現在のテクニックで再録、新たなる息吹を吹き込んだギター・インスト・アルバム
角松敏生『SEA IS A LADY 2017』インタビュー
角松敏生『SEA IS A LADY 2017』インタビュー
2017/06/09
70年代後半から始まったクロスオーバー/フュージョン・ブームは、80年代前半には衰退していった。打ち込みの普及により、正確なリズムキープや、高度な演奏テクニックといったものの需要がリスナー/プレイヤー側に失われていったことも大きな要因であろう。そんな中、1987年に角松敏生が初のインストアルバム「SEA IS A LADY」をリリースし、当時インストにもかかわらず異例のセールスを上げた。タバコのCMソングとして大量のTVスポットが流れたこともあるが、村上秀一などの一流ミュージシャンをバックに生演奏と打ち込みがうまくミックスされたこのアルバムが、当時のフュージョン・ファンを納得させたことは間違いない。それから30年、この「SEA IS A LADY」を完全リテイクした『SEA IS A LADY 2017』がリリースされた。2度目のインタビューとなる今回はプライベートスタジオにお邪魔して、アルバム制作の経緯やギターサウンドの変遷、シンセサウンドについてたっぷりと語ってもらった。
取材:斎藤一幸(編集部)
──まず、今回の『SEA IS A LADY 2017』リリースの経緯からお聞きしたいのですが、前回インタビューした際にちらっと「次はギター関連の話も」みたいな事を話されていたのですが、この事だったんでしょうか?
角松:いつでしたっけ、あぁ「SEA BREEZE 2016」の時ね。もしかしたらその頃から割とそういう気もあったんですかね。
──まだやるって感じではなかったんですか。
角松:最終的にはインストやるってなると勇気がいるじゃないですか。商品価値的に。そうじゃなくてもCDが売れない時代で、あとやっぱり“歌が聴きたい”ってファンも多いだろうしね。ただ、それと同じくらいに“インストもう一回やって下さい”って声もよく聞いてました。まぁここ30年の間にライブでも何曲かやってみたり、あるいはたまに趣味のライブでやってたりはしたんですけど、インストに特化したアルバムみたいなものは出してなかったんです。ただまぁ自然な流れで偶然こうなったって感じですかね。
──「SEA BREEZE 2016」に続く、セルフカバーという流れなんですかね。
角松:「SEA BREEZE 2016」のリリースは、もともと横浜アリーナの35周年イベントを成功させるっていうのが一番のポイントだったんです。それで次の年(2017年)にツアーをやろうっていうのだけ決まっていて。CDもソニーから1枚出すという契約だけ漠然と決まっていたんです。
──“今年はインスト”と決める前にライブ会場を押さえたんですか。
角松:まったく決まってませんでした。ただ、ともかく今はCDが売れないから、どのアーティストもライブで食ってる状態なので、ライブ会場の獲り合い奪い合いなんですよ。なのでとりあえずツアーを組めるだけの会場を押さえて、それからさぁ何をやりましょうとなったわけです。
──内容によってツアーメンバーも変わりますよね。
角松:僕の場合、ここ数年レコーディングメンバーでツアーを回るのをモットーとしてるんですよ。それって今となっては贅沢な話なんですけど、それが僕の真骨頂だと思っているのでそこに拘っていたんですよ。ずっと。ただ先程も言いましたけどライブの飽和状態でミュージシャンも色々なアーティストのライブが入っててスケジュールを押さえるのが大変なんですね。
──そのツアーメンバーでレコーディングすることも多いですしね。
角松:そうなんです。ツアーに行けるメンバーが決まってからCDを作るんですよ。それで内容を考えた時に、まず一番大きかったのは、ここ数年バックコーラスで全幅の信頼を置いていた女性二人がいるんですけど、そのお一人が産休に入いられたという事情がありました。歌モノの場合、コーラスがステージに乗らないとなるとライブ表現として、例えば“あの辺の曲はできない、この辺の曲はやれない”などという制約があります。
──それが今回のインストに決まった要因なんですか?
角松:う~ん、なんか盛り上がって来ないというか。要はコーラスが使えなかったからって事もあるけど、一番の要因は自分自身がまだ歌のアルバムを作りたいって言う思いがあっても、まだ機が熟していなかったんでしょうね。自分の中でのモチベーションが。 今回の他のツアーメンバーで小林信吾、山本真央樹、山内薫、本田雅人、鈴木英俊の5人のメンバーががっつりツアー回れるって聞いた時に、“インストかな”って思ったんですよ。実はインストに関して言うと、10年前ぐらいに“作るならメーカーから出すんじゃなくてインディーズから好きな人向け”に出して、その中に「SEA IS A LADY」の中からリアレンジも何曲か入れてとか考えてたんですよ。青木(智仁)さんとも作れたらいいねって盛り上がってたんですけど、青木さん亡くなっちゃったんで僕のモチベーションも落ちちゃって、その企画も棚上げになってたんです。それから10年経って今回のメンバーのシフトを見た時にふと思い立ったんですね。
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