J-AOR、J-POPのヒットメイカー 林哲司が贈る初の“リーダーアルバム”
林哲司「Touch the Sun」インタビュー
林哲司「Touch the Sun」インタビュー
2015/12/09
普段の作曲について
──曲は基本的にギターで作られるんでしょうか?
林:やはりギターを使って作ることが一番多いですが、様々なプロセスで作りますよ。ギターやピアノ、楽器を使わないこともあります。例えば4つのコードから発展させてメロディーを作ってみようとか、そういったテーマを決めて作曲することもあります。
──ギターはどんなタイプのものを使っていらっしゃいますか?
林:今は小型のギターを使っているんですけど、昔はエピフォンのセミアコを生音で鳴らしながら作っていました。
──セミアコを使われていた理由は何ですか?
林:スケッチの段階でも楽器の音色が作曲に及ぼす影響って大きいんですよ。フォークギターではソウルみたいな雰囲気の曲は作りにくいし、ガットギターだとソフトすぎてボサノヴァっぽくなっちゃうし、ソリッドギターは音がカラカラするからコード感がわかりにくい。楽器が持つ特性と、僕の作りたい曲のムードを総合的に考えるとセミアコがベストだったんです。セミアコでスケッチを作る場合は、カセットに自分の歌とギターを入れるだけで仕上がりが大体見えますね。
──では、リズムから作曲されることはありますか?
林:まれにありますよ。打ち込みでリズムから作った場合は、あてはめたメロディが即さないと感じたらリズムではなくメロディから変更して調整します。ほかには、コードの進行をシーケンサーに打ち込んで、それにバックトラックを付けることでイメージを膨らませ、メロディを作っていくというケースもあるかな。
70年代から80年代、そして現代のポップスへ
──林さんといえば日本のニューミュージック/歌謡曲の世界にAORを取り入れた作曲家として知られていますが、そういった評価をご本人はどう思われていますか?
林:僕はそんな意識はないんだけれどね(笑)。でも、“竹内まりやさんの「セプテンバー」や松原みきさんの「真夜中のドア」でAORに目覚めました”っていう話はよくお聞きしますね。
──その2曲に関して特別な思い入れはありますか?
林:この2曲はほぼ同時期に作ったんですけど、真逆なプロセスで完成したんです。「セプテンバー」は“日本の土壌を意識した分かりやすい曲”という要望があって書いたんですが、竹内さんがその日本風のメロディを洋楽のように軽やかに歌ってくれたことで良質のポップスとして成立しました。一方の「真夜中のドア」は“まるっきり洋楽でいいい”という要望で日本人にはとっつきにくいメロディでしたが、松原さんのしっとりとした日本人らしい歌声と組み合わさったことでこちらもポップスとして完成度の高い曲に仕上がったんですよ。
入口はまったく違う2曲なんですけど、どちらも洋邦の要素がバランス良く入った曲になったということで印象深いですね。
──なるほど。当時、「真夜中のドア」で使われていたテンションコードや分数コードは「難解な曲」という印象がありました。
林:そこまで難しいコードを使ったつもりはないんですけどね。でも、あの時代って主流というか“王道”と呼ばれる曲調が明らかにあったじゃないですか。そういった“王道”という視点から見ると、馴染みのないコードを使っていましたね。それがリスナーにこれまでのポップスとの違いを感じてもらったんじゃないかな。僕にとってあの2曲はまだ夜明け前という位置付けなんですよ。“新しいタイプの作曲家”だという評価は受けましたけれども、だからといってまだ頻繁に曲を書いていた状況でもなかったし(笑)
──80年代に入って、杉山清貴&オメガトライブや菊池桃子さんの曲を手掛けられた頃になると、そういったコードの使い方がポップス界でも標準になってきましたよね。
林:そうですね。時代が求めるものと自分の曲がマッチしてると感じたのは80年を過ぎてからですね。
──その後、90年代後半に宇多田ヒカルさんやMISIAさんなど、それまで以上に洋楽の要素が強く感じられるアーティストが人気を得ましたが、そういった状況を林さんはどのように感じられていましたか?
林:それまでは日本のポップスではキチッとメロディを歌うことが基準になっていましたけど、宇多田さんやMISIAさんは歌い方に“遊び”が入っていて、そんなアーティストが日本でも受け入れられるようになったということが印象的でしたね。
──そういった洋楽っぽいポップスが受け入れられる土壌は林さんがお作りになったのではないでしょうか?
林:そんなことはないですよ(笑)日本のポップスはそれぞれ時代ごとに洋楽を取り入れているんだけど、その流れの中に僕がいただけだとおもいます。たまたま僕は、自分が好きな音楽をやったタイミングが時代と合致したんですよ。
──現在のポップスに関してはどのように感じていらっしゃいますか?
林:アメリカではラップブームが起こって、その後メロディが重要視されない音楽が主流になって久しいじゃないですか。最近流行りのダンスミュージックもやはりグルーブありきの音楽だと思うし。でも、リスナーが最終的に求めるのはメロディありきの音楽だと僕は思っています。そういう音楽をもう一度メインストリームに戻したいっていう気持ちがあるんですよ。今回のアルバムにはそんな想いも込めたつもりです。
──では、最後にリスナーへのメッセージをお願いします。
林:今作「Touch the Sun」は“曲の構成やメロディの良さがじっくりと味わえる”作品に仕上がっています。洋楽やAOR、そして僕が書いた曲が好きな人にはぜひ聴いてほしいですね。
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