エンジニアの遠藤淳也氏がプロの耳で徹底チェック

人気ハードEQサウンドレビュー①】マーグ・オーディオEQ4

【人気ハードEQサウンドレビュー①】マーグ・オーディオEQ4

2018/04/16


プロのレコーディングでは、ハードウェアのEQが録音やミックスで使用されています。ここではAPI500シリーズ規格に対応している縦型EQの中から、特に注目のモデルを4機種厳選し、それぞれのサウンドや性能をチェックしてみました。試聴を担当してくれたのは、ヒップホップやR&B系を得意とする敏腕エンジニア、遠藤淳也さんです。

高域に空気感を自然に加えられる「AIR BAND」を搭載

マーグ・オーディオ
EQ4

¥110,000
問:㈱宮地商会M.I.D.
https://miyaji.co.jp/MID/
 

取材:目黒真二 写真:小貝和夫


僕はミックスで、このEQのプラグイン版をよく使っています。もともとは海外で90年代にR&Bとかのボーカルトラックで使われてから大流行して、そのまま定番になったEQなんですね。使い勝手と音がプラグイン版と同じで、操作していてまったく違和感がありませんでした。

機能的には6バンドタイプなんですけど、僕の場合は何と言っても、本機最大の特徴である「AIR BAND」という、高域に空気感を加えるツマミをブーストする使い方が多いですね。まず基本の音作りを別のEQでしておいてから、さらに空気感を足したり音ヌケを良くしたりする場面で使っています。とはいえ、6バンド分が調整できるうえに、レンジが結構広いので、このEQ4単体でも十分に音作りをすることは可能です。

今回、本機をボーカルやコーラスのトラックにかけてみましたが、空気感を加えることで高域がキラッと引き立ちますし、さらに低域をカットすることで、曲の中でしっかりと主張するサウンドが作れました。アコギの弾き語りとかパート数の少ない曲にも、AIR BANDは有効だと思います。

例えば、宅録で「ダイナミックマイクしか持っていないけど、コンデンサーマイクらしいキラキラしたレンジの広い音にしたい」という時に、本機のAIR BANDとSUBをブーストすると、コンデンサーマイクっぽい質感が得られると思います。

AIR BAND以外は周波数が固定されているんですけど、これが各楽器の特性に合わせた絶妙な設定になっている点もいいですね。グラフィックEQみたいに、欲しいところやいらないところをツマミで上げ下げするだけですから、初めてハードのEQを使う人も手軽に操作できると思います。
 

遠藤氏をはじめ、各トラックの空気感をコントロールするために多くのプロエンジニアが使用している「AIR BAND」。2.5kHz、5kHz、10kHz、20kHz、40kHzから周波数を選択することができる

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ベースなどの低域パートの音質を調整するのに便利な「40Hz」。ギターアンプのトーンのように、各帯域のツマミを回すだけなので、EQの扱いに慣れていなくても簡単に使える

製品概要

「EQ4」は、API 500シリーズ規格のシャーシにセットして使用する、同社の「EQ3」や「EQ3-D」の後継モデルに当たる6バンドタイプのEQモジュールだ。図太い低域を生み出す「SUB」、ベースを滑らかにする「40Hz」、カットすることで歌の余計な反響を抑えるのに有効な「160Hz」、ボーカルを前に出す「650Hz」、歌やギターの輪郭を引き立たせる「2.5kHz」、原音を変えずにきらびやかな高域を加える「AIR BAND」の6バンドにより、幅広い音作りをすることができる。
 

試奏者プロフィール

1996年にスタジオ・グリーンバードからキャリアをスタート。ヒップホップやR&Bを中心に数多くの作品を世に送り出す。その後、㈱Plick Pluckを設立し、2010年にはSTUDIO QUESTを立ち上げた。最近はBrian the Sun、マオ from SID、96猫、郷ひろみなどの作品を手掛けている。
 

今回の試聴方法

今回は、アビッドPro Toolsのハードウェアインサートでデモ機を接続して、録音済みのトラックにEQをかけてチェックをしました。モニタースピーカーは、ヤマハのNS-10M STUDIOとムジークエレクトロニクガイザインRL904です。チェックに使った音源は、僕が録音とミックスを担当した1- SHINEというロックバンドの曲です。マルチのデータを用意して、まず周波数帯域が比較的広いボーカルで試してみて、それぞれのモデルが持つサウンドの傾向や、どこに特徴があるのかを確かめます。それから、ギター、ベース、キックといったトラックにかけて、ツマミを回した時の音質変化の度合いや質感、どんな楽器に合うのかも確認しています。
 

エンジニア遠藤淳也氏が語るハードEQの魅力

ハードウェアEQの質感をプラスしてミックスに立体感を演出します
 

──ハードのEQは、実際どんな場面で使うことが多いのですか?
遠藤
:僕の場合、録りの時にハードのEQを使うことが多いんですね。狙った理想的な音色になるべく近づけて録り込んでおくと最終的な仕上がりをイメージしやすいですし、その後の仕事がスムーズになるので。時間はあまりかけられないので、ツマミの操作性がいいハードウェアは重宝します。あまりガチガチに音を決めて録ってしまうと、後から変えるのが難しいので、録りの時は8割くらい作り込むつもりでEQを設定しています。逆にミックスでは、ピンポイントで音質を変えるので、細かい設定ができるプラグインの方が操作しやすいんですよ。

──ソフトと比べて、ハードウェアは具体的にサウンドがどう違うのですか?
遠藤
:ハードの方が「味付け」として使うのに向いているモデルが多い気がします。「こういう音が欲しいから、このEQを使う」みたいな感じですよね。ブーストの方がそのモデルの個性が出やすいイメージがあるので、主にブーストで使うことが多いです。

──実際の使用法を教えてください。
遠藤
:録りに関しては今言った通りですけど、たまにミックスで使う時もあります。ミックスが平坦に感じた場合に、楽器のいくつかをハードウェアEQに通して、そのEQの質感や個性を取り込むことでミックスの中で凸凹を作って、立体感を演出できないだろうかと試すんです。例えるならば、異物を混入するようなイメージでしょうか。

──遠藤さんは、ハードのEQをどんなパートで使うことが多いのですか?
遠藤
:録りでは必要と感じればすべてに使います。ミックスでは決めているわけではないんですけど、結果的にボーカルやベースとか、センター定位のパートに使っていることが多いかもしれません。

──遠藤さんが好きなEQは?
遠藤
:APIの550Bです。550Aが3バンドなのに対して、550Bはローミッドが追加されて4バンドになっているので、思い通りに音質が作れるんですよ。設定されているポイントが肌に合うんでしょうね。APIは本当に好きで、通すだけで音がカッコ良くなります。それからニーヴ1073タイプのEQも使いやすくて好きです。オリジナルはもちろん大好きなんですけど、ヴィンテック・オーディオのX73も、スピード感があって現代的な良さがあるのでよく使います。

──宅録でハードのEQを使う際に、何かコツやアドバイスはありますか?
遠藤
:先ほども言いましたけど、録りの段階で音を作り込み過ぎない方が安全です。ハードウェアEQで大まかに好みな音に寄せておいて、ミックスの時にプラグインEQで細かい部分を詰めるといいですよ。

 

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