ビンテージパーツを使いながらも驚異的な価格を実現
ノイマンU87を再現したコンデンサーマイク「mini K87」をプロのエンジニアがレビュー
ノイマンU87を再現したコンデンサーマイク「mini K87」をプロのエンジニアがレビュー
2020/03/15
低価格ながら非常に質の高いコンデンサーマイクを開発していることで知られるロズウェル・プロ・オーディオから、ビンテージマイクの名機として知られる「ノイマンU87」を再現した「mini K87」がリリースされました。エンジニアの茨木直樹氏と、彼のアシスタントを務める藤沼一登氏に、本機のサウンドを検証してもらいました。
取材:サウンド・デザイナー編集部 写真:桧川泰治
詳しくは、サウンド・デザイナー公式サイトをご覧ください。
「U87aiと聴き比べてみたら、お世辞抜きに、ほぼ同じサウンドで録れました」
Roswell Pro Audio「mini K87」(オープンプライス/¥55,000前後)
「mini K87」は、ノイマンの「U87」を忠実に再現した、小型のコンデンサーマイクだ。34mmの大口径ダイアフラムを採用しており、回路全体を通してハイグレードなパーツをふんだんに使用。音の色付けを徹底して排した、ナチュラルで透明感のあるサウンドを実現している。また、極めて低いセルフノイズや、レコーディング後にプラグインエフェクトで処理を行ないやすい、ニュートラルな周波数特性を持っているのもポイントだ。
◉「歌の歌詞がしっかりと聴き取れて、 中高域の質感をうまく捉えてくれる」
──mini K87を手に取られた際の第一印象はいかがでしたか?
茨木:まず、箱を開けた時に「こんなに小さいのか!」と驚いて、次に持ってみたら、ノイマンのU87とほぼ同じくらいの重量で、さらにビックリしました(笑)。どんな機材でも、重いものは造りがしっかりしているというか、いい音がしそうだなというイメージはありますよね。
──本機のインスパイア元であるノイマンU87とは、どんなマイクなのですか?
茨木:昔からプロの現場で使われているマイクで、用途としてはボーカルやピアノ、アコギ、ストリングやブラスの録音と、多岐に渡ります。U87が1本あればどんなパートの録音にも対応できるので、もし現場でマイクを1種類しか使えないと言われたら、U87を選ぶエンジニアは多いかもしれません。
──サウンド的には、どのような特徴がありますか?
茨木:オリジナルのU87の音はあまり聴いたことがないんですけど、後継機の「U87i」は、以前よく使っていました。現行品のU87aiと共に、どちらも音に暖かみがあってレンジ感もあるというか、やわらかい音で録れます。両者を比較すると、U87aiの方がゲインが高くて、かつスッキリした音がします。
──では、mini K87のサウンドを試してみて、いかがでしたか?
茨木:今回はU87aiと聴き比べてみたんですけど、お世辞抜きに、ほぼ同じサウンドで録れました。ソースによって多少ハイの捉え方が違う部分はありましたけど、例えばちょっとロックっぽい男性ボーカルで録音したら、聴き分けができませんでしたね。「あっ、一緒だな」と(笑)。知り合いに勧めたいレベルで、よく出来ていると思います。
──どのような使い方が向いていると思いましたか?
茨木:U87aiと同じような用途で使えますね。これ1本で何でも録れるという安心感があります。U87aiと比べるとちょっとスッキリした音で、ロー感がやや違うんですけど、mini K87の方がボーカルの歌詞がしっかり聴き取れて、中高域の質感をうまく捉えてくれました。全体的な音の傾向はほぼ同じですけどね。
──原音に対して、マイクの色付けは強い方なのでしょうか?
茨木:茨木:U87と同じく、色付けはない方でしたね。U87はレコーディングに使うマイクの中で、基準になる音なんですよ。mini K87に限らず、他のマイクのサウンドを検証する時も、まず“U87の音に対してどう聴こえるか”というようにチェックをするんです。なので、本機を1本持っておけば、他のマイクの特性も把握しやすいのではないでしょうか。あと、僕は録音するパートによってマイクプリを変えることが多いんですけど、本機はマイク自体に色付けがない分、マイクプリの特性が出しやすくなると思います。
↑茨木氏が代表を務める制作会社、株式会社ソラッソに所属するエンジニアの藤沼一登氏。今回、アシスタントとして本機の試奏に協力してくれた
◉「歌やギター、ドラムやピアノなど、どんな楽器の録音にも向いている」
──今回は、どんなパートの録音に本機を使いましたか?
茨木:男性ボーカルと女性ボーカル、アコギ、エレキギター、トランペットです。プレイヤーにも聴き比べをしてもらったんですけど、モニタリングがしやすくて、演奏しやすいと言っていました。
藤沼:特に、エレキギターで録った音が良かったですね。歪みの質感や、中高域のおいしい帯域をうまくキャプチャしてくれました。
──音のスピード感はいかがでしたか?
茨木:とてもいいですね。スピード感があるマイクは、音のピークをしっかり捉えることができるんです。例えば、ピアノみたいにパーカッシブなパートを録る時とかですね。スピード感のないマイクだと、ピークの部分で歪んでしまって、音が立ち上がってこないんです。
──向いているジャンルはありますか?
茨木:オールマイティですね。歌にもナレーションにも使えるし、ギターにもいい。あと、ドラムには絶対向いているでしょうね。オーバーヘッドに3本立てたりするといいかも。ブラスもピアノとか、どんな楽器を録音する時にも使えます。
藤沼:イヤなピークがないので、ストリングスとか、同じソースに複数のmini K87を立てて録ってもいいかもしれません。マイク自体のカラーが出ないのが、本機のいいところだと思います。
茨木:ボーカルを録音する時って、シンガーの声や歌唱スタイルに合わせてマイクを選択するんです。例えば、太い声の人には、その太さが活きるマイクを選んだり、線の細い声の人には暖かみのあるマイクを選択するとか。そういう意味では、mini K87はクセがないので、どちらかといえば楽器の録音に向いているマイクかもしれないですね。
──なるほど。
茨木:オリジナルのU87も、プロの現場ではボーカルに使う時はあまりなくて、楽器の録音用に使われることが多いんです。ボーカルしか録音しないという読者の人も、これを持っておけば、あらゆる生楽器の録音に挑戦できると思います。
──非常にリーズナブルな価格の本機ですが、プロのレコーディング現場でも活用できそうですか?
茨木:もう、全然使えます! イチ押しですよ本当に(笑)。他のエンジニアさんに「何かいいマイクない?」と聞かれたら、僕はこれをオススメします。
希少なビンテージパーツを入手できる独自のネットワークにより、
ビンテージマイクのサウンドを低価格で再現することに成功した「ロズウェル・プロ・オーディオ」
同社の創業者であるマット・マックグリン氏は、マイクのモディファイやDIYキットの販売サイト「micparts」を運営していた人物で、世界的なマイクのデータベースサイト「Recording Hacks.com」も主催しています。
同社製品のテーマは「ビンテージトーンのマイクを現代のワークフローに合わせる」こと。ビンテージマイクは扱いが難しいが、同社製品は出力を高めにしつつ、真空管マイクのサウンドをチューブレスで再現できる回路設計を行なうなど、現代ならではの利便性を追求しているのが特徴です。
また、同社の上位機種にはNOSパーツ(新品のビンテージパーツ)を採用。入手困難なパーツを見つけるネットワークを欧米各国に持ち、それらのパーツを厳選して組み合わせることで、高いコストパフォーマンスを実現しています。
↑マット・マックグリン氏
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