前作で底上げされたバンド力を色濃く感じさせられる珠玉作
Yeti『ハウル』インタビュー
Yeti『ハウル』インタビュー

2017/05/31
──この6曲に選曲した時のテーマやポイントはありますか?
涼木:聴き触りが斬新だなっていう楽曲をセレクトしたつもりです。あと、CDのタイトルが決まっちゃったら早いんですよ。『ハウル』っていう単語が出てきてからは、ものすごくスピーディーで早かったんですけど、選んだポイントはやはりタイトル由来です。『ハウル』って英語でHOWL、遠吠えや獣の鳴き声のことなんですけど、バンドの軸として守ってきたものって、そこまで鋭利な牙のあるものではなく、どちらかといったらちょっと内面的な叫びというか、内なる熱みたいなものを音に起こすようなことが多かったんですよ。フルアルバムで手足が自由にきくような状況になって、その叫びを内だけでなく外に出していくような、ちょっと獣めいた部分も軸に選曲、制作していった感じですね。
──なるほど。一曲目の「吠える」は古語を使った歌詞が独特ですね。
涼木:学生時代、原文古文がすごく好きで。富士山の麓でレコーディングをしたっていうのもあるかもしれないですけど(笑)、この国ならではの美学というか。古語を選んだのは、純粋に日本の深夜の森とか、そういうイメージで僕は遠吠えをイメージしていたので、ちょっと厳かな、水のしたたりというか、暗がりの美しさというか、そういうイメージがあったので、古語がフックになればいいなと思ったんです。楽曲的にはこの曲が一番先行してて、前回のツアーのファイナルの頃にはあったんです。この曲があったから『ハウル』が作れたようなものだと思ってます。内なる叫びのスタート地点をうまく表現できてるのかなって思います。
多村:ドラムはすごく細かいことをやっていて。楽器をやってるような人なら、そう思ってもらえるようなフレーズが多いなと思います。最後のサビはドカンと豪快に展開をして。
沢村:この曲は歌やメロディ、歌詞が映える楽曲だと思うので、前半から後半までほとんど無機質なギターで奥行きを出したり。そんなイメージで、最後にも“吠える”っていう感じのギターが入れられたかなっていう感じですね。いろんな吠え方をしたなっていう、そんな気がしました。
Bikkey:ベースは吠えてないです(笑)。みんなが吠える分、どっしりとシンプルに。無感情で一定な感じでいるんですよね。で、最後のところだけ若干吠えさせてもらった(笑)。
涼木:実は実際のオオカミの遠吠えもサンプリングして入ってたりするんです。最初はメンバーでやろうかと思ったんですけど、それはちょっとさすがにギャグになりそうだったから。
沢村:かなりのクオリティで遠吠えする自信はあるけどね。
涼木:そうだろうね。怒られたらすぐ泣くもんね(笑)。
沢村:その泣くじゃないから!
──(笑)。そして「阿吽」ですが、ここまでヘヴィなものって今までになかったですよね。それに驚いたのと、“阿吽”って“阿吽の呼吸”のように、息を合わせる、みたいなことに使うことが多くなっていたんですけど、万物の始めと終わりという意味をこの曲で再認識しました。
涼木:タイトルだけチェックすると、息を合わせるとか、なんとなくポジティブ寄りな楽曲を想像する方が多いと思うんですが、そこはぜひ意表をつかれていただいて(笑)。おっしゃる通り、スタートとエンド、一対になってるんですよね。だいたい楽曲を作る時は一つの世界観がないと最後まで書けないんですけど、『阿吽』はそれが芥川龍之介の『蜘蛛の糸』という作品で。それを第三者目線で、終わりと始まりみたいなものをあっけらかんと歌えないかなっていうところと、“阿吽”っていう単語自体が面白いなと思ったので、サビに何度もリフレインさせてもらいました。
沢村:ギターに関しては、もちろん一曲を通してYetiらしさのある箇所もあるんですけど、ここまで前衛的なエグいサウンドのギターを出したのは初めてだなっていうのがあって、やってて楽しかったですね。ある種、こういうハードなサウンドでも聡くんの声は活きるんだなっていう発見もありました。
多村:この曲は終始ガチャガチャやらせてもらって(笑)。久しぶりにこういう曲を叩いたら楽しかったですね、単純に。気持ちよくベースやギターを乗っけてくれたんじゃないかなって。
Bikkey:もともとドラムはもっとシンプルだったんですよ。で、一緒にリハに入ってる時に、もっとやっちゃえよ!ピンスポ浴びちゃえよ!って。
沢村:なんか、めちゃくちゃダサい会話だけど(笑)。
多村:だいたいいつも音源はちょっと大人しくやって、ライブは派手にしようかっていう感じだったんですけど、今回は音源から攻めちゃおうっていう話でまとまって。
Bikkey:ドラムがそういうアレンジになってくれたので、それを聴くとやっぱりベースも上がっちゃうので、そのテンションに合わせていった感じです。音的には、ギター用の歪ませるエフェクターを使って、Yeti史上最高に歪んでる、悪いグルーヴで録らせてもらいました。
──三曲目の「無重力」。これこそヘヴィな音に涼木さんの綺麗な声やメロディが合わさって、美しさもありつつ、なんだかちょっと怖さも感じました。
涼木:もともとアンビエントやシューゲイズとか、そういう音楽を好きで聴くことが多かったので、『ハウル』で出すべき音はこの『無重力』に詰まってる、そういう心意気で制作したんです。イメージは宇宙空間。自分が宇宙空間にいるわけじゃなくて、宇宙空間のような精神状態で。閉鎖的で、でも広がり続けている真っ暗な冷たいところ、というのを突き詰めて、なるべく言葉を少なくしてやっていったら、結果的にすごく理想的になったなと。サウンドも、エレキギターをチェロの弓で弾く、ボーイングっていう奏法があるんですけど、それを使って、我々なりのいい仕上がりになったなと。そのボーイング奏法だったり、重いヘヴィなリズムのビートだったり、ダウンチューニングで一音下がっていたりと、聴き応えはあるかなと。ツアーが楽しみだなと思えるような曲になりました。
──確かに、ライブでどんなふうに再現されるのか楽しみです。
多村:この無重力感をどんなふうにライブで表現するのか……大変そうですね。この曲はちょっと自分的な奏法を変えてみたりして、ふわっとするような音作りをしてみました。
沢村:シューゲイズっぽい要素が強かったので、僕の中では結構初挑戦だったかなと。全体的に重さだったり浮遊感だったり、かといって引っ張られる感じもあったり、そういったイメージを崩さないようなリズムや音選びを意識して作り込んでいきましたね。
Bikkey:たまに聡くんって、俺に“あの映画のイメージで”っていうふうに、映画のイメージで伝えてくることがあるんですけど、この曲はデモでもらった時に、「『ゼロ・グラビティ』で」って言われたんですよ。まだ歌詞もできてないところだったんで、その映画を無音にして流しながら、曲を流してベースをつけていったんです。あの映画って、宇宙空間の中、自分がどうなるかわからない。不安な状況しかない。その不安をどう出そうかと考えて、ベースを不協和音にしてちょっと音をずらしているんです。そうするとちょっと気持ち悪い感じになる。世にあるホラー映画とか怖い映画は、その不協和音が絶対に入ってるので、それをベースで出してみたらどうかなっていう挑戦をしてみました。
──私の“怖い”っていう印象は、そこに引っ張られたんですね。
Bikkey:そうであってほしいです(笑)。狙い通りですね。歌詞も入ってきて、結構イメージにぴったりあったんで、すごく満足しました。
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