ズーム「H3-VR」は、360°の音声が誰でも手軽に録れるVRレコーダーです。ここでは女性ボーカル＆ダンスグループのJ☆Dee'Zに協力してもらい、映像も込みで360°のYouTube動画を実際に収録。デジタルハリウッド大学の教員で、エンジニアとしても活躍中の坂本昭人氏に録音を担当してもらい、その音像を検証してもらいました。

取材：永桶喜則（編集部） 写真：小貝和夫　撮影＆映像編集：コヌマ ヨシツグ
（デジタルハリウッド スクール講師・大学院非常勤講師/映像ディレクター）
協力：デジタルハリウッド大学、Studio Bpm

──今回、H3-VRを試してもらいましたが、まずデザインの印象はいかがでしたか？

坂本：業務用機器チックじゃなくて、見た目がすごく可愛いですね。サイズも小さいですし、単三電池を2本入れた状態でも軽いので、すごく扱いやすかったです。

──では、今回のチェックの方法を教えてください。

坂本：アマチュアの皆さんでも使いやすい環境を考えて、街のリハスタで収録を行ないました。ソニー・ミュージックレコーズさんに所属している、J☆Dee'Zさんという女性3人組のボーカル＆ダンスグループに協力していただきました。さらにアコギ奏者とカホン奏者を加えた計5人でのパフォーマンスを、J☆Dee'Zさんのダンスも込みで、映像と音声を一発録りしました。マイクはH3-VRのものだけを使いまして、録音フォーマットは24ビット／96kHzです。音量バランスの関係で、アコギはキーボードアンプで鳴らしましたけど、他はすべて生の音で録っています。

──H3-VRで録音した音質はいかがでしたか？

坂本：この価格とサイズとは思えないほど、いい音で録れていました。全体の周波数バランスがいいんですけど、特に3〜4kHzあたりのハイミッドが得意なんだと思います。なので、ボーカルやアコギのヌケが良くて、聴いていて気持ちいい音でレコーディングできました。一般の方は、このH3-VRで歌や声を録るケースが多いと思うんです。その点で誰でも使いやすい、多くの用途に最適な音質特性になっているように思います。

──実際、レコーディングスタジオでコンデンサーマイクを使って録ったみたいな音で録れていましたね。

坂本：はい。それと、ダイナミックレンジが非常に広いのも特徴です。実際に足音とかの小さい音から大きい音まで、余裕を持って録れていました。録音においては、この“余裕”というのが大事なんですね。例えば、軽自動車と排気量が2リッターの車では、同じ100kmを出すにしても、運転していて余裕が違うじゃないですか。それと同じで、録音でも器が大きい方が絶対に有利なんです。H3-VRの音は無駄な圧縮がされていないですし、周囲の音を360°、何も引かずにそのまま録ることができるのが魅力的ですね。
 

※iPhoneで動画を見る場合はタイトル部分をクリックして、YouTubeのアプリを起動してご覧ください。

──ボーカルや楽器のニュアンスに対する表現力はいかがでしたか？

坂本：アルペジオやウーアーコーラスとかの繊細なニュアンスもすごく良く表現できていたと思います。今回、J☆Dee'Zさんは踊るだけでなくて、H3-VRの回りを動いていたんですけど、口の向きがマイクから離れたり、顔が他の方向を向くと音が自然に小さくなりますし、そのへんの精度も非常に高いと思いました。なので、もしH3-VRで歌をしっかり録りたい場合は、口の向きや距離に気をつけた方がいいと思います。

──使っていて便利だと思った点はありましたか？

坂本：やはり単三電池2本で動作するので、外で使う際とかには便利ですよね。あと、リミッターが付いているので、不意に大きな音が鳴った際も安心ですし、空調のノイズが気になる場合とかのために、ローカット機能が付いているのも親切だと思いました。
 

──H3-VRには、「ZOOM Ambisonics Player」という専用のプレーヤーソフトも用意されています。

坂本：もともと録音する際に「アンビソニック（360°）、バイノーラル、ステレオ」という3つの録音モードが選べるんですけど、このソフトを使うと、360°で録音した音像を、後からステレオやバイノーラル、5.1chサラウンドとかに自由に変換して再生できるんですね。なので、基本は360°で録っておいて、後で必要な形に変えればいいと思います。
 

──では、このH3-VRをどんな人にオススメしたいですか？

坂本：基本的には今回のように、複数の人間で「せーの」で歌や楽器を演奏する際に使ってほしいですね。特にアンプラグドセッションやジャズバンドとかで使うと、H3-VRの能力がフルに発揮されると思います。あとは、路上ライブでバンドとお客さんの間にH3-VRを立てて録ってみるのもいいでしょうね。路上ライブだったら、バンドとお客さんの音以外に、車や横断歩道の音とかが色々な方向から入ってきますし、同時に動画を撮って音声と組み合わせれば、面白い作品が作れると思います。他にオーディオインターフェイス機能も入っているので、自宅で曲を作る時とかにH3-VRをステレオマイクとして使ってもいいですし、皆さんのアイディア次第で色々な可能性を秘めている製品だと思います。
 

収録時のセッティング

J☆Dee'Zの3人に加えて、アコギに佐々木 望氏、カホンに加藤 聡氏を加えた5人により、ミスが許されない完全一発撮りで収録が行なわれました。