本間昭光とCHRYSANTHEMUM BRIDGE(保本真吾)が説くプロの心得

SONIC ACADEMY SALON特別セミナーをレポート!

SONIC ACADEMY SALON特別セミナーをレポート!

2018/05/26


ソニーミュージックが開設している「SONIC ACADEMY SALON」は、音楽業界の最先端を担うレーベルプロデューサーやクリエイター陣がメンターとして参加し、作曲、編曲、作詞、ボーカルディレクションなど、音楽制作におけるあらゆるテクニックを伝授してもらえる、アマチュア向けの会員制音楽制作コミュニケーションサロンです。今回は、3月8日にソニックアカデミーサロンの特別編としてソニーミュージックで開催された、本間昭光さんとプロデューサーユニット「CHRYSANTHEMUM BRIDGE」の保本真吾さんという2人の人気プロデューサーによる対談の模様をレポートします。

取材:目黒真二 写真:小貝和夫

※本コンテンツは音楽雑誌「サウンド・デザイナー」(2018年5月号)より抜粋したものです。詳しくは、http://www.sounddesigner.jp/をご覧ください。

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今回登壇した2人のプロデューサー、保本真吾氏(左)と本間昭光氏(右)。ソニックアカデミーサロン特別編は、保本氏自身が以前から個人的に本間氏にプロデュースに関する話を聞きたいと熱望して実現したものだ。このように、プロの話を目の前で聞く機会に立ち合えるのも、ソニックアカデミーサロンの魅力のひとつだ
 


槇原敬之さんは“アーティストはこうあるべき”というお手本です


今回のイベントは、本間昭光さんと保本真吾さんという、J-POPを代表する売れっ子プロデューサー2人の生のお話が聞けるとあり、開演前から会場は期待感と緊張感に包まれていました。そんな中、盛大な拍手に迎えられてお2人が登場。保本さんがホストとなり、本間さんに質問を投げかける形で進行しました。

まず最初は「音楽業界に入ったきっかけは?」というテーマからスタート。本間さんは、当初の目標を「アレンジャーになる」と決めていたそうですが、ハーフトーンミュージックへ所属して、武部聡志さんの元で学び、まずは現場で多くの経験を積むため、アイドルのバックバンドから「音楽の仕事」が始まったそうです。その現場では高い技術と知識が求められ、「フェンダーのローズピアノがあるだけのアパートで、ひたすら演奏の腕を磨いた」というエピソードを披露してくれました。

その後、ライブアレンジの仕事も増え、本間さんに「転機となったアーティストとの出会い」が訪れます。そのアーティストが槇原敬之さんだったそうです。本間さんは、自分とは違う槇原さんの物の考え方や見方にショックを受けたとか。
「彼は新しい情報に貪欲で、当時はまだインターネットの黎明期でしたが、海外のサイトにアクセスして情報を得ていました。“アーティストはこうあるべき”というお手本ですね。そして、彼はいつも“違う角度から見たり考えたらどうなるのか?”ということを意識していました。そんな彼の考えや姿勢がとても勉強になりました」と、クリエイターとして最も必要な探求心を学んだとのこと。 

続いて話題は「仕事の作り方」へ。保本さんの「本間さんはどのようにしてきましたか?」という質問に対し、当時“最終的にはプロデュースの仕事がやりたい”と思い始めていた本間さんは、周りに「サウンドプロデューサーになりたい!」と公言していたそうです。「仕事をもらう時にはもちろんですけど、逆に仕事を断る時にも、“実はやりたいのはプロデュースなので、今度そういう仕事があったらください”と言ったんです。そうすると、きちんと僕の言葉を覚えてくれている人がいて、何年か後にそういう仕事を回してくれたこともありました。だから、まずやりたいことをきちんと伝えることが大切です」という言葉に会場も納得。

それを受けて保本さんは、「僕はプレイヤーとして秀でていたわけではなかったので、バンドやスタジオミュージシャンになることもできずに相当悩みましたが、今はこういったサロンもあり、交流もできます。僕らのころはなかったので、ぜひ有効活用してほしいですね」とアドバイス。これらは参加した誰もが知りたい内容で、一瞬も聞き逃すまいと、皆が真剣な面持ちで2人の話に耳を傾けていました。
 

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会場となったソニー・ミュージックには数多くのクリエイターの卵達が訪れ、中にはノートにメモを取る人もいるなど、熱心に2人の言葉に聞き入っていた
 


ミックスでは0.1dBまでこだわった音作りが楽曲の良し悪しを決める


さらに、この世界で生き残っていくには、曲作りができるという以外に、アレンジやミキシングなど、曲をより良くしていく「プラスαの武器」を習得することも重要だと、保本さんがプロの心構えを話してくれました。
「例えば、ミックスでは0.1dBまでこだわって音作りをしていて、それが楽曲の良し悪しを決めるんです。そこまで意識して楽曲制作に取り組むことが大事だと思っています」という重いひと言に、参加者の多くが目を輝かせていました。

それに対して本間さんは、「アレンジ段階ではまったくコンプやEQをかけない状態で作っていくのが好きなんです」という話を披露。つまり、楽器本来の鳴りや奏法を理解して曲を作っていけば、ミックスでコンプやEQの調整が加わった時に、楽曲が破綻することがないという、経験者だからこそ言えるプロのこだわりに触れることができました。

そして、実際のプロデュースの話になり、かつて本間さんが作曲とプロデュースを手掛けたポルノグラフィティのデビュー曲「アポロ」の話題へ。この曲にはテレビ番組のタイアップの話が来ていたので、テレビ映えするようなわかりやすい楽曲が求められたそうです。
「バックバンドやアレンジの仕事をやって得たノウハウがあって、それを活かそうと思ったんです。そこで、メロディにペンタトニックスケールを使い、コード進行はAm→C7というシャレた雰囲気を取り入れていきました。さらに、岡野(昭仁/vo)くんの滑舌の良さとハイトーンを活かす譜割りとレンジにしたんです」。大ヒットした曲の制作秘話を聞きながら、参加者の中には「アポロ」のメロディを思わず口ずさむ人も。

最後に「未来の音楽シーンは?」というテーマで、トークはさらにヒートアップ。「今やミックスやマスタリングを自動でやってくれるソフトがあります。でも、そこへ至るまでのトラックメイクをいかにこだわるかで、同じソフトを使っても違いが出る。本質は自分自身にある!」と本間さんが語れば、保本さんが「自分もやっぱり人と同じことはやりたくないという信念があります」と返し、参加者は賛同の表情に。
実際はこのレポートでは書ききれないほど、豊富な体験を通して蓄積されたプロならではのノウハウが数多く知れる、貴重かつ濃厚な時間になりました。
 

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最後には質疑応答の時間も取られ、J-POPの編曲術や、ライバルと比較しての自分の強み、曲を何から作り始めるのかなど、様々な質問が2人に投げかけられた
 


出演者2人によるイベント後の感想


保本:僕はこのセミナーは2回目ですが、毎回参加者の皆さんの熱意に圧倒されます。参加された方にとって、本間さんの経験談はきっと役に立ったはずですし、僕自身もすごく参考になりました。とにかく「どうやったら自分の作品を世に出せるのか?」という目標を持って、考えて行動することが大切です。いつかこのサロンからアーティストが生まれて、僕や本間さんがプロデュースする日が来るのを楽しみにしています。

本間今はDAWを利用すれば、アイディアを具現化することが簡単にできますし、生き残るチャンスも増えています。その時に、こういうサロンを通じて志が同じ仲間が集まれば、刺激し合う環境が出来て、優れたものが生まれる可能性が高くなりますよね。でも、弱点を補い合うのではなくて、スペシャリストが互いに高め合うような場にしてほしいですね。何かを待っているだけじゃなくて、積極的にアプローチしてください。
 


出演者プロフィール

CHRYSANTHEMUM BRIDGE(保本真吾/ヤスモト シンゴ)

2001年August Flowerとの音楽プロデュースユニット「CHRYSANTHEMUM BRIDGE」として、ゆず、SEKAI NO OWARI、シナリオアート、Official髭男dism、andropなど数々のアーティストを手掛け、代名詞である「ファンタジーサウンド」を駆使して独自の世界観を構築し、アーティストの新たな魅力を引き出している。
 

本間昭光(ホンマ アキミツ)

1988年「マイカ音楽研究所」に入学し、松任谷正隆氏に師事。独自のポップセンスを活かしたプロデュースワークの実現を目指し、1996年には株式会社bluesofaを設立。いきものがかりやポルノグラフィティなどを手掛け、最近はアニメ「ヲタクに恋は難しい」の音楽や、「スカパー!音楽祭2018」の音楽監督を務めるなど、多岐に渡り活動中。


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