オーディオライター岩井 喬が送る連載企画第2話

連載企画「デスクトップオーディオのススメ」足回りを整えて音質の改善を図る

連載企画「デスクトップオーディオのススメ」足回りを整えて音質の改善を図る

2016/08/11


●すべての素材を組み合わせたらどうなるか

/

ここからは、取り上げてきた各素材を組み合わせて、音がどのように変化するかを試していこう。まずは“全部入り”である“4点支持&底面部に10円硬貨・前方2段重ね・鉄板&ゴムシート”で試してみたのだが、適度に締まり良くアバレのないサウンドで音ヌケも良くクリアなのだが密度感が足りないように感じ、一回リセット。何事もやり過ぎは良くないのか…。
 

●最適な組み合わせは何か

そこで改めてバランスを重視し、セッティングも前方2か所へ3cm角キューブを置き、後方は2cm角キューブ1個の3点支持に戻した。そしてまず試したのがキューブとスピーカーの間に10円硬貨を挟むパターンだ。ボーカルの通りの良いすっきりとしたサウンド傾向でローエンドも重心が落ち、伸びの良い音色となる。ただ制動感はもう少しという印象であり、さらに手を加える必要がありそうだ。

続いてキューブの下に鉄板を敷いて設置面を固めてみることにした。ベースは穏やかになり、キックドラムのアタックが良く出てくるようになったが、一方で中域が膨らんでいる。ボーカルはハリ良くクリアであるが、バランスは今一つだ。ここでもう一度セッティングを見直すことにし、10円硬貨を外してみる。ベースはすっきりとしてピアノは重厚に響く。ボーカルは適度に肉付きがありスムーズで伸び良いサウンドとなった。躍動感を得る上ではスピーカー直下に10円硬貨+キューブでは抑制効果が強く効きすぎてしまうようだ。一方、机の癖が鉄板との相乗効果で強調されるような印象もあり、この点にも何かしらの対策が必要なように感じた。10円硬貨を外し、キューブと鉄板のみとなった場合は木材であるキューブが適度な吸収効果を担っていた可能性が高い。

/

そこで一旦は外した10円硬貨であったが、今度は机からの悪影響を抑える目的として机と鉄板の間に挟み込んでみることにした。金属には異種素材同士を触れ合わせると共振を抑制できる効果がある。その効果を狙ってのセッティングだが、目論見通り、解像感と音像の密度感のバランスが整ったサウンドとなった。これまでで最もナチュラルな音質であり、ベースも適度に厚みを持ちつつ制動感も獲得。ストリングスの艶やかさや女性ボーカルの落ち着きある質感と潤いある口元の際立ちを得られている。非常にスムーズなサウンドだ。
 

●アナログ接続からデジタル接続にしたら音はどう変わるか

スピーカー周りの対策という点では一つの完成に至ったので、ここでサウンド全体を底上げすべく、Mac book Proからアナログ接続していた入力部にUSB-DACを挿入し、ハイレゾサウンドをダイレクトに「GigaWorks T20 SeriesⅡ」へ入れられるようにしてみた。用意したのはクリエイティブメディアの「Sound Blaster E5」だ。充電池も内蔵し、ポータブルヘッドホンアンプとしても使用できるが、DACチップにシーラスロジックCS4398を積み、192kHz/24bit入力に対応した製品で、NFC対応のBluetooth接続も可能である。今回は「Sound Blaster E5」のアナログライン出力に「GigaWorks T20 SeriesⅡ」を繋ぎ、音量調整も「Sound Blaster E5」から行なうことにした。

/

「Sound Blaster E5」クリエイティブオンラインストア価格:¥22,800(税抜) /メーカー詳細ページ

この実験では、いずれも96kHz/24ビットのハイレゾ音源を用いた。「GigaWorks T20 SeriesⅡ」のスペックに表記されている再生周波数帯域の上限20kHzとなっていて、96kHzのサンプリングレートによって実現される40kHzまでというハイレゾ対応の基準には至っていないように見える。しかし。そもそもハイレゾ音源の魅力はビットレートが高められていることでダイナミックレンジが広くなり、音場や音像そのものの質感表現もより良くなっていることにある。また、スピーカーのスペックに表記されている周波数帯域は、あくまでも基準に規定されている出力レベルで再生できる周波数の範囲を表しているものなのであって、それを超えても音が突然再生されなくなく音量が下がってしまうだけである。ゆえにスピーカーのスペック上の周波数特性だけでハイレゾ音源に対応していないと判断するのは強引過ぎると思う。したがって「Sound Blaster E5」を通すことによって、「GigaWorks T20 SeriesⅡ」の音質をさらに高めることが可能になるのだ。

実際にこの組み合わせで聴くと、制動良くストレートで、一つ一つの音がクリアに引き立ってきた。女性ボーカルやストリングスには潤いがあり、ベースもキレ良く輪郭のエッジが感じられる。空間性も高くよりリアルなサウンドに進化した。

/
 

●スピーカーの設置ベースに工夫を加えて音質向上

机の下に張り付けたゴムシート

ここまでの実験で基本的なサウンドが向上した一方で、机の振動がもたらす中域の濁り感はまだまだ解消されていない。どんな素材にも共振周波数があり、その数値と音楽の成分が近いと特定のピークが強調され混濁したサウンドとなってしまう。今回も机の共振が悪影響を及ぼしていると思われるだが、板材や机自体を変えるわけにはいかないので、簡易対策として机の裏面、つまりスピーカーの設置してある付近の机裏面を中心にゴムシートを張り付けてみた。するとピアノのリリース音や音像の厚みに変化が起こる。ピアノの高域方向はよりクリアさが増し、低域方向の響きは制動良くアタックの芯が見やすくなってきた。ボーカルは細やかな質感がより見やすくなってきた印象で、口元のつやや潤いがより良く描かれる。

机の裏側からの効果があるのであれば、スピーカー直下であっても効果があるはず。続いては机の上にゴムシートを敷き、その上に10円硬貨、鉄板の順に3層重ねてみた。キューブは前方3cm角・後方2cm角・3点支持のままである。こちらのサウンドは非常に見通し良く素直ですっきりとした傾向であり、「Sound Blaster E5」で底上げされた解像度の高さによって見えてきたウィークポイントが、きちんと対策されていることがわかるかのようだ。ピアノもクリアであり、ボーカルは適度な厚みのあるボディと明瞭なエッジ感が誇張なく浮き上がってくる。リヴァーブとの分離も鮮やかで、定位も明確な見通しの深い音場が展開。ベースラインも締まり良くキレがある。

ここでふと考えたのは、机の僅かな振動は「Sound Blaster E5」にも伝わり、電子回路にも影響するのではないかということ。試しにスピーカーの下に敷いたものと同じ2mm厚の鉄板を「Sound Blaster E5」の下にも敷いてみたところ、S/Nが向上。低域は密度とキレのバランスが取れた傾向となり、ボーカルの質感もよりスムーズに描写されるようになった。ピアノの高域のヌケも自然で、濁りのない爽やかな音質である。女性ボーカルにかけられたプレート系リヴァーブの緻密な粒子感もきめ細やかで澄み切った響きを得られた。

/

「Sound Blaster E5」の下に鉄板を敷いてみる

スピーカー下の空間に2cm角キューブを置いてみた

かなり細かくチューニングを行なってきたが、最後にもう一つ試したのがキューブを用いたことで生まれた、スピーカーと鉄板との間に開いた空間への対処だ。スピーカー本体の振動はキャビネットを通じて底面からも発せられており、僅かながら鉄板との間で反響音として鳴っている成分があると思われる。そこでこの空間に余った2cm角キューブをランダムに置いてみた。オーディオ用のルームチューニングでも不規則に木の柱を置くなどして、ピークを持たせず音を拡散する技術が用いられている。規模は小さいがそれと同じような効果が得られないかのチャレンジだ。これによって密度良くしなやかなサウンド傾向となり、全体的に有機的な音色となった。声のハリもクリアでディティールも滑らか。ストリングスやコーラスワークの密度も高く、リズム隊のアタックの追随性も増しているようだ。

実験を終えて


実際のデスクトップ周りはもっと雑然としているかもしれないので、今回行ったチューニングとまったく同じ結果となることはないかもしれない。しかし手を入れれば何かしらの音の変化が起こるというのがオーディオの面白いところであり、様々なアイテムを総動員して全部使ったとしても最良の結果が出ないというところも奥が深い。まず現状からの音質改善として、D.I.Y.ショップで入手できるアイテムでも対策が可能であることを知っていただき、今回の試行錯誤を参考に、リスニング環境と再生音質のレベルアップに繋げていただきたい。


 


岩井 喬(イワイタカシ)=プロフィール


1977年長野県生まれ。小学生の頃、電子工作の面白さに気づき、中学生からは自作の延長線であったオーディオにはまる。工業高校~音響系専門学校を経て、都内レコーディングスタジオへ就職。オーディオ専門誌への執筆を開始。コンシューマー系オーディオ誌の他、プロオーディオの取材執筆もこなす。またアニメ誌編集・執筆に携わっていたこともあり、いち早くオーディオ分野と“萌え”の融合にも取り組む。80年代ロックが好物。


この記事の画像一覧

(全18枚) 大きなサイズで見る。

関連する記事

PAGE TOP