作家活動15周年を記念した、大ヒットボーカルベストのVol.2が発売
澤野弘之『BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2』インタビュー(参加ボーカリストとの制作エピソードを公開)
澤野弘之『BEST OF VOCAL WORKS [nZk] 2』インタビュー(参加ボーカリストとの制作エピソードを公開)
2020/04/12
「プロメア」「機動戦士ガンダムNT」「進撃の巨人」といった数多くの劇伴音楽を手掛け、自身でもSawanoHiroyuki[nZk](サワノヒロユキヌジーク)名義でアーティスト活動を行なう作家・澤野弘之さん。今年作家活動15周年を迎え、ますます注目が集まる中、代表的なボーカルトラックを集めたベストアルバム『BEST OF VOCAL WORKS [nZk]』の第二弾がリリースされた。ここでは、収録曲に参加した全ボーカリストについて、澤野さんが感じた声の魅力などを交えつつ本ベストアルバムの聴きどころに迫ってみた。ファン必見のインタビューだ。
取材:東 徹夜(編集長)
──今回のベストアルバムは、収録内容や曲順などはどのように決められたのですか?
澤野:まずディスク1は劇伴音楽やプロデュース曲、ディスク2は僕のボーカルプロジェクト [nZk]のシングルベストになっています。で、ディスク1に関しては劇中歌の中でも特に主要曲だと思えるもので、同時に今までにやったライブや今後のライブでも重要になりそうなものを選んでいます。ディスク1の一番最初の曲に「Inferno」を置いたのは、ここ最近で自分の中で影響力が大きかったのが『プロメア』だったということがあるのですが、その他の曲順に関してはほぼ感覚です。「次はこの曲の方が楽しいかな」みたいな音の感覚ですね。
──その1曲目の「Inferno」では、mpiさんとBenjaminさんがボーカリストとして参加されていますが、澤野さんはmpiさんのことはどのようなボーカリストだと?
澤野:mpiさんは「器用」というとチープに聞こえちゃいますが、作詞家としてもそうですし、ボーカリストとしてもセンスがあるんですよね。1回こうして欲しいと言えば、次からは言わなくても実行してくれます。声も魅力的で、自分としては本当に望んでいる方が近くにいてくれて良かったなという感じです。
──そもそも澤野さんが求める男性ボーカルの声質というと?
澤野:なんだろう。男っぽい声ですかね。ここ数年のポップスのボーカルは、ちょっと甲高いというか、キーが高めで突き抜ける方が多いと思うんですけど、僕はハスキーだったり、サビに行ったときのガナッた感じとかが声質的に魅力に感じることが多くて。そういったものをmpiさんやBenjaminさんには感じます。ただ、Benjaminさんはもっと色んな歌い方ができて、オペラとまでは言わないですけど、ミュージカル風に歌うなんてこともできますし。彼にも作詞をお願いすることがあるのですが、その作詞のセンスにもすごく助けられています。
──一方で、澤野さんの手掛ける楽曲の女性ボーカルに関しては、Tielleさん、Gemieさん、Lacoさん、Elianaさん、mizukiさんは比較的コラボ回数が多いですよね。
澤野:まずTielleさんに関しては、自分のボーカルオーディションで出会ったときに、AメロとBメロを物語チックに歌うハスキーな声がいいなと思ったんですよね。あと彼女にはちょっとオリエンタルというか、民族的な雰囲気も感じて、そこも面白いと思ったし。で、Gemieさんは「カーン」と鋭い声というか、張り上げたときの尖った感じの印象が強くて。自分が好きな海外のボーカリストに近いというか。なので、そういう声が欲しいときに彼女にお願いすることが多いんです。
──Lacoさんに関しては?
澤野:LacoさんはR&Bやソウルな曲を歌いこなせるイメージなんですけど、僕の曲ではそういった感じもありつつ、さらにデジタルやロック的な曲においても幅広いアプローチができていると思います。しかも、それはうまくこなすという感じではなくて、彼女なりのパワーというか、エネルギッシュなところを必ず曲に入れてくれて。僕も毎回びっくりさせられています。
──Elianaさんは?
澤野:Elianaさんもどちらかと言えばR&Bの歌声だと思うのですが、彼女は声を張り上げたときにメジャーやマイナーというキーに関係なく、楽曲を明るい方向に持っていけると感じているんです。このテンションとグルーヴ感覚が素晴らしくて、いつも僕の曲の幅を広げてくれるなぁと感謝しています。
──mizukiさんは?
澤野:mizukiさんは[nZk]のボーカルプロジェクトを始めたときに、僕が書いた日本語の歌詞の歌い方が印象的で。静かなところを歌う際の繊細な声の出し方と、サビで広がる力強いところが幻想的に展開されるというか。それは彼女の持って生まれてきたものだと思うのですが、そういった部分を楽曲に加えられるのが最大の魅力ですね。
──ディスク1の2曲目「StarRingChild」や9曲目「ninelie」ではAimerさんが歌われていますが、Aimerさんについてはいかがですか?
澤野:Aimerさんは物語の主人公になるようなボーカリストだなと思っています。例えば、僕の書く歌詞は色々と場面が飛んだりするんですけど、彼女の声がうまく導いて繋いでくれるというか。もちろん、AメロやBメロの静かに物語を描写する歌い方もできるし、サビでの力強い歌声も惹かれますね。
──ディスク1の4曲目「Alive」では、Do As Infinityの伴 都美子も参加されていますが、伴さんの印象はどうでしたか?
澤野:伴さんはキャリアがある方ですし、僕もDo As Infinityを学生の頃に聴いていたんですが、やっぱりかっこいいボーカリストですよね。ライブでご一緒してパフォーマンスされているときも、バンドサウンドの中でご自身の声がどう聴こえれば良いかをよく考えて落とし込んでくれているなぁと感じています。実は最初にレコーディングをしたときはお互い構えていたというか、Do As Infinityのお二人も今までのやり方があったと思いますし、僕自身も彼らよりはキャリアは下ですけど、自分の音楽の制作のスタンスがあって。でも互いに「あっ、こういう風に進めていくんだ」ってことがわかってからは割とスムーズにできて、面白いことに発展するかもしれないという気持ちになりました。
──キャリアが長いと言えば、ディスク1の15曲目「Roll The Dice」やディスク2の14曲目「NOISEofRAIN」では西川貴教さんも参加されていますね。西川さんとのやり取りで何か印象に残っていることはありますか?
澤野:西川さんは、ネットではふざけて「声量オバケ」みたいに言われてますけど(笑)、実際に何曲かやってみて、もちろん声量もありますけど、ただパワフルなんじゃなくて、とても表現力がある方だなと感じました。たぶん、T.M.Revolutionのアッパーな曲などで求められる彼の声の出し方はみんなご存知だと思うんですけど、そうではない「ささやくように歌う」とか、そういったところの表現力を持っている方だなと。技術的にも素晴らしいものをお持ちの方だと思います。
──西川さんとはどのような話を?
澤野:普段、西川さんは歌を録るときはエンジニアの方と2人だけでレコーディングされるみたいなんですね。なので、録ったものを最終的に作家側が確認するという感じなんです。ただ、僕は最初の頃はそれを知らなくて。西川さんも「あれ、お前来るんかい!」みたいな(笑)。でも、西川さんも僕の曲に自分の声をどのようにアプローチさせればいいかをすごく考えてくれていたみたいで、それはありがたかったですね。
──澤野さん側からディレクションされることもあるのですか?
澤野:そうですね。[nZk]の楽曲では「Aメロ、Bメロはささやくような感じで歌って欲しいんですよね」ってお願いしたら、「じゃ、それでやってみようか」みたいなやり取りはありました。ただ、基本的には西川さんサイドで進めて録ってもらうことが多いですね。
──続いて、16曲目「Release My Soul」を歌われたAimee Blackschlegerさんについてお伺いします。彼女とはどのようなきっかけで?
澤野:もう10年くらい前になりますけど、彼女は僕の最初のオリジナルアルバムで、初めてお願いした外国人ボーカリストなんですよ。そのときの歌声は今でも鮮明に覚えていますし、やっぱり「声」が素晴らしいですね。彼女にはガナって歌ってもらうことは少ないんですけど、「色気」があるし。表現しにくいんですけど、バラードを歌うときの幻想的なアプローチは彼女ならではのものだと思います。
──では、続いてディスク2に参加されたボーカリストに関してお聞きします。5曲目「Binary Star」ではUruさん、10曲目「narrative」では LiSAさん、12曲目「Tranquility」ではAnlyさんが歌われていますけど、彼女たちとのレコーディングはいかがでしたか?
澤野:この3名に関しては、まだ1回しかコラボをしていないので、あまり勝手なことは言えないんですけど、LiSAさんについて言えば「エッジのある声」が魅力的ですし、パフォーマンスの部分も含めてうまく惹きつけることができる方なんだなと思っています。「壮大なバラードを、どのように挑んだらいいのか」レコーディングのときも熱心に考えてくださっているなと感じました。ありがたかったですね。
──Uruさんについてはいかがですか?
澤野:UruさんはAimerさんと同じように、最初に拝見した資料では声を張り上げて歌うようなものがなかったんですね。なので、実際はどうなるのかなと思っていたんです。でも、彼女のミステリアスな感じが結果的にはマッチして、「Binary Star」自体のサビは明るいメジャーキーで作っているんですけど、ただ明るい曲というのではなく、それこそ含みのあるUruさんでしか出せない世界観を持つ楽曲になったと思います。
──Anlyさんも「Tranquility」で初抜擢されたようですが、彼女に関しては?
澤野:Anlyさんとご一緒する前、僕はYouTubeで資料を拝見したんですが、彼女は海外のアーティストの楽曲をループペダルを使いながら弾き語っていて。まずはそれが魅力的だったんですよね。本当に外国人が持つようなグルーヴがあって、それを自分なりに落とし込んで表現されているシンガーソングライターの方なんだなと。今回は僕が書いた曲に参加していただきましたけど、やっぱり彼女の持っているリズム感が発揮されていたし、サビでパワフルに歌う部分でもAnlyさんにしか出せない気持ちが入っていたと思います。
──ディスク2には新曲の「BELONG」も収録されていますが、こちらはどのように生まれた曲なのでしょうか?
澤野:今回のベストの15周年に対するテーマ曲みたいなものを作ろうと思って用意した楽曲で、小説・コミック「Fate/strange Fake」のCMソングになっています。これからの活動を後押ししてくれるようなアップテンポなロックができて、「じゃ、誰に歌ってもらおうか?」と考えたときに、15周年のライブでシンガロングしながらお客さんを導いてくれるYoshさんの歌声とパフォーマンスが浮かんできたんです。それで、彼に作詞・ボーカルをお願いすることになりました。
──実際に楽曲を制作する際は、どのようなソフトを使っているのですか?
澤野:メインのソフトはLogicで、音源としてはNative InstrumentsやSpectrasonicsを使うことが多いですね。
──「BELONG」はどのようなパートから構築していったのですか?
澤野:この曲はどうだったかな。たしかLogicを立ち上げて、普通に頭からリズムを打ち込んでいったと思います。基本的にはどの曲も同じような感じですよ。
──例えば、ロックだとフィルの部分なども打ち込むのですか?
澤野:いえ、フィルに関してはほとんど打ち込まないですよ。フィルはレコーディングでドラマーに叩いてもらって、そのアプローチに対して「ちょっと、ここはこういう風にしてほしい」みたいに言う感じです。なので、デモの段階ではドラムのフィルの部分は空白です。
──ドラムに重ねるベースなどは?
澤野:ベースもソフトシンセで打ち込んでいきます。ただ、譜面に書いて渡す必要があるので、そこはわりと正確にやっていきます。
──ギターに関しては?
澤野:ギターも打ち込んじゃいます。もともとLogicについているサンプル音源で、ミュートとパワーコードが鳴るものがあるので、それを使っています。で、それをまた譜面に書いてギタリストの方に渡して弾いてもらう感じです。
──プレイヤーの方には、レコーディング前にデモ音源を渡しておいて、当日に譜面を渡すみたいな?
澤野:そうですね。なので、デモの音源をそのまま生に差し替える感じですね。
──ストリングスなどに関しても?
澤野:はい。僕の場合、オーケストラ系のサウンドでもソフト音源を混ぜて使うことが多いんですよ。なので、デモ段階でのストリングスもかなり重要になってきます。
──例えば1曲を作るのに、制作期間はどのくらいかけるものなのですか?
澤野:基本的に歌の曲を作るときは1日内ですかね。実際は3〜4時間だと思います。まず重要なサビの部分のオケを最初に打ち込んで、そこに歌のメロディーを考えていくこともありますし、頭から作っていくこともあります。頭から作る場合は、自分の中でイントロからAに行くときの感じを大切にしたいときで、昨日か一昨日に作っていた曲ではシンセのフレーズを先に作って、そこにどんなキックを置こうかとか考えて。そのままの流れで「じゃ、サビどうしよっか?」みたいに曲を作っていましたね。
──男性、女性、どちらのボーカルにするかを決めてから曲作りを行なうのですか?
澤野:いえ、特に決めているわけではありません。実は僕の作る曲はデモ段階だとキーが上がり気味になってしまうことが多いんですよね。たぶん、その方がデモがよく聴こえるからだと思うんですけど。ただ、はじめ女性キーになっていた曲を男性キーに落として使うこともありますし、そもそもキーを気にして曲を作ると本来作りたかったメロディーが作れなくなっちゃいますし。なので、そのあたりは気にせずにやっています。
──ところで、今回のベストの初回生産盤には、昨年12月の「Billboard Live」の模様を収めたBlu-rayも含まれているということですが。
澤野:はい。僕の普段のライブと違って、このBillboardのライブはシーケンスも使わずに生だけでやろうというコンセプトだったんです。なので、クリックも聴いていないですし、曲のテンポもアレンジも即興で変えたりしています。原曲と違ってシンプルな分、ギターがどういうフレーズを弾いているかとか、ピアノがどんなことをやっているのかとか、自分たちも楽しくできたので、そういう部分を楽しんでもらえたらと思いますね。
──では、最後にあらためてファンの方に一言メッセージをいただけますか?
澤野:そうですね。基本的に今回のアルバムは、ディスク1と2のどちらもアニメなどで使われている曲を入れているので、例えば「プロメア」が好きで入ってきてくれた人が、「あっ、こういう別のアニメや曲があるのか」と気づいてくれるきっかけになってくれたらうれしいですね。もちろん、それを機に僕のボーカルプロジェクトSawanoHiroyuki[nZk]などにも興味を持ってもらえるとさらにうれしいですし。あと、回数は多くはないですけど、年間を通じて何度かライブもやっていますので、そこでも楽曲を共有できたらいいなと思っています。6月にはライブも予定されていますので、そちらも楽しみにしていてください。
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2020年4月12日〜2020年4月26日23:59まで
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