12月8日=渋谷オーチャードホール

プログレッシブロックの伝説的バンド、キング・クリムゾン・ライブレポート

プログレッシブロックの伝説的バンド、キング・クリムゾン・ライブレポート

2015/12/12


キングクリムゾン

photo by Claudia Hahn

 

2015年12月8日(火)
渋谷オーチャードホール

キング・クリムゾンは予定調和を許さない。ロバート・フリップの理想の下、1968年に結成したこのバンドは、数回の活動休止を挟みながら、常に新しい音楽表現を行ってきた。真の意味での“プログレッシヴ”なグループととして前進することを求められてきた彼らが最もファンにショックを与えるとしたら、グレイテスト・ヒッツ・ショーをやることだろう。

2015年12月、約12年半ぶりの来日公演は、ファースト・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』(1969)からの曲を含む名曲の数々を披露するという、まさか!?...のステージが実現することになった。過去のクラシックスを多く演奏する今回のツアーだが、メンバー構成は新しいラインアップだ。ステージ前方にはパット・マステロット、ビル・リーフリン、ギャヴィン・ハリスンの3台のドラム・キットが置かれ、他4人のメンバーは後方の壇上で演奏することになる。そんなステージ・セットを見るだけで、今回のツアーがただのレトロ・ショーでないことが明らかだった。

「ライヴの撮影は禁止。撮っていいのはトニー・レヴィンがカメラを構えているときだけ」「演奏中の再入場は禁止」など、フリップ自らが開演前のアナウンス(姿は見せず)。相変わらずの偏屈ぶり…と思わせて、最後は「以上を守って、キング・クリムゾンとパーティーしましょう」と締めくくり、観衆を沸かせている。

東京公演2日目となるこの日のオープニングは、『ポセイドンのめざめ』(1970)からの「平和/終章」だ。ジャッコ・ジャクスジクが歌い上げるこの曲を導入部にして、効果音が流れ始める。観客はもちろんそれが何かを知っている。そう、「21世紀のスキッツォイド・マン」のイントロだ。キング・クリムゾンというバンドを世界に知らしめた名曲で斬り込むこの日のセットリストは、ジャパン・ツアーで最もインパクトのあるものだった。もちろん演奏も素晴らしいもので、トリプル・ドラムスの応酬も“現代のキング・クリムゾン”を感じさせるものだ。不動のオリジナル・メンバーでありながらスポットライトを固辞するロバート・フリップ翁も、熱を込めたギター・プレイで応戦する。

そして続くのが、同じく『宮殿』からの「エピタフ」だ。観客たちは着席していたが、その興奮ぶりは曲が終わったときの拍手と声援から伝わってきた。

バンドの過去に新たな光を当てた後は、現在進行形の彼らが姿を現す。「ラディカル・アクション1」〜「メルトダウン」〜「ラディカル・アクション2」とメドレー形式で演奏された新曲は、21世紀のクリムゾンが提唱する“ヌオヴォ・メタル”に当てはまる曲で、続いてプレイされた「レヴェル5」と呼応しあう重低音空間を生み出していた。元ミニストリーのビル・リーフリンがバンドに加入した当初、意外な人選だとも思われたが、バンドのヘヴィ・サイドを表現するナンバーでの存在感を見ると、改めて納得させられる。トニー・レヴィンもベースからスティックに持ち替えて、リズムとメロディが交錯する絶妙のプレイを見せつける。

新ラインアップによって書かれた「ザ・ヘル・ハウンズ・オブ・クリム」、そして「ザ・コンストラクション・オブ・ライト」は好意的に迎えられたが、場内にどよめきが起きたのが「再び赤い悪夢」だ。ジャッコのヴォーカルはエイドリアン・ブリューのようなアクの強さはないが、クリアーなヴォーカルで初期の楽曲を歌いこなしており、『レッド』(1974)でジョン・ウェットンが歌ったこの曲も伸びやかな歌声で再現していた。1958年生まれの57歳と、決して若くはない彼ではあるものの、現在のクリムゾンの“鮮度”の高さは、彼の存在が少なくない影響を及ぼしているだろう。

『ライヴ・アット・ザ・オルフェウム』で初登場となった「バンシー・レッグス・ベル・ハッスル」の短いイントロから、過去曲のリ・コンストラクションが続く。「レターズ」「船乗りの話」「イージー・マネー」のいずれも、メル・コリンズのサックスとフルートが入ると、1970年代のクリムゾンの香りが漂ってくる。特に「船乗りの話」では彼の参加した『アースバウンド』(1972)のテイクとオーヴァーラップするフレーズがあったりして、落涙せずにいられなかった。

本編のクライマックスとなったのが「スターレス」だった。それまでほとんどメンバーを照らすだけだった照明が、まるで演奏の熱気をヴィジュアル化するように真っ赤になる。『レッド』の裏ジャケットよろしく、バンド7人のプレイがレッド・ゾーンに突入していった瞬間だった。曲が終わると、まだ場内が赤いまま、メンバー達は立ち上がって観客に挨拶する。事前の予告どおり、トニー・レヴィンがカメラを手にして観客を撮影。観客もバンドを撮影する(何故かフリップも観客を撮影していた)。

そしてアンコールである。派生バンドでない、“キング・クリムゾン”と名のつくバンドが「クリムゾン・キングの宮殿」を演奏するという事実は、それだけで胸にこみ上げるものがあった。バンドの演奏もそれに相応する見事なもので、全員が一丸となったオーケストレーションは、神々しいほどの荘厳さを伴っていた。

そしてラスト、「トーキング・ドラム」から「太陽と戦慄パート2」へと雪崩れ込む。「宮殿」の荘厳さから一転、本能的でトライバルに暴れまわるトリプル・ドラムスと、ヘヴィに胸をえぐるギター・リフは、キング・クリムゾンの名前が単なる金看板でなく、未だ殺傷力に満ちていることを証明していた。

この日の公演以外でも日替わりで「冷たい街の情景」「太陽と戦慄パート1」そして「レッド」などをプレイ。さらに公演ごとにチケットのデザインが異なるということで、筆者の周囲もリピーターが多かった。物販コーナーも長蛇の列。しかし、主役はもちろんバンドの音楽だ。キング・クリムゾンは久々の来日で“コンフュージョン=混沌”を巻き起こしたが、まだ“エピタフ=墓碑銘”を刻むには早いことを証明してみせた。

レポートby山﨑智之

 

 

キングクリムゾン


 

キング・クリムゾン ロバートフリップ

ロバートフリップ

 

12/8(火)渋谷オーチャードホール:セットリスト

1. Peace
2. 21st Century Schizoid Man 
3. Epitaph 
4. Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind)I 
5. Meltdown 
6. Radical Action (To Unseat The Hold Of Monkey Mind)II 
7. Level Five 
8. Hell Hounds Of Krim 
9. The ConstruKction Of Light 
10. One More Red Nightmare 
11. Banshee Legs Bell Hassle 
12. The Letters 
13. Sailor's Tale 
14. Easy Money 
15. Starless 

Encore:
16. In The Court of the Crimson King 
17. The Talking Drum 
18. Larks' Tongues In Aspic Part II 
 
 

キング・クリムゾン:プロフィール

キング・クリムゾンは1969年10月、ファースト・アルバム『クリムゾン・キングの宮殿』でビートルズの『アビー・ロード』をアルバム・チャートのトップから蹴落とすという衝撃的なデビューを飾る。以来、常にロック・ミュージックの概念を根底からひっくり返しながら、真の意味でのプログレッシヴな音楽によって絶対的存在であり続けるキング・クリムゾン。ギタリスト、ロバート・フリップを中心として幾度かの解散と再結成を繰り返しながら常に革新的な作品を発表し、今も尚、キング・クリムゾンは「キング・クリムゾン」として在り続ける。

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