12月3日に神奈川・川崎CLUB CITTA'

Helsinki Lambda Clubとtetoによる初のスプリットツアー「TAIKIBANSeeeee.」をレポート!

Helsinki Lambda Clubとtetoによる初のスプリットツアー「TAIKIBANSeeeee.」をレポート!

2021/12/08

Helsinki Lambda Club

写真:小杉歩

Helsinki Lambda Club

 

teto

 

teto

 

誰もいない控え室でライブの余韻に浸っていると、ある男が部屋に入ってきて笑みを浮かべながら「ライブ良かったでしょ!」と話しかけてきた。こんなに楽しめたライブはいつぶりだろうか。僕は、久しぶりに興奮と充実した気持ちを噛み締めていたーー。

Helsinki Lambda Clubとtetoによる初のスプリットツアー「TAIKIBANSeeeee.」は、11月13日に大阪・味園ユニバース、11月14日に名古屋・CLUB QUATTROを周り、12月3日に神奈川・川崎CLUB CITTA'でツアーファイナルを迎えた。今回、僕が川崎CLUB CITTA'で観たライブの様子と、メンバーや関係者から聞いた証言を交えて記録にしていく。

ヘルシンキは7年というキャリアの中で、今年大きな成長を見せた。去年11月に2ndフルアルバム『Eleven plus two / Twelve plus one』を発表すると、12月からリリースツアー「MIND THE GAP!!」を敢行して、今年2月にツアーファイナルを東京・恵比寿LIQUIDROOMで開催。その後、“おかわり編”と称して5月から全国10箇所でツアーを行ない、最終公演は過去最大規模となる東京・新木場USEN STUDIO COASTにて開催。その後は、9月にPEAVIS、CHAI、どんぐりず、Frascoを招いて配信シングル『Inception (of)』をリリースしたかと思えば、10月からは3ヶ月連続リリースも行なっている……とにかくトピックが尽きない。

ヘルシンキのレーベル担当・田巻行子に話を聞くと「ストリーミングの再生回数が去年よりも大幅に伸びたんです。しかも海外の反響がじわじわと大きくなっていて、“インタビューをしたい”とか“ウチの媒体で紹介させて欲しい”とお話をいただく機会も増えました。来年は、日本だけじゃなくて海外に向けても発信していきたいよね、とメンバーと話しています」という。

そんな好調の波に乗るヘルシンキのライブは、初期の名曲「しゃれこうべ しゃれこうべ」で幕を開けた。青い照明の下、音の太い演奏がドスンドスンと全身を刺激する。原曲よりもテンポを落としており、それによって観客は歌詞を噛み締めるように直立不動で聴いていた。華金の夜、街がクリスマスの景色に変わっている時に<地獄でワルツを踊りましょう>から始まるライブは、なんとクールなのだろう。

続いては、ジョージ・ウィリアムズの曲紹介でお馴染みの「ミツビシ・マキアート」へ。男女がヴァンパイア・ウィークエンドのライブに行くという歌詞なだけあって、1サビのAメロには「Harmony Hall」や「A-punk」など、VWの曲名を散りばめている。その後「Skin」で観客の心拍数を上げて、tetoの楽曲「ルサンチマン」をカバーし、親愛なるバンドに敬意を評した。立て続けに3曲を披露したところで、橋本薫がゆっくりとマイクを握る。「大阪、名古屋と回ってきたんですけど、めちゃくちゃ楽しかったですね。バンドをやってんな、という感じが久々にして良かったなって。楽しかっただけじゃなくて、tetoから刺激を受けた2公演でした。それを言葉にするのが苦手なので、刺激を受けたことが今日のライブでちょっとでも伝われば良いなと思います」。

そこからの演奏がまた面白かった。「King Of The White Chip」は、ダウナーな感じもありつつザ・スミスを彷彿とさせるニュー・ウェイブな音像が心地良くて、聴いていてドーパミンが脳内でドバドバと分泌されていく。続く「IKEA」は、リズムセクションが多彩で熊谷太起のファンクを感じるギターに、稲葉航大とサポ―トメンバー吉岡紘希のリズム隊の緩急も抜群。この時、アルコールをあおっていないのにグワングワンと気持ちよくなり、合法的にトリップをしている自分に気づく。

ヘルシンキが織りなす色彩豊かでサイケデリックなサウンドを堪能していると、再び橋本がマイクを握る。「ついこの間、新曲を出したのでそれをやりたいと思います。皆さんの冬に寄り添える曲になれば良いなと思っています」と言って3ヶ月連続配信シングル第二弾「ベニエ」を披露。<二人だけの秘密 ベニエ 昔約束した海辺>と静かな橋本の演奏と歌い出しから始まり、バンドインすることによって「長いトンネルを抜けると雪国であった」ように、楽曲が描く情景がどんどん広がって、ハッキリと輪郭を帯びていく。

会場の空気をしっとりと色付けたところで、「Good News Is Bad News」のHIPな音で再び観客の体を揺らす。「大阪と名古屋のライブで、僕は小池貞利という男に度々サプライズを受けて。嬉しかったり、サプライズを受け過ぎて心が疲弊したりもしたんですけど、沢山そういう驚きを与えてくれたんですよ。なので、僕らも一矢報いようかなと思いまして。さっきtetoの曲をカバーしたんですけど、急遽もう1曲やることにしました」と橋本の解説からもう一度tetoの楽曲を演奏。後で橋本に選曲した理由を聞いたところ「『ルサンチマン』は弾き語りでもやったことがあったんです。『あのトワイライト』に関しては、ヘルシンキの音に落とし込めるかなと思って選びました」と答えた。確かに、ヘルシンキ の鳴らす「あのトワイライト」はヘヴィなリフギター、タイトなベース、一定のリズムで1音1音を強く響かせるドラムと、原曲のアレンジとはガラッと変えて魅了した。

ライブは終盤を迎え、13曲目は稲葉と橋本のツインボーカル「ロックンロール・プランクスター」。2017年にドラマーが抜けて、サポートメンバーを入れるようになり、ギターの熊谷が加入するまでの間に、橋本の心は疲弊していたという。そして今のメンバーに定着して数々の困難を乗り越えてきたことで「この3人でやっていこう」と意識が芽生えた。そんな記念碑的な楽曲として「ロックンロール・プランクスター」を作った経緯がある。だからこそ、ヘルシンキの中でもバンド感の強いサウンドとなっていた。

最後はミラーボールが回る中、「宵山ミラーボール」で盛大なパーティを演出すると、会場全員の両手が上がった。こうしてヘルシンキは有終の美を飾り幕を閉じた。

そしてトリを務めたのは、言わずもがなtetoである。
今年、彼らの活動を紹介する上で避けては通れないのが、7月2日にギターとドラムが脱退したことだ。一連の出来事についてtetoのマネージャー・白井裕二に話を聞いた。「ウソでしょ!と思いましたよ。
メンバーの脱退を聞いて驚いたものの、後日打ち合わせで会ったら小池はスッキリした表情を見せていたという。「“CDも出すし、ツアーもやるし、この先もずっとバンドを続ける”と言ってました。7月9日に大阪・心斎橋JANUSでPanorama Panama Townと2マンがあったんですけど、メンバーが抜けたから弾き語りで出演する予定だったんですね。そしたら小池くんが“yuccoを呼んだのでバンドで出る”と言って。急遽リハをして、すぐにライブっていう……あれは壮絶なスケジュールでしたね」。


yuccoにも事の経緯を教えてもらった。
「2(yuccoが在籍していたバンド)を抜けてから地元・北海道の知床に戻っていたんです。そしたら小池さんから電話がかかってきて“5日後に大阪でライブがあるんだけど叩かない? 叩いたら面白くない?”って」。突然の誘いに対して「確かに面白い!と思ったんです。それですぐに東京へ帰って、3回スタジオに入りました」。プロのドラマーとはいえ、3日でライブ1本分の曲を覚えられるものなのか。「いえ、いっぱいいっぱいでしたよ! もう音楽を辞めようと思っていたし、4ヶ月くらいドラムを触ってなかったので(笑)。そこからが怒涛でしたね」。


その後、tetoはサポートメンバーを入れて47都道府県ツアー「日ノ出行脚」を敢行。Zepp DiverCity Tokyoで行なったツアーファイナルでは、ドラムにyucco、ギターにヨウヘイギマ(ヤングオオハラ)、熊谷太起(Helsinki Lambda Club)の編成で演奏をした。この日も、ギマを沖縄から呼んで5人でライブに臨んだ。
開演時間になると、まずは楽器隊の4人がステージに登場して「ルサンチマン」を始めた。すると袖から小池が走ってきて、その勢いのまま歌唱。続けて「36.4」、「とめられない」を披露。ステージを観て最初に感じたのが、楽曲の表現力と歌唱力が大幅にパワーアップしていることだった。開演前に佐藤健一郎が「今回のツアーは、ライブをやる度に更新してるんです」と言っていたが、その実感は過信ではなく確かに表れている。

「ヘルシンキがやってくれた『あのトワイライト』は大変感動しました! だから、こっちもカバーで1曲返事を」という小池のMCから「シンセミア」へ。改めて両者のカバー曲を聴いて思うのは、ヘルシンキはどんな楽曲も知的でタイトに仕上げるのに対して、tetoはすべてを激情的に変えていく。「シンセミア」にしても小池が歌うことで、新しい楽曲になっていた。

小池はギターを手にして「メアリー、無理しないで」で、さらにパフォーマンスの爆発力を加速させていく。「遊泳地」の浮遊感がある雰囲気から、ラストサビで息を呑むほどの畳みかけるパフォーマンスも圧倒的だった。

「実は、もう1曲カバーがあって。最新のヘルシンキももちろん最高にカッコイイんだけども、昔の薫じゃないと作れないであろう曲を聴いて、それが毎回グッと来て。個人的な話をさせてもらうと……」と小池が神妙な顔を浮かべて話し始めた。

ある日、小池の同級生がAVに出ていたことを先輩づてに聞かされた。作品を観ると本番シーンが終わった後に、彼女は大泣きしていたそうだ。テロップには「気持ち良過ぎて、快楽のあまり泣いてしまったようだ」と表示されていた。しかし、小池は否定する。「そんなことは絶対にあり得なくて。その子は当時25、6歳だったんだけど、その言葉にできない25、6年の思いが渦巻いて泣いたんだと俺は思った。快楽で泣いたなんて、そういう安っぽい演出なんかしょうもない。クソ喰らえと思う。きっと今日ここに来てくれた人もヘルシンキも、そういうものが嫌いで。言葉にできないけどグッとくるものを探して、時には間違えて、時には自分が傷ついて他人も傷つけちゃった時が絶対にあって。俺は当時のヘルシンキの曲を聴くと、そういう気持ちが蘇る。そんな曲のカバーを……」と言って「チョコレィト」を歌った。<昔の事とか考えちゃうよな 勝手に傷ついたり傷付けたり><間違わないやつなんて人間じゃない 見過ごしてもけっこう ただ大切なのは 今僕がどうするかってこと>。小池の弾き語りから4人の演奏が重なり、5つの魂が1つの塊となって強大なエネルギーを飛ばしている感じがした。

この日、他にも印象的だったのは「invisible」だ。サビで<焦がれる程に恋してみたい! 溢れる程に愛してみたい!>と声高らかに歌った時、その音は会場の天井をぶち破ってズバンと空へ打ち上げられるような……圧巻のパワーがあった。まさに、渾然一体となった演奏に心を掴まれた。

「ありがとう! tetoでした」と言って、ラストは「あのトワイライト」で本編を締めくくると、すぐにフロアからアンコールの拍手が起こった。再びtetoがステージに表れるや否や、ヘルシンキの「宵山ミラーボール」を披露。続いて「高層ビルと人工衛星」の1番を歌うと、小池が「内緒でここに稲葉と薫を呼んでくるから、来たら盛大な拍手を」と言って、ステージ袖へはけた。数十秒後、困惑しながら現れた2人。稲葉はタンバリン、橋本はギターを手にして7人で演奏を始めた。佐藤と稲葉が、橋本とギマがそれぞれ1本のマイクを間に挟んで笑顔で歌っている。tetoのステージでこんな多幸感を味わうなんて予想もしなかった……。

ーー終演後、誰もいないスタッフ用の控室にいると、小池がやってきて「ライブ良かったでしょ!」と笑顔で話しかけてきた。「本当に! アンコールも良かったです。プロミュージシャンの文化祭って感じがして」「そうそう!」と談笑した。そして喫煙所へ行き「昔のtetoだったら、エモーショナルな雰囲気のままライブを締めていましたよね?」と聞くと小池が頷いた。「そうですね! やっと次のフェーズに行けた感じがする。昔はどんなに良いライブをしても、終わった直後は憂鬱になって、もうライブをやりたくないと思ってた。今はそれがないから、めちゃくちゃ楽しいですね!」。楽しかった。もうそれだけで充分だ。2人の吐くタバコの煙がふわふわと冬の夜空に溶けていくのを、僕はいつまでも眺めていた。

文:真貝聡 写真:小杉歩

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