日本を代表するギタリストが待望のニューアルバムをリリース!
木村 大『ECHO』インタビュー
木村 大『ECHO』インタビュー
2016/04/05
「アランフェス協奏曲」は竹中直人という偉大な存在を示した楽曲になりました
木村:「スペイン」をやろうと思ったのはレコーディングの2日前で、それまでやる予定はなかったんです。大体チックコリアの「スペイン」って「アランフェス協奏曲」をイントロにするじゃないですか。でも僕はクラシックギタリストなのでやっぱり「スペイン」をイントロ代わりにするみたいな(笑)。なので、曲順もあえてそうしたんです。それをみんなに伝えたら“こんな急に変えるの!?”って焦ってました。だから“アドリブ回しとかそういうの一切僕が持つから!”って。
──これだけのミュージシャンが集まって「スペイン」をやるとなると早弾き合戦になりそうなものですよね。
木村:今回、サウンドプロデューサーとして澤近 泰輔さんをお招きしたんですけど、全体の流れを客観的にジャッジして欲しいということでお仕事ご一緒したんですね。彼の口からも“早弾き合戦にならないように! そういう「スペイン」は飽きたし、疲れるし。何度も聴けるように若干テンポを落とそう”ってことになりました。なので、遅過ぎず速過ぎず、ミディアムな感じの中で、先ほども言った早弾き合戦にならないようにみんなで意識しながらプレイしていこうという話をしました。
──先ほどの「天国への階段」もそうでしたが、おっしゃるように“王道”なアレンジで気持ちよく聴けましたね。
木村:この曲はやっぱり世界中にジャズ/フュージョンの名盤がたくさんあるので敬遠している部分があったんですね。でも、そこにちょっとクラシックギターでやってみても面白いんじゃないかなって。まぁ僕がクラシックギタリストだから許されたと思うんですけど。あまり周りのことを意識せずに “自分達が今作ろうとしている音に徹しても良いのかな”という、ひとつの余裕みたいな気持ちも生まれてきたんですね。
──続く「アランフェス協奏曲」では俳優の竹中直人さんが口笛で参加されていますが、どういったいきさつだったのですか?
木村:5〜6年前に竹中さんのラジオ番組にゲストで呼んでいただいたんです。その時に僕が映画音楽を弾いたら、彼が即興で口笛を被せてきたんです。で、その口笛がメチャクチャ良かったんですよ。もうスゴく太くてとても良かったので、いつか自分のアルバムに入れる機会があったら良いな、と密かに考えていたんです。それで今回「アランフェス協奏曲」をアレンジしようとした時に、実はこの楽曲の2楽章にちょっとした背景がありまして、ロドリーゴが自分の息子を亡くして、神と自問自答を繰り返す、光を見いだすという部分があるんですね。それで、作りモノの音よりも、人間味のあるような声もしくは口笛が良いんじゃないかって思った時に“あ、竹中さんがいた!”って思いだしまして(笑)。じゃあ竹中さんにお願いしようという運びになり、メールを送ったら“いいよ”って即答が返ってきたんです。
──口笛もバンドと同時レコーディングされたのですか?
木村:いえ、これは後から録音しました。竹中さんのスケジュールを押さえるのがとても大変だったんです。その時ちょうど舞台をやられている時期で、当日も1〜2時間しか時間が取れなくて、それが終わったら舞台に行くみたいな。だから、毎日車移動の時に練習してマネージャーさんに“俺はこんな壮大な曲を口笛で吹くんだよ。これどうだよ?”って言っていたらしくて。 前日も “どうしよう。俺吹き過ぎて音が出ないかも”って連絡がきまして(笑)。僕は“いや、吹けないくらいでいいですよ。かすれ具合とか不安定な感じがあった方がとても嬉しいのでそのまま来てください”って伝えたんです。そうしたらホッとされたみたいでばっちりレコーディングできてました。
── ひとりだけで口笛のスタジオレコーディングって緊張しそうですよね。
木村:普通口笛って自分ひとりの時に、しかも気分が良い時に吹くじゃないですか。それなのに、スタッフがいるレコーディングスタジオで “どうぞ!”って言われてあの旋律を入れるというのは相当な勇気とガッツが必要なんですけど、それが見事に覆されたんです。しかも、お願いしたフレーズだけでなく、10分もあるこの楽曲のすべてのフレーズを吹いてくれたんです。3回も。その時の竹中さんは顔が引きつって“もう、これ以上吹けない”って言ってましたね。今もこのアルバムを聴いて思うんですけど、役者さんって言葉と表情と動作とかで伝えるじゃないですか。それを全部奪い去って口笛だけなのに「竹中直人」という存在を示していることに偉大さを感じましたね。
──ところで、前作『HERO』がハイレゾ配信され今作も高音質CDになっています。クラシックギターの音を高音質のハイビットで聴くメリットは何でしょうか?
木村:空気感はもちろんなんですけど、クラシックギターとスパニッシュギターの音の違いが如実にわかるんです。クラシックギターとスパニッシュギターの大きな違いというのは、音の粒の大きさが違うんですね。スパニッシュギターは、一つの音が出る芯の太さというか、それって弦高の高さも含めて全然違うんですけど。クラシックギターのとても太くてきらびやかな一つ一つの音の分離性というか、柔らかい音から激しい音まで含めていくと、色々な表現ができるのがクラシックギターなんです。その差異を様々な意味で感じられるというのが大きくあるのと、それと今回録り方のバランス、ピアノとギターがなるべく音像として、あまり対極な位置にならないように同じぐらいの音量バランスに変えたんです。なので、臨場感とかそういうものもダイナミックとして、とても感じられやすいかなと。あとはしっかりパンしている部分もあるので、その空気感というのももっと臨場感的に伝わりやすいのかなと。ちなみに、ヘッドホンよりもスピーカーで聴いていただくのがおすすめです。
──また、現在ツアーがスタートしています。その中で新曲を披露されてお客さんの反応はいかがですか?
木村:ジャズやポピュラーな曲も弾いたりするので、曲間ごとに雄叫びをあげたりする人がいるんです(笑)。先日初日公演をピアニストの榊原 大さんとやって終わった時に、スタンディングオベーションが起きたりとか、やっぱり盛り上がる曲なのかなって。まぁ音楽好きの人達がどつぼにはまる曲ばかりなので。
──その中には木村さんのクラシックの楽曲を聴きに来ている方もいらっしゃるのですか?
木村:もちろんいますけど、結構クラシックを聴きに来ているリスナーの方って、コンサートホールに行く人達なんですね。そういった人達はライブハウスには行かないじゃないですか。両方に分かれるんですけど。初めてライブハウスに来たクラシック系のお客さんはカルチャーショックを受けるみたいなんです。それはもちろん良い意味で。お酒を飲みながらとかコーヒーを飲みながらとか、至近距離でこんな風に聴けるなんて無いので。みんな楽しくなっちゃうみたいなんです。だから、僕のファンの人達は良かったら立ち上がってくれるし、想いを伝えてくれるというか、一緒に音を作り上げていく、そんな感じがとてもしますね。
──それでは最後にファンの方達へメッセージをお願いします。
木村:ライブハウスはお客さんが至近距離なので、僕のギターに対しての情熱とか、そういうのをダイレクトに伝えたいと思いますね。また、コンサートホールはクラシックギタリストとして、とても大事な場所でもあるので、コンサートホールの場合は音楽の広がり、それぞれの楽器しか表わせない空気感、広がりが感じられる上質な音楽を目指して行きたいですね。それぞれがベクトルの違うステージングというのを心掛けて、セットリストも含めて変えていきたいなと思っています。それぞれを楽しんで、良さというか醍醐味を伝えられたら本望ですね。
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