MUCCとしてのあらたな一歩
逹瑯、ミヤ、YUKKEの新体制となったMUCCの全国ツアー初日が11月4日(木)新木場USEN STUDIO COASTでスタート!
逹瑯、ミヤ、YUKKEの新体制となったMUCCの全国ツアー初日が11月4日(木)新木場USEN STUDIO COASTでスタート!
2021/11/08
カメラマン:Susie
そして、このツアー初日にしてMUCCとしてのあらたな一歩でもある大切なライヴを始めるのにあたり、しょっぱなで音出しおよび歌い出しをする前にフロントマンである逹瑯が、まず場内に集った夢烏(ムッカー=MUCCファンの総称)たちに向けて投げ掛けたのが、前述のシンプルかつ万感のこもった言葉だったのである。
なお、今回のツアーについては5都市で2公演ずつが行われていくスタイルがとられており、そのうち1公演目はいずれも公式FCである朱ゥノ吐VIP会員限定公演となっているため、この東京での初日には言わばガチなコアファンが詰めかけていたことになるが、ここに来て新体制となりサポートドラマーとしてSerenity In Murderなどでも活躍しているAllenを迎えた彼らのライヴアクトに対し、果たしてここからどうなっていくのか?という不安と期待をオーディエンスの多くが持っていたであろうことは想像に難くない。
だがきっと、MUCCがこの夜この場で最初にミヤとYUKKEがともにローGチューニングを用いたヘヴィサウンドを烈しく炸裂させ、逹瑯が深く咆哮するかのようなヴォーカリゼイションをもって「惡 –JUSTICE-」を投下してみせたその瞬間、受け手側はきっと感じたのではないかと思う。 「MUCCのたどってきた旅路は何も途切れてしまったわけではなく、この時点からまた新しい道に繋がっていくのだ」と。
鋭く斬り付けてくるような音から徹底した攻めの姿勢を感じた「CRACK」といい、SATOちが作詞と作曲を手掛けた「神風Over Drive」でライヴを加速させるその方法論といい、今回のツアーは過去を否定したり分断することなく、あくまでも前回のツアーを踏まえた上での内容と構成になっていたことに、ある種の安堵を覚えたのは何も筆者だけではないに違いない。もっと簡単に説明するなら、今ツアーはそのタイトル通りに現時点での最新アルバムとなる『惡』の楽曲たちを、SATOちの残していった曲も含めて引き続き深堀りしていく場にもなっているわけだ。(メンバーに確認をとったわけではないが、どうやら「アイリス」などをはじめとして何曲かのアレンジ細部や曲間のつなぎ部分などが前回ツアーとは変化していたような気がする)「新しいツアーが始まりました。これからいろいろなことが始まっていきますし、環境も変わってまだ先のことはほんとにわかりませんが、手探りで未来をたぐり寄せていけたらなと思っておりますので、みなさんよろしくお願いします。待っててもなんも来ねーからさ。自分からたぐり寄せていこうぜ!いいかい?」
逹瑯のこのMCを受け、ここで演奏されたのはツアー初日の翌日にあたる11月5日にリリースされた新体制での記念すべき初シングル『GONER/WORLD』の収録曲であり、まさに未来というキーワードが随所にちりばめられてい「GONER」。ここからの本編中盤は今現在のMUCCの有り様を投影したような選曲がなされていき、このタイミングで聴くからこそやけに沁みてくる初期からの名曲「我、在ルベキ場所」や、シングル『GONER/WORLD』のカップリングでありながら既にファンの間では秀逸なMUCC流シティポップチューンとして表題曲たちに負けないほどの人気を集めている「XYZ.」がパフォーマンスされたほか、次いでの「流星」からはまるでひとつの物語のような流れが生み出されていくことになったのも、非常に印象的なところであったと言えよう。
星空に彩られた切なくドラマティックな夜を歌った「流星」からの、夜と朝の狭間で霞む空のほのかな色合いに希望を託した歌となる「暁」。そして、逹瑯がこの一言を叫んでから場内へと放たれたのが「明星」だ。「“あいつ”の為にも、止まれねーよなぁ!!」 去年SATOちの脱退が決まった際に作られたこの曲は、もともと宵の明星をモチーフにして作られたものになると思われるが、ことこのライヴにおいては脈絡的に明けの明星を示唆していたとも考えられはしないだろうか。夜の終わりを告げるように、明け方の東の空に輝く明星。その実態は宵の明星と同じく金星であることに変わりはないものの、いわゆる“巡りという名の時間経過”によってそこに生まれる意味合いは変わってくる。以前に聴いた「明星」と、この場で聴くことが出来た「明星」にさまざまな面で違いがあったのは、おそらくその構図とも似た時間経過が大きく作用していたように思えてならない。
そればかりか、このあとライヴの本編を締めくくることになったSATOちとミヤによる共作曲「My WORLD」、喪失と痛みを抱えた中で夜明けが訪れていく情景を描いた「TONIGHT」、今になって聴くことで〈過去と今を映した星が2つ輝いている〉という一節がより感慨深く響いた「スピカ」も、全てはMUCCというバンドの体現してきた克明なリアリズムを、現在進行形のものとして感じられる曲たちばかりであったと断言出来る。
もっとも、アンコールにおいては何時も通りにMUCCのユルい一面が発揮される時間も存分にとられていて、ここではYUKKEの誕生日イブを夢烏らがハミングによるハッピーバースデーの歌で祝ったり、サポートドラマーのAllenが前日にSATOちからLINEで「大丈夫だよ。失敗もライヴの一部だよ」という応援メッセージをもらっていたことが明かされたうえ、そんなAllenはなんとメンバーと同じ茨城出身で茨城と米国テネシーの間に生を受けた英語がしゃべれない系ハーフ(笑)であることも判明。
かくして、ほどよく雰囲気がユルんだところでの「優しい歌」では再び観衆によるハミングが場内にあふれ、美しき賛歌「ハイデ」に胸を打たれつつも、一転しての「蘭鋳」ではこの空間に居合わせた誰もが見事にカタルシスへと誘われることになった。「何時かおまえらの声が、世界中に響きわたりますように!!」 MUCCにとっての大切な一夜において、最後の最後に奏でられたのはシングル『GONER/WORLD』のもうひとつの表題曲で、制作時にはミヤがTwitterで呼びかけをしてファンからコーラスパートの音声を募集り、最終的に1000件を超えるトラックを全て音源に使用したという、正真正銘のバンドとファンで共に創りあげた「WORLD」だった。ここで聴けた〈world. the beginning of the world 壊れた世界を超えて〉という歌詞から受け取れたのは、MUCCの未来に向けた決心そのものだったのではなかろうか。
そういえば、今回のライヴではステージ奥のバックドロップにツアータイトルとして掲げられている“The brightness world”というフレーズが折りに触れ漢字表記にて“閃耀世界”と映し出されており、それこそMUCCがここから目指していこうとしているのは、そんなまばゆい場所なのかもしれないとも感じた次第である。
壊れても、傷ついても、たとえ何かを失っても。彼らが今、また前を向いて力強く歩き始めたことがある意味では全てなのだとしたら。12月3日に彼らが再び新木場USEN STUDIO COASTに凱旋したとき、MUCCはもはや壊れた世界のことなどものともしないさらなる圧倒的な突破力を手にしているはずだ。
文:杉江由紀
『MUCC TOUR 202X 惡-The brightness WORLD is GONER』
2021年11月4日(木)USEN STUDIO COAST
SETLIST
1.惡 -JUSTICE
2.CRACK
3.神風 Over Drive
4.アメリア
5.海月
6.アイリス
7.アゲハ
8.GONER
9.我、在ルベキ場所
10.Friday the 13th
11.SANDMAN
12.XYZ.
13.流星
14.暁
15.明星
16.目眩
17.My WORLD
18.TONIGHT
19.スピカ
En-1.優しい歌
En-2.ハイデ
En-3.蘭鋳
En-4.WORLD
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