1年振りとなる自身の新曲リリース!
Yaffle「Lost, Never Gone feat. Linnéa Lundgren」インタビュー(ストックホルムでのレコーディング&制作エピソードを公開)
Yaffle「Lost, Never Gone feat. Linnéa Lundgren」インタビュー(ストックホルムでのレコーディング&制作エピソードを公開)
2020/06/12
小袋成彬氏と共にTokyo Recordingsを設立したメンバーの一人で、藤井 風、iri、柴咲コウ、adieuなどのプロデュースを始め、映画『響』、『ナラタージュ』といった音楽でも才能を発揮するソングライター/プロデューサーの小島裕規さん。そんな彼のアーティスト・プロジェクト名義「Yaffle」の新曲「Lost, Never Gone feat. Linnéa Lundgren」が、5/22(金)にリリースされた。今作は以前から親交のあったというスウェーデン女性シンガー・ソングライター Linnéa Lundgren(リニア・ラングレン)をフィーチャーした、語り掛けるような歌声とエモーショナルなドロップが融合するナンバーだ。ここでは、楽曲の制作エピソードを中心に、小島さんの人柄に迫ってみよう。
取材:東 徹夜(編集長)
──資料によると、この楽曲はもともとリニア・ラングレンさんが弾いたピアノの演奏が元になっているようですね。その辺りのお話しから聞かせていただけますか?
Yaffle:僕はヨーロッパとか寒い方の国が好きで、結構よく行くんですが、2年くらい前にストックホルムに行ったときに、以前にもご一緒したことがあるという縁で彼女のところにも寄らせてもらったんです。そしたら彼女の叔父さんの家で「曲のアイディアがある」と言ってピアノを弾いてくれて。
──その曲には歌詞も付いていたのですか?
Yaffle:はい。でも、ヴァースがあって、最初のサビまででしたね。なので、彼女がサビまで弾いて「はい、ここまで!」みたいな(笑)。
──小島(Yaffle)さんの第一印象は?
Yaffle:なんか上手く言えませんが、「いなたい」というか「オーセンティック」でした。でも、すごく良くて。ただ、彼女はそれをデータにして僕に送ってくるようなタイプでもなかったので、僕が自分のパソコンにMIDIとオーディオを記録して日本に持って帰ってきたんです。
──その場でプロデュースしたくなった感じですか?
Yaffle:いえ、最初はそのつもりはなかったんですけど、良くなるようにと色々といじっているうちに「自分でもやりたいな」って思うようになって。で、途中でドロップを入れたり、ガクッと違う感じにしていきました。
──曲作りは具体的にはどのように行っていかれたのですか?
Yaffle:まず、エイブルトン「Live」にピアノのMIDIデータを入れて、コードチャートを全部書いて。それからピアノの部分を全部自分で弾き直して。で、ビートをどんどん入れていった感じですね。
──メインで使われているDAWソフトは「Live」なんですね。
Yaffle:はい。でも、僕はだいたい全部持っているんですよ。FL、Cubase、Logic、Live、ProTools、BitWig。持っていないのはデジパフォ(DP)くらいですね。曲作りはエイブルトンですけど、最終的なエンジニアさんとのやり取りはProToolsを使うことも多いです。
──今回の楽曲では、出だしのベースもインパクトがあってカッコいいサウンドだと思いましたが、ソフト音源は何を使ったのですか?
Yaffle:あれは、Output「Substance」ですね。プリセットの1、2くらいにあるブラスの音が好きで、前の作品とかでもよく使っていて。でも、この音は40Hzくらいの持続音が足りないので、そこに808系というか、サイン波系の音も「SERUM」あたりで足して使っています。
──キックなどのリズムトラックは?
Yaffle:何だったかな。たしか、「MASCHINE」か「MASCHINE EXPANSIONS」のWAVだったような気がします。リズムトラックには最近フリーの素材をばらまいている「Cymatics」のサンプルを使うこともありますね。
──ピアノに関しては生ですか?
Yaffle:いえ、この曲のピアノはKONTAKT用の音源で、スピットファイヤーオーディオの「OLAFUR ARNALDS COMPOSER TOOLKIT」です。たぶん、Olafur Arnaldsさんのピアノだと思うんですけど、アップライトよりも上がなくて、背の低いピアノにフェルトをかましたような、そんな音がするんですね。虚無系というか、全然抜けないピアノなんですけど、だんちで音がいいんです。みんなの話題にはなってはいないですけど、めっちゃいいと思ってます。
──ピアノには何か空間系のエフェクトもかけているのですか?
Yaffle:ミックスエンジニアの小森さんが何をしているかわかりませんが、「OLAFUR ARNALDS COMPOSER TOOLKIT」のピアノにはもともと部屋っぽい響きは含んでいます。なので、あまりかけていませんね。僕はもともと遠くに感じる音は好きではなくて。なので、FXっぽくリバーブを使うとき以外は、あまりかけない方だと思います。
──先ほど、最初にピアノを入れてコードチャートを書くという話が出ましたけど、コードをガイドに曲を作っていく感じですか?
Yaffle:いえ、必ずしもそうではないですね。ただ、最初はコードがある状態にしておいて、最後に全部そのコードパートを消すことが多いかな。だいたい消したときに「あっ!カッコ良くなった」と思うことが多いです。やっぱ、コードがあると基本ダサいんですよ(笑)。
──曲作りの行程で、何度もラングレンさんとはやり取りをしたのですか?
Yaffle:そうですね。実は2年前にピアノを聴いた後にも、2回くらいストックホルムに行っています。1回目に行ったときはブリッジの部分を足して。で、ビートなどを組み直して2回目に行ったときにも色々と追加して。特に2回目に行ったときは、彼女が「クワイアのコンテストに出て楽しかった」という話で盛り上がって。僕もキリスト教系の学校だったので、そういう要素も取り入れたくなったんですよ。それで、そういうバッキングボーカルをまた録ったりしました。
──そもそも「Lost, Never Gone」という曲のタイトルにはどんな思いが込められているのですか?
Yaffle:あまり説明的な言葉ではないと思うのですが、僕としては「何か失っても、なくならないもの」というか、現実世界に置き換えてみると、例えば「別れ」とか。ただ、「別れ」て失ったからといっても、それがまったく無かったことにはならないと思うんですね。その人が大なり小なり影響を及ぼすわけじゃないですか。僕はそのように理解しています。
──ラングレンさんも同じように?
Yaffle:どうですかね。2回目に会ったときに、僕はこう思うという話を彼女にはしたんですけど。僕の個人的な印象だと、彼女は感覚的に作詞しているようなタイプだと思うし、作詞するのも早いし、無意識下の中でポロっと出てきたのかもしれませんね。
──今回の楽曲の歌は、ストックホルムで録ったものを本チャンでも使われているんですよね。
Yaffle:はい。
──彼女のプライベートスタジオで録ったものを?
Yaffle:そうですね。後でエンジニアさんに怒られないように、毛布みたいのを周りに置いて(笑)。
──ボーカル録りで何か思い出に残っていることはありますか?
Yaffle:こんなに大きな音を出しても、怒られないんだなって思いましたね(笑)。
──そんなに大きな音だったんですか。
Yaffle:結構出してましたね。日本的な感覚だと怒られそうなくらい。
──やはり海外でレコーディングすると違いますか?
Yaffle:やっぱりストックホルムで録っているからだと思うんですけど、声を重ねていくと「フィヨルドの大地」じゃないですけど、そういった大きな場を感じることはありましたね。そこはテクニックとかの問題ではなくて、通底する文脈を持っている人と一緒にやるとそうなっちゃうというか、コラボレーションの醍醐味だと思います。
──レコーディングの後には、プライベートでご飯を食べに行ったりも?
Yaffle:何回かありましたよ。妹さんがキアヌサラダを作ってくれたり。あと、ピザ買って食べたりもしましたね。ただ、10月でしたけど、気温が2度とかなのでめっちゃ寒いんですよ。だから、あまり外に出るとかいう感じではなかってです。6月とかだったら気候も最高なんでしょうけど。
──ストックホルムでのレコーディング後、日本でのミックス作業はどのように?
Yaffle:基本的には、小森さん(エンジニア)に任せるところはお願いして。自分でやれるところは自分でやってという感じです。
──日頃、ミックスする際に意識しているポイントはどこですか?
Yaffle:ロー感というかレンジ感ですね。最近はベッドルームプロデューサーが多くなって、「今っぽさ」というのは残響が少ない傾向にあると思っていて。そういう点は意識しています。あと、何というか、曲にも「本質」ではなくて「演出」は必要だと思っていて。この曲の場合だと、変な意味ではなくて「神の存在を感じるような」。もちろん、カルト教という意味ではないですよ(笑)。実際に神様がいるかではなくて、神様がいそうと思わせることで救われる人もいると思うし。まさに教会とかはそうだと思うんですけど。ただ、教会だからといってミックスでリバーブを多くかけるとダサくなってしまうので、そこはバランスが大事ですけど。
──Yaffleさんとしては、歌とオケのどちらを聴かせようと思ってミックスされているのでしょうか?
Yaffle:歌ですかね。歌好きなんで。ドロップを作ったのは、歌がないところで自分がしゃべる場所が作りたかったというだけなんです。なので、歌とオケが同時に鳴るんだったら歌を取りますかね。そこが一番映えるようなミックスを考えます。
──エンジニアの小森さんには、どのような作業をお願いしているのですか?
Yaffle:アレンジではないミキシング以降の部分です。頼んだ方が100億倍素晴らしいものが出来上がるし、ボーカルの出方に合わせてボリュームをオートメーションさせるとか、さすがに自分でやるのは難しいですから。
──まさにプロの領域ですね。
Yaffle:はい。あと、そもそも根本的に僕は一人で音楽を作ったことがないし、それは苦手なんですよ。高校のときはバンドをやってましたし、吹奏楽部にもいましたし。なので、エンジニアさんに送って、それが返ってきて「おぉ〜!」ってなる方が精神衛生上的にもいいんですよ。やっぱり一人でやると驚きはないじゃないですか。
──そうなんですね。わかりました。では、あらためて小島さんとして、今作の聴きどころを一言お願いできますか。
Yaffle:うーん。何だろう。まずは何も考えずにフラットに聴いてもらえたらということですかね。最近コロナの問題があって、あらためて思うのは「有事があるとやっぱり音楽は役に立たないな」ということなんです。でも、僕はそれが明るみになるのはうれしくて。
──というと?
Yaffle:昔から音楽は役に立たないからいいと思っていて。「音楽の力で何かをする!」みたいなノリはあまり好きじゃないんです。何ていうんですかね、社会的な背景とか、音楽の持つ役割はナンセンスだと思っていて。音楽は健全であるためのものではないし、単なるアートであって、何かの目的ではないというか。だから、ただただ聴いてもらって、それで心を震わせてもらえるとうれしいですね。
──なるほど。では、今後、コラボしたい人ややってみたい音楽ジャンルなどは何かありますか?
Yaffle:ずっとアジア圏には興味があるんですよね。距離的に近いのに、いまだに文化的に交わらない部分もあると思うんですけど、若者が多くて音楽的にとても活気付いていますよね。あと、最近ラッパーともコラボして調性(キー)から解放された感じがすごく楽しかったんです。ラップって、コードとかキーとか関係ないじゃないですか。ビートメーカーとしては、すごく自由にできるし、そもそもポップな感じはラップが担保してくれますし。いずれ出す新しいアルバムでも、この手のトラックは入れたいなと思っています。
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