27種類のサウンドを内蔵したモデリングギター
VOX「Starstream Type 1」を徹底レビュー!(ゴダイゴのギタリスト浅野孝已の試奏動画付き)
VOX「Starstream Type 1」を徹底レビュー!(ゴダイゴのギタリスト浅野孝已の試奏動画付き)
2016/06/30
プロギタリストが語る「Starstream」の実力
浅野:僕は音を決める段階から参加させてもらいました。いくつかのアイディアの中で「じゃあこの音をこういう風にしよう。ここはもっと固くあるいは柔らかく」といったアドバイスをさせてもらいました。
──具体的にはどのあたりを?
浅野:たとえばハムバッカーならレスポール、シングルならストラトキャスターとテレキャスターの音をどのようにして再現するかなどですね。耳触りにならない、デジタルチックじゃない音にしようと苦労しました。また、アコースティックに関しては、マーティンやギブソンなど、様々なボディ形状がある中でそれぞれの“鳴り”をどうやって良い音にしていくかを考えました。
──12弦ギターのシミュレートについてはいかがでしたか?
浅野:自宅にあるリッケンバッカーとモズライトの12弦を持って行って、実際に音を鳴らしながらそれに合わせて音を作ってもらいました。開発段階のやつを一度ステージで使ってみたんですけど、やはりバンドに混じると12弦ってどうしても高音の成分が消えちゃうんですよ。だからちょっと固くしてもらったり、12弦のオクターブ上の成分を少し上げてもらうなど色々試行錯誤しましたね。
──浅野さんはギターシンセを創世記からご存知だと思いますが、「Starstream」のギターシンセにはどのようなオーダーを?
浅野: “エフェクトとして使えるシンセ” ということですかね。今回の「Starstream」は「サスティン」機能によって音がずっと出て、さらにビブラートが掛かるようになっているのですが、これは僕のリクエストによるものです。これは他のユーザーがどうやって使いこなすのかも気になりますね。
──単体のギターとしての「Starstream」の使い心地や操作性はいかがでしょう?
浅野:最初にこのギターを手にした時は、自分には弦高が若干高かったのですが、音がビビらない程度になるまでブリッジを調整したところ、とても弾きやすくなりました。ちなみに自分が一番気に入っている部分は「FX/CANCEL」ボタンですね。「Starstream」はエレキギターの音色の場合、手元のボタンとノブによってオーバードライブが掛かるようになっているんです。例えば、広いステージでエフェクトを使う場合、エフェクトを踏むのにエフェクトボードまで戻らなければいけないのですが、このボタンがあると手元でエフェクトの変更ができるので便利です。これはとても気に入っています。実際にソロの時も使っていますよ。
──どのような人達に「Starstream」をオススメしたいですか?
浅野:中級レベルでエフェクターをもう一台買おうかなと思っている人がいたら、このギターを買った方が良いと思います。あとは初心者の方が一人で色々な音を出したいという時にも良いと思います。またアコースティックギターだと弦の幅が広いので弾くのが大変だと思いますが、このギターは弾く感覚はエレキですから手の小さい子供や女性の方にもおすすめしたいです。値段もとても高いわけではないので、エフェクターを二つぐらい買う感覚で手に入れてもらえば良いと思います。
「Starstream」の特徴
- ■ギターそれぞれの特徴やトーンなどの回路を忠実に再現する「AREOS-D」システム
「Starstream」の特徴としてまず注目したいのが「AREOS-D」システムだ。「AREOS-D」は、マグネティックピックアップ、ピエゾピックアップとDSP(デジタル信号処理)および、その周辺回路を有機的に組み合わせたVOX独自の新開発モデリングシステム。ギターそれぞれの特徴やトーンなどの回路を忠実に再現する革新的なテクノロジーで、サウンドだけでなく細かなニュアンスも余すところなく表現する。
なお、ピックアップにはVOX独自のXLMハムバッキングを2基搭載し、各サドルにはピエゾ・ピックアップが内蔵されている。
写真のように「Starstream」では、「User1」や「User2」といった2種類のユーザーグループと、「SINGLE」、「12 STRING」など、計11種類の音色カテゴリーが用意されている
音色のバリエーション選びにも使用する3ウェイスイッチ
次にポイントなのが、その「AREOS-D」システムによる音色だ。「Starstream」では、上の写真のように「SINGLE」や「12 STRING」など11種類のカテゴリーが用意されている他、2つのユーザーグループ(USER1、USER2)に自分の好きなサウンドを最大6つまでメモリーできる。なお、この11種類は、大きくエレキギター、アコースティックギター、その他というカテゴリーごとに分類でき、それぞれ3タイプのバリエーションも装備されている(バリエーションの切り替えは3ウェイスイッチによって変更する仕組み)。つまり、3 × 9 =27(合計で27種類)の音色を表現することが可能だ。
●3タイプの音色について
・エレキギター(3種類 × 3)
シングルコイルやハムバッキングのサウンドを5グループ、エレクトリック12弦ギターのバリエーションを3タイプ内蔵。
・アコースティックギター(2種類 × 3)
2種類のアコースティックバンクには、スモール/ラージ・ボディ、12弦やナイロン弦など6タイプのギターモデルを内蔵。
・その他(4種類 × 3)
「UNIQUE」グループにはバンジョーやシタール、レゾネーターギター、「SPECIAL」グループにはシンセ、ベースシンセのシンセサイザーなど幅広いサウンドバリエーションを内蔵。また、浅野さんのリクエストによる「サスティン」(オルガンのような持続音が得られる。トーンノブでビブラートの調整が可能)も搭載されている。
シンセは、高性能DSPと弦からの情報を高精度にチューニングすることにより、これまでのギターシンセで見られたトラッキングエラーや音程ミスを解消。かつてない心地良さでプレイできるようになっている。なお、トーンノブでディケイとアタックを同時にコントロールすることも可能。ベースシンセでは、トーンノブでエンベロープとフィルターレゾナンスのコントロールも同時に行なえる。
※音色の詳細は右側欄外を参照
- ■自由度の高さを同時に実現したコントロールモジュール
- ■革新的な三次元樹脂成形フレーム
- ■マンゴー材ボディ&ハードメイプル・ネック
- ■その他の特徴
アウトプットは6.35mmの標準ジャック、ミニジャックは3.5mmのヘッドホンアウトを搭載
2点式トレモロユニットを搭載しており、アコギやシタールのサウンドにアームを掛けたりすることができる
ボディバックにある電池の格納スペース。電源はアルカリ単三乾電池x4または充電式ニッケル水素電池(単三)x4で駆動。なお、電池寿命はアルカリ乾電池で約11時間、充電式ニッケル水素電池では約15時間
VOX「Starstream」はどのようにして生まれたのか?(開発担当者インタビュー)
開発担当者:元々は「持ち運びに便利なギターを・・・」といったコンセプトでスタートし、極端な例としては、満員電車の中でも苦にならないような利便性に優れたギターを目指しました。まずは軽い方が良いだろうとのことでフレーム構造を採用しました。また、この1本で様々なサウンドが出せたら何本もギターを持ち運ばなくても済むでしょうし、モデリングギターという仕様になりました。ですので、“モデリングギターありき” といったところからスタートしたのではなく、利便性を重視した結果、必然的にモデリングギターになったということです。
「Starstream」のボディバック。立っても座っても弾きやすいようにバランスの良い設計が採用されている
ギターを立て掛ける時にも高い安定性を実現
──「木材+フレーム」の組み合わせにした理由はあるのでしょうか?
開発担当者:木材を使ったギターは完成されているものなので、それを軽量化する手段の一つとして木工部分を小さくし、かつ演奏時に違和感の無い形状のフレームをつけた結果として、この組み合わせになりました。
──フレームの形状など、ギターとしてストレスなく演奏するために気を付けた部分はありますか?
開発担当者:座って弾いても、立って弾いても、弾きやすいようにバランスの良い設計になっています。例えば、座って弾く場合、しっかりと足にホールドするようなカーブ、右手の肘があたる部分もストレスなく弾きやすい角度になっていたり、裏側のフィット感などは木製ギターではあり得ない構造となっています。また、ボディエンド側のストラップピンを2箇所設け、どんなポジショニングでもヘッドが下がらないように調整できる仕様となっています。さらに、この2箇所のストラップピンにより、ギターを立て掛けた時の安定性が非常に良くなっています。
──ボディ材はマンゴーですが、モデリングする上で相性の良い材だったのでしょうか?
開発担当者:特にモデリングに特化した材という訳ではなく、様々な材を試した結果、サウンドとして優れた木材でしたので採用しました。マンゴーは、マホガニーやコアなどの材と似た性質を持ち、ボディに使う重量が減っても鳴りやトーンの深みを得ることができます。
──ピッアップセレクターに音色を配置したりトーンノブにパラメータを設定したりと、ギターとしてなじみのスイッチにわかりやすくアサインされている印象ですが、逆に落とし込む上で大変だった機能はありますか?
開発担当者:技術的な進歩もありまして、組み込み自体は、さほど手間のかかる作業ではありませんでした。それよりも、サウンドの作り込みに時間を割いています。
──実際に触ってみてレイテンシーの低さを実感しましたが、開発する上での苦労話があればお聞かせ下さい。
開発担当者:やはり、各楽器を再現するためのサウンドの作り込み、ピッキングした時の楽器の反応や変化を再現していく過程には、時間が掛かりました。
──ソリッドギターで、「箱鳴り」や「ナイロン弦」の再現は難しかったと思いますが、再現する上で、一番難しかったモデリングは何ですか?
開発担当者:やはり、ナイロン弦ですね。そもそも「Starstream」はスチール弦ですので、非常に再現するには苦労しました。
──開発側として、「これはぜひ弾いてみて欲しい、聴いてみて欲しい」というイチオシのモデリングを教えて下さい。
開発担当者:エレキのモデルは、マグネティックピックアップの音を基本にしていますので、よりエレキギターらしい音のリアリティを感じてもらえると思います。特定のビンテージギターを模倣しただけでなく、オリジナリティを持たせ、より使いやすく実践的なサウンドになっていると自負しています。さらに、モデリングの利点を活かし、1オクターブ低い復弦の12弦モデル、オリジナルの「サスティン」モデルなど、従来のギターには無いサウンドも内蔵されています。また、シンセ系モデルは従来のギターシンセとは異なり、割と雑に弾いてもしっかりと鳴ってくれます。高域の響きが重要なアコースティック系の音色は、特性がフラットなPAアンプやエレアコ用のアンプでお試しいただくとその真価がより発揮できます。ブルーグラスギターが好きな方にはバンジョー、オリエンタルな雰囲気を付加したい場合はシタール、スライド奏法が好きな方にはレゾネーター、といった音色がおすすめです。
──最後に、浅野さんが今回のインタビューで「初心者、もしくは中級者にオススメ」とおっしゃっていましたが、開発側としてはどのような方、もしくはどのようなシチュエーションで使ってみてもらいたいですか?
開発担当者:初心者から上級者まで、あらゆる層にマッチすると思っています。ギターを弾き始める時、エレキかアコースティックのどちからに分かれると思います。それぞれの奏法やジャンルも異なりますし、それによってその後のギタリストとしての立ち位置も大きく変わってくると思います。「Starstream」であれば、その両方のサウンドが鳴らせますし、新しいタイプのギタリストが誕生するのではと期待しています。中~上級者にとっても、サウンドにバリエーションが欲しい時、複数のギターを弾き変えることなく、この1本で済みますし、サブとして持っていても重宝するでしょう。また、ルックスが非常にファッショナブルなので女性のギタリストやシンガーにオススメしたいですね。
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