エンジニアが音質と付属プラグインをチェック

アンテロープ・オーディオのインターフェイスOrion Studio HDを試奏してみた

アンテロープ・オーディオのインターフェイスOrion Studio HDを試奏してみた

2018/04/12


アンテロープ・オーディオから高性能なオーディオインターフェイス「Orion Studio HD」がリリースされました。ギタリストにもうれしい機能が盛りだくさんの本機を、サウンドチェックしたいと思います。

文:堀 豊(Studio 21) 写真:小貝和夫

Orion Studio HD ¥352,000
HDX/USB3.0接続のオーディオインターフェイス。12chのマイクプリと、2系統のリアンプ回路、2系統のヘッドホンアウトなどを装備し、スタジオでの作業に必要な機能を1Uサイズの筐体に内包している。また、同社のクロック技術を活かした高品位な音質が特徴である他、リアルタイムでかけ録りができるプラグイン「FPGA FX」が無償で付属する(新しいエフェクトがリリースされるとファームウェアアップデートとして無償で随時追加される)

音像は解像度が高くてレンジが広く、プリアンプの音質は色付けがなくクリア

本機は、Pro Tools HDXシステムと直接接続できる「Digilink接続」と、ネイティブDAW(※)で使用するための「USB3.0での接続」の両方が可能となっています(2台 or 同一のPCとの同時接続も可能)。今回は後者の接続方式を採用して、Mac環境でテストをしました。

※ネイティブDAW=DSPなどの追加ハードウェアを用いずに、パソコンのCPUのみで処理を行なうDAWのこと。CUBASE、Logic、Studio One、Liveなどが該当する。

本機の特徴として、パソコン上のコントロールソフトでインプット/アウトプットや、DAWのシグナル(信号)、エフェクトチャンネルなどの自由なルーティングが行なえます。まずDAWのアウトを本機のモニターアウトにルーティングしてみました。

サウンドの第1印象は、ワードクロック(※)技術に定評がある同社らしく、解像度が高くてレンジの広い、余裕のある音像を感じることができました。高域に関しては、リミッターがしっかりかかった飽和感の強い音源を再生しても濁ることがなく、輪郭をハッキリと再生してくれました。ローエンドの伸び方や張り出し方に関しては、組み合わせるスピーカーにもよりますが、タイトであっさりとした印象です。また、ワードクロックのイン/アウトがあるため、本機から外部にクロックを供給することも可能です。

※ワードクロック=デジタルオーディオ信号を機器間でやり取りする際に、サンプリング周期を正しく同期させるための信号のこと。この同期の精度がサウンドクオリティに直結する。

拡張性に優れた多彩なインプット/アウトプットを背面に装備

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8ch分のマイク/ライン入力の他、アウトボードのインサート端子、ワードクロック入出力、デジタルI/O、D-sub接続による16chのアナログアウト、2系統のモニターアウトを装備し、拡張性は抜群。特に、ワードクロック出力から同社の定評あるクロックを外部機器へ供給することができる点は、非常に魅力的だ

次にインプット部分を見てみましょう。1Uラックサイズのコンパクトな筐体に、12chのマイクプリ(そのうちフロントの4chはHi-Z入力対応)を搭載しています。ch1にコンデンサーマイクを接続し、DAWのインプットにルーティングして、男性ボーカルを録ってみました。プリアンプの音質は色付けがなくクリアで、付属の「FPGA FX」を用いたリアルタイムエフェクトとの相性もいい感じです。

付属エフェクトには、通常のプレーンなEQ/コンプ/リバーブの他、ビンテージのEQやコンプをモデリングしたものも用意されていて、レイテンシーも感じることなく、それぞれのキャラクターを加えることができます。モデリングされている機種は定番のものから、プラグインではあまり見ない珍しいものまであり、またエフェクトがかかった音と、エフェクトがかかっていない素の音を、それぞれパラで同時に録音できるのも本機の特徴でしょう。ネイティブDAWの宿命である「録音時のモニタリングレイテンシーの問題」を回避するために、ボーカルのインプットをヘッドホンアウトに直接ルーティングすることも可能です。

続いてHi-Z入力にエレキギターをつなぎ、内蔵のアンプシミュレーターをかけてみました。アンプとキャビがそれぞれ別のラックになっているのが特徴的です。サウンドは、モデルとなったアンプのキャラをしっかり捉えており、キャビは収録マイクの種類も選べるので、音作りの幅はかなり広いとも言えます。

さらに、録音したギターの音を再度アンプで鳴らして録音し直す「リアンプ」用のアウトも、フロントに2系統準備されています。自宅でアンプシミュレーターをかけた音を録音しつつ、ノンエフェクトの素の音も同時に録っておき、外のスタジオなどに入ってリアンプ機能を使って、実機のアンプ/キャビを鳴らしてマイクで収録するという、従来ではかなり複雑だった作業を、本機だけで完結できるのは非常に魅力的と言えます。

複数の機器を複雑に組み合わせる必要があった作業を、これ1台でこなすことができるというコストパフォーマンスに優れた本機。コントロールソフト上のシグナルルーティングを理解することが本機を使いこなすキモになると思います。

40種類を超える「REALTIME FPGA FX」から注目のプラグインをピックアップ

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フェンダー系アンプをモデリングしたと思われる「Darkface 65(US)アンプ」。ブライトスイッチをオンにすることで、独特な歪み感とアタック感をプラスできる

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フェンダー系アンプのキャビをモデリングしたと思われる「Darkface 65 2×12」。マイクの調整も可能で、リボン、コンデンサー、定番のダイナミックと選択の幅が広い

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SSLのコンソールをモデリングしたと思われる「VEQ-4K Pink」。このシリーズでは4つの代表的なモデルを再現しており、EQカーブや音色の違いが楽しめる

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今はなきオリンピックスタジオのヘリオスコンソールをモデリングしたと思われる「UK-69」。独特な飽和感のあるローの質感にロックンロールの響きを感じる

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レコーディングの定番であるAPIの3バンドEQ「550A」をモデリングしたと思われる「VEQ-55A」。ギターの乾いたエッジ感を強調するには最適なEQだ

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ニーヴにインスパイアされたBAE1073を再現したであろう「BAE1073」。各バンドを上げた時のきらびやかさや、ゲインを上げた時の歪み感がよく再現されている

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コンプの定番であるユニバーサル・オーディオ1176をモデリングしたと思われるコンプレッサー「FET-A76」。独特の粘りのあるコンプ感が再現されている

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レトロ・インストゥルメンツSta-Levelというチューブコンプを再現したと思われる「Stay-Levin」。プラグインとしては珍しいモデルで、重厚でスムーズな音色を持つ

SPEC

●アナログイン:コンボ×4(前面)、コンボ×8(背面)
●アナログインサート×2
●アナログアウト:DB25(16ch)×2、ステレオモニターアウト(4ch)×2、ヘッドホンアウト(4ch)×2、リアンプアウト(2ch)×2
●デジタルイン:ADAT(8ch)、S/P DIF
●デジタルアウト:ADAT(8 ch)、S/P DIF
●重量:3.1 kg
●外形寸法:483(W)×44(H)×226(D)mm

アンテロープは他にも様々な接続に対応したインターフェイスをラインナップ

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Goliath(左)、Orion 32+(右)

今回紹介したOrion Studio HD以外にも、HDXインターフェイスとしては「Goliath HD」と「Orion 32 HD」があり、他にもUSBインターフェイスである「Orion 32」や、Thunderbolt/USBインターフェイスの「Goliath」、「Orion Studio 2017」、「Orion 32+」、「Zen Studio+」、「Zen Tour」が用意されており、作業環境に合わせて選ぶことができる。クオリティやコンセプトは一貫しているので、店頭やWebでチェックしてみよう。

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