人々の深淵に潜む様々な「本音」を綴る、待望の1stフルアルバム
橋爪もも『本音とは醜くも尊い』インタビュー
橋爪もも『本音とは醜くも尊い』インタビュー
2019/04/17
文:東 徹夜(編集長)
──アルバムのタイトルにもなっている「本音とは醜くも尊い」はいつ頃作られた曲なのですか?
橋爪:実はアルバムの中で一番最後に作った曲になります。というのも、最初はリード曲の「バレリーナ」を中心に、それ以外の11曲が出来たんですけど、その11曲が出揃った時に、アルバム全体を総評するようなものがほしくなって。なので、11曲の中で出てくる人たちのエピソードを代表するようなものが「本音とは醜くも尊い」になっています。
──曲作りは作詞から?
橋爪:たぶん同時だったと思います。曲にもよるんですけど、自分の中の勝手なジンクスがあって。曲と歌詞を同時に作った方がいいものになることが多くて。
──具体的にはどのように作っていくのですか?
橋爪:いつものパターンだと、電車に乗っている時にメロディーが降ってきて。それを周りを気にせず鼻歌で録って周りの人にギョっとされるみたいな(笑)。でも、この「本音とは醜くも尊い」に関しては、歌詞の先にその他の11曲(11人の設定)のことがあったので、それをどう弔(とむら)ってやればいいかを考えて。Aメロを歌っているうちに歌詞も自然と出てきましたね。
──コードよりはメロディーで作っていく方が多いんですか?
橋爪:そうですね。鼻歌に一番合うコード進行を後から付けていく感じです。合うコードがない時は、ピアノで和音を出して、それに近いものをギターで探したりしています。
──ちなみに「本音とは醜くも尊い」のコードはどのような感じに?
橋爪:とてもシンプルです。曲の最後はどんどん転調していくんですけど、グッとくるコード進行になっていると思います。でも、それは最初からそうしようと思ったのではなくて、歌詞で主人公が少しずつ本音を出して最後にぶちまけるという展開の中で自然とそういう形になりました。
──自然と出てくるなんてすごいですね。
橋爪:幼い頃からピアノをやっていたので、メロディーに対してコードのルート音を見つける訓練は自然とできていたと思います。
──歌詞を書く時は、かなり具体的な人物設定を考えるのですか?
橋爪:はい。主人公を取り巻く人間関係とか、どういう所得でとか(笑)。
──(笑)。ちなみに、この曲ではどういう設定にしたのですか?
橋爪:まず、普通にアパートに住んでいるんですけど、わりと日常の繰り返しにくたびれていて。思うことがあっても、それを言うことにエネルギーを使うことすら疲れてしまっている。そんな人物設定です。ある時、ピークがきてしまって、恋人に今まで思っていたことを、嫌なことも含めて全部ぶちまけるんです。それに対して相手もぶちまける。お互いがショックを受けつつも、吐き出せた事実や言葉は尊い言葉だと初めて気付いて、息を吹き返し、やっと自分のストーリーが始まる。周りの人間が幸せそうに見えて自分を追い込む、そんな設定です。でも、答えてくれた相手は恋人でなくて母親であってもいいですし、それは聴いてくださる方のイマジネーションにお任せでいいと思っています。
──歌詞とメロディーを合わせる上で苦労した点などはありますか?
橋爪:サビの「光れ人生」が何度も出てくるんですけど、それぞれの意味合いを変えていくことが難しかったです。あまり、説明口調になってもいけないですし。初めは切望するように言うんですけど、だんだん命令するような“人生の主導権は自分にあるんだから、光れよ”みたいな。そんなニュアンスが読み手の方に、歌詞とコード展開で伝わるとうれしいなと思っています。
──アレンジャーの方にも、そのようなお願いをされたのですか?
橋爪:そうですね。3回目の「光れ人生」で意味合いが変わるように、楽器隊が暴れまくるようにお願いしました。あと、曲の出だしで、バスドラが「ドッ、ドッ、〜サッ」みたいに入ってくるんですけど、これはアレンジャーの方のアイデアで最初からあったものなんです。電車に乗っている男性が家に着くまでの音を楽器で表しているんですけど、このアイデアは素晴らしいなと思いました。
──その後、レコーディングはどのように?
橋爪:アレンジが仕上がった後に、生音でドラム、ベース、ギター、ピアノを録音し、それを軽くミックスしました。そこに歌入れをして、最終ミックスでさらに整え、マスタリングしていく感じです。
──レコーディングでは、一度に何曲もボーカルを録られるのですか?
橋爪:私の場合は、出来上がった曲から順に1日に1曲ずつですね。
──歌入れで心掛けた点などは?
橋爪:私はライブでは感情を込めて歌うんですけど、今回のディレクターさんが「歌詞カードを見なくても歌詞が伝わるように言葉と発音を大事に」とおっしゃって。それで、ディレクターとは意見が割れたんですけど(笑)。でも、それを念頭に入れて今回は丁寧に歌わせてもらいました。音源を聴いてライブに来た方には、私がかなり激情して歌っているので相当違いを感じると思います(笑)。
──意見が割れたんですね。では、何度か歌い直したりも?
橋爪:はい。私も頑固なので、そうは言っても感情込めたい! みたいな(笑) でも、何回も録るうちに「俺の指示通りにできてきたな」って向こうは思うし、こっちは「だんだん折れてきたな」って思って(笑)。
──まさにこの曲のタイトルのようなやり取りをしていますね。
橋爪:そうなんですよ。やっぱり、仕上がったものが良ければ、過程がどんなに醜くても尊いものになると思うんです。たぶん!(笑)。
──続いて、アルバムの1曲目「内包された女の子」について聞かせてください。
橋爪:実はこの曲はアルバムをリリースする前からあったんです。最初はアルバムのテーマに沿ったというよりは、聴きやすい曲を作ろうとしていました。20代の方や、もっと若い子たちが曲を聴いた時に「あ、これ私のことだ」って。背中を押すというよりは、背中をさすれるようなものを書きたいなと思っていました。曲の後半に「これは全部嘘だ」っていう歌詞があるんですけど、本音を隠してきた子が全部をぶちまけるという歌ですね。
──アルバムをリリースする前というと何年も前?
橋爪:2年経ってないくらいかな。ちょうどツイキャス放送をやっていて、見に来る方が若い層だったということもあって、作った曲です。
──先ほど、曲の主人公の設定の話が出ましたけど、橋爪さん本人が投影されている部分もあるのですか?
橋爪:それはあると思います。主人公がまったく別人だと、私自身が感情移入できないと思います。なので、自分が経験したことや、生きてく上で感じてきた名前のついた感情を投影しています。また、その感情を主人公を作ることで掘り下げたものにしたいという思いはあります。
──アレンジャーの渡辺善太郎さんとはどのようなやり取りを?
橋爪:私としては、曲の展開も歌詞もわかりやすくと思っていたので、聴いてくださる方の耳にリラックスしながら自然と入ってくるような「牧歌的な感じに」とお願いしました。
──全然、牧歌的ではないと思いますけど(笑)。
橋爪:善太郎さんはかなりトリッキーなアレンジをされる方なので、「牧歌的」とお伝えしても素敵なものが来ると思っていました(笑)。アルバムが後半どんどんディープになっていくので、どうしても入り口には聴きやすい曲を置いておきたいというのもありました。
──この曲も歌詞と同時進行で?
橋爪:そうですね。サビからできてしまうとうまくいかないことが多いんですが、この曲はAメロができて、自然とサビもできて。自分自身の気持ちが動くままに曲を書き終えることができました。
──歌い方を分析すると、さだまさしさんのように語りっぽいところと、完全にメロディーに歌詞を当てて歌う部分があると思うのですが、橋爪さんの中でそういうバランスはどのように取っているのですか?
橋爪:極端に歌詞が少ない曲もあるんですけど、私の場合は伝えたいことが多くて、歌詞の文字数も多くなります。なので、特にサビ以外のAメロやBメロの言葉が多くなりがちです。でも、歌い方とかに意味があるかは考えたことはなくて。
──当然、歌詞を削る作業はしているのですよね。
橋爪:はい。
──例えば、メロディーとしては4文字だけど、歌詞は5文字あるみたいな。
橋爪:よくありますね。そういう時は、ひたすら日本語を探します。でも、歌詞が見つからなくて、メロのラインを変えることもありますね。
──英語にすれば簡単に当てはめられるケースもあると思いますが。
橋爪:なるべく「英語は使わない」というのは自分の中で決めていますね。「リセット」とかは、英語でなくてカタカナというだけですけど(笑)。ただ、自分としては日本語で書くことは大事にしていることです。例えば、日本語の「儚い(はかない)」という言葉が英語だとなかなか見つからないし、日本人特有の情景や感情に沿った曲を作るには日本語でないと。人には言えない墓場まで持っていくような思いとか、そういったことに寄り添えるような曲が書きたいというのが、自分の中でのテーマでもあります。
──この曲を作る時、ギターは何を使ったのですか?
橋爪:曲作りは完全に「髭丸(テイラーのギター)」ですね。
──それはどうしてですか?
橋爪:ギブソンぽいんですよね(笑)。音が太いというか。音色って、曲作りには重要だと思っていて。例えば、音が太いと男性的な歌詞や曲がイメージされてくると思うんです。私はシーガルのギターも持っているんですけど、それは練習用にたまに弾いています。
──では、今度は「バレリーナ」についてお聞きします。この曲はどういう世界観を歌おうと?
橋爪:また細かく人物の設定があるんですけど、一言で言えば、幼少期につらい思いをした人間が、その過去を払拭するために手にした方法で、後々自分を追い詰めて苦しくなる話です。この人の場合はステージがバレリーナですけど、聴いてもらった人の環境に照らし合わせて、学校のことだったり、職場のことだったりを想像して聴いていただければと思います。
──歌詞で特にこだわったところを挙げるとすると?
橋爪:こういう人間でありたいというのが、鍵括弧(かぎかっこ)で台詞として書いてあるんですけど、本当はこの人の本心ではないと思うんですね。憧れというのは、理解から最も遠いという言葉が有名ですが、曲の終わりに「君を救わなければ」といって手を差し伸べた人間は、はじめてその人(バレリーナ)に深くつっ込もうと覚悟を決めたという終わり方になっています。
──アレンジを担当された出羽良彰さんとはどのようなお話を?
橋爪:出羽さんは天才です! 私がインディーズの頃からお世話になっているんですけど、出羽さんは多くを言わずとも曲を理解した上で必要な音を絶対に入れてくるんです。今回の「バレリーナ」ではヴァイオリンのピチカートや舞っているようなピアノが入ったんです。それも私からは何もお伝えしていないのに! 私は「アレンジできました!」って曲を渡された時にタクシーに乗っていたんですが、初めて聞いた際一人で「グ、フフフ」って思わずニヤけちゃいました(笑)。
──レコーディングもスムーズに?
橋爪:いきました。アレンジがとてつもなくいいので気持ち良く歌わせてもらいました。でも、この曲はキーが一番高くて、血管切れそうでした(笑)。
──7曲目「自己愛性障害」についてですが、こちらは日高 央さんがアレンジされていますよね。どのようにして生まれた曲なのですか?
橋爪:ミニアルバム『夜道』に「依存未遂」という曲があって、そこでは依存していた女性から逃げ出す男性の話を書いたんですけど、この曲は逃げ出す前のお話です。惹かれて仕方がないんだけど、知れば知るほど、この子のことが嫌い。でも、嫌になるほど目が離せないこの子の瞳に映りたいという葛藤の曲です。設定資料は同じもので。後半と前半で分けて書いた曲ですね。
──設定資料というのは、そういったノートみたいなものがあるのですか?
橋爪:いえ、その辺にある紙であれば何でもいいんです。一度、10cm × 10cmくらいのやつに書き始めて、書ききれなくて大変なことになったこともあります(笑)。
──それはお家で書くことが多いのですか?
橋爪:ほとんどお家です。メロディーは色んな場所で思い付きますけど、歌詞は「歌詞書くぞ!」って、お家で。
──歌詞を書く際は、どのくらい時間をかけて?
橋爪:パッと書ける時と、夜書いて朝仕上げる場合とマチマチです。でも、夜に書くと、本当に不幸なものばかり書いてしまうんですよね。
──しかし、なぜ、そんなに不幸なものを書こうとするんですかね?
橋爪:(笑)。その主人公に感情移入すると、その人の深いところに行ってしまって。
──あえてポジティブなものに挑戦しようとは思わないのですか?
橋爪:思います。タイトルだけでも最初に決めて。「気分上々」みたいな(笑)。でも、結局、なりたいけどなれなかった人の歌詞になっちゃって。最後は「笑って死にたい」みたいな(笑)。だから、もし私が明るい曲が出せたら、幸せになったんだなって思ってもらえれば(笑)。
──日高さんのアレンジはいかがでしたか?
橋爪:日高さんとは本当に付き合いが長いんですけど、久しぶりに「自己愛性障害」のアレンジを頼んだら「お前の曲、変わってねぇな」って(笑)。昔からこういう曲を書いているのを知ってらっしゃったので。まずはそういう喝(かつ)を頂いてから始まりました。
──具体的にはどのようなお願いをしたのですか?
橋爪:ニルヴァーナっぽくしてくださいと。なので、日高さんが得意としているパンクというジャンルで、ゴリゴリにアレンジして頂きました。「パンクロックなので、サビの歌も録り直しなんていらねぇよ」って感じでできた曲です。
──レコーディングにも日高さんが立ち会われていたんですね。
橋爪:はい。ギターも日高さんが弾かれています。
──ところで、橋爪さんは普段ボイストレーニングなどはされているのですか?
橋爪:講師がいてレッスンを受けるというのはないですね。基本的に喉の筋肉は、すぐに衰えたり付いたりすると思っていて。なので、毎日声は出すようにしています。
──橋爪さんの声はすごく魅力的だと思いますが、低音でハスキーなのは生まれつきですか? それとも意識して?
橋爪:声色が低音でハスキーなのは小さい時からです。なので、初めて声を出した時に自分自身がびっくりしちゃって、「やだ、こんな声」って思っていました。だから、シンガーソングライターを始めて、ファンの人に声が好きですって言われるまでは、ずっと嫌でしたね。やっぱり、ロリータを着ているし、可愛い声が出ればもっと可愛い曲ができたかもしれないですけど。
──でも、今はそれが最大の武器にも感じられますよ。
橋爪:ありがとうございます。他のシンガーソングライターの方でも、最初は自分の声が好きじゃなかったというインタビューを見たことがあるんですけど、やっぱり自分の中で理想のミュージシャンや声があるんだと思います。そうなりたいという。
──ちなみに橋爪さんが好きなボーカリストの声色というのは?
橋爪:Charaさんです。でも、無理でした(笑)。あと、THE YELLOW MONKEYの吉井和哉さんも無理でした(笑)。
──ギターの練習も毎日しているのですか?
橋爪:そうですね。ギターもできるだけ触るようにしています。今日みたいに1日外出している時は寝る前にちょっと弾くだけですけど、お家にいる時はずっと抱えています。
──お家で必ず弾く曲というのは? やはりご自身の曲を弾かれるのですか?
橋爪:今は特にアルバムの曲をライブで弾くので、ひたすら自分の曲を弾いていますね。12曲身体に入れるのは、なかなか大変です。
──橋爪さんと言えば、衣装に注目している人も多いと思いますが、「Innocent World」というブランドがお好きなんですか?
橋爪:はい。最初に「KERA」という雑誌で見て、雷に打たれたような衝撃を受けまして。その時は、自分の中のモヤモヤをロリータを着ることで解消しようと思っていたんです。一番好きだったブランドが、いわゆるクラシカルロリータといって落ち着いた感じの「Innocent World」さんでした。それから、自分でもクラシカルロリータを作るようになって。
──今回のアーティスト写真で着ている衣装も橋爪さんが?
橋爪:そうですね。花飾りはフラワーアレンジメントの方に協力して頂いたんですけど、衣装は自分で作っています。
──それはすごいですね。
橋爪:衣装代が浮きます(笑)。
──衣装はどのくらいの期間で作るのですか?
橋爪:自分の服であれば、サイズを測る必要がないので2日くらいで作れます。
──すごいですね。ちなみにアクセサリーは?
橋爪:これは「Innocent World」です。すごい昔に出したアクセサリーです。今回のドレスに付けると、ちょうど襟(えり)の終わりあたりにくるので、ぴったりだなと。
──多才ですね。
橋爪:学校に行くとみんな作れます(笑)。
──そろそろ時間となってしまいました。最後にあらためて今回のニューアルバムの聴きどころをお願いします。
橋爪:はい。今回のアルバムは、誰しもが経験あるような感覚を曲にして、12曲詰め込んだものになっています。押し殺した思いがあった人にとって、その感情が供養されたらいいなと思っています。あと、アルバムの最後に「今更」という曲が入っているんですけど、これはこのアルバムを手にしてくださった方へのラブソングのつもりで書いたものです。なので、アルバムの最後までじっくりと聴いてもらえたらうれしいです。
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