“未来=Future” は「バンドであり続けること」
橘高文彦(筋肉少女帯)『Future!』インタビュー
橘高文彦(筋肉少女帯)『Future!』インタビュー
2017/11/06
──続いて11曲目の「T 2(タチムカウver.2)」についても教えてください。
橘高:まず、1997年にリリースしたアルバム『最後の聖戦』に「タチムカウ」という曲があるんです。その曲を「DDTプロレス」という団体に所属する入江茂弘選手が “勝手に” 自身の入場曲にしていたんです(笑)。
──プロレス選手の中にも筋少ファンがいたんですね。
橘高:本当に無断だったんですけど、筋少を好きでいてくれてることが嬉しくて。実際に「タチムカウ」を聴いてガムシャラに立ち向かっていってたと教えれくれたんです。それからは筋少のライブにも遊びにきてもらったりしたんですけど、去年の11月に我々の生演奏で入場するというイベントがありまして。そうしたら入江選手が「この試合に勝てば入場曲を作ってあげる」賞を作って(笑)。まぁ僕らも了承して、試合にも見事勝利して作ることになったんです。ただ、大槻君いわく「タチムカウ」は “負けると知ってて立ち向かう” という内容だったので、今回の「T 2(タチムカウver.2)」は “堂々と立ち向かう” という曲にしたかったそうです。
──確かに入場曲に合った楽曲だと感じました。
橘高:実は「オーケントレイン」も候補にあったんですけど、歌詞のない状態でのデモを聴いてもらったら、入江選手が「T 2(タチムカウver.2)」を選んだんです。元々はみんなで大合唱してライブで盛り上がる曲にしようと思っていて、これは頭の中でメンバーがライブをしている姿をイメージしながら作りました。提供が決まってからは「入場曲だからアリーナで選手がスポットライトを浴びながら登場するよな。そこにはお客さんもいっぱいいて“ウォウォウォー!” って歌って送り出す感じだな」という絵を想像しました。
──最初から冒頭は“ウォウォウォー!” にしようと決めてたんですか?
橘高:そうそう。ただ、それに対して “ドーン!” とかSE的なもの、シンセのループとかも足したけど、頭のパートは基本的にはプログレメタルな感覚かな。昔の『サスペリア』とか恐怖映画にかかっているような、ちょっとシンコペーションしているというか。マテリアルがループしているようなのをイメージして “バーン!” と派手に始まるというのかな。そこにSEをつけて入場っぽく仕上げました。真ん中のパートで復活しているようなプログレッシブロックの解釈は元々筋少にはあるんだけど。それが今回大人数で歌い上げたのは新機軸だったね。
──作り上げた順番としてはイントロから順番に?
橘高:これもそうですね。俺の中でのアリーナロックになりました。
──先ほど橘高さんは曲作りの際にギターを持たないということでしたが。
橘高:うん。俺は「頭の中に曲が降りてきたから今後のために録っておこう!」じゃなくて。「さぁ、今から曲を作ります」って歩きながら待つ人なの(笑)。そもそも俺は逆算する人間で、リリース日が決まったらレコーディングのスケジュールを段取りして、「納品日はこの日だからここまでに曲を作らないと」ってスケジューリングするんです。その間ずーっと何もしないで降りてくるまで待ち続ける、みたいな。だから怖いんです、曲書けなくて締め切りの日がきたらどうしようと。そのドキドキを30年以上過ごしている(笑)。各メンバーで曲出しが終わったら一旦「はーっ」って安堵する。「今回もまずはマテリアルが揃ったな」って。
──普段どのくらいの曲が集まるんですか?
橘高:今回のアルバムには大槻君の曲は入っていないけど、筋少は4人共ソングライティングができるので収録数の倍ぐらいは集まるかな。別に1人何曲以上作るっていう決まりもないんだけど、各自が思う「次の筋少はこれだ!」っていう曲を持ってくるよ。そこからストーリテラーである大槻君が作詞家の観点で選曲をする。だから「あの曲入れてくれなかったんだ」と思うこともありますよ(笑)。それぞれに投げてイニシアチブを回収するという作業が多いバンドだね。
──橘高さんの楽曲が選ばれることは多いんですか?
橘高:正直、俺はボツ曲というのが少なくて。ちょっと俯瞰しちゃっているんだけど、筋少においては「ここで橘高のこんな曲が必要だろ」って考えながら作ってるかな。だから作る数も少ないです。逆に本城君は一番曲を作ってくるんですが、それは彼の音楽の幅が広いからこそ数に比例してくるんだと思います。筋少はそれぞれ得意なことを集めてここまでやってきたバンドなので上手くバランスが取れてるんじゃないかと。
──9曲目の「奇術師」についてもお聞きします。この曲インスト曲ですね。
橘高:筋少は昔から映画『ひまわり』だったり、映画音楽のカバーをやってきているんです。他にも初回盤に付属するBlu-ray/DVDのライブ映像にも収録されている「Go! Go! Go! Hiking Bus」というのは、2006年の『007 カジノ・ロワイヤル』のカバーだったり。そういった流れがあったんですが、今回俺の中でオリジナル映画の音楽が降りてきたの。だから当初は歌モノにするはずで。ただ、実在する映画音楽を大槻ケンヂが歌うと面白いけど、オリジナルだと違うかなと。そこで「インストっぽいからインストにすれば?」という意見に対して「確かにな」と。
──メロはそのまま生かして制作されたんですか?
橘高:Aメロはそのままのメロにしてるんだけど、歌モノらしいサビの部分を削ったりして、インスト用に作り直した状態になっています。でも最初にあった映画音楽というのは頭の中に残して仕上げました。
──確かに歌モノでもおかしくない楽曲ですね。
橘高:逆にいうと「エニグマ」は元々インストだったんだけど、それをもっと混沌としてプログレハードロックな曲に仕上がって。それで「筋少らしくて面白いんじゃないか」って歌を入れてみたりしています。今回は制作段階で変換されることが特に多かったね。
──これまでのアルバムには映画のカバーが収録されていたわけですが、今回収録されなかった理由は?
橘高:権利問題とかもあるんだけど、それ以前に今回のアルバムにカバーを入れるのは違うんじゃないかなと。そうしたら『最後の聖戦』より後のアルバムはカバーもしくはセルフカバーを入れていたことがわかって。その時点で『Future!』というタイトルは決まっていたので「じゃあ未来に向けて仕切り直すということで良いんじゃない?」という意見になりまして。「わかった、じゃあ堂々とそうしよう」と(笑)。今までもカバーをメインではなく、色彩の中にある一つのフックとして扱っていたので、カバーではなくオリジナルで十分フックになる自信もありました。
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