ボーカル岩瀬の独特の世界観はどのようにして楽曲という形になっていくのか!?

とけた電球『WONDER by WONDER』インタビュー(岩瀬賢明 Vo&G、境直哉 Key、よこやまこうだい Ba、髙城有輝 Dr)

とけた電球『WONDER by WONDER』インタビュー(岩瀬賢明 Vo&G、境直哉 Key、よこやまこうだい Ba、髙城有輝 Dr)

2020/03/04

1st EP「STAY REMEMBER」に収録の「覚えてないや」がYouTubeで100万回再生を突破し、バンドとしての知名度と実力をさらに不動のものにしつつある “とけた電球” 。今回、彼らが3月4日にリリースした2nd EP「WONDER by WONDER」について、バンドメンバー全員(岩瀬賢明 Vo&G、境直哉 Key、よこやまこうだい Ba、髙城有輝 Dr)に話を聞くことができた。ボーカル岩瀬の独特の世界観はどのようにして楽曲という形になっていくのか!? ファン必見のインタビューだ!

取材:東 徹夜(編集長)


──今回のEP5曲の中で、最初にできた曲は何だったのですか?

岩瀬:「恋の美学」が一番最初ですかね。すでにライブなどでもやっていますし、実は作った時点では今回のEPに入れる予定でもなくて。

──具体的にはいつ頃作られた曲なのですか?

岩瀬:2018年の末くらいだったと思います。

──この曲は作詞が岩瀬さん、作曲は岩瀬さんと境さんがクレジットされていますよね。境さんは歌詞を見たときの印象はどうでしたか?

:岩瀬らしいなと思いましたね。ウキウキするような恋の話ではあるんだけど、ちょっと毒っぽい感じが入っていたり。行儀悪いことも入ってますし(笑)。

──岩瀬さんとしては、どのような世界観を描こうと?

岩瀬:最初は片思いというか、気持ちを伝える前のことを書こうと思って作り始めたんですよ。で、歌詞にも書いたように、僕はバレなければちょっとくらい嘘をついてもいいんじゃないかって思っていて。もちろん、それは世間的にはダメだと思うんですけど、ただ好きという気持ちは本当なんだよって。そういったどうしようもない僕自身の人間観が反映されていると思います。

──他のメンバーの皆さんは歌詞を見てどのような感想を?

髙城:気持ち悪いっすよね(笑)。でも、なんかそこがいいとこなのかなと。くさいところもありますけど、そこが彼の歌詞で彼が歌う意味だと思います。

よこやま:たしかに使っている単語が岩瀬らしいよね。

──レコーディングで思い出に残っているようなことはありますか?

よこやま:意外とリズムの縦の揃え方が難しくて、そこはちょっと苦戦しましたね。

岩瀬:僕としてはレコーディングというよりもミックスの方が大変だったかな。この曲ではコールアンドレスポンスで僕らの声やクラップ(手拍子)を後から加えているんですけど、クラップの音が曲にうまく馴染まなくて。なんというか、クラップの音がパチンっと目の前で鳴っている感じだったんです。

よこやま:かなりドライな音だったよね。

岩瀬:なので、後からEQで丸めたりして、歌をより聴きやすく調整しました。

──手拍子を入れた意図というのは?

岩瀬:コールアンドレスポンスやクラップを入れたのは、この曲をライブでやったときにみんながどのように反応するかを考えてのことなんです。なので、とけた電球のライブに来たらこんな感じなんだろうなって想像しながら楽しんでもらえたらうれしいですね。

──そうだったんですね。では、EPの中で次にできた曲について教えてください。

岩瀬:次にできたのは4曲目の「焦がれる」です。「Logic」で作ったデモテープを監督さんに聴かせたら気に入ってくれて。そこからみんなでセッションしながら作っていった感じです。

──映画の主題歌ということですが、特に意識したことは?

岩瀬:恋が始まる瞬間とか、恋に気づく瞬間を描いていた映画だったので、曲としても恋の燃え上り方を表現できたらなと思って。それで、僕のソロに続いてバンドの音が入ってくるんですけど、その時点ではあまり盛り上げずに、最後の方に一気にどかーんと行くようにしています。こうすることで、恋の高ぶりをうまく表現できたんじゃないかと。

:岩瀬のデモを聴いた時点で「あ、こういう感じなのかな」というのは大体想像がついたし、「ラストのサビに向けてボルテージを上げるためにここはまだもう少し穏やかにしておこう」とか。そんな意見を出したのを覚えています。僕の場合はピアノやキーボードの音色がベースやボーカルと被ることも多いので、300Hz帯、900Hz帯をうまく避けた(カットした)音色選びや演奏を心がけたりもしましたね。

よこやま:僕はベースの存在感をどのように表現するかという点を試行錯誤しました。ただ、最終的には意外とハイファイな音色がマッチするなと思って。それでヘッドはアギュラー、キャビはアンペグの4発、ベースがフジゲンの「FUJIGEN Neo Classic」でプリアンプに「アギュラーOBP」を増設したものを使ってレコーディングしました。

──ドラムに関しては?

髙城:チューニング的な観点で言えば、ボーカルの独白っぽい感じを強調するために少しドライな太鼓っぽい鳴りにしたり、あとチップの小さなステックでシンバルが綺麗に鳴るように工夫しています。やはり映画のこともあったので、曲の展開はかなり意識しましたね。特に長めのフィルの作り込みは、今回のEPの中でも一番できたかなと思っています。

──先ほど、岩瀬さんは「Logic」でデモを作られたとのことでしたけど、皆さんも宅録環境をお持ちで?

よこやま:はい。僕と岩瀬は「Logic」を持っていて、インターフェイスはスタインバーグ「UR-22」を使っています。

:僕はDAWソフトはGarageBandで、インターフェイスはフォーカスライト「iTrack Solo」です。

岩瀬:ドラムの高城はiPhoneのアプリなんですけど、相当なクオリティのものを打ち込んでくれるんですよ。

髙城:(iPhoneでのドラム演奏を聴かせてくれる)

──アプリとは思えないクオリティですね。

岩瀬:結構、リアルなのを作ってくれるんですよ。

──では、その他のEP収録曲についても教えてください。

岩瀬:他の3曲は「焦がれる」以降にほぼ同時期にできたものになります。

──1曲目の「トライアングル」は、とけた電球には珍しい明るめの曲調ですよね。

岩瀬:はい。この曲は作詞は僕も入ってますけど、基本は境に任せて作ったものなんです。たしかに今までの僕らにない明るい感じの曲なんですけど、それはベースのこうだい(よこやま)が入ったというもの大きくて。まぁ、理由を聞かれても「気持ちの問題」としか答えられないんですけどね。4人が前向きになっていたというのはあります。

──歌詞を境さんに任せたというのはどうして?

岩瀬:僕自身明るい歌詞はあまり得意じゃないというのもあったし、単純にそれを書くのは境の方が得意だとわかっていたので。

──境さんは歌詞をどのように書いていったのですか?

:岩瀬のデモに「三角形に広がった」という部分があったので、そのモチーフをどんどん広げていった感じです。

──高城さんは歌詞を見たときはどのような印象でしたか?

髙城:岩瀬よりも抽象的なことを具現化するのは堺が得意だなと思いましたね。

──明るい曲調ということで、編曲ではどのような意見を出し合ったのですか?

岩瀬:実はフジファブリックの「STAR」をかなり意識していて。「STAR」は志村さんが亡くなって最初のEPに入っていた曲なんですけど、ドラムが同じように「ドンドコッ」鳴っているんですよ。僕らも新しくよこやまが加入して、そういった広がり感が欲しくて。サビで髙城にそんな感じで叩いてとオーダーしました。

髙城:僕は勝手にオリンピックとかワールドカップのようなものを意識していて、最初はちょっとマーチングっぽい感じを出していこうかなと思ったんです。でも、そのようにオーダーされたので、フレーズ作りは結構苦労しましたね。でもアルバムを通して自分の中では一番好きなフレーズが作れたし、結果的には自分の自信にもなったフレーズです。

──ちなみにドラムはどこのメーカーを?

髙城:今回のアルバムは「焦がれる」以外はすべてラディックですね。

──ドラム以外のギターなどのアレンジに関してはいかがですか?

岩瀬:ギターは「ジャジャッジャッ」というのを絶えず弾いているだけなんですけど、僕の印象としてはこれがあることでサビの暴れた感じを落ち着かせるというか。そういう要因になっていると思います。あと、声に出すとすごいダサい感じですけど、イントロではハーモニクスで「パー、パーン、パー」って(笑)。このフレーズは夜空に浮かんだ星空をイメージしていますね。

──岩瀬さんはギターは何を使われたのですか?

岩瀬:基本はトーカイ「Jazz Master」のピックアップが「P-90」のやつです。あとはビルローレンスのボディーもネックもメイプルのストラトキャスターか、自分で作ったテレマスター(Jazz Masterのボディーに、テレキャスターのネックとピックアップ)ですね。僕は長岡亮介(ペトロールズ)さんが大好きで、テレマスターはその影響からです。

──テレマスターは「トライアングル」のレコーディングにも?

岩瀬:どうだったかな。たぶんダビングしたギターとかで使ったと思います。僕の場合、ギターを何本も試しながら、違うと思ったらどんどん変えてレコーディングしていくので。でも、この3本は必ずどこかで使っています。

──ベースに関してはいかがですか?

よこやま:「トライアングル」でこだわったのは音色と奏法ですかね。ライン6の「Helix」で音色を作ったんですけど、要所要所に出てくるフレーズを除いてはすべてダウンピッキングでロック色を出して弾いています。そもそもとけた電球では、今まで歪んだベースのピック弾きはないんですよ。

──その要所要所で出てくるフレーズではどのように?

よこやま:そこでは、わざわざピックから指に持ち替えて、ちょっとフィルみたいなフレーズを丁寧に弾いていますね。

──ライブでも同じように演奏しているのですか?

よこやま:はい。ライブでもそういったところではピックを口にくわえたりして。この曲だと曲中に2回はやっています。

岩瀬:カッコつけやがって(笑)。

よこやま:いや、カッコつけてるわけじゃなくて(笑)。

──(笑)。キーボードに関してはいかがですか?

:もともと僕は70年代のキースエマーソンとかが好きで、その影響もあってモノラルでモーグの「Grandmother」を入れています。あと、ステレオでヤマハ「MODX」のFMっぽい音も入っていますね。

──間奏のシンセリードはキーボーディストの見せ場でもあると思うのですが、フレーズはどのように考えたのですか?

:まず考えたのはフレーズの終わり方ですね。具体的には「ミ、シー、ファー、ソ#ー」で終わるんですけど、そこから逆算するように音の波を作っていきました。で、そうすると一番最初に鳴らす音の選択肢が「ミ」「ソ#」「シ」あたりになるんですけど、僕自身「跳躍進行」よりも「順次進行」が好きなんですね。なので、こんな感じのフレーズになりました。

岩瀬:難しいこと考えてるんだね。

他メンバー:(笑)。

岩瀬:あと、実はキーボードのソロは2つの音を重ねているんだよね。

:そうだね。

岩瀬:同じフレーズなんですけど、2つの音色を重ねることでさらに分厚さが出ていると思います。

──わかりました。では「未来」という楽曲の制作エピソードについても教えてください。

岩瀬:この曲は、僕の今の現状を歌詞に込めています。ずばり “僕のことを知ってほしい” という内容なんですけど、なんか個人的に私生活で友人が少ないとか、そんなしょうもないことですごく悩んでいて(笑)。まぁ、いなくてもいいかなっていうあきらめもあるんですけどね。ただ、音楽だけは続けていれば希望があるんじゃないかなとも思っていて。なので、歌詞は暗いんですけど、楽曲は希望を持たせるようなアレンジを心がけています。

──希望を感じさせるというのは、具体的にはどういったアプローチを?

岩瀬:例えばギターソロの部分とか。暗いところから引っ張り上げるようにとか、そういうことをやっていますね。

──他のメンバーの皆さんはどういった感想を?

よこやま:この曲は同世代の人たちに響くんじゃないかと思いますね。岩瀬と同じような思いを抱えている人もいると思うし、すごく具体的に言えば、就職のタイミングの人とか。

髙城:僕はこの曲の歌詞が今回のEPでは一番好きで。というのもバンドを抜きに1人の人間として考えたら、誰しもが抱えている問題だと思うんですね。僕は岩瀬が「この曲が自分が一番歌いたいものだった」って話してくれたのが印象的で、後ろ向きなんだけど、楽しく生きていこうというマインドがうまく出てるなと思いましたね。

──レコーディングでの思い出話などはありますか?

よこやま:レコーディングというよりも、作る過程が大変だったですね。

岩瀬:もともと今のようなイントロもなくて。コードに関してもこっちのコードから始めた方がいいんじゃないかとか。で、そんな難航している間に、ようやくスタジオの合間にイントロを僕が思いついて、そこにドラムのフィルを入れたらもっとドラマチックになるんじゃないかとか話して。たしか、そうやって進んでいきました。

──さて、本日はEPに収録されている全5曲の制作秘話をお伺いしてきましたが、そろそろ時間がきましたので、最後にあらためて本作の聴きどころを1人ずつお願いできますか。

:はい。今回のEPはバラエティーに富んだ曲を集めることができたと思っています。音楽って、広がる曲、刺さる曲、何度も聴きたくなる曲とか、色々あると思うんですけど、この5曲は何かに該当すると思います。どの曲が何とはあえて言いませんけど、1曲だけではなくて全部の曲を聴いて楽しんでもらいたいです。

よこやま:僕は、今までのとけた電球とは違う面が見出せたと思っています。なので、そこを好きになってもらえたら嬉しいです。もちろん、今までのとけた電球も好きでいて欲しいんですけど、まだ色々とやれるんですよというところも見てもらえたらと思います。

髙城:そうですね。こうだいが正式にメンバーになってからの初EPということで、僕はベースとドラムの関係性という意味ではグルーヴも変わったと思うし、今までのとけた電球を知っている人にはその影響というか変化を感じてもらいたいですね。新しく曲を聴いてくれた人には、僕らがレコーディングでファニーなこともやっているので、そういった遊び心のあるバンドで、そういったマインドがあることを感じてもらえたら嬉しいです。

岩瀬:曲のことは今みんなが言ってくれたんですけど、この曲順にした意味も実はすごくありまして。僕は普段シャッフルで聴くタイプの人間なので、始めは正直曲順なんてどうでもいいかなと思っていたんですけど、最終的にみんなで話し合って決めたんです。僕も通しでこの5曲を聴くのがすごく気に入っているし、境も言ってましたけど、5曲の中の何かの曲を気に入ってくれたら嬉しいなと思います。


 
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とけた電球
『WONDER by WONDER』
2020年3月4日(水)発売


『WONDER by WONDER』
〈収録曲〉
1. トライアングル
2. 未来
3. DRAMA
4. 焦がれる (MOOSIC LAB 2019「 ビート・パー・MIZU」主題歌)
5. 恋の美学

価格:1,800 円 ( 税抜) / 発売元:HORIPRO / 販売元:PCI MUSIC


<とけた電球 PROFILE>
神奈川県出身。2012年5月、高校のマンドリンクラブで出会ったメンバーで結成。心に響く歌詞、即興的で中毒性の高いライブ演出が注目を浴びている。2018年にリリースした1stEP「STAY REMEMBER」のリード曲「覚えてないや」はオンエアやYouTubeにて話題になり、インディーズながらMUSIC VIDEOが100万回再生突破!!

 

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