エンジニアの遠藤淳也氏がプロの耳で徹底チェック
【人気ハードEQサウンドレビュー②】ラディアルQ4
【人気ハードEQサウンドレビュー②】ラディアルQ4
2018/04/17
プロのレコーディングでは、ハードウェアのEQが録音やミックスで使用されています。ここではAPI500シリーズ規格に対応している縦型EQの中から、特に注目のモデルを4機種厳選し、それぞれのサウンドや性能をチェックしてみました。試聴を担当してくれたのは、ヒップホップやR&B系を得意とする敏腕エンジニア、遠藤淳也さんです。
中高域に勢いが加えられるロック向きな特性
ラディアル
Q4
¥65,400
問:㈱エレクトリ
TEL:03-3530-6181
http://www.electori.co.jp
取材:目黒真二 写真:小貝和夫
ラディアルは、高品位なDIとかで有名なブランドですよね。この4バンドのモデルはミッドがロー(LO-MID)とハイ(HI-MID)に分かれていて、それぞれ周波数設定ができるうえに、スイッチでQの特性を変えられるのが特徴です。LOWとHIGHは、周波数がそれぞれ100Hzと10kHzで固定されています。
音質は個性的で、狙った周波数帯をカットする音質補正でも使えますけど、入力レベルが高いと歪みやすくて、ブーストした時に発生するサチュレーションをトラックに加えて、独特の質感を加えるという使い方が一番ハマると思います。ハイファイな方向ではなくて、中高域に勢いが加えられる、ロック向きな特性を持っています。パワフルな歌や、歪んだエレキギターとかにはピッタリですね。
中域の守備範囲が広いのも本機の特徴で、LO-MIDが300Hz~2.4kHz、HI-MIDが1kHz~8kHzと少し重なっています。ミッドはギターやボーカルといった主役のパートが占める中心的な周波数帯なので、このモデルのようにレンジが重なっていると、音作りの幅も広がるんです。例えば、「HI-MIDで2kHzを上げたら、ちょっと下の帯域でイヤなレンジが出てきた」という時に、隣接する1kHzあたりをLO-MIDでカットして音をクリアにする、ということもできますからね。
本機ならではの質感が加えられるので、やはり目立せたいトラックにインサートして使うのがベストだと思います。ロック以外にもEDMとかのダンスミュージック系の楽曲で、ドラムループにガッツリかけて迫力を加えたり、ギラついたシンセのリフにこれをかけると、音がグンと前に出てくると思います。
HI-MIDは、1kHzから8kHzまでを±12dBで調整できる。また、下にあるQスイッチを押すと、Q幅が広めか狭めかを選ぶことが可能だ
対してLO-MIDは、300Hzから2.4kHzまでを±12dBで調整できる。HI-MIDとLO-MIDは、被っている帯域が1kHz〜2.4kHzと広めなので、音作りの自由度も高い
製品概要
「Q4」は、API 500シリーズ規格に準じた、セミパラメトリック・タイプのEQモジュールだ。「LOW」と「HIGH」は周波数固定のシェルビングタイプで、「LO-MID」と「HI-MID」は周波数とゲインを可変することができると共に、Qのタイプも設定できる。ちなみに、Qはワイドとナローを選ぶことができ、ワイドではスムーズな効果、ナローでは極端な効果を得ることができる。なお、バイパススイッチも付いているので、効果のオン/オフを簡単に比較することができる。
試奏者プロフィール
1996年にスタジオ・グリーンバードからキャリアをスタート。ヒップホップやR&Bを中心に数多くの作品を世に送り出す。その後、㈱Plick Pluckを設立し、2010年にはSTUDIO QUESTを立ち上げた。最近はBrian the Sun、マオ from SID、96猫、郷ひろみなどの作品を手掛けている。
今回の試聴方法
今回は、アビッドPro Toolsのハードウェアインサートでデモ機を接続して、録音済みのトラックにEQをかけてチェックをしました。モニタースピーカーは、ヤマハのNS-10M STUDIOとムジークエレクトロニクガイザインRL904です。チェックに使った音源は、僕が録音とミックスを担当した1- SHINEというロックバンドの曲です。マルチのデータを用意して、まず周波数帯域が比較的広いボーカルで試してみて、それぞれのモデルが持つサウンドの傾向や、どこに特徴があるのかを確かめます。それから、ギター、ベース、キックといったトラックにかけて、ツマミを回した時の音質変化の度合いや質感、どんな楽器に合うのかも確認しています。
エンジニア遠藤淳也氏が語るハードEQの魅力
ハードウェアEQの質感をプラスしてミックスに立体感を演出します
──ハードのEQは、実際どんな場面で使うことが多いのですか?
遠藤:僕の場合、録りの時にハードのEQを使うことが多いんですね。狙った理想的な音色になるべく近づけて録り込んでおくと最終的な仕上がりをイメージしやすいですし、その後の仕事がスムーズになるので。時間はあまりかけられないので、ツマミの操作性がいいハードウェアは重宝します。あまりガチガチに音を決めて録ってしまうと、後から変えるのが難しいので、録りの時は8割くらい作り込むつもりでEQを設定しています。逆にミックスでは、ピンポイントで音質を変えるので、細かい設定ができるプラグインの方が操作しやすいんですよ。
──ソフトと比べて、ハードウェアは具体的にサウンドがどう違うのですか?
遠藤:ハードの方が「味付け」として使うのに向いているモデルが多い気がします。「こういう音が欲しいから、このEQを使う」みたいな感じですよね。ブーストの方がそのモデルの個性が出やすいイメージがあるので、主にブーストで使うことが多いです。
──実際の使用法を教えてください。
遠藤:録りに関しては今言った通りですけど、たまにミックスで使う時もあります。ミックスが平坦に感じた場合に、楽器のいくつかをハードウェアEQに通して、そのEQの質感や個性を取り込むことでミックスの中で凸凹を作って、立体感を演出できないだろうかと試すんです。例えるならば、異物を混入するようなイメージでしょうか。
──遠藤さんは、ハードのEQをどんなパートで使うことが多いのですか?
遠藤:録りでは必要と感じればすべてに使います。ミックスでは決めているわけではないんですけど、結果的にボーカルやベースとか、センター定位のパートに使っていることが多いかもしれません。
──遠藤さんが好きなEQは?
遠藤:APIの550Bです。550Aが3バンドなのに対して、550Bはローミッドが追加されて4バンドになっているので、思い通りに音質が作れるんですよ。設定されているポイントが肌に合うんでしょうね。APIは本当に好きで、通すだけで音がカッコ良くなります。それからニーヴ1073タイプのEQも使いやすくて好きです。オリジナルはもちろん大好きなんですけど、ヴィンテック・オーディオのX73も、スピード感があって現代的な良さがあるのでよく使います。
──宅録でハードのEQを使う際に、何かコツやアドバイスはありますか?
遠藤:先ほども言いましたけど、録りの段階で音を作り込み過ぎない方が安全です。ハードウェアEQで大まかに好みな音に寄せておいて、ミックスの時にプラグインEQで細かい部分を詰めるといいですよ。
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