妖艶、卑猥な一夜に
メリー、『Stripper』ツアーファイナル公演を2月4日に東京キネマ倶楽部にて開催!
メリー、『Stripper』ツアーファイナル公演を2月4日に東京キネマ倶楽部にて開催!
2022/02/07
写真:中村 卓
メリーが、新体制第一弾アルバム『Strip』を引っ提げたツアーのファイナル公演「メリー 20th Anniversary Live Showcase 2『Stripper』 【Tour Final】~PEEP STRIP SHOW~」を、2月4日東京キネマ倶楽部で開催した。
ガラ(vo)はアルバムタイトル『Strip』について、「全てを脱ぎ捨てるという意味と、裸一貫でゼロから向き合う意味を込めて」と語っていた。ステージに現れたガラの出立ちは、目の大きい網のボディースーツに黒いアイマスク、黒いエナメルパンツの上に赤い紐のショーツというボンデージ……というより変態ルック。“裸一貫”の解釈がいささか歪んでいるように思えたが、これが幕開けを飾った「ニューロマンティック【NOISE CORE】」、続く「erotica」や新曲「Stripper」の偏愛・倒錯の世界観をよりディープに彩ることになる。舐めるように観客に視線を送り、どこからでも見ておくれとばかりに全身をしならせる。
しばしその奇抜なガラの様相に釘付けになっていたが、全貌に目を向ければメンバーのフォーメーションも大きく変化していた。5人体制の頃はセンターにいるガラの後ろに鎮座していたネロ(Dr)のドラムが上手に移動し、元々上手にいた結生(G)が下手へ、その斜め右後ろにテツ(B)が立つ。それにより3人のパフォーマンスがより見えやすくなったネロのドラムは、今まで以上に表現力高く曲に寄り添っていたし、結生のギターもテツのベースも粒立ちよく聴こえた。「BLUESCAT」での深みを増したネロのドラムや、ギターとベースのユニゾン、「躊躇いシャッフル」での情感豊かなアンサンブル、新体制による過去曲のニューアレンジは特にそれぞれの進化を感じさせた。「zombie paradise」「不均衡キネマ」とアップチューンで盛り上げ、ガラが捌けた後の3人による「薔薇と片隅のブルース」のセッションは、その最たるものであった。
“Strip”とは、メリーのメリーによるメリーのための“脱皮”だった。ただ脱ぎ捨てるだけではない。大きく成長するための、美しく変態するための脱皮なのだと思った。しかしそのスピリットは、ライヴハウスの壁にビニール本を貼り付けたインディーズの頃と何ら変わりはない。今回のステージも、ネロが買い揃えたというエロ本のピンナップが、ドラムセットやステージセットの至る所に貼られてあった。非日常の世界観でオーディエンスを楽しませること。体制が変わっても、メリーの本質は何も変わっていなかった。
ガラが赤いロングシャツを羽織って出てきた中盤戦は、アジアンテイストのエレクトロなイントロが印象的な「ブルームーン」。電子音は色が変化するMIDIパッドを結生が演奏し、視覚的にも魅せる。続く「煙草」と2曲続けて女性目線の失恋ソングを歌うガラのヴォーカルが切ない。メリー流のシティポップで新境地を見せた「遠い昔の恋愛ソング」は、キャリアを重ねてきた今だからこそできる味わい深い演奏を聴かせた。インスト曲「PEEP SHOW」から「狂騒カーニバル」の流れはアルバム『PEEP SHOW』(2006年)当時のスピード感と狂気を彷彿とさせ、オリエンタル調の「rat-a-tat-tat」から「オリエンタルBLサーカス」への流れも秀逸だった。最後の“自分の歩むべき道はどれですか?”というガラの絶叫を耳に残したまま、「妄想rendez-vous」へ。“素晴らしい世界がそこにあるから”と歌うガラの姿は、全身墨で黒くしているもののパンツ一枚だった。“裸一貫”の覚悟と潔さ。その姿はそんな格好良さだけではない。痛々しさや滑稽さまでもガラはリアルに体現して見せているのではないかと思った。そして新生メリーの向かうところを方向づけた「psychedelic division」を熱唱し、本編を締めくくった。歌い終わった後、放心したようにステージにうずくまったままのガラの姿が印象的だった。
アンコールのステージ上でプレイングマネージャーを務めるテツから、メリーの次なる予定が告知された。これまで過去の作品を新体制によるニューアレンジでプレーする実演配信企画『History of メリー』の『モダンギャルド編』『現代ストイック編』を配信してきたが、その第3弾となる『個性派ブレンド クラシック編』が初の有観客での公開収録が決定した。ネロの誕生日の翌日である2月12日(土)に、ネロの地元・埼玉県熊谷市にあるHEAVEN’S ROCK 熊谷 VJ-1で開催される。さらに2部構成となり、第1部は『個性派ブレンド クラシック編』、第2部は『Strip』を中心にした最新のメリーのライヴが楽しめる。また、より広くこの『Strip』とメリーの音楽を広めたいという思いから、2月5日より『Strip』『for Japanese sheeple』『エムオロギー』『NOnsenSe MARkeT』『Beautiful Freaks』の5作品がストリーミングでフル尺配信されることになった。
「何か見つけ始めてる気がする。このツアーで」と、バンマスである結生がアンコールで語っていた。まだぼんやりとしたその光を、どう輝かせるのかは彼ら次第。アンコールでは今の心情を吐露するようなナンバーが揃った印象だ。過去の想い出に別れを告げる「林檎と嘘」、裏腹な思いが交錯する「愛なんて所詮幻想で都合のいいものなのに」、自身の生き様を映した「Bremen」では“きっと来るさ 夢叶うその日が”と歌う一方で、“憧れていた夢や理想は 今となっては離れた場所”(「[human farm]」)、“腐った世界にさようなら”(「センチメンタル・ニューポップ」)と絶望を歌う。だけど彼らは手当たり次第にマシンガンをブッ放すのだ(「Mechanical words」)、予定外で歌った「千代田線デモクラシー」のラストにガラが叫んだ“クソッタレのこの世界”で。いまだメリーから目が離せないのは、彼らがクソッタレの世界にいつか大きな風穴をあける様を見てみたいからだ。完全体に向けて、メリーはきっとこの先もきっと脱皮を繰り返すのだろう。この20周年のアニバーサリーイヤーがどんな変容をもたらすのか、これからも楽しみである。
取材・文:大窪由香
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