ヘッドホン単体でも価格に見合ったハイグレード
注目のEXOFIELD搭載ヘッドホン再生パッケージ「WiZMUSIC30」の実力を徹底検証!
注目のEXOFIELD搭載ヘッドホン再生パッケージ「WiZMUSIC30」の実力を徹底検証!
2017/08/23
ヘッドホン再生の宿命的な課題とされてきた再生音場の不自然さを解決したことで注目を集めるJVCケンウッドの “ EXOFIELD(エクソフィールド)技術 ”。この独自技術を搭載した音場特性カスタムサービス「WiZMUSIC(ウィズミュージック)」には、90万円のプレミアムパッケージと30万円のスタンダードパッケージの2種類のパッケージが用意されている。価格差は約3倍も開いているが、基本となるヘッドホン本体部分はいずれも同じ。今回は、この「WiZMUISIC30」にフォーカスして、特に中核となるヘッドホンユニットを中心に、WiZMUSIC30の音楽再生能力を徹底検証してみた。
取材/文:野村ケンジ
ヘッドホンの革命児 WiZMUSIC のスタンダードモデル
再始動した “ビクター”オーディオブランドのフラッグシップモデルであり、同時にヘッドホンでありながらスピーカーと全く同じ音場定位を実現する「EXOFIELD」技術を盛り込んだ「WiZMUISIC」。なかでも、ビクタースタジオ「EX Room」を実際に訪れて精密に音響特性を測定し、全く同じサウンドを作り上げてくれる「WiZMUISIC90」は、“スタジオの音を持ち帰ることができる”プレミアム感も含め、大いに注目を集めている。
▲今回の取材場所JVCマスタリングセンター赤坂の2スタジオ。WiZMUSIC30の購入者には、幾多の楽曲のレコーディングが行なわれてきたこの部屋の音場が提供される
いっぽうで、「WiZMUISIC」にはスタンダードモデルとして「WiZMUISIC30」も存在する。こちら、ビクタースタジオ「EX Room」での調整ではなく、付属するポータブルアンプなども異なっているが、ヘッドホン自体は同じもので、オペレーターが精密な音響測定を行ってくれるのも変わらない。それでいて、パッケージの価格は1/3程度に抑えられているというから、コストパフォーマンス的にも魅力的な製品に思えてくる。
ビクターブランド復活を象徴するこだわりの作り
まず、最大の注目といえるのが、「WiZMUISIC」サウンドの要といえる密閉型ヘッドホン「HA-WM90」だ。こちら、数々の希少パーツや、凝った作りを盛り込んだ、フラッグシップの名にふさわしいこだわりの製品となっているのだ。ハウジング部の素材には、北アメリカの冷えた水底に約160年間保存されていた無垢のメイプル材「アクアティンバー」をチョイス。同時に、ハウジングに直接ドライバーユニットを固定する「ダイレクト・マウント」方式を採用することで、不要な振動や共鳴を低減しつつも、「アクアティンバー」ならではの心地良い、美しい響きを活かすことができたという。
ドライバーユニットも「HA-WM90」専用のものが新開発されている。口径は40mmとオーソドックスといえるものだが、高磁束ネオジウムマグネットの採用によりワイドレンジ再生と高解像度を確保しつつ、振動板のセンター部分をより鋭角なカーブに仕上げることで、音の歪みを徹底的に排除。ピュアで上質なサウンドを楽しむことができるようになっている。
▲写真を拡大して見るとドライバーユニットの振動板の先端部が鋭角なカーブに仕上げられていることがわかる。これによって振動板の剛性が増し、信号に忠実な歪のない振動を実現できる
▲忠実な低音再生を実現するためにドライバーユニットの前面にかけられている不織布の素材や厚みについてまでカット&トライで様々なパターンを検討して決定
EXOFIELD技術を抜きにしても価格に見合った上質なサウンド
実は、今回の取材を通して、「HA-WM90」の開発エンジニアにも話を聞くことができたのだが、精密な音場調整を行う「WiZMUISIC」にとって、付帯音や歪みのないピュアなサウンドは重要なポイントとなるため、音の美しさと共に、音色や定位の正確さには相当なこだわりと作り込みを行っているという。実際、音質的にベストでありつつ(無垢の木材であるため)耐久性も確かなものを作り上げるために、ハウジング内部の構造は数え切れないほど様々なパターンを試作。ドライバーユニットの振動板形状も、様々なパターンを試してみたようだ。結果として、「EXOFIELD」技術抜きにしてもフラッグシップと呼ぶにふさわしい、上質なサウンドのヘッドホンが生まれることとなった。
▲希少なメイプル材「アクアティンバー」ならではの響きの良さを最大限に引き出すために、形状にも徹底的な検討が加えられたハウジング部の構造
WiZMUSICの心臓部 HA-WM90 ヘッドホン単独での音楽表現力を試す
スピーカーと全く同じ音場定位を実現する画期的なパッケージ「WiZMUSIC」(ウィズミュージック)。そのサウンドを実現するために、重要なポイントとなっているのがヘッドホン「HA-WM90」の存在だ。その実力の程を確認すべく、あえて「WiZMUSIC」のシステムは活用せず、ごく一般的なヘッドフォン・リスニング環境で試聴を行ってみた。
いやはや、その活き活きとした鳴りっぷりに、一聴で夢中になってしまった。音のキレが良く、しかも抑揚表現がとてもダイナミック。いっぽうで、無駄な付帯音は全くといっていいほど感じられず、歪みの押さえ込みも優秀。細かい演奏のニュアンスやホールの空間的な広がり感を、あまさず拾い上げて伝えてくれるのだ。この、奔放さと繊細さを併せ持つ、性格でありながらとても“気持ちいい”サウンドが、この「HA-WM90」の魅力と言っていいだろう。
WiZMUSICの心臓部とも言えるヘッドホンユニットの 「HA-WM90」。プレミアムパッケージ「WiZMUSIC90」だけでなく、スタンダードパッケージ「WiZMUSIC30」でも採用されている点にも注目だ
おかげで、アコースティック楽器などはとてもリアルで、聴き応えのある演奏を楽しませてくれる。ヴァイオリンはいつもより艶の乗った印象的な旋律を聴かせてくれるし、チェロはエネルギー感に溢れた低域の響きと明瞭な主旋律が交わり、堂々とした深みのある鳴りを披露する。ピアノの響きは主旋律重視ながらも高域の倍音のノリが素直なので、弾みのあるタッチの、活き活きとした演奏を聴かせてくれる。3重奏4重奏あたりのクラシックや、ジャスなどとは抜群の相性といえる。
いっぽうで、洋楽ロックやポップスを聴いても楽しい。女性ヴォーカルはほんの気持ちだけハスキーでリアルな歌声を目の前の至近距離で堂々と歌い上げてくれるし、ギターの響きもエフェクターの種類まで感じ取られそうな、音色が多彩でエネルギッシュなサウンドを聴かせてくれる。何よりも、ベースやバスドラムのキレの良さが溜まらない。バックが生演奏のハードロックなどを聴くと、グルーブ感の高さについつい聴き込んでしまう。特にライブ盤のアルバムがオススメだ。アース・ウインド & ファイヤーもTOTOもデュランデュランも全て良かった。
もちろん、Jポップも悪くない。ミックス&マスタリングの向き不向きはあるが、総じてヴォーカルがリアルに感じられ、わざわざ生ドラムを使いグルーブ感にこだわった演奏などは、思わず体が動き出してしまうほど、ノリの良さが存分に伝わってくる。
このように、「HA-WM90」は、「WiZMUSIC」の効果を確実に実現するべく基礎体力が高く、とてもストレートな表現のヘッドホンとして作り上げられているが、同時に、リアルで活き活きとしたサウンドを奏でてくれる、単体でも魅力的な製品となっている。この「HA-WM90」そのものが「WiZMUSIC」パッケージのもうひとつの魅力、と断言していいだろう。
音質だけでなく音楽に没頭できる装着感の心地良さにも注目
▲長時間装着しても疲労感を感じさせないために、使用素材、各素材の組み合わせ、それぞれの形状や感触などを徹底的に吟味したイヤーパッド
装着感の心地よさも「HA-WM90」ならではのアドバンテージといえる部分だ。新開発されたイヤーパッドの素材には、表皮に柔らかい合成皮革を、その内部に低反発ウレタンを採用。それほど厚みがなさそうに見えながらも、柔らかい、それでいて確かなフィット感によって長時間のリスニング時にも疲労感をあまり感じない。また、ヘッドバンドの裏側に人工皮革素材であるウルトラ・スエードを採用しているおかげで、バンド部分が(あるべき場所に)自然に落ち着いて固定されるため、聴いているうちにズレてしまい、都度修正するという煩雑さも生じることがなかった。こと装着感についても、フラッグシップらしい気遣いに溢れた製品となっている。
そして、もうひとつの嬉しいポイントが着脱式ケーブルの採用だ。ヘッドホンの場合、音切れトラブルの大半はケーブルやコネクタ部分の断線が原因となっている。長く使い続けたい製品だけに、手軽にケーブル交換できるのはありがたい限りだ。もちろん、市販の交換ケーブルを使って音の変化を積極的に楽しむこともできるが、スタジオモニターヘッドホンなどと同じく、基本的にはトラブル対策をメインと考えて良さそうだ。
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