全曲海外録音による自身6枚目のオリジナルアルバム
さかいゆう『Touch The World』インタビュー(ロンドン、LA、NY、サンパウロでの制作エピソードを公開)
さかいゆう『Touch The World』インタビュー(ロンドン、LA、NY、サンパウロでの制作エピソードを公開)
2020/03/03
──資料によると、今回のアルバムの10曲目に収録されている「Dreaming of You」は、前アルバム「Yu are Something」の制作で訪れたLAでリズムセッションを録られていたそうですね。すでに「世界を旅しながら」という新アルバムの構想はあったのですか?
さかいゆう:いえ、前アルバムの続編みたいですけど、新アルバムの構想がしっかりと決まったのは去年ですね。なので、収録されている楽曲の半分くらいは書き下ろしですし、実際その場所に行くまでミュージシャンが決まってなかったり、交渉の連続でした。
──そんな中で、2019年7月にロンドンで制作されたのが、1曲目「Hey Gaia」、3曲目「She’s Gettin’ Married」ということですが、世界的なプレイヤーとしてStuart Zender(ジャミロクアイの元ベーシスト)さんやBluey(インコグニートのギタリスト)さんが参加されていますよね。実際にセッションをしてみて、いかがでしたか?
さかいゆう:誌面にすると冷めた感じになっちゃうかもしれませんけど、素晴らしかったですね。それ以外に何もないっちゃないんですけど、そこには音楽のグルーヴとハーモニーがあって、プレイを楽しむだけというか。感動するポイントや好きなポイントは近いところがあるんで、「あっ、それやる。じゃ、俺はこうする!」みたいな無言の会話がありました。
──どちらの曲も最初にリズムセクションをBlueyさんの「Hackney Sound Studio」で録られたようですけど、演奏面などで彼らに驚かされたことはありましたか?
さかいゆう:単純に味わったことのない上手さでしたね。演奏は2回くらいやって終わりなんです。それ以上やってもそんなに意味がないというか。細かなディレクションをやったりもしたんですけど、常に90点みたいな。で、残りの10点は自分の好みで「あっ、そこのフィルはなしで!」とか、「もうちょっとここは落として」とか。そのくらいしかしゃべってないっすね。とにかく、事前のデモテープの段階ですべて理解してくれていたので。
──「She’s Gettin’ Married」に関しては、Blueyさんのディレクションで歌を録られたようですね。
さかいゆう:はい。結構シビアで楽しかったですよ。直感的で肉感的なんですけど、耳がいいんで会話なく「あっ、今のところちょっとフラットしてたよね」とか。僕もわかるんで「じゃ、もう一回やってみよう」みたいな。無駄なことがないんで早かったですね。コーラス入れて2時間くらいで終わったと思います。
──ロンドン滞在中にはBlueyさん行きつけのモーリシャス料理を食べに行ったとか。
さかいゆう:そうなんです。モーリシャス料理ってアフリカだと思うんですけど、出汁が効いてて美味しかったですね。
──魚料理ですか?
さかいゆう:肉も魚もあると思うんですけど、Blueyは魚しか食べないんですよ。
──食事しながら音楽の話をされたのですか?
さかいゆう:いえ、音楽の話もちょっとしましたけど、Blueyはずっと子供をあやしてましたね。(さかいさんがスマホで撮影した動画を見せてくれる。Blueyさんが「うゎ〜〜」と子供におかしな声を浴びせる)ずっと、こんな感じ。これが1時間続きますから(笑)。
──Blueyさんは優しそうな人ですね。
さかいゆう:めちゃくちゃ優しいっすよ。親切以上だ、あの人は。
──さて、このロンドンでのレコーディングを終えて、次に向かったのが7月29日のニューヨークということですが、ここでは5曲目の「孤独の天才(So What) feat.Terrace Martin」を制作されたと資料を拝見しました。「So What」と言えば、Miles Davisですよね。
さかいゆう:そうですね。Miles Davisはずっと僕の心の師匠であって、Milesに関する曲をいつか書けたらと思っていました。「So What」は僕にとって一番思い入れのある曲で、そもそも「So What(だからなんだ?)」って言葉の意味も好きですし、彼を表してるなと。
──作詞は売野雅勇(うりのまさお)さんということですが、どんな話を具体的にはされたのですか?
さかいゆう:僕は音楽を仕事じゃなくて人生でやっていると思っていて。僕から音楽ビジネス(事務所やレコード会社)を全部取ったとしても、おそらく同じこと(曲作りやライブ)をやっていると思うんです。なので、そんな感じのことを書いてくださいと伝えました。売野さんには僕がディレクションすることは一切ありませんし、売野さんの言葉をそのまま歌いますからといつも話しています。
──では、出来上がってきた歌詞を変更することはないんですね。
さかいゆう:一切ないですね。ちょっと解釈に悩むところも含めてそのままです。
──さかいさんにとって「So What」は思い入れの強い曲ということで、レコーディングにも力が入ったのでは?
さかいゆう:いや、思い入れは重いんで、そこはあえてフラットというか、ミュージシャンの直感を頼りに、彼らがリラックスして演奏に集中できるようなシチュエーションを作って。で、しっかりとリハーサルをやって。リハ3回の本番2回の全部で5回くらいしかやっていません。曲になったはリハの3回目なので、実質2回くらいですよ。そうじゃないと逆に集中力が続かないですし。あと、それ以上やるとアイディアを出し始めちゃうんですよ。そうなると、怪しい話ですけど霊感がなくなるというか、「なんか知らないけどすごい!」みたいなものがなくなっちゃうんです。
──ニューヨークだと、6曲目「裸足の妖精」も録られたと思いますが、この曲はAメロのキーがサビよりも高いそうですね。今までのさかいさんの曲にはそういったものはなかったのですか?
さかいゆう:ないと思います。
──アレンジャーとして挾間美帆(はざまみほ)さんがクレジットされていますが、彼女とはどのような縁で?
さかいゆう:2〜3年前に何かのライブで話しかけてきてくれて。僕もみほちゃんの音楽をチェックしてみたらすごく才能のある人で、いつか一緒に何かできたらいいなと思っていたんです。で、「裸足の妖精」をどうしようかなと思った時に、トリオだけどギターはいれたくなくて。そしたら「あっ、みほちゃんのストリングスをフィーチャーしてみよう」ってアイディアが浮かんで。それで大フィーチャーしました。
──Aメロのキーが高いうんぬんの話を挾間さんがアレンジしたというわけではないんですね。
さかいゆう:そうですね。曲自体は5年くらい前からできていたもので、メロディーや歌詞を作り直して新録したものになります。
──7曲目の「鬼灯(ほおずき)」では、トランペットのNicholas Paytonさんをフィーチャーされていますが。
さかいゆう:ライブも見に行っていて昔から大好きなんです。彼はストレート・アヘッドなジャズやヒップホップのトラックも作れるし、非常に多彩なんですけど、僕は彼のトーンが好きで。だから、Nicholasのトーンを全面に出した曲ができたらいいなと思ってシンプルに作ったんです。彼には「ジャズじゃないけど大丈夫? 僕はあなたのブランディングを壊すようなことは絶対にしたくないと思っているんだ」って話したんですけど、「I don’t know Jazz」って粋な返事をしてくるんですよ(笑)。
──レコーディングは順調に?
さかいゆう:結局、4回か5回くらい吹いてくれましたね。ジャズミュージシャンの中には1〜2回やってもういいだろうって人もいるかもしれないけど、彼もどんどん景色が見えてきたみたいで「Let’s draw another picture」って言いながら何度も演奏してくれました。
──このニューヨークでのセッションを終えて、今度は8月12日にロサンゼルスに向かうわけですが、LAではリード曲の「21番目のGrace」を制作されたんですよね。
さかいゆう:はい。もともとこの曲も5年くらい前に出来て、実はずっと温存していたんです。で、録るなら明るい乾いた感じのピアノになるだろうなとは思っていて、それが最終的に応援ソングになるのか、恋愛が成就する曲になるのか、その時点ではまだわからなかったわけですけど。
──作詞はこの曲も売野さんなんですね。
さかいゆう:そうですね。最近、売野さんとのシンクロ率はハンパなく高くて。
──どんなことを話されたのですか?
さかいゆう:売野さんに「さかいくんて、もともと明るい性格で根明(ねあか)だよね」って言われて。さらに「芸術家にとって根明って一見バカそうだけど、ポジティブさとか明るさは音楽家には大事な要素だよね」って話になって。で、その中でも自分のこだわりとか、譲れないところがあったりしてとか。そんな話です。
──売野さんへはデモテープは事前に渡すんですよね?
さかいゆう:もちろんです。売野さんはメロディーを完全に覚えてから、そこに詞が降りてくるのを待つみたいです。
──売野さんの歌詞で特に気に入っている箇所を挙げるとすると?
さかいゆう:「ありふれた言葉で君を殺すな」が好きですね。これはくらっちゃいました。あと、最初の「ささやかでも 誰にも媚びずに生きよう」というのは、普通の文章ですけど、なんか共感しちゃいますね。ボブ・ディランの言葉に「ガソリンスタンドにも本当の詩人はいる」というのがあるんですけど、詩人だからといって詩人なわけではなくて、自分の譲れないものというか、心は売るけど魂までは売らないというか。そういうのを大事に生きている人は強いと思いますね。で、そんな歌詞にできる “人の生き死に” ってどんなことだろうってできたのが11曲目の「Soul Rain」なんです。「Soul Rain」は「Rain 雨となった僕は」という部分とコンセプトだけは決まっていて。
──どんな世界観を描こうと?
さかいゆう:日本だと時がきて迎えが来れば火葬して煙になるわけですけど、執念で俺はお前のところに行くからな!というのがとてもロマンティックだなと思って。火葬場の煙とロマンスをつなげるって、危うくて面白いじゃないですか。しかもそれって、文字や映像だと嫌なリアリティが出るけど、音楽や歌だったらうまく表現できるというか、嘘じゃないし。だから「Soul Rain」なんです。
──そうだったんですね。で、この「Soul Rain」のレコーディングの前に、ブラジルにも渡っているんですよね?
さかいゆう:はい。
──ブラジルのスタジオの雰囲気はいかがでしたか?
さかいゆう:そりゃ、サンバとボサノバが生まれるわぁという感じでしたね。美味しい果物があって。マンゴーが美味すぎて、逆に落ち込みました。
──というと?
さかいゆう:宮崎とか沖縄のアップルマンゴーと同じものが、1個50円ですから。滞在中は食べまくって、歯に詰まる詰まる!(笑)
──(笑)
さかいゆう:果物を美味しく食べる国って、ハッピーそうじゃないですか。みんな優しいし、時間が日本よりもゆっくり流れてて。サンパウロは都会なんだけど、また行きたいなと思いましたね。
──ミュージシャンの方は現地の方だったのですか?
さかいゆう:全部現地ですね。僕の憧れのRenato Netoというプリンスのバンドのキーボードの方が集めてくれました。
──演奏は違いました?
さかいゆう:それは違いましたね。ブラジル人なんで、絶対にモソモソもたらないというか、みんなが馬力の強い四駆みたいな。それぞれエネルギッシュな演奏でしたね。
──その後、再びイギリスに戻ってロンドンのアビー・ロード・スタジオで「Soul Rain」を録ったわけですね。
さかいゆう:はい。それが12月になります。
──この曲だけアビー・ロードで録ったというのは何か理由があったのですか?
さかいゆう:ディレクターが行きたかったんじゃないですか(笑)。ただ、スタジオ選びってそういうもんなんですよね。
──さかいさんの希望でもありますよね?
さかいゆう:もちろん。僕もアビー・ロードに行きたかったし、そこでしか録れない音があるのも知っていますし。ただ、アビー・ロードでやれるって普通は思わないじゃないですか。でも行けることになったんで、だったらぜひということになりました。
──アビー・ロードでは、デッカ・ツリーというマイクの立て方でストリングスを録られたんですよね?
さかいゆう:そうですね。奥行きがあって広がりがあって、すごくいいストリングスが録れました。スタジオ専属の優秀なエンジニアさんにやってもらったので、まさにアビー・ロードのサウンドになったと思います。
──アビー・ロードというと、ビートルズが使っていたことでも有名ですが、スタジオの中はどんな感じなのですか?
さかいゆう:なんか、地下のカフェみたいなところのご飯が美味しかったですよ。
──カフェがあるんですか?
さかいゆう:はい。クッキーっぽいのとか、サラダっぽいのとか。で、僕がサラダをちょっとのせたら、もっとのせていいよって言われて(笑)。
──で、その地下の上にスタジオの部屋がいくつかあるんですか?
さかいゆう:有名なのが1スタと2スタで。1スタはいわゆるオーケストラを録るような大きな部屋で、僕らが使ったのは2スタですね。階段がある2スタの方が有名じゃないかな。
──2スタはいかがでしたか?
さかいゆう:実は弱点もいっぱいあって。このことは専属のエンジニアさんも言っていましたけど、ブース(部屋)をセパレートできていないのでストリングスとピアノが同時に録れなかったりとか。ただ、そういった弱点に目をつぶっても余りある実りもあるので。
──「Soul Rain」は具体的にはどのような手順でレコーディングを行なったのですか?
さかいゆう:ドラムとベース、ストリングス、ピアノ、で最後に歌ですね。
──演奏面などで印象に残っていることはありますか?
さかいゆう:というか、ストリングスの音があまりにも良くて。それを騒いでいたら向こうの人にゲラゲラ笑われて(笑)。演奏はいつも通りだったと思います。
──わかりました。では、そろそろ時間となりましたので、最後にあらためて『Touch The World』の聴きどころをお願いできますか。
さかいゆう:そうですね。今回のアルバムは、さかいゆうという人間が悪戦苦闘しながら1年を通して録ったドキュメンタリーでもあります。右も左もわからない初めて行くところで、緊張しながらもなんとかいいセッションにしようと奮闘した記録とも言えます。そこには、何もしないで失敗しないよりは、何かやって失敗してもいいという気持ちが入っていると思うので、そういったところをまず感じてもらえたらうれしいです。僕も今回かなりチャレンジングなことをしたなと思っていて、単純に自分の憧れの人に嫌われたくないじゃないですか。自分がヒーローだと思っている人たちにセッションをお願いして、例えばNetoに「あっ、こいつピアノ下手だな」とは思われたくないわけで。なので、ある意味で自分も人生をかけて戦ったというか。そういったところですかね。
──アルバムリリース後にはライブも予定されていますよね。
さかいゆう:はい。5月に大阪・梅田 CLUB QUATTRO、東京だと日比谷野音ですね。特に東京の方は、10周年記念も兼ねた2部構成で、かなり盛り盛りな感じの内容になると思います。ライブにも期待してもらえたらと思っています。
TuneGateの公式Twitterアカウント「@tunegate_me」をフォローして、対象のツイートをリツイートすると、抽選で2名様に さかいゆうさん のサイン入りチェキをプレゼントします!
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■応募期間
2020年3月3日〜2020年3月17日23:59まで
■参加条件および応募について
・プレゼントの応募にはTwitterアカウントが必要
・非公開設定(鍵付き)のTwitterアカウント、引用リツイート(冒頭にRTをつけるツイート)は対象外
・当選の連絡までにフォローを外した場合も対象外となります
■当選の連絡について
・当選された方には、@tunegate_meよりDM(ダイレクトメッセージ)にてご連絡します
・当選可否や抽選の状況についてはご返答できません
・期間内にご返信がない場合は、当選権利を放棄したものと判断させていただきます
※注意事項
・応募はお一人様1回限り
・応募対象者は日本国内にお住まいの方のみ
・第三者に譲渡・売却などをすることはできません
・プレゼント内容は予告なく変更や中止することがあります。あらかじめご了承ください
ライブインフォメーション
◆『Touch The World』 Release Party 東京・大阪、2都市での公演開催決定!
●2020年 5月14日(木)
大阪・梅田CLUB QUATTRO
OPEN/START:18:00/19:00
スタンディング:¥5,500
(税込、整理番号付き、ドリンク別)
一般発売日:2月29日(土)
●2020年 5月17日(日)
東京・日比谷野外大音楽堂
OPEN/START:16:00/17:00
全席指定:¥6,600(税込)
一般発売日:2月29日(土)
<バンドメンバー>
Dr:FUYU
Bs:日野JINO賢二
Gt:田中義人
Key:Pochi
<ゲスト>
Michael Kaneko(大阪・東京)
Ovall(東京)
◉チケット受付
チケットぴあ:https://t.pia.jp/pia/artist/artists.do?artistsCd=48250125
イープラス:https://eplus.jp/sf/word/0000028406
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