工夫というより、岩崎くんの歌のパワーに寄り添うようにピアノ等で感情表現を付けていく事に重点を置きました。
・11曲目 美しい世界 feat.上野優華
上野啓示:世代も違うし、男女も違うし、正直ここまでの表現力でカミナリグモの曲を歌いこなしてくれるとは予想できていませんでした。レコーディングで歌い始めた瞬間から、息遣いとか感情の載せ方とか、自分色に染めるシンガーソングライターとはまた違った、女優さんのような表現力で、楽曲の景色や感情を歌で見せてくれたことが新鮮で感動的でした。曲の作り手としてや、楽曲自体が歌ってもらったことに喜びを感じるようなセルフカバーになりました。
ghoma:数年間優華ちゃんのサポートをしていて曲に感情を載せ方が本当に秀逸な歌い方をしてくれると思っていたので、トラックはそこに強弱のプレイ感で寄せていかず、トラックの重ねで表現していくのが親和性があるかな、と思い、その点を重視してベロシティが無い音色感、ピアノのリバース音やフレーズの音程感の重ね方などに工夫を重ねました。ギターもなるべくニュアンスに耳を持っていかれないようにテイクは同じものをコピーしつつ、指のスライド音もできるだけ消したりして、この世界観に持っていきました。
・12曲目 20号 feat.山中さわお&真鍋吉明(the pillows)
上野啓示:10代の頃から一ファンとして一番影響を受けた方々にこうして作品に参加してもらえたことは、間違いなく自分の人生のハイライトです。普段見ることができないレコーディング風景は一ファンとして貴重でしたし、さわおさんも真鍋さんも良いものを作ろうと愛情込めて関わっていただけたことが色んなシーンで垣間見れて、とにかく感動的でした。この曲のメッセージにあるように、15周年からまたその先へ行こうという気持ちになるような、心を奮い立たせるようなアルバムのラストナンバーでアルバムを締めくくることができて感無量です。
ghoma:さわおさんにプロデュースしてもらった時に教えてもらった事を思い出しながら、オルタナティブなシンセフレーズの使い方、コンプで潰して単音で成立させるピアノフレーズ、歪みギターの中にぽっかりメロトロンが入るとか、15年間で積み上げてきたエッセンスを要所に入れる事ができたと思います。大枠のアレンジデータを作って真鍋さんに渡しましたが、全てが真鍋さんの大好きなギター音色とフレーズデータが足されて返って来て、感動で震えました。ここまで音楽を続けて来て良かったな、と思いました。
『Another Trip』について
──『Another Trip』は、どのようなコンセプトで作ろうと思われたアルバムですか?
上野啓示:元々カミナリグモは旅を表現した曲が多いのですが、15周年ということで、改めて「旅」というテーマに向き合って制作して、新旧入り混じった構成にも関わらず、自分の根本にあったテーマということで、カミナリグモらしさがしっかりと詰まった世界観を作れたかなと思っています。
──最初にできた楽曲は?
上野啓示:2014年に会場限定でリリースした「ロードムービー」です。他にストック曲もちらほら収録されていますが、昨年「絵空事」が出来たことでテーマが固まって他の書き下ろした楽曲が引っ張られていった感覚はあります。
──普段、カミナリグモはどのように曲作りを行なっているのですか? (作曲時の使用機材、メンバー間の役割などを教えてください)
ghoma:啓示くんがプロットとなる曲を持って来て、曲のイメージを確認しながら自分がサウンドメイキングしてきます。お互いに制作環境はProToolsで、歌・バッキングギター・簡易的なリズムの入ったセッションをもらったのち、Source Connect Nowでお互いの音を遠隔で繋いで、リアルアイムに確認をしながら作業進めていきます。最近ではMixもListen toを使ってリモートで行う形にしているので、ドラム・ベース・ギター・歌などをスタジオで生録音する時以外、制作作業を会って行う、という事はなくなりましたね。
上野啓示:アコースティックギターは基本スタジオで、エレキギターはスタジオで録ったり自宅でラインで録ったりしています。歌もクリアに録りたい楽曲はスタジオで、半分くらいは自宅で録音していて、オーディオインターフェースはApollo Twin MKII、プリアンプは、UNIVERSAL AUDIO 710 TWIN-FINITY、マイクはNEUMANN TLM49を使用しています。
──アルバム収録曲に関して、歌詞、サウンド面(アレンジなども含む)でこだわったポイント、表現したかった世界観などを教えてください。
・1曲目 絵空事
上野啓示:15周年を意識して作った曲です。2012年辺りに体制が変わってもう終わっていくんだろうなと考えていた当時の自分の心情から始まって、今こうしてカミナリグモを続けられていること、そばにいてくれる人への感謝の気持ちを込めたアニバーサリーソングで、曲が出来た時からアルバムの一曲目にしようと決めていました。
ghoma:続いていく、という事を意識してすべての音色づくり、フレーズ感を積み上げました。ギターは淡々としたニュアンスにしたくて弦1本1本を別々に録音して重ねています。カミナリグモ的と思っているフレーズとして、音程感が割と6度、7度とかに開いてキャッチーなメロディを目指す手法があるんですけど、それぞれのフレーズでたっぷり取り入れつつ覚えやすくしています。ピアノの音色はPiano Primerを使っていて、それをWaves CLA-76で強く潰しています。
・2曲目 Another Trip
上野啓示:アルバムタイトルが先に決まった後にタイトル曲を作ろうと思って取り組んだら、スムーズに完成しました。サビは初めて2コードだけで作った曲で、シンプルな構成と、
今感じていることがぎゅっと詰まったお気に入りのアルバムタイトル曲になりました。
ghoma:啓示くんのギター・歌の素材を元に初回のプリプロを初めて、たしか1時間半くらいでフル尺の完成図が組み上がったと思います。歌詞から来るイメージと今やりたい事がちょうどお互いに重なって、かなりスムーズに仕上がりました。シンセの音色・フレーズのアイディアはだいぶ前から自分の中ではあって、今回ようやく形にできて嬉しかった。オルガンは最近大好きなIK Multimedia Hammond B-3Xを使ってます。オーバードライブのとても気持ち良くて、今までオルガンの歪み感は苦労してましたけど、ようやく文句無しの音に巡り会えました。
・3曲目 FLAG MARCH
上野啓示:もう一曲アニバーサリーを意識した名曲を作ろうと思って収録曲中一番最後に出来た曲。ギターリフを決めた後にAメロの歌詞をのせていく中で「旗」がテーマになり、自分が何曲も作ってきた、現実を受け入れてそれでも前進していく主人公のカミナリグモらしい楽曲が完成しました。
ghoma:自分達らしい前進感を考えながらサウンドメイキングしました。ドラムのリズムアプローチが難しかったのですが、打ち込みイメージを堀くんが丁寧に消化してくれて、面白いフレーズ感になったと思います。管野くんとサビのスライドするニュアンスはたくさんパターンを試して、1サビ〜3サビで盛り上がる毎に変わっていく方向にしてもらいました。サビ〜ソロのシンセはArturiaのMini Vを5つ、微妙に音色を変えて重ねていて厚みを出したり、薄くピアノとウーリッツァー、トロンボーンの音色を重ねて、立体感を出しています。
・4曲目 月と街灯
上野啓示:「朝のにおい 少し苦手」というフレーズから始まって、物語を書くように一気に書き上げました。これも自分がよく歌うような割り切れない感情を表現した楽曲で、自分で自分に共感するようなフレーズがたくさん散りばめられていて、分かる人には分かるような感情や景色が思い浮かぶような世界を表現することができました。
ghoma:歌詞からすぐに情景が浮かんで、時間が進んでいくようにフレーズ感を作っていきました。歌に寄り添うようにピアノのフレーズもA、B、サビと歌う気持ちで弾いています。このキレイな質感を出すのはやはりストリングスだと思い、打ち込みのストリングスの音にヴァイオリンとチェロを重ねて生録音しました。サビにファズっぽい歪んだギターを足したりして、キレイな質感の中にも丸めのローファイ感をいれて、コントラストを作っています。
・5曲目 フラスコ・ステイシー
上野啓示:アルバム収録曲の脇役でアッパーなおもしろい楽曲を作ろうと、ブルージーな1コードリフから制作しました。作曲史上初めて1コードでAメロを完結させて、サビで一気に流れ出すような、フラスコの中から飛び出して旅に出る、主人公のステイシーの無謀な勢いを、2分強の短いトラックに上手く詰め込めた楽曲になったと思います。
ghoma:最初に啓示くんから曲をもらった時に「ピアノで弾き倒した感じにしてほしい」と言われて、面白い曲だったし、遊び心満載でフレーズ作りました。でもライブで自分が難しすぎず弾き易いくらいで、弾き倒した感じにしています。カミナリグモっぽいフレーズのまた一つに近めの音程を2回重ねるフレーズがあるんですけど、これも印象的にテーマフレーズの中で、「タランタラン、タランタラン」と作りました。メトロノームの音を切り刻んでリズムにしたり、床を手のひらで叩いた音をキック音にしたり、色々遊んでいます。
・6曲目 Quiet Howling
上野啓示:1Bまでは以前からずっと出来ていた曲のサビのフレーズをふと思いついて、そこからは一気に物語が流れ出して、アルバムに収録しようということになりました。雨上がりの街並とまた雨が降り出す景色の描写の中で主人公の割り切れない想いを淡々と綴っていくラブソングで、いかにも自分が描きそうな世界観をまたアニバリーイヤーに形にできたことがうれしいです。
ghoma:この曲のイメージに合う音色として、サビでヴィブラフォンとシンセで象ったのはうまく表現ができたかなぁ、と思いました。あと、最近ではほぼソフト音源を使って完結するスタイルが多いのですが、この曲だけテーマフレーズはCLAVIA Nord Electro 6で、ピアノの音色をリングモジュレーターで変調させて作りました。他の音源だとこういうかかり方をしなくて、微量な調整を繰り返してこの音色に辿り着きました。
・7曲目 カウントダウン
上野啓示:二人体制になって間もない2014年ぐらいに作って、ストック曲としてずっとプリプロもしてあった曲。二人だしどうせならバンドサウンドで再現できないようなPerfumeみたいなおもしろい打ち込みトラックにしようということで、カミナリグモの中ではちょっと異質なサウンドの中に、奇しくもアルバムコンセプトの旅感も歌詞に込められていて、ようやく音源化することができてうれしく思っています。
ghoma:普段あまり他の曲では使わないサウンド感をこの曲にはいれています。レゾナンス強めの単音シンセやダンサブルな重厚シンセなど。でもストーリー性を感じるようにそれぞれのセクションで音色を切り替えをたくさん行う事で音楽構成しています。冒頭から入るギターのリフが決め手なので、特に細かく音調整しました。コンプ→EQ→オーバードライブの後、Fender SuperSonicのアンプで音色を作る順番にしています。歪ませる前にコンプ・EQをすると特定の帯域で歪みがかかり易くなるので、他の音と混ぜた時に抜けてほしい帯域で抜けてくれます。
・8曲目 native town
上野啓示:ゴマちゃんソロのインスト楽曲「Invisible Flower」のメロディーに歌詞をのせてアルバムに収録しました。メロディから思い浮かぶ郷愁感とふと歩いている時に目に入った国道の青い標識が合わさって、今自分のいる場所と故郷、そしてこれから向かう場所へと想いを馳せる今回のアルバムの世界観にぴったりな曲になりました。
ghoma:自分のインスト曲にまるでそもそもカミナリグモ用に作ったかの様に、啓示くんがぴったりとメロディと歌詞の世界観を合わせてきてくれていて、とても嬉しかった。その世界観に合うように歌う様なピアノ伴奏を作りました。ピアノの音色はVienna Synchron Pianosを使用しています。まるで生ピアノで録音したかのようにマルチマイク収録された音源で、サンプリングの精度も良く、近めのマイク、遠目のマイクを数本組み合わせて音作りしました。歌は哀愁感を出すために少しローファイ気味にMixしています。
・9曲目 ため息は機関車のように
上野啓示:この曲も2014年くらいにストックとしてプリプロしてあった楽曲です。当時の迷いながらも、前に進んでいこうともがくようなそんな心境の描写が、旅をテーマにしたアルバムの終盤にぴったりで、時にはため息を吐きながらも生きている限り続いていく旅、それはこれからも続いていくのだろうと予兆させるような楽曲になっています。
ghoma:カミナリグモとしては珍しい、ピアノがバッキングでオーソドックスに弾いている曲です。ビートルズの様な乾いた質感を狙いたくて、ドラムはバスドラムのフロントヘッドを外して録音したり、スネアを極限までミュートしたり、普段やらない音作りをしました。サビで上昇する弦のフレーズをいれており、最初はヴィオラのみ、3サビでヴァイオリンが重なる、という手法でそれぞれ一本ずつであまりゴージャズに広がらないように構成しました。
・10曲目 ロードムービー
上野啓示:2014年に会場限定音源としてリリースした楽曲を再録して収録しました。前曲「ため息は〜」の静かな覚悟や孤独の中で「キミと同じで」と最後に共感を求めて終わる案もあったのですが、1曲目の「絵空事」のキミと僕の世界に戻って前向きにアルバムを締めくくりたいと思い、更にはアルバムコンセプトにもぴったりな曲ということで今回アルバム最後に収録することになりました。
ghoma:以前の音源の良さを残しつつ、細かい音色感やフレーズはブラッシュアップして再録音しました。ギターの音やそれに存在感負けないクラビネットの歪み音、抜けの良いベースシンセなど含め、とても良い感じに仕上げる事が出来たと思ってますが、音作りの初期段階やMixで特にUADのプラグインが大活躍しました。他の楽曲Mixなどにも基本的に使用していますが、Neve 1073、UA 1176など、掛けるだけで倍音が伸びて解像度良く仕上がっていく感じなって、重宝しています。
今後の活動について
──あらためて、活動15周年を記念した2つのアルバムの聴きどころ(全体を通じて表現したかったことなど)を教えてください。
上野啓示:企画アルバム「Another Treasure」はもう感動的で、自分の作った小さな世界がとても広い世界に聴こえて、いつ聴いても涙が出てしまうアニバーサリーにふさわしいアルバムが出来ました。そんな「Another Treasure」を聴いた後に「Another Trip」を聴いてもらえるとまたほっとするような小さな世界に戻って、ニヤリとしてもらえると思います。是非この順番で聴いて下さい。
ghoma:Another Treasureは想いがつまり過ぎて言葉にできない位です。きっと今までカミナリグモを知ってくれている人達は分かちあってくれて、ずっと大切になるアルバムだと思うし、これを入り口に知った皆さんはオリジナル曲と比べて楽しんでほしいです。その中で僕らの共通項みたいな事を感じてくれて、Another Tripを聴いてもらえたら、そこを発信地にして、新しい音の旅行に出かけられると思います。
──コロナがようやく落ち着いてきましたが、今後の活動について教えてください。また、ファンの方へのメッセージをお願いします。
上野啓示:久しぶりのツアーで、しかも対バンツアーということで、各地アルバムに参加してくれたみなさんと来てくれたみなさんで記憶に残る楽しい時間にしたいと思います。コロナや昨今の世界事情を見ていても自分や世界がいつどうなるか誰にも分からないなと感じて、これまで以上に今できることや今を楽しむことにこだわって活動していきたいなと強く思っています。新しい曲を作って聴いてもらう、ということを続けていきたいです。
ghoma:まずはようやく各地でツアーを巡っていく事が出来るようになって、今から楽しい気分で一杯です。そこからアニバーサリーの終着点、11/20の渋谷Duoライブに向かって、最後まで駆け巡ります。今回2枚のアルバム制作をして思った事は、やっぱりこうやって発信できる機会があることは生きがいである事であって、変わらずにできる事をやっていきたいなぁ、と。これからも生活の一部分としてカミナリグモの存在が有り続けてくれたら嬉しいです。
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