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「nana やってみたらこんなに楽しかった!」古参ユーザー 藤本勝久インタビュー
「nana やってみたらこんなに楽しかった!」古参ユーザー 藤本勝久インタビュー
2018/03/22
ユーザー数が500万人を突破し、音楽系のSNSアプリとして若者から絶大な人気を誇る「nana」。そんな「nana」のイベントを取材したときに出会ったのが、島村楽器の藤本さんでした。若者に交じってギターを楽しそうに弾く藤本さんは、島村楽器としてもブースを出展していたので、てっきりお仕事かと思いきや「ぼく個人的に昔からnanaユーザーなんですよ!」とのこと。「nana」をレコーダー代わりとして使い始め、そこで「コラボ」の魅力にはまり込んだそうです。ここでは「nana」黎明期からの古参ユーザーである藤本さんと、株式会社nana music マーケティング1部 マネージャーの小泉さんに、おじさんでもはまる「nana」の魅力をじっくりと聞いてみました。
取材:目黒真二/撮影:小貝和夫
■ nanaを始めたきっかけ
▲藤本勝久さん(島村楽器 商品開発課)
──藤本さんはどういう経緯で、nanaを始めたのでしょう。
藤本:知り合いから「こういうおもしろいアプリがあるんだけど」と教えてもらったんです。で、実際にやってみたんですよ。3コードのブルース進行と、ちょっとしたオリジナルを投稿してみました。その時は、「コラボしてみよう」というより、まずアプリ上でMTRみたいなことができるのかな、という手探り状態でした。
※nanaではオーバーダビングすることを「コラボ」と呼びます
──実際に録音してみたときはどうでしたか。
藤本:とにかくスマホだけで録音できる、というのが斬新でした。機材をセットして設定して、アンプにケーブルつなげて、マイク立てて・・・みたいなのが面倒じゃないですか。いちいちセットして、終わったら片付けて・・・やっぱり日本の住宅事情だと狭いから、出した機材をそのままにできないですからね。でも、これなら何かやろうかと思ったら、ただアプリを起動するだけで録音、そして投稿ができますから、作るモチベーションも保ったままにできますよね。
──投稿した反応は何かありましたか。
藤本:最初はアプリ上のMTRのつもりで、オリジナル曲のギターのコードバッキングを入れて、その上にまたギターをかぶせるつもりでいたんです。そしたら、いきなりボーカルの人が、僕の曲のコードバッキングに歌をかぶせてきたんです!
▼藤本さんが最初に投稿した音源
──というと、その方は藤本さんのオリジナル曲を知っていたんですか。
藤本:いえ、違うんです。そのコードバッキングを聴いて、その方が自分でメロディを当てはめてくれたんです。しかも、元々はインスト曲なのに歌詞まで作ってくれて。これには正直びっくりしましたね。その方のメロディは僕が考えていたメロディとは方向性が違っていたので、同じコード進行なのに人によって出て来るメロディって違うんだ、というのも興味深かったです。「これぞコラボの醍醐味だ」と思いました。
──それから楽しくなっていったと。
藤本:コラボの楽しみがわかってからは、積極的に他のユーザーさんとコラボするようになりました。すでにある伴奏の投稿にどんどんギターを重ねていく、という感じで仲間を増やしていきましたね。カバーだったらものすごくたくさんアップされていますから。僕、昔はほとんど洋楽しか聴かなかったんですが、nanaに投稿されているのは圧倒的に邦楽が多いので、おかげで邦楽も聴くようになりました。
──知らない曲でも、コラボしちゃうわけですね。
藤本:今はYouTubeで元の曲も確認できるし、コードも楽器.meとかのサイトにたくさん載っているので、それを見てパッと重ねちゃいますね。この気軽さがnanaの良いところだと。
▼藤本さんがコラボした音源
■ 投稿の方法とこだわり
──気軽に録音して投稿、ということですが、実際にはどうやって録音しているのですか。
藤本:最初のうちは、スマホのマイクに楽器を向けて録ってました。アコギならそのまま、エレキならパソコンとかのスピーカーに接続して、それにスマホのマイクを向けて、という感じですね。今のスマホのマイクは本当によくできているので、無造作に机に置いて録ってもそこそこの音で録れますよ。ただ、コラボしてもらって音が重なってくると、どうしても元の録音に入ってしまっているノイズが気になってくるわけですよ。なので、今では極力生活ノイズが入らないようにオーディオインターフェイスを使っています。
──ボーカルの場合にはどう録音すると良いのでしょうか。
藤本:歌っている人の投稿を聴くと、どうしてもマイクにベッタリと口を近づけて録っている人が多くて、ちょっと吹かれている(息継ぎのノイズが入っている)んですね。だから、ちょっと斜めから口元を狙うと良い感じで録れますね。
──nanaは投稿する曲の長さが90秒と決まっていますが、藤本さんの投稿をお聴きすると、その範囲内にぴったり収まっていますね。何かコツがあるのでしょうか。
藤本:時間が足りなくて途中で演奏が終わっちゃっている人もいるんですが、僕はそれが嫌なので、メトロノームを使ってまずワンコーラス弾いてみます。それで時間が余っていればイントロの長さを調整しつつ付け加えたり、テンポを調整したりしてほぼ90秒になるようにしています。あと、終わりもきちんと「ジャン」と収まりが良いようになるようにしています。だから、オフ会で会った人に「なんでいつもぴったりなんですか」と聞かれますね。まあ、そういうアレンジ的な作業も楽しいんですよ。それからメトロノームを使ってテンポがキープされていると、後から重ねる人もやりやすいんですよね。特に打楽器の人にとってはテンポが一定なことは重要ですからね。
■ nanaの広がりとその方向性
藤本:僕が参加した頃は、まだ本当に人数が少なくて、いったいこの先運営は大丈夫なのか、と思っていました(笑)。その頃はまだ年配の「楽器弾きたい」という層が中心でした。それから若い人たちの「カラオケ感覚」という層が入ってきて、今のような盛り上がりになっているんです。なので、今でもその2つの層というのがしっかりと存在していますね。nanaの良さって別にユーザー登録しなくても、ユーザーの人からURLを教えてもらえればその投稿を聴けるってことなんです。ユーザーじゃない友達に「ほら、こんなの歌ってみたから聞いてみて」みたいに。
小泉:現在では大多数が歌を投稿するユーザーさんで、これが藤本さんがおっしゃっている「カラオケ感覚」の方ではないかと思います。現在では他にもラジオドラマのようなことを楽しむ声劇や、DTMで作った打ち込みをアップする方など、当初はいなかったジャンルのユーザーさんもいらっしゃいますね。
──藤本さんはギターのセミナーなどでnanaの紹介をしているそうですが、お客さんの反応はいかがでしょう。
藤本:何度か紹介しているうちに気がついたんですが、なかなかnanaの良さが伝わらないんですね(笑)。僕が実際にその場で弾いて、投稿して、それに誰かが重ねてくる。でも「それがなに?」みたいな反応なんです。なので、僕が投稿してみるんじゃなくて、あるお客さんに実際にギターを弾いて投稿してもらったんですよ。もちろん練習もしていないから、上手い演奏ではなかったですけど。そしたらすぐに「素敵なギターですね」ってメッセージが入って。しかも高校生から。そこで初めて「こういうことなのか!」と感動してくれたんですよ。そこまでやってみないと、なかなかわからないですよね、楽しさが。それ以来、紹介するときには、「とにかく実際にやってみましょう」と提案することにしています。
小泉:nanaの楽しみの本質って、他の音源投稿サービスと異なっていて、コメントや拍手を通じて他のユーザーとつながる、「コミュニケーション」の部分にあるんです。投稿はきっかけで、その投稿した音が良かったり、良い演奏だったり、ぐっとくる歌だったりすると、リアクションが起こって、誰かとつながって。それを一度でも体験してしまうと、もうnanaにハマってしまうんです。なので、伝わりにくいんだと思います(苦笑)。
■ 試行錯誤も楽しい。とにかく実践してみよう。
小泉:もし録ってみて失敗したらやり直そうよ、というのが許される世界なので、あまり気にせずやってみてほしいですね。別にCD作るわけじゃなくて、遊び感覚でいいんです。たとえば、レベル設定に失敗して歪んじゃっても、ノリが良いからこのままで行こう、という場合もあれば、やっぱり録り直す、というのもあってもいいんですよ。試行錯誤しながらも投稿して、その過程さえも楽しんでほしいです。
藤本:そうそう、テイク機能もあるので、録音してから投稿するか判断する、というのもありです。僕も夢中になって夜中中やってんですよ。何度もやり直しちゃう。面白いんだもん。録っちゃってから、どれをとっておくのかが選択できるので、やっぱりうまくいくまで何度もトライしちゃいますよね。
──そうわかると、投稿への敷居が少し低く感じますね。
藤本:僕がよくやるのは、わざとあまりしっかりとしていない演奏を見つけてコラボするんです。完成された打ち込み曲とか、かなりうまい人の演奏よりも、そういう人間らしさが表れているような演奏に、そしてなんとか投稿できるまで頑張りました、という演奏に自分の演奏を加えてなんとか曲として向上させられるか、というチャレンジですね。僕以外でも、それを楽しみにしているユーザーさんがけっこういるので、勇気を持って投稿してみてほしいです。
小泉:僕が投稿するときには、わざとギター入れないんです。するといろいろな人たち、ジャンルや聴いている音楽が違う人たちがそれぞれスタイルの違うギターを入れてくる。だから、曲が広がってきて楽しいんです。本気の打ち込みだとそうも行かないんですけど、ほら、ギターの打ち込みってめんどくさいじゃないですか(笑)。nanaだと、めんどくさいからいっか!が許してもらえる上に、そのギター無し音源にコラボしてくれる人も出てくるという。なんともお気軽に楽しめる世界なんですよ。
▼小泉さんがコラボした音源
藤本:nanaの良さは枝分かれしていくことなんです。ある投稿に誰かがギターを入れたら、そこで終わりじゃなくて、自分だったらこういうのを入れる、というようにバージョン違いがどんどんできあがっていくことなんです。その良し悪しとかじゃなくて、音楽が広がっていくこと、それがnanaのコンセプトでもあるんじゃないですかね。
──リアルなバンド活動では味わえない広がりですね。
藤本:もし同じことをリアルでやろうとしたら大変なことですよね。メンバーのスケジュールを合わせてスタジオを予約して、あるメンバーは北海道、あるメンバーは沖縄からやってくる、なんてね。それがWeb上でだからこそできる。しかも無料ですからね。
小泉:リアルな世界だと、いろいろとしがらみとか利害関係がありますから、なかなかバンドもうまくやっていけないというのもありますからね。
藤本:それから、こういうネット上のコラボだと、バイオリンとか口笛、篠笛、ブルースハープなど、なかなか周りにいない楽器の人たちが参加してくれて曲の雰囲気が変わるのも楽しいです。自分が最初に投稿した演奏にいろいろな人が関わってできあがっていく。だから投稿したら終わり、じゃなくて、そこがスタートなんです。それがどこまで伸びていくかが楽しみなんです。
◉取材を終えて(目黒真二)
今回、取材へお伺いする前に、話題のnanaというものがどんなものなのかを確認するためにアプリをダウンロードしてユーザー登録をし、投稿されている作品を聴いて楽しんでいましたが、やはり自分の演奏を投稿するまでには至りませんでした。やはり「どうせ投稿するならちゃんと練習してから・・・」「下手な演奏を誰かに聞かせたくないし・・・」という思いが、自分の行動を止めていました。しかし、インタビューにあったように、完全なものを目指すより試行錯誤しながら、テイクを重ねながら、まずは参加してみるということに意味があるように感じました。これから頑張って投稿してみようと思います!
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