「この世界の渦中のひとり」として時代と、人と向き合う歌

須田景凪、東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて「須田景凪 HALL TOUR 2021 Billow」の東京公演を開催!

須田景凪、東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて「須田景凪 HALL TOUR 2021 Billow」の東京公演を開催!

2021/03/16

須田景凪撮影:Takeshi Yao

 

須田景凪
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須田景凪
須田景凪
須田景凪
須田景凪の全国ホールツアー「須田景凪 HALL TOUR 2021 “Billow”」の東京公演が、東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)にて開催された。
 
2月にリリースされたばかりのメジャー1stフル・アルバム『Billow』を携えて行われる、須田景凪自身初のホールツアー。2020年春に開催予定だった全国ツアー「須田景凪 TOUR 2020 はるどなり」は新型コロナウイルス感染拡大の影響により全公演中止となっており、須田景凪にとっては2019年の「須田景凪 TOUR 2019 “teeter”」以来、実に約1年8ヶ月ぶりのツアーということになる。
 
今回の「HALL TOUR 2021 “Billow”」も、当初は今年2月に予定されていた福岡・名古屋公演が5月に開催延期となったものの、3月7日の大阪・フェスティバルホール公演に続き、この日も来場者全員の検温・消毒など感染防止対策を行った上で無事ライブが実現。客席も1〜3階席すべて一席空きでソーシャルディスタンスを確保した形ではありながら、この日を待ち侘びたオーディエンスの熱気が、開演前から静かに会場を満たしている。
 
そして開演時刻を過ぎ、サポートメンバー:モリシー(Guitar/Awesome City Club)、雲丹亀卓人(Bass)、矢尾拓也(Drums/Nanakamba)とともに須田景凪が登場。一面の拍手の中ライブの幕開けを飾ったのは、アルバムのオープニングナンバー「Vanilla」。
生音とシンセベース&ドラムパッドが交錯するハイブリッドなバンドアンサンブルも、緻密に織り成された同期のトラックも、クールさと熱量を併せ持った須田の唯一無二の歌声と渾然一体となって、ミステリアスな覚醒感を描き出してみせる。そこから一転、ステージ一丸のアグレッシブな躍動感に満ちた「飛花」へと流れ込むと、観客は歌声や歓声のかわりに熱いアクションで熱唱に応えていく。
 
そのツアータイトルの通り、「MUG」「Carol」などセットリストの大半を『Billow』の収録曲で構成してみせたライブ展開からも、須田自身のアルバムに懸ける想いが伝わってきたこの日のアクト。スタンドマイクを包み込むように歌に感情を重ね、曲によってはテレキャスターを激しくかき鳴らし、会場の熱気を刻一刻と高めていく。
ひたすら真摯に楽曲を響かせることで、精緻な歌と音像がよりいっそう密度を増して、観る者すべての感覚を包み込んでいく。アシンメトリーに大小多数配置されたステージ後方の立方体のオブジェには、楽曲個々の世界観と共鳴するような映像が映し出され、オーディエンスの没入感をさらに高めている。
 
儚くも切実な愛と生命を綴った「メメント」の、神秘的なまでの音空間。舞台上に設置されたソファに腰掛け、フレーズのひとつひとつを噛みしめるように歌う、《形にならないこの心》の讃美歌=「Carol」。娯楽や享楽のためではなく、今この時代を懸命に生きる人の孤独や苦悩と共振するためのポップミュージック――そんな須田景凪の表現者としての矜持が、ライブの随所からリアルに伝わってくる。
ライブ後半披露した「Alba」では、映画『水曜日が消えた』主題歌起用に際し「百人百様の日々を肯定する楽曲にしたい」と須田自身もコメントを寄せていたこの曲のポジティブな高揚感が、会場の高らかなクラップを呼び起こしていた。
 
ライブ終盤まで一気に駆け抜け、観客に語りかける須田に、惜しみない拍手が巻き起こる。「少し懐かしい曲をやります」と演奏したのは、ボカロP・バルーン名義の名曲「シャルル」。弾むようなリズムと歌声が、オーディエンスを思い思いのダンスとクラップへと導いた。
 
客席を見回して感慨深げに口にした須田は、自ら「Billow(渦)」と名付けたアルバムについて「声が出せなかったりとか、20時までに終わらなきゃとか、いろんな規制があってシビアな時代になって。だからこそ、その中でできた作品なのかなと思って。自分も、この世界の渦中のひとりとして作ったものなので。みなさんに少しでも寄り添っていけば嬉しいなと思っていて。本当はこのライブも、『声が出せないから楽しめないんじゃないか?』とか、いろんな不安はあったんだけど……みなさんの表情を見てたら、そんなことはないなというか、『やってよかった』と思いました。本当にありがとう!」
と語り、須田の万感のMCに、割れんばかりの拍手が降り注ぐ。
そしてこの困難な時代における音楽家としての想いの言葉とともに披露したのは「ゆるる」。モリシーのアコースティックギターの音色と、須田の切実な歌声がせめぎ合う珠玉のバラードが、会場を美しく彩っていた。
 
感激冷めやらぬ客席を、アンコールでさらなる歓喜へと誘ってみせた須田。「こうやって同じ空間を共有することができて、本当に幸せだなあと思います。これからも、音楽もライブも続いていきますが、タイミングが合えばまた一緒に遊んでください」と呼びかけ、最後にモリシーのピアノとともに歌い始めたのは「はるどなり」。壮麗な歌とサウンドが、舞い散る銀色の紙吹雪と乱反射し合いながら、ホールの大空間に清冽な幸福感を残していった。
 
翌・3月13日には同じくLINE CUBE SHIBUYAにて追加公演も行われた「須田景凪 HALL TOUR 2021 “Billow”」。延期となった2月の福岡・名古屋公演に関しては、5月8日・福岡国際会議場メインホール、5月28日・愛知県芸術劇場大ホールにて振替公演が開催される。
 
文:高橋智樹

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