驚異的テクニックと類稀なる音楽的感性を兼ね備えた “真のギター狂”
金 庸太(キム・ヨンテ)『ギタロマニーの凱旋』インタビュー
金 庸太(キム・ヨンテ)『ギタロマニーの凱旋』インタビュー

2017/06/13
──ありがとうございました。ところで、サイトでも拝見したんですけど、始めたきっかけがモーリスのギターだとか。
金:そうなんです。最初はフォーク・ギターでしたね。
──いわゆる、あのころのアリスとか。
金:ニューミュージック。
──ですよね。
金:松山千春とか。
──全盛期ですよね。
金:そうなんです。あれをやりたくてギターを始めたんです。親戚のお兄さんがクラシック・ギターをやっていたんですが、フォーク・ギターを買うことを許してくれなかったんですね(笑)。
──あー。
金:「ギター買うの付いていってやる」って一緒に楽器店に行ったら、「これだったら何でもできる」って言われて、クラシックギターを買わされて・・・(笑)。
──コード押さえづらいですよね。
金:もうね、何と言っても僕はピックガードが付いていなかったのが悲しくて(笑)。
──あの時代はそうですよね。
金:そうなんです。
──YAMAHAかモーリスが欲しいという時代ですよね。
金:はい。
──そこからクラシックに変わったというのはどういった経緯が?
金:それが大体、小学校5年生ぐらいだったと思うんですけど、現代のように情報もあまりないので、フォーク・ギターの伴奏ができるような本を買って独学で練習していたんですけど、そうこうしている内に、3フィンガーとかができるようになっていて。そうなると他に何をやればいいのか、わからなくなっちゃんですよね。情報もそれぐらいしかないし。大体やりたい曲は弾けるようになっちゃったし。「じゃあこれからどうしたら良いんだろう? じゃあクラシックギターを習ってみよう」ということで、近所のギター教室に通い始めました。
──それはいつごろですか?
金:中学1年生ぐらいです。
──ではそれまでに一通りのフォーク・ギターは通ったんですね。
金:はい。コード弾いて、ストローク弾いて、アルペジオ、3フィンガーまではできていました。
──そこからはずっとクラシック?
金:そうなんです。ただ、一時期2年ほどギターを弾かないで、アマチュアのロック・バンドでベースを弾いていたりもしました。
──ロック系でも活動されていたんですね。その後に海外へ?
金:はい、でも僕は28歳の時に留学したので年齢的には遅い方なんです。ずっとアルバイトをしながらコンクールを受け続けていて。コンクールチャレンジャーだったんです。
──そこで入賞されたのですか?
金:そうですね、はい。
──留学先はフランスでしたよね?
金:はい。パリに留学をしまして、それで3年間学校に通いまして、一応そこでディプロマ(学校より発行される卒業証明書。金さんは首席で卒業)を取りました。
──パリで活動することは考えなかったのですか?
金:難しいですね。
──首席でご卒業されたのに。
金:多分、キャリア的には割と良いところを取れたと思うんですけど。やっぱり教えるってなると、教授の資格とか色々あるし。でも、現地の人が同じような資格を取っても仕事がなくて困っているのを見ていたので、「僕がいても無理だな」と。
──次にベルギーへ行かれてますよね。
金:はい。実は通っていた学校で3年生になった時にはベルギーに住んでいたんです。何と言っても家賃が1/3なので。そういうこともあってベルギーの学校にも通いつつ、パリの学校にも通っていました。でも、3年目はあまり行かなくてもよかったんです。コンセルティストコース(演奏家資格コース)というのは、2~3回レッスンに行けば、自分で練習してしればよかったので。最後の演奏会(試験)だけやって終わりなので。ヨーロッパは交通費も安いんですよ。
──そうなんですか。
金:はい。アントワープという場所に住んでいたんです。パリまでバスで片道4時間半ぐらいかかるんですけど、1ヶ月ぐらい前に買えば早割りが利いて¥3,000~¥4,000で往復できたと思います。
──今回、高音質CD(SHM-CD)仕様を採用されていますが、クラシック・ギターの作品を高音質CDで聴くと、この音域が聞こえてくるみたいなことはあるのでしょうか?
金:僕は本当にギターを弾くだけなのでそういったことはよくわからないのですが(笑)。そのような効果もあると思います。クラシック・ギターだと普段スタジオで録るということはあまりなくて。1枚目のCDもそうだったんですけど、ホールで自然な残響を録ることが中心になると思います。
──リアルに上から下まで再生するという意味ではホール録音の方が良いんでしょうね。
金:それを狙っているんだと思います。ホールだともちろん自然な音で録れるのですが、逆に難しい部分もあると思います。
──では今作の収録曲はすべてホールで?
金:これは全部スタジオです。実はしかし、先ほどお話しした垂石君のシリーズ、そして自主制作で出したビエント・デル・スール(バンドネオンとフルートとトリオ)のCDを手掛けてくださったエンジニアの滝川さんはギターのことをよくわかっていらっしゃるんです。今回のようなガチガチのクラシック・ギターの録音は、多分初めてみたいなんですけど、その前にプロデューサーの夏目さんとだいぶ色々なCDを聴いて作戦を練ってくれていたみたいで。本当に素晴らしい音で録ってくれました。
──それでは最後に、実際にクラシックギターを弾いている人達に向けてメッセージをお願いします。
金:クラシック・ギターのアルバムというと、他のジャンルと同様にコンセプト・アルバムというか、一つのテーマを設けて統一した作品が多いんです。記録としての意味合いも強いでしょうし、スゴく見やすいんですけど、振り幅の広い楽曲をごちゃまぜで楽しめる作品は今までありそうでなかったんじゃないかと。クラシック・ギターって最近どんどんアカデミックな方向に行ってて、クラシック音楽界でいうと “他の楽器に追いつけ” という勢いがとてもあって、欧米などでは特にその傾向が強くなっているようです。それももちろん大事ですが、エンターテインメントというか、あとはギターの弾く快感、聴く快感、そういうものに特化して今回は作ったので、その辺りはクラシック・ギターをやっている方、そうじゃない方も楽しめるんじゃないかと思います。
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