なんと、ライブでのクリック/オケ出しマシンとして活用
フィールドレコーダー「TASCAM DR-680MKII」をライブで使う! (PUFFYのバックバンドのベーシスト、木下裕晴氏に同行取材インタビュー)
フィールドレコーダー「TASCAM DR-680MKII」をライブで使う! (PUFFYのバックバンドのベーシスト、木下裕晴氏に同行取材インタビュー)
2019/07/18
TASCAM DR-680MKIIは、6チャンネルのマイク/ライン入力とデジタル入力を搭載し24ビット/96kHzの8トラック同時録音が可能なポータブルマルチトラックレコーダーで、その軽量なサイズと耐久性からフィールド・レコーダーとしてプロ/アマ問わず愛用されている。しかし、そんな"DR-680MKII"をレコーダーとしてでなく、"クリック&オケ出し専用機"として使っている方がいるとティアック社から連絡が入った。それが元L⇔Rのベーシストであり、PUFFYのバックバンドのバンドマスターでもある木下裕晴氏だ。今回、横浜赤レンガ倉庫で行われたフェス「CURRY&MUSIC JAPAN2019」に出演するPUFFYのリハーサルにお邪魔して、木下さん本人に"DR-680MKII"の"想定外"な使用方法について聞いてみた。
取材:斎藤一幸(編集部) 撮影:小貝和夫
取材協力:加茂尚広(ティアック株式会社)
──そもそもティアック的にはフィールド・レコーダーである"DR-680MKII"のこういった活用方法は想定していたのですか?
ティアック加茂:以前とあるミュージシャンから「MTRでクリックとかだけ別で出せるものはないですか?」というご相談も頂いたのですが、弊社の現行製品のMTRではトラックをパラって出⼒できるものがなく、難しいと考えていたところに今回のお話を頂きました。
──それがこの"DR-680MKII"だったのですか。
ティアック加茂:そうです「"DR-680MKII"でオケ出し? .... あっ!できる」って気が付いたんですね。今、おそらく他社さんも含めてマルチアウトで出せるレコーダーって無いんじゃないかって。
木下:はい、こういう機材をずっと探してました!
ティアック加茂:実は私もこのニーズで使えることに気づいておりませんでした。
木下:やっぱり"DR-680MKII"の売り文句は"フィールド・レコーダー"なんで、僕も最初はいろいろな状況でレコーディングする上で耐久性があるっていう程度の認識だったんです。
──今までライブでのクリックやオケ出しはどのようなシステム環境だったのでしょう。
木下:元々はパソコンでやってました。ProToolsやLogicで、オーディオ・インターフェースはRMEでしたね。僕はステージ上で大体6アウト使うのですが、日本では電源事情がしっかりしているからか、フェスとかそういう野外イベント、例えば幕張メッセのようなコンサートの専門じゃない会場でもトラブルは起きたことが無かったんですよ。パソコンでもね。なんですけど"パフィー"だと海外のライブ展開もかなりありまして、海外に行くと本番中に止まってしまうんですね。
──それは電圧的なものですか?
木下:それが電圧的なものなのか、照明との兼ね合いだとか色々あるのでしょうが、とにかく僕が普通にサオ(BASS)弾いててもノイズがかなり乗ることがありまして。とくに日本に比べるとアメリカの方が。向こうの考え方としては、元からノイズを消すというよりはノイズリダクションを噛ましてノイズを消すという発想なんでしょうね。だから電源まわりもアバウトなんで止まってしまうケースがありまして。そこで、その時にパソコンじゃなくてもっと良いものはないかなって探し始めたんですよ。
──MTRならいけそうですね。
木下:MTRも考えたんですけど、海外に持って行くには移動も含めちょっと大きいかなと思いまして。それでたどり着いたのがこの"DR-680MKII"だったわけです。6アウトだったということに気が付いたんですね。
──それはいつぐらいのことですか。
木下:使い出したのは3年ぐらい前ですかね。最初はこれ"DR-680"でしたよね。僕が買った時は既に"DR-680MKII"でしたけど。
ティアック加茂:当初、前モデルのDR-680は1つのファイルを1つのテイクにする機能しかなかったのですが、途中のバージョンアップで複数のファイルを1つのテイクにする方式に変更しました。これによってDAWで作成したマルチトラック素材の再生に対応し、クリックやストリングスなどの音声ファイルをインポートしてそれぞれ別々にアウトプット出来るようになったんです。DR-680MKIIにモデルチェンジした際には最初からこの機能を実装しました。
──普段はクリックを含めて6アウトのオケを作られるんですか。
木下:そうですね。1/2番ステレオ、3/4番ステレオ、5番モノ、6番モノって感じで使ってます。クリックは6番ですね。
──用途としては完全に"フィールド・レコーダー"ではなくて"マルチ出し専用機"なんですね。
木下:僕の使い方はメーカーさんには申し訳ないですけど、"録音する方"では無くて、"出す"ほうですね。(笑)
──よく"フィールド・レコーダー"をこういう用途で使おうと思われましたね。そもそも気づいたキッカケは何だったのでしょう。
木下:TASCAMというブランド自体は元々僕が学生時代に"TASCAM246"っていうマルチ・カセットレコーダー使ってまして、マルチトラックに関しては先駆的なメーカーであるっていう認識は前から持っていたんですね。なので「TASCAMで何か出てたりしないのかなぁ〜」って感じで調べていたのが最初ですね。
──探していた一番のポイントは何だったのでしょう。
木下:6アウト出来てトラブルにも強そうなものですね。結局、僕がパソコン使ってライブ本番でやっていることってスタート/ストップと次の曲出しぐらいだったんですね。パソコンで普段編集している時だと数限りなく色々なことが出来てしまうけど、実際ステージ上ではそこまでの機能はいらないわけですよ。ステージ上で編集することはもちろん無いので。そういうことを省いてもっとシンプルな機械でトラブルが少ないものが無いだろうか、って言うことで探しました。
──実際に使われてみて"DR-680MKII"の耐久性に関してはどうですか。
木下:"DR-680MKII"を使い始めて3年ですけど一回も止まったことは無いですね。もう雨だろうが、揺れようが。
──雨でも平気でしたか。
木下:僕ら野外やってると避けられないですよね。
ティアック加茂:PUFFYさんが豪⾬の中で使ってらっしゃるのを観たことがありますよ。
木下:大体、豪雨級になってくるとスタッフの方がビニールシート掛けてはくれるんですけど、吹き込んでくるんですよね。正直パソコンでやってた頃は「止まるんじゃないか」って気にしながら演奏していたことが結構あって、決してライブに集中してないわけではないんでしょうが、実際には気にはとられていたんですよ。でも"DR-680MKII"になってからは本当に信頼が置けるので「止まるんじゃないか」というストレスは全く無くなりました。それは凄く大きいですね。
──バッテリまわりはどうですか。
木下:電池駆動も出来るんですよね。で、これがちょっと驚いたんですが、普段はAC刺して使ってるんですけども、ACを抜いてもすぐに電池に切り替わって、そのまま音が止まらないんですよ。ずっと電源で使ってたんですけど「あれ、これ抜いてもそのまま走るのかな」って検証してみたら止まらないんですよ。
──野外のライブの時は電池で使われているのでしょうか。
木下:一応電源には繋いでいるんですけど、もし電気系のトラブルがあってもすぐ抜けば使えるように電池は入れてます。曲中でも出来るっていうのが頼もしいですね。
──連続使用時間ではどれくらい使われるのでしょう。
木下:コンサート本番だと2時間ぐらいですけど、リハーサルになるともっと全然長いので6,7時間ぐらいは続けて使用してますね。
──本体に上部にスピーカーが付いていますがこれは使ってますか。
木下:これは本当に便利で使ってます。簡単なチェックならヘッドフォンをしなくてもこのスピーカーで出来ちゃうわけで。モノラルですけど曲順のチェックとか本当に助かってます。
木下:今、パソコンも本体はSSDになってきましたが、外付けハードディスクを使用してますとスリープして、立ち上がりに間が空くことがあるんですね。
──オケ出しのタイミングとかに影響しそうですね。
木下:その点"DR-680MKII"はSDカードだからそういう事は無くなりましたね。
──ではSDカードの使い方についてお聞きしますがライブではマルチのデータをどのように管理されてますか。
木下:そのライブごとに曲順が変わったりするので各ライブごとに曲順で並べてます。なので地方へ行くとホテルで曲を組み換えたりしていますね。
──各ライブごとに大量のSDカードを持ち歩かれているのですか。
木下:基本的には一つのコンサートツアーでマスターのSDとバックアップのSDを使うようにしてますね。
──オケのトラックはどのような構成ですか。
木下:クリックは6番で、1/2番ステレオが基本なんですけど、ライブによってはキーボーディストがいない時があるのでそういう時はマルチで全トラック出したりもしますね。シンセ系を1/2番ステレオ、パーカッションもモノで5番、クリックを6番、3/4番はギターであったり、シンセ/キーボード以外の楽器を出したりしてますね。
──それらのオケはパソコンで作られてSDカードに保存して"DR-680MKII"へ取り込むという形ですか。
木下:そうですね。作り方は以前と変わらず、LogicかPro Tools、インターフェースはRMEで作りまして、それを"DR-680MKII"に流し込みます。そうすると曲名が全部番号で表示されるんですね。その曲名自体は"DR-680MKII"でも変えられるんですけど、パソコンで打っちゃった方が早いので一回パソコンに戻して曲ごとの名前を打ちます。
──曲順ってどうなるのですか。
木下:頭に数字を⼊れるとその順番で再⽣されるので数字を打ち込んで使ってます。
──各トラックのミックスバランスはどうされてますか。
木下:イベントとかですとリハをやれるのが本番の直前しか無いんですよ。みんなが機材を入れてサウンドチェックしてそれで本番っていう風になるので、最初に実際にやる曲とは関係ないシーケンスのチェック曲を用意してるんですね。エンジニアはそれでシーケンスのバランスをとったりするんです。
──"DR-680MKII"本体でバランスをとる時もあるのですか。
木下:そうですね、本体側でもミックスレベルをいじれます。基本的には全トラック同じレベルに合わせてますけど。最悪、PAのトラブルとか、普段来てる現場じゃない方がいきなり来るとバランスがとれないので、そういう時は僕の方で本体でバランスをとる時もありますね。あと、レベルをトラックごとに調整出来ることで凄く助かったことがありました。海外に行った時にドラマーが持ってきたミキサーがユニバーサル電源かと思いきや100Vだったんです。で、ミキサーから煙吹いちゃいまして(笑)、それリハだったんですけどミキサーもう無いや、じゃあ本番どうしようかと。
──ドラムの方の自分用モニターが無くなったってことですよね。
木下:そこで急遽、"DR-680MKII"のヘッフォンアウトから、ドラマーの方が聴きやすいように内部ミキサーでクリックのレベルを上げて、オケは下げておいてというバランスを作ったんです。それをPAに伝えて"DR-680MKII"用のバランスを新たにとってもらってなんとか乗り切りました。
ティアック加茂:PA卓送りのラインバランスは変わりますが、"DR-680MKII"の内部ミキサーで調整して、キュー出しで使われたんですね。
木下:苦肉の策でしたけど(笑)。"DR-680MKII"内部でミックスレベルが変えられたおかげ乗り切れましたね。
──色々な現場に行かれると思うのですが、フィールド・レコーダーを使ってオケ出ししてる方っていないですよね。
木下:だからどの現場でもみんなビックリしますね。でも実際使うとみんな凄く良いって言いますね。特に海外に行く現場に関わっている人っていうのは、パソコン持ってインターフェース持ってって結構な荷物なんですね。SDカードと"DR-680MKII"で行けるんだったらこんなに良いことは無いって言いますね。けどこんな"出し"の方をメインで開発されたわけじゃないですよね。(笑)
ティアック加茂:弊社のHPでの扱いも「DR-680との違いはマルチトラックの素材をインポートできるようになりました」とお知らせはしていましたが、あくまでフィールドレコーダーの部分を強く推していたんです。でも⽊下さんのようなクリックを別で出したいって要望は昔から多かったんですよ。以前それが出来たMTRも他社さんであったのですが、昨今のMTRはパソコンでDAWを使えない⼈が⼿軽に録⾳したいという需要の⽅が強かったので、TASCAMの近年発売したモデルでは実装していなかったんです。MTRはマルチトラック・レコーダーですが、今のライブコンサートで同期を聴きながら演奏をするという状況を考えると、録音はもちろんですが、再生用途でもニーズがあると思っていたので、木下さんが実際に3年間現場でご愛用頂いているのは嬉しかったです。
──"DR-680MKII"って2台接続出来るそうですね。
ティアック加茂:これは簡易的な機能ですが、2台のDR-680MKIIをデジタルケーブルで接続して、マスター機の再生ボタンや録音ボタンを押せばスレーブ機も追従して動作させる事も可能です。
──単純に12トラックで再生も出来るわけですね。木下さん的にはトラック数が増えるのは魅力的ですか。
木下:僕の使い方ですと6トラックあれば十分ですけど、でも最低6トラックは欲しいですかね。で、この6アウトっていうのがなかなか無くて。小さいインターフェースとかだと3アウトは有ったりするんですよ。ただこういう6アウトはこれしかないですね。
ティアック加茂:お話しをいただいてから僕も調べたんですけど、6アウト出るのは無かったですね。
──"DR-680MKII"の機能でマーキングも出来ますね。
ティアック加茂:再生してマークを押すと次のマークの頭に行くとか。一つのステージを一つのファイルとして作っておいて、曲の頭にそれぞれマーキングしておけば、MCが終わって次の曲の頭に行くことも出来ますね。
木下:僕の場合は本番で使うとなると、頭出して確実に合ってるかどうかが一番気になるので、曲順が液晶パネルに表示されるのがとても重宝するんです。
──実際ライブステージでは"DR-680MKII"はどこに置かれて操作されるのでしょう。ベース弾きながらの操作ですよね。
木下:斜め後ろにセッティングしてすぐ押せるようにしてますね。でもそれはパソコンでやってた時から作業的には変わらないんですよ。画面が小さくなったとはいえ結局見るところはパソコンでも次の曲名だけだったので。海外に行くとステージに上がってくる外人のスタッフは「これなに?」って必ず訊かれますね。これシーケンスで出してるって言うとみんな驚きますね。しかもマルチで出してるって。
──今のお話ですと将来的にタブレットやスマホからBluetoothで遠隔操作したりという機能は必要なさそうですね。
木下:そうですね(笑) タブレットは譜面としてまわりで使う人もよくいるんですけど、本番中にうまくめくれなくて結局手でめくったっていうのも見てるのでね。Bluetoothもむしろ有線でそういうものがあれば重宝するかも知れないですね。
──そういった意味では今のこのぐらいの大きさとスペックがベストなわけですね。
木下:外人はだいたいこれを見るとみんな「日本人は凄い!日本人は凄い!」って言ってくるので日本人として誇らしいですね(笑)
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