ボーカルのミックスが自動で行なえるプラグインが登場!

エンジニアと開発者が語る、アイゾトープ「Nectar 3」の使い方

エンジニアと開発者が語る、アイゾトープ「Nectar 3」の使い方

2019/07/12


アイゾトープのボーカル用プラグイン「Nectar 3」は、AIが自動でエフェクト処理を施してくれる「アシスタント機能」など、画期的な機能を多く搭載しています。同社の主任開発者であるダニエル・ゴンザレスさんと、槇原敬之さんの最新アルバム『Design & Reason』のエンジニアリングを手掛けた滝澤武士さん、エンジニアの石垣美隆さんに取材を行ない、製品の魅力について語ってもらいました。

文:サウンド・デザイナー編集部 写真:小貝和夫

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(L to R)
ダニエル・ゴンザレス(iZotope)


滝澤武士(タキザワ タケシ)
1991年に青葉台スタジオに入社し、1996 年からはフリーランスのエンジニアとして活動開始。2005年より、槇原敬之の全作品にレコーディング&ミックスエンジニアとして携わる。これまでに、倉木麻衣やニック・カーター(バックストリート・ボーイズ)、石崎ひゅーい、Hakubi、AIなどのレコーディングを手掛けている。

石垣美隆(イシガキ ヨシタカ)
TAKUMI WORKS所属のエンジニア。これまでに手掛けたアーティストは、ケツメイシやSoulja、KG、清水翔太、城 南海、リサ・ハリム、中嶋ユキノ、Brand New Vibe、ステレオポニーなど多数。



 

「Nectar 3は、プロデューサー、エンジニア、作曲家の誰にとっても有効な機能が満載です」

 
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【製品概要】
「Nectar 3」は、ピッチ補正やEQ、コンプ、空間系など、ボーカルトラックの処理に必要なエフェクトがひとつになったプラグインだ。AIがトラックを解析して、自動で最適な設定を提案してくれる「ボーカルアシスタント機能」や、ボーカルと周波数帯域がぶつかる他のトラックに対して、歌が埋もれないように処理を施してくれる「アンマスク」など、革新的な機能を多数備えている。
 


◉Ozone 8やNeutron 2と同様に AIを用いた「アシスタント機能」を搭載


──まずは、Nectar 3を開発したきっかけや、製品のコンセプトについて教えてください。

ダニエル:アイゾトープには、マスタリングに必要な機能を1つのソフトウェアに集約させた「Ozone」という製品があります。そのOzoneの機能を、ボーカルトラックの処理だけに使用したらどういうものになるだろうか、と考えたのが始まりです。従来であれば複数のプラグインを組み合わせて行なう処理を、1つのプラグインだけで完結できるようにしました。Nectar 3ではOzone 8や「Neurton 2」などで採用されている、AIを用いたアシスタント機能が活用されています。

──ボーカルトラックにフォーカスしたプラグインを作った理由は?

ダニエル:ミックスという作業の中では、歌はどのようなジャンルや言語であっても、感情の表現が豊かに行なえる、楽曲の中で最も重要なパートだからです。あとは、普段から開発の段階で色々なミュージシャンやエンジニアにリサーチをかけるのですが、ボーカルのミックスがうまくいかないという悩みが多く見受けられたことも理由のひとつです。

──滝澤さんと石垣さんは、現場で作業をしていて、ボーカルのミックスで悩んだり、苦戦することはありますか?

滝澤:はい。やっぱり、曲全体に及ぼす影響がすごく大きいですからね。しっかり聴かせたいパートなので、周りの音から及ぼされる影響も大きいですし。ボーカルがうまく処理されていると、曲全体もまとまりやすいというのはあります。

石垣:ストリングスやギターとか、帯域が近いパートがあると、ボーカルの立ち位置を侵食しがちなんですよね。オケの中で、もっと簡単に歌が前に出せればうれしいなとは思っていました。

──EQやコンプなど、様々なエフェクトが搭載されていますが、Nectar 3ならではの機能や特徴はありますか?

ダニエル:「ボーカルアシスタント」と「アンマスク」、「フォローEQ」、「新しいモジュレーションエフェクト」……それから、Neutron 2をはじめとした、同社の他のプラグインと連携して操作できる「IPC機能」です。 

──Nectar 3は、プロのエンジニアやミュージシャンから、どういった評価を受けることが多いですか?

ダニエル:ボーカルアシスタントはもちろんですが、最も驚かれるのはフォローEQですね。例えば、ボーカルの基音を、音程の上下に合わせて常にブースト/カットさせることができます。ベースに使っているという人も多いですね。

──滝澤さんは、フォローEQのためにNectar 3を使われたそうですね?

滝澤:はい。僕も、槇原さんのニューアルバムに収録されている「2 Crows On The Rooftop」のボーカルに使用しました。もともとは別のEQを使ってボーカルの処理をしていたんですけど、フォローEQを使った音源を槇原さんに聴かせたら、「劇的に良くなったんだけど何したの?」と言われました(笑)。

石垣:今までであれば、例えば基音にあたる帯域を、音程の変化に合わせて、複数のバンドを使って調整していたわけです。それだと、歌の音程が変わった時に、切らなくていい固定の帯域を切りっぱなしにしなければいけないんですよね。フォローEQならそれを避けられるだけでなく、1つのバンドだけでまかなえるので、本当に重宝しています。
 


◉「こういう処理があるのか」という、 発想を知るための使い道があると思う

──Nectar 3で、特に気に入っている機能はありますか?

滝澤:個人的にうれしいのは、画面サイズを無段階で変更できることですね。

石垣:EQのバンド数が24になって、すごく細かい処理ができるようになって便利だなと思いました。EQのモジュールも2つ入っていて、1つめのEQではいらない帯域を削って音を整えて、2つめのEQでサウンドメイクができたりとか。

ダニエル:まさに、そういう使い方をしてほしいという考えから、Nectar 3にはEQを2つ採用したんです。2段目のEQで、サウンドにキャラクターを付けるようなイメージですね。

──アシスタント機能は、実際に使われてみていかがでしたか?

石垣:「とにかくすごいな」というのが感想です。僕はコーラストラックに使うことが多いですね。音をパキッとさせて、存在感を出したうえで音像を奥に引っ込めたい時には最適です。

滝澤:僕は、「こういう処理はどうですか?」とソフトが提案をしてくれる機能だと捉えています。アシスタントが提示した設定を使う使わないではなくて、先生というか、「こういう処理の形があるのか」という、発想をまず知るための使い道があるのかなと思いました。

ダニエル:アシスタント機能を皆さんに気に入っていただける理由のひとつに、AIが提示した処理がブラックボックスにならずに、具体的な設定値として確認できることが挙げられます。おっしゃる通り、“様々な処理方法がある中の1つのアイディア”というイメージで使ってほしいという気持ちから、このようにオープンな仕組みになっているんです。

──Nectar 3を使うことで、作業に変化はありましたか?

石垣:作業時間はかなり短くなりますよね。ざっくりですけど、ボーカル処理は今までの半分くらいのスピードでできるかもしれません。

滝澤:AIが発想を与えてくれるというのは大きいですね。自分で処理をする前に、「どうしようかな?」と思ったら、とりあえずアシスタント機能を使ってみたりとか。もちろん作業時間も短縮できて、その浮いた時間を他の作業に費やすことができるようになるので、結果的に曲のクオリティアップにもつながりますよね。

ダニエル:まさにそれこそが、私達がユーザーに提案したかったことなんです。機械的な作業に食われてしまう時間を省略して、節約した時間をよりクリエイティブな作業に費やしてほしいという願いがあります。

──Nectar 3に搭載された、個々のモジュールについてはいかがでしたか?

滝澤:ディメンジョンやハーモニー、ディレイとか、単体で使っても素晴らしいものが結構ありましたね。あと、ピッチシフトがすごくいいなと思いました。オートチューンよりも簡単にケロケロさせられるので、助かっています(笑)。

石垣:ハーモニーは、デフォルトの状態でダブラーのような効果が得られるので、すごく便利だと思いました。

滝澤:今後ダブルが欲しい時には、2回歌わなくていいくらいだよね。

石垣:あと、モジュールごとに、原音とブレンドできるMIXバーがあるのもいいですね。バーを動かして、かかり具合を聴きながら調整できるので便利です。

──では、このNectar 3を、どういう人に勧めたいですか?

ダニエル:大きく分けて、3つのタイプが挙げられます。まずは、楽曲制作からすべての工程に関わるプロデューサー、エンジニア、それからジャンルを問わず、作曲家です。誰が使っても有効な機能が搭載されています。

石垣:初心者の人でも、本当にアシスタントとプリセットだけで、ある程度完成されたボーカルトラックにできますし、プロの人はそこから細かく追い込むこともできる。作曲に時間を使いたい人は、音作りをNectar 3やNeutron 2に任せてもいいかもしれません。

滝澤:アシスタント機能は、曲作りをする人や演奏家とか、音を作り込むこと以外の作業に時間を割きたい人に、特にいいのではと思います。ただ、個々のモジュールのクオリティが非常に高いので、誰に対してもオススメしたいですね。


 

ボーカルのミックス処理が簡単にできる! Nectar 3の3つのポイント


◉基音や倍音の動きに合わせて自動で追従する「フォローEQ」

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「フォローEQ」は、ソフトが音色の周波数成分を解析し、音程の変化に合わせて、基音や倍音部分に対して一定のEQ処理が施せる機能だ。例えば、ボーカルトラックの130Hz(ド(C3)の基音)にー3dBのEQをかけた場合、ボーカルが「ミ(E3)」の音程を歌ったら、約165Hzの基音部分に、先ほどのEQカーブが自動で追従してくれる。

 

◉Nectar 3だけで処理が完結する豊富なエフェクトモジュール

Nectar 3は、フォローEQやAIを使用した機能が注目されがちだが、ボーカルへのミックス処理を本製品だけで完結させることができる、豊富なエフェクトモジュールを搭載している。内訳は、2つのEQ、コンプ、ディエッサー、ゲート、サチュレーション、リバーブ、ディレイ、ピッチコレクター、ハーモニー、新開発のディメンジョン(モジュレーション)。ちなみに、すべてのモジュールには、原音とエフェクト音の量を個別に調整できる「MIX」というスライダーも備わっている。
 

◉エフェクト処理を自動で施してくれる「ボーカルアシスタント」と「アンマスク」

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アシスタント機能の使い方は、「Vocal Assistant」をクリックして、求める音の傾向を指定してから、トラックを読み込ませるだけでOKだ。10秒ほどで、上の画像のように、複数のエフェクトモジュールが適用された状態になる

 

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「アンマスク」は、Neutron 2やOzoneなどのプラグインと連携して、ボーカルと干渉するギターやベースなどのトラックの帯域を自動で処理することができる。画像は、プラグイン同士で、ボリュームやパンニングの情報を送受信する同社のプラグイン「Relay」

 

iZotope「Nectar 3」製品情報

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iZotope『Nectar 3』
スタンダード版=¥27,000、エレメンツ版=¥13,824(共に税込)

問:タックシステム㈱  
TEL:03-3442-1525
https://www.tacsystem.com

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