1977年の『ルパン三世』のテーマ曲が生まれた秘話も公開!
大野雄二『ルパン三世 PART IV オリジナル・サウンドトラック〜MORE ITALIANO』インタビュー
大野雄二『ルパン三世 PART IV オリジナル・サウンドトラック〜MORE ITALIANO』インタビュー
2016/05/13
テーマソングを作る時は、なるべく楽器は使わない。
大野:最初は、純粋にジャズピアニストとしてスタートしたから、昔はプロデューサー的な能力はなかった。プレイヤーとして活動を始めて、途中から、ちょっと作曲やアレンジをやるようになって、そこでCM音楽と出会ったんだ。そのCM作家としての視点は、「ルパン三世」の劇伴に、一番大きな影響を与えていると思う。CMって、5秒、10秒の世界だから、とにかく“インパクト”しかない。だから、キャッチーさに敏感になるわけ。2分の曲を聴かせて「いいな」と思わせる暇がない。だから「ルパン三世」の劇伴でも、キャッチーな曲がコン、コンと流れて、そこでゆったりと2分の曲が流れることで、よりよく聴かせられる。野球のピッチャーだって、すべて時速160Kmのボールばかりを投げればいいというものではないよね。スローボールがあるからこそ、スピードボールが有効になる。
──なるほど。
大野:ただ、自分の中で、最も客観視できないのが、ピアノを弾いている時。やっぱり、夢中になってしまう。でも、アレンジという作業は、10秒ほどで終わってしまう数小節を、何時間でもかけて作り込めるわけ。ピアノを弾いている時って、音が出た瞬間に流れていく、すべてが同時進行のものだけど、アレンジは、何度でも消したり、戻したりできる。そうしたことを繰り返すことで、「こう弾いた方がカッコよかった」「こんな聴かせ方もあるのか」と、だんだん俯瞰して見れるようになってくるわけ。「より有効にするのはどうした方がいいか?」と。それがプロデュース能力。その能力がまだない人は、料理で例えると、美味しいものを一度に全部、何もかもワーッと出せばいいと思ってしまう。でも、出し方によっても、美味しさが変わってくる。だから、料理の実力が同じでも、上手く出す人と、下手な人とでは、点数にしたら、かなり変わってくるよね。
──では、作曲スタイルの変化について聞かせてください。今では、音楽制作に当たり前にコンピューターが導入されていますが、大野さんが作曲を始めた頃と今とで、生まれてくる音楽にも違いが出てくるとお感じになりますか?
大野:やっぱり、シンセサイザーが普及したことによって、あるいは自宅録音、パソコンで音楽が作れるようになったことで、だいぶ変わったね。
──どういう部分に違いを感じますか?
大野:一言でいうと、作る人が具体的に音を聴きながら作るようになった。「こんな感じでやってみよう」と思ったら、すぐにパソコンで打ち込んで、具体的に音を聴くことができるでしょ? 僕らの時代は、現場に行くまで、頭の中でしか音を鳴らせなかった。そうすると、現場で初めて音に変換されて、「こう書けばもっとカッコよくなるのか」とか、「思ってたよりもダメだった」といった経験を積み重ねていく。それが今は、オーケストラを使った曲を書くにしても、実際に音を聴きながら「これはいいな」と確認しながら曲を作っていくから、たぶん、感覚はまったく違うんだろうね。ただ、僕はどっちでもいいと思っている。だけど、曲を作る“ひらめき”といったところまで、そこにいってしまっては、ダメじゃないかと。できれば楽器を使わないで曲を作るのが一番いいんだ。僕も「ルパン三世のテーマ」を作った時は、楽器を使わなかったから。
──そうだったんですか!?
大野:テーマソングを作る時は、なるべく楽器は使わない。だから、ウロウロしながらメロディが浮かんでくるのをひたすら待つんだ(笑)。それで、頭にフワッとメロディが浮かんだら、慌ててそれを譜面に書き留める。そうやって、何かひとつでも小さなきっかけが掴めたら、そこからはいくらでも広げていけるんだ。最初のフレーズさえ決まれば、サビだってなんとかなる。だって音楽って、これ(冒頭のフレーズ)があるから、次はこうなって、そこからこういう流れになってと、言ってみれば“挙句の果て”にサビに辿り着くわけ。だから、最初にサビから作るっていうのは、本来は違うんだよ。それは、ナチュラルではない。
──曲を作る際に楽器を使わないという点を、もう少し詳しく聞かせてもらえますか? 楽器を使わない理由は何なのでしょうか?
大野:楽器を使うと、確かに早く作れる。だから、安易に作ってしまう。しかも、プロが楽器を使って曲を作ると、どうしてもインスト的な、やや難しい曲になってくるんだ。自然な歌って、それほど大きく音程が飛ぶことはないけど、楽器で作ると、歌うのが大変なメロディも簡単に作れちゃうでしょ? だから僕は、本当にギリギリまで、できるだけ楽器は使わない。そうやって生まれてきたメロディを「どうにかして、もっとよりよくしていこう」という段階で、初めて楽器を使うんだ。そうすると、心に残るメロディになりやすい。それともうひとつ言えば、“歌モノ”を作るなら、詞が先にある方がいいね。
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