ー恐怖サウンドを作る職人を直撃ー
Native Instruments「REMM」が曲作りに大貢献! 『バイオハザード7』のサウンドチームが語る効果音&楽曲制作エピソード
Native Instruments「REMM」が曲作りに大貢献! 『バイオハザード7』のサウンドチームが語る効果音&楽曲制作エピソード
2017/12/22
国内外問わず熱烈なファンを抱え、今や恐怖ゲームの代名詞とも呼べる存在の『バイオハザード』。その新作となる『バイオハザード7 レジデント イービル』が今月14日にリリースされた。今回、TuneGate編集部では、本作をサウンド面から支えるサウンドデザイナーの宇佐美さん、コンポーザーの森本さん、オーディオディレクターの鉢迫さんという3名に話を聞くことができた。恐怖心を巧みに操るサウンドのプロ達は、はたしてどのようなツールを用いて『バイオハザード7 レジデント イービル』を作り上げたのか!? ゲームのファンはもちろん、ゲーム制作に興味のあるサウンドクリエイターも必見のインタビューだ。
取材:東 哲哉(編集部)
宇佐美:プロジェクトによっても変わるのですが、まずサウンド全体のことを見るオーディオディレクターが1名、サウンドデザイナーが6〜7名、ボイスの編集を行なう人が1名、コンポーザー(作曲家)が3名、ゲームに実装するためのツールやインフラを担当するサウンドプログラマーが2名、ミキシングエンジニアが1名、そして、外注の管理を行なうサウンドマネージャーが1名おります。したがって、その他諸々入れて大体20人前後だったと思います。
——こちらには外国のスタッフも含まれているのでしょうか?
宇佐美:いえ、社外のスタッフは外注委託先という形で携わって頂いているので、この中には含んでいません。社外の方を含めると、もっとたくさんの方がチームに参加していると言えます。
——では、各担当の具体的な役割についてですが、宇佐美さんが担当されるサウンドデザイナーというのは?
宇佐美:ちょっとカプコン用語になってしまいますが、僕が担当するのは「プロップ」とか「ギミック」と呼ばれるゲーム内の小道具やアイテムの効果音制作になります。『バイオハザード7』では、ドアや小さい花瓶、冷蔵庫など、ものすごく多くの小物や日用品が出てくるのですが、そういった日用品に近いものを「プロップ」、どちらかというと日常にはなくて、ゲームの演出やからくり、仕掛けが動くときに使う音を「ギミック」と呼んでいて、それらの制作と実装を行なっています。また、それと並行して、環境音の制作や僕らがレベルデザインSEと呼んでいるびっくり音の制作、実装も行なっています。
——「プロップ」や「ギミック」は、どのような場所で収録されているのですか?
宇佐美:場所は大きく2つありまして、1つは東宝ポストプロダクションセンターのフォーリーステージ、そしてもう1つは弊社のカプコン・フォーリーステージになります。そこへ、自然界にあるというか、リアルに日用品などの部材を持ち込んで。実際に音を鳴らしてマイクで拾ってProToolsに録音していきます。マイクでよく使ったのがAKGのC414とゼンハイザー416、その他にSCHOEPSのマイクも使いました。
——マイクはどのように立てるのですか?
宇佐美:演技をして音を録るときは、基本的に2つ以上のマイクを並べて録っています。その際に近い音、輪郭、ディテールのくっきりした音を録るために立てたのがゼンハイザーの416で、ちょっと位置を離して録っていたのがAKG C414になります。C414は空気感やその雰囲気を面で録れる感じです。で、SCHOEPSは416の代わりに立てることがありましたが、最終的にC414と416の2つをミックスして使うことが多かったと思います。
——ProToolsにレコーディングする時は、エフェクトなどはかけるのですか?
宇佐美:コンプレッサーぐらいです。一番気になるのはリバーブだと思うのですが、これはゲームの中で動的にかけています。なので、フォーリー録音(演技をして音を録る手法の呼び名)の際にはリバーブなどはかけていません。ゲームでは、プレイヤーが色々なシーンや部屋の中に入るので、その都度効果を変えているんですね。なので収録するときは原音に忠実な、なるべくドライなものにしておきます。
——今回の『バイオハザード7』のために、どのくらいの数の効果音を収録したのでしょうか?
宇佐美:水滴やカビがボトボトと落ちる環境音なども含めて、全部で700を超えるくらい録りました。
——続いて、森本さんにお伺いします。森本さんはコンポーザーという肩書きですよね。
森本:はい、ただ作曲だけではなくて、ゲームの中で音楽をどういったタイミングで鳴らし始めるか、そういった音楽演出の設計やフロー(工程)を考えたり、ゲームへの実装もしています。
——今回のゲームでは何曲くらい作曲されたのですか?
森本:本編に関しては80曲くらいです。
——80曲というのは、平均何分くらいの尺で?
森本:曲によって違うんですけど、だいたい1分半から2分くらいです。楽曲は基本的にループになるので、あまり短過ぎてもいけないのですが、戦闘シーンに代表されるようなプレイ時間が長くなるところでは、曲に展開を持たせている分、尺が長くなる傾向があります。
——作曲する際のツールはどのようなものを?
森本:メインDAWはCubase Proを使っており、音色を作る部分はNative Instruments「KONTAKT」用に自社で開発した「REMM」というツールを使いました。また、エフェクトではSoundtoysの「EchoBoy」や「Crystallizer」、あとNomad Factory「MAGNETIC II」も使いました。「MAGNETIC II」は音色単体にかけることもあるのですが、ゲーム全体の音楽の質感を合わせるためにマスターにかけることも多かったです。
——自社で開発されたという「REMM」が興味深いのですが、詳しく教えていただけますか?
森本:簡潔に言うと、『バイオハザード7』の音楽制作における音色を作るツールになります。「KONTAKT」で起動するフォーマットに我々がカスタマイズして使用しています。
——「REMM」を開発しようと発案されたのは森本さんですか?
森本:そうです。ただ、「REMM」の開発自体は外注にお願いしまして、最終的には外注先の方のアイディアも加わっています。
——そもそも「REMM」という名前の由来は?
森本:今回『バイオハザード7』のサブタイトルが「resident evil」で、バイオハザード7用の音楽ツールという意味から「Resident Evil Music Module」と名付けました。REMMとはその頭文字を取った略称です。また、海外では『バイオハザード』は「Resident Evil」というタイトルになっています。
▲Cubase Pro上に起動しているのが「REMM」。「KONTAKT」フォーマットにカスタマイズされた『バイオハザード7』専用仕様だ。
——「REMM」を作ろうと思った理由について教えて下さい。
森本:まず、『バイオハザード7』の音楽をミュージック・コンクレート(※トーンベースによる作曲手法。楽譜では表現しきれない微妙な響きを持った音楽で、1964年の映画「怪談」などでも聴くことができる)という手法でやろうと決めまして、音色が非常に重要だというところに行き着いたんです。で、実際に「REMM」を開発する前に「KONTAKT」を用いて色々と検証していたのですが、サンプリングした音を加工するプロセスが非常に簡潔であることに魅力を感じていました。また、コンポーザー全員が「KONTAKT」を使っていたので、音色の共有がメンバー間で容易に出来る、ということもあり、『バイオハザード7』に特化した「REMM」を作ろうということになりました。
——作曲家の皆さんが「KONTAKT」をお持ちなんですね。
森本:そうですね。作曲の際に「KONTAKT」を使っているコンポーザーは多いです。「REMM」を作るにあたって、新しいサンプラーやソフトウェアを導入するのではなくて、使い慣れているものをより使いやすい状態にして作業できるメリットは大きかったと思います。
——では「REMM」で行なった音色作りについて具体的に教えて頂けますか?
森本:始めに、加工されてない状態の音をマッピングエディターを使って「REMM」に取り込みます。「REMM」にはアタックやディケイ、リリースといったノブやエフェクト、再生スピードを調整するためのパラメーターが用意されていて、それらを使って音を加工していきます。例えば、ベルの音を読み込んだとして、アタックを削ってちょっとアンビエンス感のある音色にしたりとか、再生スピードを落としてピッチを下げたりとか。また、「REMM」には3つのレイヤー機能が付いているので、例えば声の音とストリングスのクラスターの音色を混ぜ込んで使うこともありました。
——「REMM」では、どのようなエフェクトが搭載されているのですか?
森本:リバーブやフィルター、コンプなど、音を加工するための基本的なエフェクトが搭載されています。そして、これらのエフェクトは各レイヤーにそれぞれかけられるようになっていて、「MIX / FX」の項目で設定できる仕組みです。
——『バイオハザード7』での曲作りで心がけた点、こだわったところなどを教えて下さい。
森本:ゲーム中は、実際は音楽だけではなく、先ほどの「プロップ」や「環境音」といった効果音も鳴っていたり、声が入ったり、様々なシーンがあります。なので、まずはシーンごとに必要な音楽の姿をしっかりと考えて、例えば、メロディーを鳴らすか、それともドローンだけにするのか、そういったことを決めています。また、音階のない音楽で人はどのように感じるか、逆に音階のある音楽で人はどのように感じるか、さらに不協和音のような音楽から音階のある綺麗な音楽に移行する変わり目で人はどのように感じるのか。そういったところにも意識を向けて作曲していきました。
——森本さんは「REMM」以外にも今回の『バイオハザード7』でNative Instrumentsの製品を使うことはあったのですか?
森本:はい。KOMPLETEに入っている「THE GIANT」というピアノ音源を使いました。「THE GIANT」にはヒット系の音色だったり、不協和音の音色だったり、弦をキリキリと何かで擦っているような音色など、たくさんのユニークな音色が入っているのですが、今回敵キャラのマーガレットの楽曲はこれらの音色を主に使用して作っています。また、ゲームのトレーラーには「MASSIVE」の音なども使うことがありますね。
▲マーガレットの楽曲に使用したという「ABSYNTH」
——「MASSIVE」ではどのような音色を?
森本:基本的にはアタックが強くキャッチーな音が多いので、そういった音をテロップが流れるときなどに使っています。
▲存在感のあるリード系の音色に定評のある「MASSIVE」
——ソフト音源は世の中にたくさんあるわけですが、Native Instrumentsの製品の特徴はどこにあると思いますか?
森本:まずNative Instrumentsの製品は音も良いですし、非常に動作が軽いのも魅力的です。実際、作曲をするときは音色を選ぶという行為にも時間がかかるのですが、Native Instrumentsの製品はユーザーインターフェイスが優れているので目的の音色にたどり着きやすい。あと、僕らが求める音色は多岐にわたっているのですが、Native Instrumentsの製品はジャンルの幅が広くて、かなり網羅されている印象があります。とても扱いやすいです。
——では、オーディオディレクターの鉢迫さんにお伺いします。そもそも、オーディオディレクターというお仕事とは?
鉢迫:ゲームの音全般に関わるディレクションという役目になります。なので、どういう方向性でゲームのサウンドデザインをするか、声の演出をするか、また音楽を作るかなどを指示したり、それをメンバーと一緒に作っていくこともあります。ゲーム開発には、ゲーム自体の面白さやあり方を考えるゲームディレクターという役職もあるのですが、そういった人たちとも協議しながらより良いものを目指していきます。
——ということは、鉢迫さんは宇佐美さんや森本さんと一緒に作業されることも多いわけですね。
鉢迫:はい。
——鉢迫さんもNative Instrumentsの製品をよく使われるのですか?
鉢迫:そうですね。今回の『バイオハザード7』で言えば、主人公がアイテムとして持っているコデックス(時計型の通信機)の着信音や発信音を「ABSYNTH」で作りました。
——「ABSYNTH」を使われた理由というのは?
鉢迫:「ABSYNTH」はモジュラー型と呼ばれるシンセサイザーだ思うのですが、例えば、オシレーター機能、フィルター機能、グラニュラー機能などを自由に組み合わせられるんですね。しかも、自分の好きな元波形をライブラリから呼び出したり、自分で作り出すこともできるんです。僕は若干凝り性なところもあって、そういった部分がとても気に入って昔から使っています。
——コデックスの音は具体的には「ABSYNTH」でどのように作られたのですか?
鉢迫:もともとあるプリセットに対して、後からグラニュラーやフィルター、クラウド、ウェイブシェイプなどを駆使して音を作っていきました。波形自体を少し変調させて、ちょっとフェイズがかかったような「ワウワウワウ〜」というような音を作って、それが着信音や発信音のSEになっています。
▲コデックスの音を作る際に使用されたという「ABSYNTH」
——さて、鉢迫さんは今回の『バイオハザード7』ではサウンドチームのリーダー的な役割をされていると思いますが、プレイヤーにはどのような点を楽しんでもらいたいですか?
鉢迫:まずは僕らがコンセプトとして掲げた「聴き取る恐怖」という部分で、色々と細かいところを観察してもらいたいですね。そうすると、色々な音が聴こえてくると思います。環境音にしても、1つ1つのプロップの音にしても、キャラクターの足音にしてもすごくリアリティーのある音色で作っているので、そこにぜひ注目していただきたいです。で、細かいところに注目してもらうと、一層恐怖心だったり、サバイバル感が増して、より楽しんでもらえると思います。
——宇佐美さんはいかがですか?
宇佐美:そうですね。鉢迫が話した通り、本当に色々と細かいところにまで音を付けているんです。深く見て頂くと「まぁ〜、細かいことしているなぁ」という印象を持って頂けると思います。ただ、意味のない音はなるべく鳴らさず、例えば、何かが起きる前にさりげなく音が聴こえたりします。そういった音を、僕だけでなく、森本、鉢迫、サウンドスタッフみんなで考えて作り上げました。VRでやってもらえれば、とにかく怖さは保証できるかなと。
鉢迫:ヘッドホンでやると、バーチャルサラウンドで楽しめますし。
——音が立体的になると、より恐怖感が増しそうですね。
宇佐美:はい。ヘッドホンではありますが、バーチャルサラウンドなのでかなり面白いと思います。ぜひ、そういった環境でもプレイしてもらえればと思います。
Native Instruments オススメのホラー音源「THRILL」
「THRILL」は前述の「THE GIANT」や、映画音楽などで多用されている「RISE&HIT」などを手がけたGalaxy Instrumentsと共同開発されたホラー音源。ソフト内のX-Yコントロールを操作するだけで、いとも簡単に恐怖感をあおるサウンドを作ることができる。
★詳しくはこちらをチェック!
Native Instruments オフィシャルサイト
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