最新アルバム『別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜』の制作秘話も公開
加藤ひさし(THE COLLECTORS)、VOXヘッドホン型アンプ「VGH-AC30」「VGH-ROCK」「VGH-BASS」をレビュー!
加藤ひさし(THE COLLECTORS)、VOXヘッドホン型アンプ「VGH-AC30」「VGH-ROCK」「VGH-BASS」をレビュー!
2021/01/15
VOXからギターやベースを直接つないで使用できるという革新的なヘッドホン型アンプ「VGH-AC30」、「VGH-ROCK」、「VGH-BASS」がリリースされた。ここでは、THE COLLECTORSの加藤ひさしさんに協力して頂き、これら3モデルの製品の印象や使い勝手について話を聞いてみた。自他共に認めるVOX愛用ミュージシャンだけに、はたして加藤さんからはどんなコメントが飛び出すのか!? ギタリスト、ベーシスト必見のインタビューだ。
取材:東 徹夜(編集長) 写真:小貝和夫
──そもそも、加藤さんはヘッドホン型アンプというものがあるのはご存知でしたか?
加藤:いや、知らなかったですね。
──今回、試奏されていかがでしたか?
加藤:僕は曲を書く時、ほぼ100%ギターを使っているんですけど、やっぱりロックンロールの場合、エレキギターで曲を作っていかないとムードが出ないわけです。そんな時に、このVOXのヘッドホンにはすでにアンプが収納されているわけですよね。アンプの準備を考えると、とにかく手間が3つぐらい省けたような気がするし、ギターをヘッドホンに挿したらすぐに使えるというのはかなり画期的だなと思いました。
──そもそも、加藤さんご自身はVOXに対してどのような印象を?
加藤:ロックンロールの中にはいくつか憧れのギアがあると思うんですが、まさにそれですよね。ビートルズを最初に知ってロックに目覚めた僕としては、リッケンバッカーとVOXは憧れのギアなんですよ。自分は1960年生まれで、1974年くらいからロックを好きになって76年頃にバンドを始めたんですけど、その当時はVOXなんて地元では売ってなかった。だから、ビートルズやザ・フー、クイーンとかの写真集を見てうっとりなんかしてね。なので、VOXと聞くと今でも興奮するし、震えますね。実際、THE COLLECTORSでデビューした後も、80年代の半ばくらいまではVOXのアンプはなかなか手に入らなかったんですよ。でも、うちのギターの古市コータローが80年代の後半に手に入れたんですよ。その頃、ザ・ジャムというロンドンのモッズバンドが大好きだったんですけど、開口一番「ジャムと同じ音じゃん!」って言ったのを今でも覚えていますね(笑)。
──型番はその頃もAC-30だったのですか?
加藤:AC-30でしたね。ただ、AC-30といっても、時代とともに回路が変わっていたりするじゃないですか。でも、その鳴りはVOX特有のジャキーンとしたものに間違いなかったですよ。その時、コータローはリッケンバッカーを弾いていたので、その組合せを横で聴いていた俺も燃えましたね。
──その「AC-30」をフィーチャーしたヘッドホン「VGH-AC30」のサウンドはいかがでしたか?
加藤:ある意味、予想通りの音でしたね。僕だったらザ・フーやザ・ジャムのような曲を作りたい時に装着すれば、そんな気分になれそうな気がしました。でも、それで十分だし、それ以外にもっとロックでヘヴィーな曲を作りたければ、別のモデルのヘッドホン「VGH-ROCK」があるわけでしょ。「VGH-ROCK」は「VGH-AC30」よりはもっとラウドでしたね。もちろん、「VGH-AC30」もゲインとボリュームのコントロールによって色々と調整はできるんですけど、「VGH-ROCK」の方は初めからいい感じに歪んでくれていて。ジミ・ヘンドリックス気分だったらこっちだろうなみたいな。まぁ、俺は彼みたいには弾けないけどね(笑)。
──「VGH-ROCK」のヘッドホンさえあれば、夜中でも爆音でプレイできますよね。
加藤:そうだよね。それこそ、個人的な練習もそうだし、ストラップをかけて演奏すれば、部屋でもライブのリハーサルにもなるだろうし。鏡に写して、ちょっとしたアクションを確認するとか。いずれにしても音があった方がいいに決まっているからね。
──さて、本日の取材には、VOXの代理店であるコルグさんにVOXのギターの新製品「VOX BOBCAT S66 with Bigsby」もお持ち頂きましたが、こちらはどうでしたか?
加藤:すごく弾きやすいですね。僕はライブでもVOXのギターを使っているんですけど、それはたしかP90タイプのピックアップなんですよ。でも、この「VOX BOBCAT S66 with Bigsby」は3ピックアップ仕様で、スイッチをセンターにするとフロントとリアの音が出るんですね。通常はセンター・ピックアップだけですよね。ところが常にセンターの音が出ているんで、センター・ピックアップの音量はセンターボリュームノブで足すことになるんですね。この機構はかなりユニークですよね。昔、70年代の終わりにグレコのブギーという3ピックアップのギターがあったんですけど、あれはリア寄りにシングルが2つ付いていて、同じようにボリュームをフルテンにしてリア・ピックアップの設定にすると、リアがシングルを2つ足したハムバッカー風になるみたいな、そんなユニークな機構だったんですよ。そういう変わり者に僕はめちゃ弱いんですよ(笑)。車とかバイクもカタログのスペックでやられちゃうんです。ギタリストだったら、こういったピックアップの機構はうれしいんじゃないかな。
──今回、撮影にご要望されたギターのカラーは「黒またはワイン」ということでしたが、加藤さんはサンバーストはお嫌いなのですか?
加藤:昔から大っ嫌いなんだよね(笑)。
──というのは?
加藤:Jazz Bassのサンバーストのせいだね。俺はもともとベーシストだったんですよ。で、70年代の半ばって、Jazz Bassのサンバーストがものすごい流行って、みんなそれを使っていたんですよ。それが理由です。だから、サンバーストには罪はないです。
──そうだったんですね。では、ベース用のヘッドホンVOX「VGH-BASS」を試奏した印象もお聞かせください。
加藤:個人的には、これはかなり興味深かったですね。というのも、普段ベースアンプにヘッドホンを挿して演奏しても、本当に音がしょぼいことが多いんですよ。楽しくないというか。でも、この「VGH-BASS」を使って弾くと、低域の輪郭もしっかり出てるし、レコーディングの時に近い音でモニターできるというか。しかも、コンプレッサーもかけられるので、これを使うとよりプロっぽい感じになりますよね。ベースラインもくっきり聞こえますね。自分が上手くなった気分になれるのがすごくいいなと思いました。ベーシストだったら一晩中楽しめるんじゃないかな。
──長時間していると疲れるヘッドホンもありますけど、装着感に関してはどうですか?
加藤:ホールド感もいい具合ですよ。見かけがごついから、もうちょっと重くて締めつけがキツいかなと思ったらそんなことなかったし。あと、何よりうれしかったのはコードが右耳から出ることですね。もし左耳からコードが出てたらケーブルが胸の上を横切ってクロスしてギターに接続するので少し邪魔になってしまう。それと、右のヘッドホン側にコントロール類がまとまって操作できるのもいいですね。位置さえ覚えれば音作りも素早く行えるだろうし。ただ、褒めちぎっていると嘘臭く聞こえるので、あえて一言いわせてもらえるなら、変換のL字プラグもあると助かりますね。フェンダー系のギターであれば接続は問題ないと思いますが、ギブソン系のギターをソファーに座って弾く時にジャックが底面にあるので、ぶつかってしまうんですよね。変換のL字プラグがあるとすげぇいいなと思います。でも、いずれにしても今回のVOXのヘッドホンは、すごくよく考えられて作られてるなと思いましたね。
──さて、THE COLLECTORSは、昨年末に新アルバム「別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜」をリリースされたばかりですよね。その制作エピソードについても教えてください。
加藤:はい。もともと、このアルバム自体は僕の還暦記念を想定していたので、昨年の9月にリリースする予定だったんです。ただ、コロナの問題が出てきて、内容から何から何まですべて変更となって。しかも、緊急事態宣言が出たりして、リハーサルスタジオもおさえられないし。手探りな状態でやっていきました。
──1曲目の「お願いマーシー」では、ブルーハーツの真島さんとのコラボ曲も収録されていますが、どのような経緯で参加することが決まったのですか?
加藤:まず、3月以降に自分たちのライブが全部中止になって、もう自分の還暦祝いとかじゃなくて、2020年というあまりにも特殊な年にできたことを歌おうと決めたんです。で、ライブもできないし、せめて自分のロックヒーローに「コロナが終わるまでずっとギターを弾いててくれよ」とか、「俺のために歌っててくれよ」とか、そんな歌がいいんじゃないかなと思って。それで、ふと自分たちと同期のブルーハーツを思い出して。彼らとはアマチュア時代から一緒にライブもやっていたし、ある意味で僕の一番身近にいるヒーローなんですよ。それでマーシーに電話したら「いいよ」ってことになって。そうやって進んでいった曲です。
──作詞はどのようにされたのですか?
加藤:単純に今起こっている現実を歌っただけですよ。「踊りたいのにどこにも行けない」「騒ぎたいのにロックが足りない」「今日もイヤホンを耳に突っ込んで、大音量で好きなロックバンドの曲を聴いてる」「マーシー、もう今がいつだかわかんないぐらいギターをずっと弾いててくれよ」っていう感じで。
──真島さんには事前にデモテープのようなものを渡すのですか?
加藤:そうですね。ラフの段階でマーシーに確認してもらって。OKをいただいて、本ちゃんを録っていく感じでした。
──本ちゃんのレコーディングはいつ頃?
加藤:昨年の6月くらいだったかな。でも、スタジオにも人を集めちゃまずいだろうということで、リズムを2回に分けて。しかもその2日で10曲分を録って。あとはもう最低限の人数で終わらせました。なので、歌のレコーディングの時は俺しかいないみたいなそういう録り方でしたね。
──そもそも加藤さんの曲作りは作詞から着手するパターンが多いのですか?
加藤:いや、曲からですね。歌おうと思っているテーマはあったりするんですけど、そこにビタっと歌詞がハマっていくわけではないので、最終的に曲ができた時に、そこにパズルのように歌詞をつけていく感じです。
──曲作りはリフから作るのですか、それともコード進行?
加藤:歌のメロディーが降ってきて、それをコードで探っていくという作業が近いですかね。
──だいたい1曲をどれくらいの期間で作っていくのですか?
加藤:それはもう曲によってまちまちですね。何年も前からフレーズだけあって、前のアルバムでも完成しなかったというものもあるし。ただ、今回のアルバムで言えば、2曲目の「全部やれ!」みたいなロックンロールの曲はめちゃ早くできました。
──今回のアルバムは全部で10曲が収録されていますが、アルバムを通して伝えたかったことをあらためて教えてもらえますか。
加藤:自分は60年生きてきましたけど、こんなに世界中が大騒ぎする年は初めてでした。でも、決して悪いことばかりではなくて、この年を歌うことで、そういう今までの既成概念から外れたことも間違ってはいないんだということが表現したかったんです。だから、アルバムのタイトルも「別世界旅行〜A Trip in Any Other World〜」だし、「Any Other World」なので、1つの世界しかないわけではないんですよね。アルバムでは、そういった思いを込めた曲をちりばめて、最後に「チェンジ」という曲でしめたんですけど、実はこの「チェンジ」に一番意味があって。というのも、昔から「人間は進化しないといけない」「最後は前向きに倒れろ」という教育で育ったんですよ。それが人の道の正論みたいな。逆に言えば、「後ろに下がったら負け」みたいな。経済成長だってそうですよね。成長しないとダメみたいな。でも俺はね、このアルバムで言いたかったのはそういうことじゃないんです。立ち止まったりするのも当たり前にあるし、もしかしたら回り道や遠回りをしないと行けない時は、それをしなきゃいけない。それがわかった年だったと思うんです。その考えは、こういう状況下にならなければ自分も思わなかったと思うけど、まぁ、具体的に言えば「リニアモーターカーだってもう要らない」ってことですよ。ゆっくり旅をすることもいいことだし。なんでもかんでも進化するという考え方が当たり前じゃないんだということ。そんなことを伝えたかったのが、このアルバムです。
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