エンジニアの遠藤淳也氏がプロの耳で徹底チェック
【人気ハードEQサウンドレビュー④】チャンドラー・リミテッドTG12345 MKⅣ
【人気ハードEQサウンドレビュー④】チャンドラー・リミテッドTG12345 MKⅣ
2018/04/19
プロのレコーディングでは、ハードウェアのEQが録音やミックスで使用されています。ここではAPI500シリーズ規格に対応している縦型EQの中から、特に注目のモデルを4機種厳選し、それぞれのサウンドや性能をチェックしてみました。試聴を担当してくれたのは、ヒップホップやR&B系を得意とする敏腕エンジニア、遠藤淳也さんです。
あのアビーロードのサウンドが手に入る風格に満ちた1台
チャンドラー・リミテッド
TG12345 MKⅣ
¥140,000
問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855
http://umbrella-company.jp/
このモデルはルックスだけ見ていても雰囲気がありますね。アビーロード・スタジオの伝説のコンソールに入っていたEQを再現しているので、どんなソースもビートルズサウンドになるのかと思ってしまいますが、実際に試してみると、意外と色々な用途に使えました。
基本的にはBASSとPRESENCEの2バンドだけなんですけど、BASSは150Hzと90Hzが切り替えられますし、PRESENCEは8つの周波数ポジションが選択できるので、見た目の印象よりも多彩なサウンドメイクができます。
ただし、使い方としては補正というよりも、独特の質感を加える、特に「中低域の聴こえ方を変える」という目的で使うのがいいと思います。実際、ものすごく低域のバンド幅が広いので、音が全体的にふくよかな感じになるんですよね。BASSを上げていくと、なだらかに低域が厚くなっていくので、その特性を活かして、各パートや曲全体の音質に個性を加えるのにも使えそうです。
傾向としては、中低域に独特なクセが付いて、タイトな音をフワッとさせるのに向いているので、例えば攻撃的でピーキーなボーカルにかけて歌を聴きやすくしたり、カチカチし過ぎているキックにかけて、鳴りを生っぽくするという使い方もいいかもしれません。他にも、例えばデジタル楽器を多く使っているトラックの中で、耳に痛く感じるパートにかけてあげると、厚みが出てきて全体的に柔らかい印象になると思います。
Q幅の設定とか細かいことはできないですけど、アビーロード・スタジオのテイストを自分の作品にほんのり加えたい人には向いているEQだと思います。
BASSはシェルビングタイプで、操作は右下のスイッチを押して150Hzか90Hzを選び、あとは上にあるツマミを回すだけと、非常にシンプルだ
PRESENCEはピーキングタイプになっており、下のツマミで調整する周波数をセレクトし、上のツマミでブースト/カットするという仕様になっている
製品概要
「TG12345 MKⅣ」は、あのアビーロード・スタジオでビートルズやピンク・フロイドなどのレコーディングで使用された伝説のコンソール「TG12345」に搭載されていた「Curve Bender EQ」の回路と音質を、500シリーズの筐体に収めたモノラルEQだ。8つの周波数がセレクトできる「PRESENCE」と、150Hzか90Hzをブースト/カットできる「BASS」という非常にシンプルなツマミ構成で、伝統のブリティッシュサウンドの質感を、宅録作品に加えることができる。
試奏者プロフィール
1996年にスタジオ・グリーンバードからキャリアをスタート。ヒップホップやR&Bを中心に数多くの作品を世に送り出す。その後、㈱Plick Pluckを設立し、2010年にはSTUDIO QUESTを立ち上げた。最近はBrian the Sun、マオ from SID、96猫、郷ひろみなどの作品を手掛けている。
今回の試聴方法
今回は、アビッドPro Toolsのハードウェアインサートでデモ機を接続して、録音済みのトラックにEQをかけてチェックをしました。モニタースピーカーは、ヤマハのNS-10M STUDIOとムジークエレクトロニクガイザインRL904です。チェックに使った音源は、僕が録音とミックスを担当した1- SHINEというロックバンドの曲です。マルチのデータを用意して、まず周波数帯域が比較的広いボーカルで試してみて、それぞれのモデルが持つサウンドの傾向や、どこに特徴があるのかを確かめます。それから、ギター、ベース、キックといったトラックにかけて、ツマミを回した時の音質変化の度合いや質感、どんな楽器に合うのかも確認しています。
エンジニア遠藤淳也氏が語るハードEQの魅力
ハードウェアEQの質感をプラスしてミックスに立体感を演出します
──ハードのEQは、実際どんな場面で使うことが多いのですか?
遠藤:僕の場合、録りの時にハードのEQを使うことが多いんですね。狙った理想的な音色になるべく近づけて録り込んでおくと最終的な仕上がりをイメージしやすいですし、その後の仕事がスムーズになるので。時間はあまりかけられないので、ツマミの操作性がいいハードウェアは重宝します。あまりガチガチに音を決めて録ってしまうと、後から変えるのが難しいので、録りの時は8割くらい作り込むつもりでEQを設定しています。逆にミックスでは、ピンポイントで音質を変えるので、細かい設定ができるプラグインの方が操作しやすいんですよ。
──ソフトと比べて、ハードウェアは具体的にサウンドがどう違うのですか?
遠藤:ハードの方が「味付け」として使うのに向いているモデルが多い気がします。「こういう音が欲しいから、このEQを使う」みたいな感じですよね。ブーストの方がそのモデルの個性が出やすいイメージがあるので、主にブーストで使うことが多いです。
──実際の使用法を教えてください。
遠藤:録りに関しては今言った通りですけど、たまにミックスで使う時もあります。ミックスが平坦に感じた場合に、楽器のいくつかをハードウェアEQに通して、そのEQの質感や個性を取り込むことでミックスの中で凸凹を作って、立体感を演出できないだろうかと試すんです。例えるならば、異物を混入するようなイメージでしょうか。
──遠藤さんは、ハードのEQをどんなパートで使うことが多いのですか?
遠藤:録りでは必要と感じればすべてに使います。ミックスでは決めているわけではないんですけど、結果的にボーカルやベースとか、センター定位のパートに使っていることが多いかもしれません。
──遠藤さんが好きなEQは?
遠藤:APIの550Bです。550Aが3バンドなのに対して、550Bはローミッドが追加されて4バンドになっているので、思い通りに音質が作れるんですよ。設定されているポイントが肌に合うんでしょうね。APIは本当に好きで、通すだけで音がカッコ良くなります。それからニーヴ1073タイプのEQも使いやすくて好きです。オリジナルはもちろん大好きなんですけど、ヴィンテック・オーディオのX73も、スピード感があって現代的な良さがあるのでよく使います。
──宅録でハードのEQを使う際に、何かコツやアドバイスはありますか?
遠藤:先ほども言いましたけど、録りの段階で音を作り込み過ぎない方が安全です。ハードウェアEQで大まかに好みな音に寄せておいて、ミックスの時にプラグインEQで細かい部分を詰めるといいですよ。
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