ユニバーサルオーディオ製のIFをプロが使う理由に迫る! 第六弾
UADプラグイン愛用ミュージシャンインタビュー【青木征洋】
UADプラグイン愛用ミュージシャンインタビュー【青木征洋】
2019/09/24
青木:実は2014年にNAMM SHOWへ行ったときに、UAのブースで「Apollo Twin USB」の実機をいち早く見ることができたんです。UADプラグインの良い評判も聞いていたし、実際に見てみたらハードウェア的にもしっかりと作られているなという印象を受けて。それで、買うなら “このタイミングだな!” と導入を決めました。
──「Apollo Twin USB」を導入されていかがでしたか?
青木:やっぱり「Unison」でUADプラグインが “かけ録り” できることが良かったですね。特に僕はギタリストですし、録音時に定番のプリアンプが使えるのはありがたくて。なんというか、厳密に音を比べてどうこうというよりも「UADプラグインをかけておけばメンテナンスも要らないしリコール出来るしとりあえず大丈夫だろう!」みたいな。
──例えば、どのようなUADプラグインを?
青木:Neve 1073です。録りの段階でSSLやAPIなどのプラグインを試すこともあるのですが、そもそも僕はいじれる箇所が少ないプラグインが大好きで。色々と選択肢があるよりも、男らしく「ゲイン」だけという感じが。
──では、Neve 1073ではEQなども使わずに?
青木:基本はそうです。ただ、ミックスの段階で確実に削る帯域は事前にカットして使うことはあります。
──それは具体的には?
青木:例えば、ギターを録るときに4kHz〜5kHzのあたりがチリチリ聴こえるとか。あと、ピッキングのアタックだったら2400(2.4kHz)〜2800(2.8kHz)あたりがキーンと聴こえるとか、そういった場合ですね。もちろん、ミックスの際にカットしてもいいんですけど、こういった問題を早めに解決しておけば、自分がいいと思った音で作業もできるし、ワークフロー的にもメリットが大きいと思うんです。
▲「Neve 1073」
青木:いえ、今は「Apollo Twin USB」以外に「Apollo 8」、「Apollo X6」の3台のインターフェイスを所有していて、録音する際には最新モデルの「Apollo X6」につないでいます。
──歌を録る際にも?
青木:いえ、僕は歌ものは3年に1曲くらいしか作らないので、録音するのは基本的にギターのみです。
──3台を所有しているというのは、それぞれを使い分けているのですか?
青木:というよりも「Apollo」シリーズは、各モデルをThunderboltでつなげばパワーを拡張できるじゃないですか。なので、買い替えではなく、買い足して使っている感じですね。なので「Apollo Twin USB」もモニターコントローラーとして活用しています。
▲青木さんのプライベートスタジオ。写真左上が「Apollo Twin USB」、写真右上が「Apollo 8」と「Apollo X6」、写真下がギターレコーディングに使用しているというユニバーサルオーディオ「OX」や「Kemper Profiling Amplifier」
──では、Neve 1073以外によく使われているUADプラグインについても教えてください。
青木:まず使用頻度が高いものだと、マスターチャンネルに「Manley Variable Mu Limiter Compressor」はよくかけています。マスターチャンネルにコンプが必要かどうかという議論もあると思うのですが、この「Manley Variable Mu Limiter Compressor」は嫌な感じに音が変わらないんですよね。さすがはVariable Muというか。実は僕は実機も一度触ったことがあるんですけど、そのときもどれだけ音を突っ込んでもいい感じの音になってくれて。あの感動がこのプラグインにも落とし込まれているなという感想です。
──青木さんにとって、マスターで音がいい感じになるというのは具体的にはどのような状態なのですか?
青木:うまく口で説明するのが難しいんですけど、VCAのコンプみたいに特定の部分を叩くコンプだと、曲のうるさい部分は窮屈になってしまいがちなんですね。でも、そういった感じがなくて、曲の大まかなダイナミクスの中でほどよく飽和しているという感じですかね。なので、音が良くなるというのはちょっと語弊があるかもしれません。音が気持ち良くなるというのが正しい表現かな。
▲「Manley Variable Mu Limiter Compressor」
──ツマミはどこをいじることが多いのですか?
青木:パネルの左下に「FLAT」と「HP SC(ハイパスサイドチェイン)」のモードを切り替えるスイッチがあるんですけど、僕は必ず「HP SC」の方にして、キックやベースのローエンドがコンプに反応しないようにして使っています。あとは「THRESHOLD」を決めて、「ATTACK」と「RECOVERY」でトランジェンド(音の立ち上がり)の状態を調節していきます。「INPUT」や「OUTPUT」はあまり極端にはいじらないです。
──「OUTPUT」もいじらないんですか?
青木:はい。僕の場合、マスタリング的なことはiZotope「OZONE」でやることになります。なので、「Manley Variable Mu Limiter Compressor」はミックスのまとまり感の最終調整をしているイメージです。
──わかりました。では、その他はいかがでしょうか?
青木:ミックスでは「Massenburg MDWEQ5 Parametric EQ」をよく使っています。これは本当に素晴らしくて、音のイメージを変えずにEQをかけることができるんです。EQの使い方って、大胆に音作りする目的と、補正をする目的の2通りのシチュエーションがあると思うんですけど、このマッセンバーグのEQをいじるとマイキングを変えているような感覚になるんです。透明というか “EQをした後の音が録ったときの音ですよ!” って言われても違和感のない感じに聴こえます。なので、楽曲の中ではリードギターはもちろん、音色的に大事な情報がいっぱい詰まっているトラックにこれを使うことが多いですね。
──具体的にはどのようなことを意識しながらEQをするのですか?
青木:「Massenburg MDWEQ5 Parametric EQ」では、1〜5の数字を押すとその帯域をソロの状態で聴けるので、これを使ってまずはイヤなポイントを見つけてカットしていきます。一般的なEQだとかなりQ幅を狭めて見つけていくと思うんですが、「Massenburg MDWEQ5 Parametric EQ」の場合は、ソロ状態にするだけでかなりわかりますね。リードギター以外だと、ストリングス、ブラス、オーケストラ系の楽器をEQする際にも重宝しています。
──青木さんは、ギターアンプのUADプラグインを使うこともあるのですか?
青木:使うとしたらフェンダー系のものですかね。アンプをシミュレーションしたプラグインも色々とあると思いますけど、UADプラグインの「Fender ’55 Tweed Deluxe」はマイキングしたときの再現度が高いと思います。これはユニバーサルオーディオがインパルスレスポンスではなく、物理的にキャビネットをモデリングしているからこそなせる技かもしれませんね。
──「Fender ’55 Tweed Deluxe」で録る際のポイントは?
青木:僕はクリーンのギターを録る場合に気をつけているのはマイクですね。普段、余程のことがない限りはROYERのリボンマイク「R121」をモデリングしているものを選ぶようにしていて。それでもトップエンドが足りないと思ったときは、U67コンデンサーで「チリっ」とした感じを足すようにしています。
▲「Fender ’55 Tweed Deluxe」
──空間系のUADプラグインについてはいかがですか?
青木:「Ocean Way Studios」は好きですね。このプラグインはLAのOcean Wayスタジオの音場を再現できるという変わりものなんですけど、オンマイクで録ったギターをあとからOcean Wayスタジオで録ったようにできるんです。僕の場合、フルオーケストラにオンマイクで録ったエレキギターを混ぜるケースも多いんですけど、オーケストラとギターがなかなかうまく馴染んでくれないんですよね。でも、この「Ocean Way Studios」だとマイクの種類、スタジオのタイプ、ソースなども細かく選べるし、オーケストラもギターも同じスタジオで録ったようにうまく馴染ませることができるんです。まぁ、上手に音をボヤかせるというか。
▲「Ocean Way Studios」
──この「Ocean Way Studios」を実際に使用した楽曲を教えて頂けますか?
青木:一番わかりやすいのは「アストラルチェイン(8月30日発売)」というゲームのムービーシーンですかね。ここで使われているギターのほとんどに「Ocean Way Studios」を使っています。
──続いて、ギター以外のドラムなどに使用するUADプラグインについて教えて頂けますか。
青木:そうですね。「Empirical Labs EL8 Distressor Compressor」はドラムのサウンドメイクに使っています。スネアとかキックとか。
──なぜ「Empirical Labs EL8 Distressor Compressor」を?
青木:ちょっとマニアックな話になってしまいますが、僕が「Empirical Labs EL8 Distressor Compressor」を使う理由は、FET的なコンプレッサーの音の変化を付けたいんだけど、1176だと早過ぎる場合なんです。コンプレッサーって、FET、VCA、オプト、Variable Muといった4種類が主流だと思うんですけど、1176が一番アタックタイムが早くて、パーカッションみたいなトランジェントの早い音だとうまく叩けるんですけど、早過ぎるとも言えるんですね。コンプが効き過ぎるというか、もう少し優しく効いて欲しいというか。で、そんな問題をうまく解決してくれるのが「Empirical Labs EL8 Distressor Compressor」なんです。しかも、「Empirical Labs EL8 Distressor Compressor」はいわゆるパラレルコンプにも対応していて、DryとWetのMIX量が調整できる点も魅力です。
──トランジェントのコントロールできる幅が広いんですね。
青木:はい。ド派手に潰してもトランジェントはしっかり残っているみたいな使い方もできますし、ちょっとソフト目に潰しておいて、全体的にコンプをかけた感じにすることもできるし。トランジェントのコントロールの制球力が高い感じですね。
▲「Empirical Labs EL8 Distressor Compressor」
──「Empirical Labs EL8 Distressor Compressor」以外にもドラムで使うUADプラグインはありますか?
青木:あとは「SSL 4000 G Bus Compressor」ですね。これをドラムのバス(キック、スネアなどがグルーピングされたバストラック)に入れてます。サウンドに一体感を出すのが目的ですね。
──「SSL 4000 G Bus Compressor」は扱いやすい?
青木:はい。特に気に入っているのは、こちらも「MIX」でDryとWetの量が決められることと、「SC FILTER(サイドチェインフィルター)」でキックの引っ掛かり具合を調節できるところですね。
──ドラムのバスで使う場合は、アタックタイムなどはどのように設定することが多いですか?
青木:僕の場合は、アタックは「10」に、リリースは「Auto」か「.1(0.1)」にすることが多いです。
──「SSL 4000 G Bus Compressor」で一体感を出すとのことですが、音的にはどのように変わるのでしょうか?
青木:密度感もそうですが、ドラムのリリースがちゃんと聴こえるようになるんです。僕は「SSL 4000 G Bus Compressor」を使う際にスネアの反応を中心に見ているんですけど、例えばスネアの「トンッ」という音が「トーンッ」みたいに聴こえてきます。スネアにコンプがかかったときに、ドラム全体が鳴っている印象になると自然と一体感が生まれてきますね。
▲「SSL 4000 G Bus Compressor」
──マスタートラック用、ギター用、ドラム用と、本日は青木さんには色々なUADプラグインを紹介していただきましたが、今後どのようなUADプラグインが出てくることに期待していますか?
青木:今回、「Ocean Way Studios」の話をさせて頂きましたが、同じような発想のプラグインで「Capitol Chambers」という製品があるんですね。これもある特定の実機をシミュレートするのではなくて、CapitolというLAのスタジオ内にある “響きだけを作る部屋(エコーチェンバー)” をモデリングしているんですが、こういったプラグインに期待したいですね。僕はギターなどをドライで録る場合も多いので、こういったプラグインが充実してくると、他のオケとも馴染ませやすくなりますし。ボーカルをミックスする際にも使ってみたいです。
──では、最後にあらためて青木さんにとって一番重要なUADプラグインを教えてください。
青木:う〜ん。どれかな。やっぱり「Massenburg MDWEQ5 Parametric EQ」ですかね。EQも色々とありますけど、お話した通り、これが一番安心してかけられるんですよね。僕がEQを選ぶときの基準はいくつかあるんですが、「Massenburg MDWEQ5 Parametric EQ」を選ぶときは完全に音なんですよ。で、これ以外のEQを使うときは利便性であったり、柔軟性を重視するわけですが、そういったプラグインを使った場合は「EQしました!」っていう感じの音になりがちなんですね。それを感じさせない「Massenburg MDWEQ5 Parametric EQ」は、やはり制作には欠かせないツールです。
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