まるで家の近所を散歩するような足取りで登壇
yonige 、8月13日に新曲も披露した初の武道館公演「一本」を開催!
yonige 、8月13日に新曲も披露した初の武道館公演「一本」を開催!
2019/08/15
写真:太田好治・立脇卓
2019年8月13日、yonigeが初の日本武道館公演「一本」を開催した。
静かな高揚が会場を満たした頃、まるで家の近所を散歩するような足取りで登壇したyonige。そのまま4カウントが鳴り響いて放たれたオープニングナンバーは“リボルバー”だ。そこから立て続けに披露した“our time city”、“最終回”のように強い疾走感を持つ楽曲でも、より筋肉質な音と動きを見せるようになったごっきんのベース、そしてビートの手数の多さを飛び越えるようにして、歌がするりとこちらの胸の真ん中に響いてくる。牛丸の歌は、どれだけ大きな会場になろうと聴き手に「近い」。それはきっと、その歌の平熱感と安らかさに、こちら側も心を寄せたくなるからなんだろう。
「yonigeです。武道館へようこそ」(牛丸)
そんな手短な挨拶だけで曲を連打していくストイックなライヴだが、しかしその楽曲がひたすら素晴らしい。5月の初頭からサポートギターに土器大洋を迎えて、ライヴでは4人体制となったyonige。単純に音の厚みとしてライヴがパワフルなものになっていく側面もあるのだが、それ以上にこうした大きなステージでこそ際立つのは、土器の繊細なタッチが加わることによって生まれる「バンドアンサンブルの歌心」だ。その点、前半戦で特に素晴らしかったのが“顔で虫が死ぬ”。一音一音の重なりが立体的に聴こえてくるアンサンブルと、キーが低い中でも細かな抑揚でズバリと言葉を聴かせていく牛丸の歌。同曲が収録されていた『HOUSE』のリリースからは1年が経過するが、その期間、じっくりとバンドを精錬し続けてきた跡がそこに映っていた。
“2月の水槽”では、その半円形のステージの秘密が明らかになった。半円に沿ってステージ前横から紗幕が現れ、そこに水面のようなマーブル模様が映し出されていく。目前に立ち上がったのは、まさに「水槽」である。水の中を歌が泳いでいくような演出だが、通常、スクエアな幕が「降りてくる」ことが多いのに対して、この“2月の水槽”では「包み込む」演出になっているところが素晴らしかった。あくまで楽曲が主役。派手さに頼ることなく、ただ盛り上げるための手法をとることもなく、最も大事な楽曲を輝かせるためだけのシンプルなスタイルを、yonigeは貫き続けている。改めて、凛然とした強さを感じさせるライヴだ。たとえば6曲を演奏し終えたところでドラムの椅子が壊れるトラブルがあったのだが、そこはごっきんが(悪態をつきながらも)お得意のマシンガントークを連打して乗り越え、特に何事もなかったかのように牛丸がギターをかき鳴らして次のセクションへ雪崩れ込んだ。しかもそこで演奏されたのは、yonigeの名刺代わりとしてライヴの軸を担ってきた“アボカド”である。トラブルに動揺することもなく、鉄板曲を大げさに見せることもなく、ただただ自分の信頼する曲を丁寧に鳴らしていく。そのブレない姿勢が端々に表れているパフォーマンスだ。
さらに“アボカド”、“センチメンタルシスター”、“悲しみはいつもの中”、“ワンルーム”が連打されたセクションでも改めて伝わってきたのは、yonigeの中でもひと際キャッチーなメロディを持つ楽曲たちがさらに刷新を果たしているということ。その上で、この日に初披露された新曲“往生際”は5拍子をベースにしたスリリングなリズムと、音数を絞ってソリッドなアンサンブルを聴かせる新機軸。バンドの鍛錬と変化がより一層ストイックな音楽を生み、それがまた牛丸の新しいメロディと歌唱を呼ぶ――有機的なバンド感が、ステージ上いっぱいに広がっていく。
そんなバンドアンサンブルの進化と歌の力強さがさらに輝いたのは、後半ブロックで披露されたミドルチューンの数々。特に“沙希”、“しがないふたり”、“最愛の恋人たち”では、徐々に熱を帯びていく歌と溜めの効いた演奏が、絡まり合いながら昇っていく様が素晴らしかった。
「今日こうして日本武道館でライヴができているのは、チケットを買ってくれた人たち――ここに立てるようにしてくれたチームの人たち、それに、夜を徹してステージを組んでくれた方たち。本当にありがとうございます。あともう少しですが、一生懸命歌って帰ります」(牛丸ありさ)
エポックな舞台として刻まれることの多い日本武道館で、これだけ言葉数の少ないライヴを見ることもなかなかない。しかし、説明や補足があることで逆に不純物がついてしまうことを徹底的に拒み続けていることこそが、このライヴの信頼と素晴らしさだった。たとえば本編ラストの“春の嵐”では、ステージ両サイドからゆっくりと紙吹雪が舞った。真夏に響き渡る桜の季節の歌と、ピンク色の風。決して派手ではなくても、わかりやすい熱狂がなかったとしても、歌が確かに心のそばに寄り添い続けるライヴ。そしてその歌に寄り添うようにしてひそやかに舞い踊る紙吹雪の、控え目だけれど美しくてしょうがない色彩。それが、yonigeの歌そのものだなと思ったのだ。
「補足ですけど、9月から日本武道館は改修工事に入るみたいなんです。だから、日本武道館でやるラストのバンドライヴが、私たちらしいです」(ごっきん)
そんな日本武道館のドラマまでを呼び寄せる奇跡にも驚いたが、それを背負うでもなく、ただただ歌で人生の中の一日を彩り続けたyonige。最後まで強く、美しいライヴだった。
ライター:矢島大地
2019.8.13
yonige 日本武道館「一本」
M1 リボルバー
M2 our time city
M3 最終回
M4 顔で虫が死ぬ
M5 2月の水槽
M6 バッドエンド週末
M7 アボカド
M8 センチメンタルシスター
M9 悲しみはいつもの中
M10 ワンルーム
M11 往生際(新曲)
M12 どうでもよくなる
M13 沙希
M14 サイケデリックイエスタデイ
M15 ベランダ
M16 しがないふたり
M17 最愛の恋人たち
M18 トラック
M19 さよならアイデンティティー
M20 春の嵐
EN1 さよならプリズナー
EN2 さよならバイバイ
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