音質と処理能力がパワフルに進化!
ユニバーサルオーディオ「Apollo Twin MkⅡ」徹底レビュー
ユニバーサルオーディオ「Apollo Twin MkⅡ」徹底レビュー
2018/09/11
【第5回】
あの有名なマイクプリ「ニーヴ」も再現したUADプラグインでかけ録りできる
アウトボードの名機を再現したUADプラグインをかけ録りできるDSP内蔵オーディオインターフェイス「Apollo Twin MkⅡ」。あの有名な「ニーヴ」のマイクプリも再現されています。これをかけ録りすると、本当にニーヴのマイクプリを通したようなサウンドで録れるのでしょうか? 第五回では、ニーヴ製品を熟知した、ニーヴマスターであるエンジニアの門垣良則氏に試してもらいました。
文:門垣良則(MORG)
そもそも「ニーヴ」って何?
「ニーヴ」(NEVE)とは、1960年代に創業した、ルパート・ニーヴ氏率いる機材メーカー「NEVE Electroncs」のことを指します。現在ニーヴ社はシーメンスグループに買収され、「AMS NEVE」として、新製品や60年代当時を意識したハンドメイド製品を作っています。また、ルパート・ニーヴ氏はフォーカスライト社やアメック社などを経て、現在はルパート・ニーヴ・デザインズ社を興し、革新的なアウトボード製品をリリースし続けています。
60 年代や70 年代に作られたニーヴ製品は、そのサウンドの素晴らしさから、現在でもビンテージ機材としてあらゆる現場で活躍しています。そのためエンジニアの間では、「ニーヴ買ったよ!」と言うと「ビンテージの? リイシューの?」という会話になるほど、60年代当時に設計された機材を指す言葉にもなっています。
中でも有名なのが、同社のコンソールに組み込まれていたマイクプリ/EQのモジュールユニット「1073」です。1073をはじめ、多くのニーヴ製モジュールはコンソールから取り出しても、24V電源で駆動します。そのため、モジュールをラックシャーシに収めて、チャンネルストリップとして多くのレコーディングスタジオに導入されました。それらは現在もレコーディングにおけるマスターピースのひとつになっています。
今回はそんなニーヴのプリアンプをモデリングしたUAD-2 プラグインを、Apollo TwinのUnisonテクノロジーを利用して、かけ録りに使ってみました。
※マリンエアの「イエローラベル」と呼ばれるシールが貼ってある、セントアイビスカラーのトランスも存在し、そちらも同じくヌケがいい
Neve Preamp
1073のプリアンプのみを取り出した「1290」を忠実に再現$149.00(お求めはUAオンラインショップにて)
UAD-2では、ニーヴのプリアンプをモデリングしたプラグインとして、「NevePreamp」と「Neve1073」の2 種類が用意されています。まず、このNevePreampは、前述した「1073」のプリアンプ部のみを取り出した、「1290」というモジュールが元になっています。ニーヴのチャンネルストリップやバスアンプ、トークバックなどに使われている、ビンテージニーヴのポピュラーなプリアンプ回路だと言えます。
さて、このNeve Preampの音を、同じくUAD-2のNeve 1073と比較してみると、ほんの少しだけ元気な印象を受けました。ビンテージニーヴは接点の劣化によるトラブルが多く、またモデルによって通過する接点の数が微妙に違ったりするので、その差によるものなのかもしれません。筆者が使ってみた印象としては、「しっかりメンテしたてのビンテージニーヴのサウンド」だと感じました。
歌録りで使ってみると、非常にヌケが良く、安定感のあるサウンドで違和感なく受け入れられました。1073より高域もバランス良く自然に前に出てきますので、ポップスや女性ボーカルにいいと思います。ドラムに使う場合は、タムやトップマイクに最適です。
設定は基本的に、GAIN(赤いツマミ)は25を目安に、ガッツのあるカラーが欲しい場合は30や35に上げます。アウトプットは11dBまで上げておきましょう!
ちなみに、ブレント・アヴェリル氏が、ニーヴの「1272」アンプモジュールにロータリースイッチなどを増設して、マイクプリにしたリイシュー製品があります。その1272も1290も基本的に、トランス/アンプカードは1073と同じものを使っています。
Neve 1073
乾いていてヌケのいいビンテージらしいサウンド$299.00(お求めはUAオンラインショップにて)
❶オールドニーヴを印象付ける「マルコーニ・ノブ」と呼ばれるノブを再現。5 dBステップのゲインになっている。1つのノブでマイクとラインを制御しており、マイクは右回り、ラインは左回りでゲイン値が上がる。途中にOFF(mute)になるポジションがあるのが特徴だ
❷周波数は12kHz固定でシェルビングカーブ。最大値までブーストしても痛くないのがビンテージの特徴で、とにかくヌケが良い万能なツールだ
❸この一見地味に思える1.6kHzをうまく足すと、音の芯が定まる。ベースであれば極端にブーストするのもあり。3 . 2kHzを上げると音ヌケは抜群だが多用は厳禁だ
❹部屋鳴りやボディ鳴りを簡単にコントロール可能な220 Hzと、自然に音像を大きくできる110 Hzを装備。自然な効きなので安心して使える
❺ドラムのオーバーヘッドやボーカルダビングなどで、不必要なローをカットする時に使う。決められたポイントからの選択式なので使い方も簡単だ
アウトプットは10 . 8 dBまで上げておくこと!
こちらはビンテージの1073モジュールを、細部に至るまでモデリングしたプラグインです。ビンテージ機材には個体差がありますが、それはハンドメイドによってトランスやトランジスタのロットが違ったり、メンテナンスの状況によりコンデンサーの種類や値が変わるためです。このNeve 1073がヌケのいいキャラクターを持っているのは、「セントアイビス」というトランスをインプットに採用したモジュールを、モデリング元にしたためだと推測されます。一般的には「マリンエア」というトランスが有名ですが、セントアイビスもヌケが良いキャラクターを持ち、近年評価が高まっています(※)。
またNeve 1073は、EQによる位相のにじみ方もビンテージらしさを伴っています。その音からは、オリジナルで採用されている、70年代のフィリップス製コンデンサーを使ったモジュールがモデリング元であることが感じられます。いわゆる「乾いていてヌケが良く、ピークが収まるサウンド」は、ビンテージコンデンサーならではです。ただ、電解コンデンサーには寿命があり、70年代のものならば設計上の寿命は過ぎています。なので、ある日突然故障したり、ノイズなどの望まない劣化が発生することは不可避です。その点、Neve 1073のモデリング元は経年変化を含めて、最大限ビンテージらしさを持ちながら、ネガティブな劣化をメンテナンスしたモジュールと言えます。
このプラグインを操作する際に必ず最初にしてもらいたいのが、アウトプットを上げることです。Unisonでかけ録りする場合、アウトプットを10.8dB上げることでハードウェアと一致する仕様になっています。面倒なら最大値の12dBにしても特に問題ありませんが、0dBのままだと使用感がかなり異なります。
Neve 1073 はNeve Preampよりほんのわずかにビンテージらしい柔らかいサウンドなため、エレキギターなどの高域のピークが強いソースに向いています。柔らかくピークを抑えてくれるので、EQをプラス方向に回しても耳に痛い音になりません。エアー感を得るハイは12kHz固定、ミッドは音のセンターを司る1.6kHz、ローはボディ感を司る220Hzか、ボトムを司る110Hzを基本にしてEQ処理すると間違いないです。
ちなみに、UAD-2に以前からあるレガシー版の1073 と比べると、新しいNeve 1073の方がビンテージらしい経年変化の要素を感じることができます。トランスの違いよりも、トランジスタの増幅値の変化や、コンデンサーの容量の変化を強く感じることができるほどビンテージらしいのですが、劣化しきったモケモケのサウンドではありません。このサウンドが、これ以上の劣化やメンテナンスによる音質の変化なく使えるのは、大きなメリットです。
問:(株)フックアップ
TEL:03-6240-1213
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