現在のテクニックで再録、新たなる息吹を吹き込んだギター・インスト・アルバム
角松敏生『SEA IS A LADY 2017』インタビュー
角松敏生『SEA IS A LADY 2017』インタビュー
2017/06/09
角松:なにしろ「SEA IS A LADY」は全体的にもう一回再構築したいと30年間思ってたんですよ。ただメーカーに「えぇ~インストですか?」って言われないかと思って相談したんですよ。そしたらメーカーが割と面白がってくれて。今逆に新鮮なんじゃないですかって。じゃぁということでリリースが決まりました。
──「SEA IS A LADY」をリリースした1987年頃のお話を伺いたいのですが、あの頃は国内のフュージョンブームも下火だった状況下の中、「SEA IS A LADY」の登場で盛り返した感があったのですが、ご自身的にはフュージョンの方で行くつもりは無かったのですか。
角松:ライナーにも書いてあるんですけど補足的な事を言うと、あれ自身が僕の商業的なプレゼンテーションだったんですよ。ギタリスト角松が作るギターインストアルバムというよりも、歌い手がギターを弾くっていう面白さと、夏向けの音楽、夏季商品的としてのイメージ戦略を統合した作品であって、ギターというものに一つポイントを置いたのではなくて、そういうメディアミックスしてまとめた商品構造を作ってそれを魅力としたものをご提案したんですね。だからギターに関しては、わかりやすく言えば僕は良いとこどりを弾いてるだけなんです。ギターに関して絶対的な自信があったわけではなくて自分が良く見えるとこだけ弾いるわけですよ。ギターの音も突き詰めたわけではなく、こんな感じで良いだろうって。あとは全体的な音像とアレンジとかトータルな部分でイメージを聴かせるっていう作品だったし、そういうことをやってみたかったんでしょうね。僕自身もギターが好きだから思い出作り的な部分もありましたね。
●ギターサウンドの変遷
──今回のギターサウンドはあの頃と全く違いますが、1987年当時、角松さんのオクターバーのかかったキターサウンドは独自のサウンドで新鮮でした。
角松:いや、あれは重ねて弾いてるんですよ。
──2回弾いてたんですか。あとあの独自のギラギラしたサウンドはエフェクターライン直結ですよね。
角松:いや、だから僕は逆にそれが嫌いだったんですよ。あの頃はあれしか無かったから、BOSSのオーバードライブにDimension通してライン1本で録ってるんですよ。なんにもやってないんですよ。だから逆にそれが新鮮だったっていうのもあるかも知れないですね。僕自身はプロデューサーとして凄いギタリストと仕事をしてきてるわけで、スタジオにギタリストを呼んで注文する立場でしたから、凄いギタリストが何たるかは知ってるし、どういう機材を使ってるかも知ってるから、自分のギタリストとしての、脆弱さも自分が一番知ってるわけですよ。でもメディアミックス的にギタリストのアルバムというよりも夏をバックボーンにして楽しんでもらえるBGMを作るっていう意味合いが強かったんです。ところが割と“ギタリスト角松”という部分がフィーチャリングされてセールスが伸びちゃったんですよ。
──当時、高中正義やカシオペアをコピーしてたギタリスト達は、あのギターサウンドに衝撃を受けたわけですよ。あのサウンドはどうやったら出せるんだと。それでアンプ外したら出せたと。
角松:そうなんですよ。だからそいうのが面白いんだよな。こっちが意図してないところで評価されるっていう。まぁ、当時は一生懸命やってたんですよ。ただ「SEA IS A LADY」に関してはギタリストというよりはプロデューサー的な部分に主眼を置いて作ってたんです。だからギタリストっていう部分では“ほんとにやりたいのはこうじゃないけどまぁいいや”っていう部分はあったんですよ。で、これがまた売れちゃったもんだから焦って次のインストアルバム「Legacy of You」を出して。そこではキャビ鳴らしてダンカン搭載のストラト使ったりとか完全にギターサウンドを作りこんで本来ギターサウンドはこうあるべきだっていうものを作りました。
──インストオンリーのツアーもされましたよね。
角松:当時は虚勢張ってましたらからそんな顔見せませんでしたけど、正直いやでしょうがなかったですね。歌いながらギター弾いて、おいしいとこだけソロ弾いて、っていうわけじゃなくてずっとギター弾いてなきゃいけないっていうのは。それだけで食ってきた人間じゃないから、ほんと居心地が悪かったですね。ギターを弾いてる自分に慣れるのが凄い大変でした。だからツアー自体が楽しんでやれてる感じじゃなかったですね。
──それから30年経ったわけですが、ギターのスタイルはどのように変わったのでしょう。
角松:色々なプロデュースワークスの現場でギター弾いたりしてきて自分のギターに対する理解度は全く変わりましたね。色々な機材を使ったり、ビルダーに頼んで自分専用のギターを作って貰ったりして。仮に1987年当時にこの機材があったらもっと違うことが出来たと思うこともあります。今作は概ね皆さんが評価してくれていて、前より全然良いって言ってくれるんですけど、中には前のギターの音の方が良いって方もいらっしゃるんですよ。今の僕としてみれば“どういう耳してんだ!”って思いますが(笑) ただ87年当時は、良い、と感じられたんでしょうね。それは思い出の中に凝固された音なんで、超えるとか比較するとかいうことじゃないのです。
この記事の画像一覧
(全0枚) 大きなサイズで見る。
関連する記事
2022/05/15
2022/03/25
[div class="link">角松敏生、『MILAD #1』 4月13日(水)先行配信決定!2016/03/15