プライベート・スタジオで制作された約2年ぶりの3rdアルバム
T字路s『BRAND NEW CARAVAN』インタビュー(作詞、作曲、レコーディングの秘話を公開)
T字路s『BRAND NEW CARAVAN』インタビュー(作詞、作曲、レコーディングの秘話を公開)
2020/10/22
取材:東 哲哉(編集長)
伊東:今回の作品から新しいレーベルでリリースすることになって、10年間やってきた私たちチームにとっての再出発でもあったんです。なので、「もう一回新しい気持ちで、前に向かって旅に出よう」と。そういう思いが込められています。
──資料によると、約3ヶ月半プライベートスタジオにこもって制作されたようですが、それはコロナの影響で外のスタジオが使えなかったというのが理由ですか?
篠田:基本的にはそうですね。ただ、もともと10年前にProToolsで僕らが曲を作り始めたときは宅録だったんです。なので、今回の節目に出すアルバムはその当時のようにするか、それとも前作までのようにスタジオで一発録りにするかは結構悩んでいて。でも、そんな時期にちょうどコロナの問題が起こってしまって、もうこれは外のスタジオは使えないだろうなと。で、もともと候補だったプライベートスタジオでの制作にシフトした感じですね。
──プライベートスタジオというのは、篠田さんの?
篠田:はい。
──そのプライベートスタジオでは、どのような流れで曲作りが行なわれるのですか?
伊東:まず私が歌とギターだけの簡単なデモを作って、それを事前に篠田さんにデータで渡します。で、それを篠田さんにアレンジしてもらう感じです。
──伊東さんはデモ作りでどんなツールをお使いなのですか?
伊東:私が使っているのは「GarageBand」です。
──インターフェイスは?
伊東:何あれ?
篠田:あれはフォーカスライトの「Scarlett」ですね。
伊東:私はその程度の知識です(笑)
篠田:僕が使ってたやつなんですよ。
──そうだったんですね。では、今回のアルバム12曲のうち、初期の段階で制作されたものについて教えていただけますか。
篠田:「JAGAIMO」と「とけない魔法」は去年の暮れにはできていたので、この2曲を外すと1曲目の「夜明けの唄」ですかね。
──「夜明けの唄」は今作のリード曲でもありますけど、核となる曲を狙って作り始めたのですか?
篠田:いえ、作っている段階ではリードになるかは全然考えてなくて。でも、最初に作ったこの曲は歌詞もアレンジも同時にできたんですよね。
伊東:実際は「ラ、ラ、ラ〜」みたいなメロディーが20曲分くらいあって。私がそのメロディーに歌詞を付けるのが早いか、それともアレンジができるのが早いかみたいな状態だったんです。でも、この曲に関してはすんなり両方ともできた感じでしたね。
──「夜明けの唄」はコロナのことを意識して書かれたのですか?
伊東:いえ、作詞に関しては特にコロナのことは意識していなくて。ただ、この状況の中で、自分の日頃の気持ちがより浮かび上がってきた感覚はあります。
──歌詞は頭の方から書かれたのですか?
伊東:はい。
──他の曲でも歌詞は頭の方からを書くことが多いのですか?
伊東:そうとも限らないです。ただ意識の中では、サビから作ろうとすることが多いですかね。この「夜明けの唄」は頭の方からスルスルと出てきた曲で、意外かもしれませんが「ラ、ラ、ラ〜」のメロディーに対して「シルエット」「転がった」の韻を踏みたくて。なので、「シルエット」からできていきましたね。3文字目で小さい「ッ」が付く言葉をいっぱい探して。
篠田:ラッパーみたいね(笑)
伊東:そうだよ。「影帽子」と「うつろに」も韻を踏んでるからね。意外とこういう言葉遊びが好きなんです。
──篠田さんは「夜明けの唄」のメロディーや歌詞を聴いたときの第一印象はどうだったのですか?
篠田:最初「ラ、ラ、ラ〜」で来たときは、あくまでも今回の作品の中の1候補という感じでした。でも、歌詞が乗っかって、同時にアレンジも進めていったらピッタリとハマって、結果的に「なんか、いいのできちゃったんじゃね!」って。だから、第一印象というよりも、曲を作っていくうちにより気に入っていった感じですね。
──伊東さんは、この「夜明けの唄」で特に気に入っているところを挙げるとすると?
伊東:歌詞と自分の歌い方をセットで考えるようにしているんですけど、そういう意味では「わからないの」とか、「離れないの」のブレイクの部分ですかね。あと、「嘘か本当か 夢かうつつか」みたいに、対比になっている表現も好きで、これって「何でも表裏一体なんじゃないか」という自分の中のテーマでもあるんですよ。その他にも色々と気に入っていることろがあるし、私はこの曲の歌詞全部好きみたいですね(笑)
──ファンの方には、この曲をどのように聴いてもらいたいですか?
篠田:そうですね。「夜明けの唄」は今回のアルバムの中では1番、T字路s節が入ったというか、力強い曲になったと思います。なので、この楽曲で少しでも前に踏み出す勇気を持ってもらえたらうれしいですね。技巧的にはそんなにないですけど、あえて挙げるとすると前半のAメロでは単純な3コードだったのを、A1だけ循環を入れたりしています。その辺りですかね。
伊東:ギター、ベースの2人組だと、どうしても12曲あったらアレンジを変えるのが大変なんですけど、実はこの曲には2人組でできるアレンジが結構詰め込んで入っていて。アルペジオで始まって、途中でベースが入ってきて、リズム出す、カッティングに変って、サビで歪みのペダルを踏んで「ワァーってやる」みたいな。
篠田:そうだね。最初のブレイクと後のブレイクの間を変えるとかね。飽きさせないように色々と詰め込んでますね(笑)
──なるほど。では、次に「夜明けの唄」の後にできた曲について教えてください。
伊東:次は「涙のナポリタン」だったかな。
──この曲の歌詞は実話なんですか?
伊東:実話じゃないです。マスターに恋のゆくえは聞かないですよ(笑)
──あまりにも具体的に絵が浮かんだもので。
伊東:そうですか。それは私の作詞力ですね(笑)
篠田:みんな、ミュージックビデオの絵が浮かぶもんね。
──どういったときに思いついた楽曲なんですか?
伊東:これは恥ずかし過ぎるんですけど、ちょうどテレビで「今、人気のナポリタンのお店」を紹介していたんですよ。で、「ナポリタン〜」ってやってたらメロディーと歌詞が同時にできて。メロディーと歌詞が両方同時にできることは珍しいんですけどね。
──では、結構短時間で?
伊東:はい。これと「宇宙遊泳」はメロディーと歌詞が両方いっぺんに出てきた曲で20、30分でできました。
──「宇宙遊泳」は、最後の「もう戻れない」という歌詞がドキッとしましたけど、どんなことがきっかけで生まれた曲なのですか?
伊東:実はこれは自転車をこいでいるときにできたというか、思いついた曲で。「なんで自分はここにいるんだろう?」って、誰でも突然思うことってありますよね。例えば、私は小さい頃に裏山で遊んでいたんですけど、なんで大人になって大都会でチャリこいでんだろうとか思うわけです。なので、「もう戻れない」といってもそれは決して悲しいことではなくて、なんか「裏山には戻れないけど、不思議な気分だ」という感覚というか。そんなことを歌詞にして歌った曲です。
──ちなみに、自転車で浮かんだアイディアは、どのように「GarageBand」で形にしていくのですか?
伊東:まずは急いで帰って、スマホのボイスレコーダーに入れて。で、もう一回聴いて、テンポを決めながら「GarageBand」に録っていく感じです。
──作曲するときもフルアコを使われているのですか?
伊東:いえ、初期段階の作曲をするときは家にあるミニギターを膝に乗っけながらですね。作曲で使っているミニギターは、Takamineのクラシックギターです。
──今回収録されている曲には「クレイジーワルツ」のように、ちょっと変わったアプローチのものもありますよね。こういった楽曲はどのように生まれたのですか?
篠田:「涙のナポリタン」の後に、「ロンサム・メロディ」や「クレイジーワルツ」、「幕が上がれば」とか色んな曲のアレンジを同時進行で考えていたんですけど、いずれにしても一体どうしたもんかと悩んでいたんです。で、今回宅録という環境でもあったし、ちょっとぶっ飛んだ感じも表現してみようと思って。それで「クレイジーワルツ」に鉄琴を入れたり、打ち込みのオーケストレーションを入れるアイディアが生まれてきました。
──オーケストラの打ち込みは、どんな音源で?
篠田:ProToolsの音源「Xpand!2」に入っているものです。
──オーケストラ部分を生にしなかった意図は何かあるのでしょうか?
篠田:生っぽさを追求すれば、生楽器でやればいいんですが、この「クレイジーワルツ」ではちょっと異空間というか、あえて違った質感を出したかったというのはあります。
──「幕が上がれば」にも鉄琴が入っていると思いますが、これも打ち込みですか?
伊東:いえ、鉄琴は私なんです。
──伊東さんは鉄琴がお得意なんですか?
伊東:いえ、全然です(笑)。というか、レコーディングでも途中までは鉄琴が入ってなかったんですよ。それが終盤になって「鉄琴が合うんじゃないか?」という話になって、注文をして。
──「幕が上がれば」は、まさに2人がステージにあがるときの心境を歌詞にしたものなのですか?
伊東:そうですね。ただ、それもありつつ、歌詞の最後の一節「さあ 続けようか それぞれのステージを 狂い咲き 乱れ舞う 人生のステージ」にあるように、ステージに立っている人も立っていない人も誰にでも当てはまるというか。自分のやりたいことをやり切るためのテーマソングになればと思って。
──伊東さんがこの曲で、特にお気に入りの箇所を挙げるとすると?
伊東:始まりの「涙をひとしずく 頬に飾って」ですね。この歌詞ができたときに「あっ、これいいなぁ〜」って(笑)。で、見てもらうとわかるように歌詞を書き始めたときは道化師の歌にしようと思ったんですけど、途中からどんどん変わっていったんです。みんなどこか道化を演じているというか、そういうテーマにしたかったんですけど、気付いたら自分たちのことを中心に歌う曲になっていました。
──「幕が上がれば」は、鉄琴以外の音は打ち込みですか?
篠田:いえ、この曲は全部生楽器ですね。
──さて、今作の12曲の中で、歌詞やアレンジの面白さで言うと11曲目の「向かうは荒野」もかなり秀逸だと思いましたが。
伊東:ありがとうございます。今回のアルバムの最後にできたのが「向かうは荒野」です。
篠田:ZZ Topとかテキサスのブルースって、少しメキシコっぽさがあると思うんですけど、そういったサウンドですね。
伊東:「夜明けの唄」という柱ができて、その他の曲も揃ってきて、わりとこういう明るくてテンポ感がある曲を作りたいと思ったんですよね。今回のアルバムの中では、こういう曲を作ろうという気持ちで取り組んだのはこの1曲だけかもしれないです。
──歌詞の世界観はどのように思いついたのですか?
伊東:いや、実は種明かしをしますと、世界観というよりも今回の収録曲が全部できて、ある意味で血を分けた子供のような存在ができたわけですよ。なので、最後にこの12曲にむかって「これから達者に生きろよ!」っていうイメージで書いた歌詞なんです。まぁ、あくまでもイメージですよ。それを聴いている人にわかってほしいとはまったく思ってませんけど。
篠田:でも、レコーディングでの戦いが終わって、本当にこういう気分になったからね。
──今作のレコーディングは、すべて篠田さんのプライベートスタジオで?
篠田:はい。
──基本的に、どのような手順でレコーディングが行なわれたのですか?
篠田:どの曲でもまずベーシックでギターとボーカルを録ります。ただし、それはあくまでもガイドとしてです。で、それからベースを入れて、ギターを本チャンに差し替えて、一番最後にボーカルを録り直す感じですね。
──そのときに使用されたギターというのは?
伊東:エピフォンの「Broadway」です。
──どの曲も「Broadway」なのですか?
伊東:いえ、ヤマキのアコギも使ったり、「沼」ではエルク、「クレイジーワルツ」ではヘフナーも使いました。
──篠田さんはどういったベースを?
篠田:僕はいつも使っている「Telecaster Bass」ですね。で、ウッドベースはオリエンテのやつです。
──マイクはどんなものを?
篠田:マイクは借り物なんですけど、メーカーもよくわからない謎の中国製の真空管マイクと、カフェオレーベルのカスタムマイクですね。ボーカルはほぼその中国製の真空管マイクでした。
──そのマイクをチョイスした理由というのは?
篠田:独特な声を活かすには、もともと真空管の歪みそうな感じが合うなと思っていて。今回はこの中華製のマイクがしっくりきたんですよね。
──では、過去の作品では違うマイクを使ったりも?
篠田:はい。スタジオで一発録りをしていたときは、全部エンジニアの内田さんにお任せして。ノイマンとかを使っていたと思います。
──ちなみに篠田さんのスタジオでは、どのようなマイクプリを?
篠田:カフェオレーベルに作ってもらったものを経由させたり、ユニバーサルオーディオの「SOLO」を通したものを使ったり。
──ProToolsに録られた伊東さんのボーカルには、リバーブなどは後がけされているのでしょうか?
篠田:はい。ただ、今回のは最終的に内田さんにミックスしてもらったので、仮に僕らが作業しているときにかけたものは全部切ってからお渡ししました。
──エフェクト処理は全部内田さんの手によるものなのですね。
篠田:そうです。内田さんにはT字路sの作品はすべて担当してもらっていますし、彼の作る音に信頼もしています。ある意味でメンバーみたいな感じです。
──わかりました。では、そろそろ時間がきましたので、あらためて今回のアルバムの聴きどころを一言ずつ頂けますか。
篠田:はい。今回のアルバムはプライベートスタジオで作ったこともあって、今までの作品以上にグッドメロディーを追求できたと思っています。ちょっと僕らも一歩前進できたかなと。そこを聴いてもらえたらうれしいですね。
──伊東さんはどうですか。
伊東:そうですね。幸か不幸か、こういう状況の中でプライベートスタジオにこもってアルバムを作りましたけど、曲も歌詞も自信を持ってお届けできるものができたと思っています。まずはそれを楽しんでもらいたいのと、あと音楽をやっている人には「2人でもこんなアレンジができる」ということを詰め込んだ作品でもあるので、そういった部分も聴いてもらいたいですね。少しでもこういった時代の「光」になれたらと思います。
──コロナの問題も日々変化しているとは思いますが、お二人は今後のライブ活動はどのようにしたいと考えているのですか?
篠田:それはもう時代に合わせるしかないと思っています。今まで通りにはいかないかもしれませんけど、100%の力でライブをやるという僕らの方針は変わらないですから。
──アルバムもリリースされたし、T字路sのライブが待ち遠しいファンも大勢いると思いますが。
伊東:そうですね。とにかく早くライブをやりたいですね。でも、今回のアルバムは打ち込みもあるし、それをどこまでライブで再現するかという悩みもあって。
──今回は鉄琴とかも入ってますしね。
伊東:はい。でも、ライブではガラッと変えて、1粒で2度美味しい感じを目指したいです!(笑)
T字路s ツアー情報
T字路s “BRAND NEW CARAVAN” Release Tour
12月5日(土) 名古屋CLUB QUATTRO
12月6日(日) 梅田CLUB QUATTRO
12月10日(木) 渋谷 TSUTAYA O-EAST
*詳細は10月27日(火) 発表
ツアー最終公演の有料配信が決定!
●T字路s “BRAND NEW CARAVAN” Release Tour Live Streaming
12月10日(木)START:19:30
配信一般チケット ¥2,000-
<販売期間:11/24(火)18:00 〜 12/13(日)20:00>
販売URL:https://salmonsky.zaiko.io/e/BRANDNEWCARAVAN
注意事項:
*配信のURLは購入したZAIKOアカウントのみで閲覧可能です。
*URLの共有、SNSへ投稿をしてもご本人のZAIKOアカウント以外では閲覧いただけません。
*途中から視聴した場合はその時点からのライブ配信となり、生配信中は巻き戻しての再生はできません。
*配信終了後、チケット購入者は12/13(日) 23:59までアーカイブでご覧いただけます。
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