新たな “シティ・ポップ” を表現した意欲作
土岐麻子『PINK』インタビュー
土岐麻子『PINK』インタビュー
2017/03/10
土岐麻子が“シティ・ポップ” をテーマに掲げた最新アルバム『PINK』をリリースした。本作は、サウンドプロデューサーにトオミヨウを迎え、デジタル感のある都会的なサウンドとフィジカルかつ柔らかな土岐の歌声が融合した新境地的な作品に仕上がっている。ここでは、トオミヨウとのやりとりやレコーディングの様子を交えつつ、土岐ならではの “シティ・ポップ観” を存分に語ってもらった。
取材:布施雄一郎
──最新作『PINK』をリリースして約一ヶ月経ちましたが、たくさんのリスナーからの反響の届いていると思います。あらためて、新作の手応えをどのように感じていますか?
土岐:私自身、今回のアルバムを会心作だと思って作り終えたんですけど、これまでとは違ったサウンドということもあって、正直、みなさんにどう受け取られのるか分からなかったんです。それでも、ファンの方はもちろん、これまで土岐麻子を聴いてこなかったという方からも「このアルバムは良い」といった声をたくさんいただけて、過去最高の反応に、とても嬉しく思っています。
──サウンド・プロデューサーにトオミヨウさんを迎え、DJ G.RINAさんが作曲を手がけるなど、今までとはサウンド的にも大きく変わりましたね。
土岐:リスナーの皆さんがどういう音楽を聴きたいのか、それは人それぞれであって、考えても分からないことなので、私は私の物差しで、今、私が聴きたい音楽や自分が作りたいものを、自分が好きな人と一緒に作ろうと追求したんです。それが結果として年齢や世代を超えて多くの方に受け入れられたということは、とても嬉しかったですね。
──そこに土岐さんならではの “シティ・ポップ観” が凝縮されているように感じました。土岐さんは、改めてシティ・ポップとどのように向き合おうと考えたのでしょうか?
土岐: “シティ・ポップ” というものを、ちゃんと考えてみようと思った時に、今、自分が聴きたいもの、やりたいことに挑戦しなければ、それはシティ・ポップにならないという結論にたどり着いたんです。私は子どもの頃から、山下達郎さんや吉田美奈子さんといった、いわゆる “シティ・ポップ” を聴いて育ってきました。でもシティ・ポップって、いろんなミュージシャンの方がいて、サウンドもバラエティに富んでいて、ひと括りにはできないところがあるじゃないですか。
──確かにそうですね。
土岐:だから私は、本当のシティ・ポップって、サウンドのことではなく、「時代の開拓者」なんじゃないかと思っているんですね。「ポップの開拓者」と言ってもいいと思う。きっと当時、先人達がものすごい挑戦を重ねて築きあげた音楽であって、その姿勢こそが “シティ・ポップ” であって、私もそこを目指したいと思ったんです。だから『PINK』のサウンドは、一般的に言われるシティ・ポップ・サウンドとは違います。でも、私が好きなシティ・ポップの方々に対するリスペクトの表し方としては間違っていない、そう思いながら作っていきました。
──土岐さんがトオミヨウさんをサウンド・プロデューサーに迎えたきっかけは?
土岐:トオミさんにはこれまでの作品でも曲単位で作曲やアレンジをお願いしたことがあったんですが、今、お話をしたシティ・ポップ、つまり “街の音楽” を作ろうと考えた時に、私が抱く都会感と、トオミさんのサウンドが一致したんです。どこか乾いているんだけど、湿度があったり、孤独感があって、でも優しさを感じる。そういった音作りが、私が歌詞で表したい世界と合うはずだと感じて、お願いしました。
──オファーした時はどんなお話をされたのでしょうか?
土岐:たまたまその時、私はファンク・ストラング(ドイツのエレクトロニック・デュオ)をよく聴いていたんですが、トオミさんから「マイケル・ファケッシュ(ファンク・ストラングのメンバー)みたいな雰囲気とかどうですか?」と言われて。聴いている音楽も同じで、そうした面でも通じ合えると思って、サウンド面ではトオミさんにお任せしました。
──具体的には、トオミヨウさんとどのようなやり取りをして、曲を作っていったのですか?
土岐:まずはシティ・ポップとか、そういったことはあまり考えずに、冒険でもいいので、トオミさんがやってみたいことに挑戦してくださいとお願いをしました。そうしたらすぐに3曲のデモを作ってくれたんです。それを聴いて、すごく面白いアルバムが作れそうだと感じたので、その後は私が書いた歌詞を主体に、ポップス寄りに作ってもらったらどうなるかなといった感じて進めていきました。
──3曲のデモから進めたのはどの曲でしょうか?
土岐:「PINK」と「Fancy Time」、「Peppermint Town」の3曲です。その後に詞先行で作ったのが、「脂肪」、「Rain Dancer」、「SPUR」などですね。そうやって、アルバムの全体像が見えてから、こんな要素も欲しいねということで、アカペラの「City Lights」などを作っていきました。
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