10種類以上のデジタル・オシレイターを搭載!
Arturia「MicroFreak」徹底レビュー【白石元久によるインプレッション動画付き】
Arturia「MicroFreak」徹底レビュー【白石元久によるインプレッション動画付き】
2019/07/31
Arturia MicroFreakは、様々な音源方式を持つデジタル・オシレーターとスムーズな音作りが可能なアナログ・フィルターを組み合せることで多彩なサウンドメイクを可能としたシンセサイザーです。見た目は数多の小型アナログ・シンセのようでも、その音色は個性的かつ強烈。ツマミによる直感的なエディットとArturia製シンセではお馴染みのマトリクスによって音作りの自由度が高く、プレッシャーにも対応した静電容量無接点方式のキーボードは新しい演奏表現を可能にします。そんなMicroFreakの魅力を、アレンジャー、ライブサポート、そしてレコーディング&マスタリングエンジニアとして活躍する白石元久さんの動画インタビューと共に紹介してきましょう。
文:平沢栄司 写真:小貝和夫
●定番から個性派まで多彩なサウンドを生み出すデジタル・オシレーター
MicroFreakは、ノコギリ波/矩形波を発生する基本オシレーターに加えて、11種類のデジタル・オシレーター(計12種類)を搭載しています。これにより、アナログ・シンセの定番サウンドからエッジの効いたデジタル・シンセ・サウンド、そして、他のシンセにはない個性的なサウンドまで生み出すことができます。まずは、各オシレーターについて簡単に紹介しましょう。
BasicWaves
矩形波〜ノコギリ波を発生するオーソドックスなオシレーター
SuperWave
複数の波形をデチューンして重ねる重厚なオシレーター
Wavetable
サイクル単位の短い波形テーブルを自在に読み出し発音するオシレーター
Harmo
倍音加算合成方式で波形を作るオシレーター
擦弦楽器、發弦楽器の発音をモデリングしたオシレーター
V.Analog
アナログシンセの波形をモデリングしたオシレーター
Waveshaper
波形を歪ませることで新しい倍音を付加するオシレーター
TwoOp.FM
2オペレーターのFM音源方式で任意の波形を作るオシレーター
Formant
切り刻んだ波形を再構築して発音するクセの強いオシレーター
Chords
1本指で選択した4声のコードが演奏できるオシレーター
ロボットが喋るような声で発音するオシレーター
Modal
打楽器系の不響倍音を含む波形が作れるオシレーター
デジタル・オシレーターは、複雑で扱いが難しいのではと思う人もいるでしょう。でも、MicroFreakではパネルに並ぶオレンジ色の4つのツマミだけで直感的にコントロールするため、誰にでも簡単に波形のエディットができるのです。ツマミを回せば波形が変わり音色が刻々と変化していくので、偶発的に飛び出すサウンドにインスパイアされたなら、あとはフィルターなどの馴染みのあるシンセ・パラメーターで整えればOK。もちろん、各オシレーターの仕組みやパラメーターを理解すれば、よりスムーズにイメージ通りの音作りができるようになります。
▲オシレーターは、このオレンジの4つのツマミだけでコントロール可能だ。オシレーターごとに、その音源方式で波形をエディットために最適なパラメーターを厳選してアサインしている
●アナログ・シンセの音作りのノウハウが活きるフィルターとENV/LFOを装備
シンセらしい音作りに欠かせないのがフィルターです。MicroFreakには、アナログのフィルターが搭載され、高域(倍音)をカットしていくスタンダードなLPFに加えて、低域をカットするHPF、中域のみを通すBPFの3つのタイプが選択可能です。もちろん、シンセらしいミョンミョンした音作りに欠かせないレゾナンスも装備しています。
▲3つのタイプが選べるアナログ・フィルターを搭載。ツマミを回した時の音色変化もスムーズで、思った通りの音作りができるだろう。また、設定値をディスプレイで確認できる点にも注目だ
音色や音量の時間的な変化を作り出す2基のエンベロープ(ENV)のうち1基は、モードを切り換えることでエンベロープ・カーブを周期的に繰り返す「サイクリング・エンベロープ」として機能します。これは、変化カーブ(波形)が自分で作れるLFOのようなもので、更にツマミを操作すればリアルタイムでカーブが変更できるため、同じく周期的な変化を作るLFOとは違った動きのある音が作れます。
▲2基のエンベロープを搭載。下段は通常のADSR型で、アンプの音量ととフィルターのカットオフをコントロールする。上段が独自の「サイクリング・エンベロープ」で、「Run」か「Loop」のモードにすると、設定したエンベロープ・カーブを周期的に繰り返すようになる
一方、LFOも6つの波形が選択でき、揺れの周期も100Hzと高い値まで設定できるため、ビブラートやワウワウ、トレモロといった効果に限らず、いろいろな音作りに応用できるでしょう。
●自由度の高い音作りを可能にするマトリクス
パネル左上には、音色パラメーターとENVやLFOなどのモジュレーター群をパッチするためのマトリクスが用意されています。横軸に音色パラメーター、縦軸にモジュレーターが並び、その交点のLEDを点灯させると接続され、モジュレーターで音色パラメーターを可変することが可能となります。例えば、LFOをPITCHにパッチすればビブラート効果、Cutoffにパッチすればワウワウ効果を加えることができるわけです。
▲Arturiaのシンセではお馴染みとなってきた感のあるパッチ用のマトリクスが搭載されている。右のツマミでパッチしたい交点にLEDの点灯を移動して押し込むと接続、そのままツマミを回せば効果の深さの調整ができる
それだけにとどまらないのがMicroFreakのスゴいところ。オシレーターのWaveやTimberのツマミをENVやLFOで動かせば波形を刻々と変化させることができ、フィルターだけでは得られない複雑な音の動きが作れます。キーボードのプレッシャー、アルペジエーターやシーケンサーの出力でモジュレーションをかければ、指先で音色の表情をコントロールしたり、ENV/LFOにはできない大胆な音色変化を加えることも可能です。また、最大3つまで任意のパラメーターをアサインしてモジュレーションを加えることができる点も見逃せませんね。このマトリクスは、MicroFreakらしいサウンドに欠かせない要素で、自由度の高い音作りを可能としています。
●想像以上に弾きやすく新しい表現も可能なキーボード
MicroFreakは、いわゆる白黒の鍵盤ではなくプリントされたタッチ式のキーボードを採用しています。ストロークが必要な「弾く」ではなく「触れる」で発音するのでレスポンスが良く、鍵盤が弾ける人はもちろん、そうでない人にも演奏しやすいと思います。
そして、特筆すべきは、フラットなキーボードながらプレッシャーを検出する点です。押し込む圧ではなく鍵盤面に触れる指先の面積で値が変化し、マトリクスでプレッシャーにアサインしたパラメーターを可変することができるのです。これらは通常の鍵盤とは違う表現を可能とするMicroFreakの演奏上のポイントとなるでしょう。
●「Spice&Dice」でランダムに変化するアルペジエーター&シーケンサー
キーボードでフレーズを弾かなくても、MicroFreakは演奏ができます。まず、押さえたコードを分散和音として自動演奏してくれるのが「アルペジエーター」です。アップ/ダウンやオクターブレンジの切り替えに加えて、ランダムやパターンなど単純な反復とは違うモードもあるので、いろいろなアルペジオを奏でることができます。もう1つは打ち込んだフレーズを演奏する「シーケンサー」です。リアルタイム入力とステップ入力に対応し、最大64ステップまで打ち込むことができます。こちらは、モジュレーショントラックを使うことでパネル上のツマミの操作をリアルタイムレコーディングしたり、ステップ単位で値を可変していくことも可能。大胆な音色変化を含むフレーズを鳴らすことができます。
そして、アルペジエーターとシーケンサーを使ったパフォーマンスに有効なのが「Spice」と「Dice」です。これらは、演奏されるフレーズにランダムな変化を加えるもので、その変化量もタッチストリップでリアルタイムでコントロールできるようになっています。これらを使いこなせば、単調にならない変化に富んだプレイが楽しめるでしょう。
▲「Spice」や「Dice」のアイコンをタッチしてONにした後、その右側のタッチストリップ上で指を動かすことでランダマイズの変化量をコントロールできる。ちなみに、通常の演奏の時は、タッチストリップがピッチベンドとして機能する
●その他の注目ポイント!
これまで解説してきた機能の他にも知っておきたい魅力的な機能があります。最後に、いくつかピックアップしてダイジェスト的に紹介しましょう。
・パソコンやアナログシンセとの接続もOK
リアパネルには、パソコンと接続できるUSB端子、MIDI機器と接続するためのMIDI端子、そして、アナログ機器と接続できるCV/GATE端子まで用意されています。ハードシンセとしてMicroFreakを演奏するのはもちろん、DTMのシステムに組み込んで外部音源のように使ったり、EDMやクラブミュージックで使われている機材と連携してトラックメイクに活用するなど、すでに音楽制作を楽しんでいる人にとっても魅力ある製品となっています。
▲パソコンとはUSBケーブルで、MIDI機器とは付属の変換ケーブルを利用してMIDI端子同士を接続することで、外部から音源として鳴らしたり、演奏情報を送ることができる
・4ボイスまでの和音演奏も可能
MicroFreakは、モノフォニック(単音)での演奏が基本ではありますが、パラフォニック・モードに切り換えることで4和音での演奏も可能になります。なお、オシレーターとアンプのエンベロープ各ボイスで独立していますが、アナログ・フィルターが全ボイス共通で1基なので、「ポリフォニック」ではなく「パラフォニック」となっています。
・多彩なTIPSを満載したマニュアル
MicroFreakの隠れたトピックがマニュアルです。まず、機能などの説明が技術論的な堅苦しいものではなく実例を交えた分かりやすい表現となっているので、初心者の人でも読みながら触ることで理解を深められるでしょう。そして、注目したいのが、随所に散りばめられたTIPSの数々です。それもかなり奇抜なアイディアが紹介されているので、腕に自信のある人も一読する価値があるものとなってます。
小型のアナログシンセが飽和気味の中、オシレーターやキーボードに従来の製品にはない新たな魅力を備えたシンセとしてMicroFreakは登場しました。見た目からは想像できないほど奥が深いので腕に覚えがある人も存分に楽しめるでしょう。また、直感的な操作性とお手頃な価格は、初めてのハードウェアシンセとしてもお勧めです。
関連する記事
2023/04/03
2022/07/28
ニュース
2023/12/25
2023/12/20
2023/12/18
インタビュー
2023/03/23
2022/09/15
2022/05/26
2022/01/26
特集/レビュー
2023/04/03
レクチャー
2022/11/15
2022/11/01