高音質・高性能なハードウェアコンプをエンジニアが試聴

ART、グルーヴ・ヒル・オーディオ、マンレイ、レトロ・インストゥルメンツ、FMRオーディオ、ルパート・ニーヴ・デザインズ、ウェスオーディオのコンプを徹底レビュー!

ART、グルーヴ・ヒル・オーディオ、マンレイ、レトロ・インストゥルメンツ、FMRオーディオ、ルパート・ニーヴ・デザインズ、ウェスオーディオのコンプを徹底レビュー!

2018/08/13


パソコンベースの制作環境が主流になった今、エフェクトはプラグインが隆盛を極めていますが、プロの現場では今も「アウトボード」と言われるハードウェアタイプのコンプが数多く使われています。エンジニアの茨木直樹氏に試奏を依頼し、厳選した9台のアウトボードコンプのサウンドや操作性、独自の機能などをチェックしてもらいました。

取材:平沢栄司 写真:小貝和夫 協力:つばさスタジオ
 

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素直な音を持ち、見やすいメーターを3個備えた操作性の良さが売り

ART
Pro VLAⅡ(真空管オプトタイプ)

¥58,000
問:日本エレクトロ・ハーモニックス㈱
TEL:03-3232-7601
http://www.electroharmonix.co.jp
 

これはオプト系のコンプで、すごく素直なサウンドが印象的でした。基本はフラットで、かかりが少しゆるやかな印象もあったんですけど、音色の色付けが限りなく排除されています。コンプレッションは深くてスムーズで、アタックとリリースもしっかりと効いてくれます。純粋にコンプとしての機能が優れていて、素晴らしいと思いました。
用途としては、ピークを取り除いてツブを揃えるような使い方が得意で、2ミックスで使うのがオススメです。あとは、色付けしたくないアコースティック楽器の存在感を出したい時に使うのもいいと思います。前に出すというよりも、広がりを持たせるとか、楽器に対してはさりげなく使う用途が向いています。ジャンル的にも何でもいけますし、ニコ生とかの配信で使うのもありかもしれません。

あと、本機はメーターがとても見やすいんですよ。大きな針のメーターは入力と出力の切り替えができるVUメーターで、その下のLEDがGRメーターなんですけど、動きがキビキビしていてレスポンスがいいんです。入力、出力、GRを見ながらしっかりレベルが合わせられますし、針のメーターはマスターのレベルを管理する用途でも使えると思います。本機をマスターに通してVUメーターとして使いながら、ゲインリダクションはLEDメーターで見るといった使い方ができるのは、今まであるようでなかった、すごくいい発想だと思いました。

素直なサウンドでパラメーターも標準的ですし、価格もお手頃なので、コンプやメーターの使い方を覚えるための1stチョイスとしてもオススメですね。普段使いのコンプとして、1台持っていると便利だと思います。
 

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針式のVUメーターの下にはLED式のGRメーターがレイアウトされており、右には信号のアベレージとピークの両方をホールドして表示するLEDメーターが装備されている

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前身モデルの「Pro VLA」では、アタックとリリースがスイッチ式だったが、本機では可変式になっており、より細かい調整が可能になっている
 

この製品について

[製品概要]
「Pro VLAⅡ」は、同社の人気モデル「Pro VLA」のアタックタイムとリリースタイムをスイッチ式から可変コントロールに変更するなど、大幅に進化させたオプトタイプの真空管コンプだ。非常にナチュラルなコンプレッションを加えることができるのが特徴で、フロントパネルに視認性のいい3種類のメーターを装備するなど、操作性がいいのも売りだ。

[SPEC]
●周波数特性:10Hz〜100kHz(±0.5dB)
●最大ゲイン:20dB
●真空管:12AT7
●入出力端子:インプット(XLR)×2、インプット(標準フォーン)×2、アウトプット(XLR)×2、アウトプット(標準フォーン)×2
●外形寸法:89(H)×483(W)×233(D)mm
●重量:4.8kg
 

 


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中低域の存在感が上げられる、ビンテージ機材好き垂涎の真空管コンプ

グルーヴ・ヒル・オーディオ
Liverpool Tube Compressor(真空管VCAタイプ)

¥150,000
問:㈱宮地商会M.I.D.
https://miyaji.co.jp/MID/
 

まず、「Liverpool」って名前がいいですよね。アルテック436Cっぽい音色を象徴しています。サウンドはレンジが狭めで、キュッと締まった感じがあります。真空管式のビンテージタイプは、どれも似た傾向なのかと思えば実は全然違っていて、中高域が出るモデルもあれば、このLiverpoolは中低域が張り出してくるんですよ。だから、ベースやボーカルとの相性がすごく良かったです。本当に音が太く前に出てきて、最高ですね! 他にはアタックが強いスネアやパーカッションとか、ブラスみたいに音が切れ良くスピーディに出てくる楽器で使うのもいいと思います。

操作性の面では、メーターの視認性が高いのと、ツマミが全部ノッチ式で、再現性が高いのがいいですね。ゲインも高くて、インプットとアウトプットのアッテネーターとの関係で音量をコントロールするという独自の操作が必要なんですけど、すぐに慣れると思います。それと、アタックがツマミでカチカチと選択するタイプで、それぞれの数字の間にバイパスがあるんですよ。アタックを調整しながら、すぐにオフの状態と聴き比べができるのは本当に便利です。リリースはバイパスではなくて、ホールドになっています。ホールドにすると、メーターの針が止まってコンプレッションされたままの状態になるんですね。このへんには作り手側のこだわりを感じました。

ジャンル的には、ロックやジャズといった中低域を重視する、ビンテージ系の音楽に向いています。最近は下がしっかり出るコンプが少なくて、新しいものはどうしても派手に作られているんですね。その点、これはローがしっかりと出ますし、自分でも欲しいと思いました。
 

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アタックは6通りから選ぶことができ、ツマミがどこに向いていても、すぐにバイパスにすることができるという素晴らしいアイディアが採用されている

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アウトプットはアッテネーターが搭載されているので、本機で作ったサウンド自体を変えることなく、音量だけを下げられる
 

この製品について

[製品概要]
「Liverpool Tube Compressor」は、あのビートルズが『ホワイト・アルバム』で使ったという、アルテック436のチューニングモデルを再現した真空管コンプだ。オリジナルには付いていないアタックタイムを装備。また、音色を損なうことなく音量をコントロールできる、段階式のアッテネーターツマミも追加されており、音作りの幅が格段に広がっている。

[SPEC]
●周波数特性:20Hz〜40kHz(±1.5dB)
●最大ゲイン:+20dB
●真空管:6BC8/6BZ8、6CG7、6AL5
●入出力端子:インプット(XLR)×1、アウトプット(XLR)×1
●外形寸法:88(H)×430(W)×142(D)mm
●重量:4kg
 


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2ミックスを通すだけで音が前に出て、曲全体のバランスを整えてくれる

マンレイ
Stereo Variable Mu Limiter Compressor(真空管VCAタイプ)

¥468,000(オプションなしの価格)
問:㈱フックアップ
TEL:03-6240-1213
http://hookup.co.jp/
 

今回はマスタリングバージョンのM/Sオプション搭載モデルを試しました。僕はこのモデルの通常バージョンを持っているんですけど、本機は機能が増えていて、さらに細かい設定ができるようになっていますね。

まず、2ミックスのソースでチェックしてみました。真空管系のコンプらしく、全体的に音がグッと前に押し出される感じがあります。スピード感が失なわれずに太くなって、かつ左右の広がりも出てくるので、そこがすごくいいと思いました。あと、定位がまったくブレずにピシッと前に出てくるところが素晴らしいですね。効きが鋭くてしっかりかかる点も使いやすいと思います。アタックタイムとリリースタイムの動作はゆっくりめですけど非常にスムーズで、「こうなってほしい」と思った通りに設定できます。周波数特性は色付けがなくてフラットです。ゲインを上げていくと飽和感が出てきて、いい意味でのザラつきが加わりつつ、倍音が足されることで力強いサウンドになりました。

用途としては、個々の楽器の音作りでも使えますけど、2ミックスがメインになるでしょうね。あと、M/S機能が付いているので、マスタリングで使いやすそうです。2ミックスをこれに通すだけで曲全体のバランスを整えてくれますし、グルーヴ感のコントロールもしやすかったです。ジャンルについては何でもいけますが、ややロック寄りですかね。

あと、サイドチェインフィルターが付いているところも本機の使いやすさのポイントになっています。それと、カチカチとクリック感のあるツマミが採用されているんですけど、設定の再現性が高い点も気に入りました。
 

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フロントパネルの中央には、M/SとLRをセレクトするスイッチや、サイドチェインを有効にするスイッチなどが付いている

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本機をコンプとして使うか、リミッターとして使うかは、このミニスイッチで選択する
 

この製品について

[製品概要]
「Stereo Variable Mu Limiter Compressor」は、数多くのアウトボードの名機を輩出してきたマンレイが開発したステレオコンプ/リミッターで、同社のベストセラーとして知られるモデルだ。真空管を使用した独自の回路設計により、非常に滑らかなゲイン変化を実現。レコーディングやミックスはもちろん、特にマスタリングに最適な仕様となっている。

[SPEC]
●周波数特性:20Hz〜25kHz
●最大ゲイン:35dB
●真空管:5670
●入出力端子:インプット(XLR)×2、アウトプット(XLR)×2
●外形寸法:88.9(H)×482.6(W)×25.4(D)mm
●重量:10.4kg
 

 


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マンレイらしい力強さを持ちつつも、フラットで扱いやすいモダンな音質

マンレイ
Nu Mu(真空管FETタイプ)

¥298,000
問:㈱フックアップ
TEL:03-6240-1213
http://hookup.co.jp/
 

これは見た目が個性的で斬新ですね。サウンドはマンレイらしい力強さがあります。同社のVariable Muと比べると少し倍音感が少なくて、フラットな特性を持っている印象を受けました。回路は真空管+FETで、Variable Muがビンテージ系なのに対して、このNu Muはモダン系という感じでしょうか。
効きはいいし、音質もいいですね。リリースがやや遅めで常に音が前に出てくる感じなので、アタックとスレッショルドでうまく調整するのがポイントになります。ただ、そこまでシビアに考えずに大胆に使ってみても、十分に存在感のある音になります。もしかすると、フェアチャイルド系のコンプみたいに直感的に使った方がいいのかもしれませんね。

2ミックスで使うのがオススメですけど、個々のパートに使うのもありだ思います。遅めのアタックとリリースにしてスネアやキックを目の前にベタッと置きたい場面とか、シンセにも良さそうですね。ロックで使うには倍音がやや少ないので、AORみたいなナチュラルでオシャレなジャンルに向いている感じです。あるいは、EDMみたいに倍音やローが多いジャンルで使えば、他のコンプだと過激にかかり過ぎてしまうところを、うまく整えてくれると思います。

機能面で注目なのは、「HIP」コントロールですね。これをオンにすると、低いレベルの音にもコンプが効いて、大きい信号が残ってくれるという不思議な動作をするんですよ。これについては、もっと時間をかけて追求したいですね。それともうひとつ特徴的だったのが、インプットゲインを3段階で切り替えられる点です。スイッチひとつで音の前後感が演出できるのは便利だと思います。
 

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この「HIP」スイッチをオンにすると、音量の大きい部分のダイナミクスを残したまま、小さい信号を持ち上げることができる

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入力ゲインを「+3dB/0dB/−3dB」から選べるミニスイッチを搭載している
 

この製品について

[製品概要]
「Nu Mu」(ニュー・ミュー)は、真空管式のステレオコンプ/リミッターだ。真空管は6BA6を2本搭載し、新設計のソリッドステート回路を融合させることで、滑らかなダイナミクス処理と、フラットで力強いサウンドを実現。その効果は、余計な色付けが不要なエレクトロミュージックなどに最適だ。また、熟練した職人達によって、手作業で生産されているのもポイントだ。

[SPEC]
●周波数特性:−0.8dB @20Hz、−0.5dB @50kHz
●最大ゲイン:13dB
●真空管:6BA6×2本
●入出力端子:インプット(XLR)×2、アウトプット(XLR)×2、インサート(標準フォーン)×2
●外形寸法:88.9(H)×482.6(W)×177.8(D)mm
●重量:3.86kg
 


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思いきりかけても飽和せずに、音の力強さを増強できるステレオコンプ

レトロ・インストゥルメンツ
Revolver(真空管VCAタイプ)

¥400,000
問:㈱宮地商会M.I.D.
https://miyaji.co.jp/MID/
 

このモデルのネーミングも、僕ら世代にはたまらないですね。リアは真空管がむき出しで、このゴツい見た目からして、激しくてクセのあるコンプなのかなと思ったんですけど、意外とサウンドは素直でした。歪み感も少なくて、グッとかけても飽和せずに、そのまま音の力強さが増していくような印象です。音ヤセや色付けがなくて、とにかくナチュラルでクリアですね。すごく動作がスムーズで、使いやすいコンプだと思います。

操作はシンプルで、メーターも見やすいですし、アタックとリリースの設定で思った通りに音のスピード感をコントロールできます。機能面では、サイドチェイン・フィルターの周波数が選択できるのがいいですね。250Hzと90Hzの2つから選べるので、ソースに合わせてコンプレッションを自在にコントロールすることが可能です。あと、2つのチャンネルのスレッショルドを一括で操作できるので、2ミックスとかマスタリングで本機をステレオで使う時に、左右のかかり方を揃えられる点も好印象です。

コンプの効きが自然で、透明感のあるサウンドなので、用途としては音作りというよりは、ミックスでツブを揃えたりレベルをコントロールしたい時に使うと真価を発揮すると思います。あと、ストリングスにも合うかもしれません。特に、ストリングスはレンジ感がなくなるとまずいので、コンプは使いづらいんですよ。でも、Revolverなら距離感や空気感だけを調整してくれるので、全然使えると思います。他にもアコギやピアノといった、「歪み感は排除したいけど、コンプの効果は欲しい」というアコースティック楽器には最適ですね。ジャンル的にもオールジャンルで使えると思います。
 

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本機のサイドチェイン・フィルターは、カットする周波数を「250Hz」と「90Hz」の2つからセレクトすることができる

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リアパネルにはこのように真空管がむき出しの状態でセットされており、クリエイターのモチベーションを上げてくれる
 

この製品について

[製品概要]
「Revolver」は、ビートルズがベースのレコーディングなどで使っていたアルテック436というコンプをモデルに開発された、真空管タイプのステレオコンプだ。ビンテージ系の自然でスムーズにかかるコンプレッションが特徴で、250Hzと90Hzの2つから帯域を選べる「サイドチェイン・フィルター」を装備するなど、低域を気にせずガッツリとかけられる。

[SPEC]
●周波数特性:20Hz〜20kHz(±0.5dB)
●最大出力レベル:+18dB
●入出力端子:インプット(XLR)×2、アウトプット(XLR)×2
●外形寸法:88(H)×430(W)×230(D)mm
●重量:約10kg
 


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音楽的にダイナミクスをコントロールできる、コスパに優れた小型モデル

FMRオーディオ
RNC1773(E)(VCAタイプ)

¥32,500
問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855
http://umbrella-company.jp/
 

見た目は小さいんですけど、造りはしっかりしていますね。しかも、このサイズと価格帯でステレオ仕様のものは、他にはないんじゃないですか。それと、サウンドが本当に良かったです。

ゲインが高くてコンプの効き自体がいいですし、メーターの視認性も高いので非常に使いやすいですね。各ツマミを操作した時の反応が良くて、音色の変化が手に取るようにわかるので、使っていて面白かったです。その分、攻めた音作りができますし、初心者が各ツマミの役割を覚えるのにもピッタリだと思います。
サウンドは、上と下がグッと引き締まった自然なレンジ感を持っていて、いい意味での粗さも感じます。その特性を活かして、オケ中で際立たせたいパートに使うと効果的だと思います。他に、途中でドラムの音を激しくしたり、歌がソロになるところでラジオっぽくしたりとか、ギミック的に使うのもありですね。ひと口に「ギミック」と言っても、それらしく聴かせるのは難しいんですけど、本機ならばうまくいくはずです。

あと、見た目はシンプルですけど、サイドチェイン端子もあり、本機をディエッサーとしても使用することができます。それと、何と言っても注目なのが「スーパーナイスモード」です。これは、3台のコンプ回路を直列にして薄くかけることで、ナチュラルなコンプレッションが得られるモードです。これをオンにすると、音の印象を変えずに、高域をロスすることなく、音圧を上げることができました。

もしかすると、今回チェックした中では一番音楽的なかかり方をするコンプなのかもしれないです。ダイナミックレンジの調整よりも、音楽的なダイナミクスを重視しているコンプだと思いました。
 

 

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ツマミは、スレッショルド、レシオ、アタック、リリースというオーソドックスな構成で、ツマミの動きに応じて、非常にわかりやすく音質が変化する

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本機の一番の売りである機能「スーパーナイスモード」。これは3段階にコンプを通したような効果が得られるというもので、アタック感を保ちながらダイナミクスをコントロールできる
 

この製品について

[製品概要]
「RNC1773(E)」は、ハーフラックサイズのコンパクトな筐体を持つ同社のステレオコンプ「RNC1773」の、オペアンプをグレードアップした日本限定のバージョンだ。歪みが少なく、各コントロールの効きがわかりやすいのが特徴で、3段階のコンプを通したような効果が得られる「スーパーナイスモード」を装備。圧倒的なコスパの高さを実現している。

[SPEC]
●周波数特性:10Hz〜100kHz(±0.5dB )
●最大ゲイン:22.5dB
●入出力端子:インプット(標準フォーン)×1、アウトプット(標準フォーン)×1、サイドチェーン(標準フォーン)×1
●外形寸法:40.64(H)×139.7(W)×139.7(D)mm
●重量:907g
 


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左が535、右が543
 

ビンテージニーヴのテイストを持つ535と、現代的なサウンドを持つ543

ルパート・ニーヴ・デザインズ
535/543(VCAタイプ)

オープンプライス(共に¥112,000前後)
問:㈱フックアップ
TEL:03-6240-1213
http://hookup.co.jp/
 

まず535ですが、必要最小限のツマミで色々な音色が作れる優秀なコンプですね。サウンドは素直で、ダイナミックレンジも十分にあります。

特徴は、アタックとリリースの組み合わせをプリセット的に選べる「TIMING」というツマミです。AUTOも選べますし、ツマミのことがよくわからない人でも、6通りの中から曲に合うものを選べばいいだけなのがいいですね。それと、ドライ音とウェット音がミックスできる「BLEND」が付いているのも便利です。特に、音の立ち上がり強いソースのアタックをコントロールする時には重宝すると思います。ガッツリかかるように設定してから、ドライ音とのバランスを調整すれば、素早く音決めができますね。僕ならドラムやパーカッションとかの打楽器系全般で使いたいです。レベルを揃える使い方よりも、音作りで使った方が本機の特性が活きると思います。

一方の543ですが、ツマミもスタンダードで、とにかく使いやすかったです。しかも音が本当に良くて、中域がグッて前に出てくる押し出し感が気に入りました。この2台はデザインは似ていますけど、キャラクターが違うんですよ。535が現代的な新しいニーヴとすれば、543はビンテージニーヴっぽさが感じられました。だから、いい意味で音色に少しクセがあって、スピード感よりも存在感をアピールするような使い方にマッチすると思います。歌、ギター、ベース、打楽器と何でもいけますけど、メインとしてセンターに据えたい主役パートに使うのが最適だと思います。

シンプルで使いやすいし、通しただけで音の存在感が出てくるコンプらしいコンプですね。これはオススメです!
 

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TIMINGツマミでは、アタックとリリースを絶妙に組み合わせた6通りのモードを選ぶことができる

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このブレンドツマミでドライ音とウェット音のバランスを調整できる。いわゆる「パラレルコンプ」というワザが、これ1台でできてしまうのだ
 

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このボタンでコンプの動作を切り替えることができる。ちなみに、FFは入力信号に対してコンプが正確に動作し、FBにすると音楽的で心地いいコンプ効果が得られる

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レシオは「1.1:1」から「40:1」まで設定することができ、「40:1」にすればリミッターとして動作する
 

535について

[製品概要]
「535」は、同社のカスタムトランスとクラスAの出力アンプを採用している、API 500規格のコンプレッサーだ。適切なアタックタイムとリリースタイムの組み合わせを選べる6ポジションの「タイミング」コントロールを装備。また、「ブレンド」ツマミによって、エフェクト音とドライ音を自由にミックスすることが可能だ。

[SPEC]
●入出力端子:使用するAPI  500規格に準拠したシャーシに仕様による
●外形寸法:132(H)×37(W)×146(D)mm
●重量:694g
 

543について

[製品概要]
「543」は、自然で音楽的なダイナミクスのコントロールができることで定評のある同社の名器「Portico 5043」を、API 500規格に適合させたVCAタイプのモノラルコンプだ。「FF」と「FB」という2つのモードを持ち、前者は入力信号に対して正確に動作し、後者は音楽的で心地よいサウンドを得ることができる。

[SPEC]
●周波数特性:±0.1dB@18Hz、−3dB@ 150kHz
●最大出力レベル:23dB
●入出力端子:使用するAPI  500規格に準拠したシャーシに仕様による
●外形寸法:132(H)×37(W)×146(D)mm
●重量:640g
 

 


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名器「ゲイツSTA-Level」をリファインした主役パート向きのコンプ

ウェスオーディオ
Timbre

¥235,000
問:㈱アンブレラカンパニー
TEL:042-519-6855
http://umbrella-company.jp/
 

この真空管コンプは、ビンテージ感のあるシンプルなデザインがいいですね。ツマミが大きいので視認性がいいですし、動きも滑らかです。

サウンドの傾向は、すごく明るくダイナミックで、通しただけで中高域がしっかり前に出てきます。ゲインも高くて倍音のコントロールも容易ですし、MODEツマミを切り替えると2次倍音と3次倍音が強調されたような歪みが足されて、個性的な音が作れました。インプットをグッと右に回すと音が持ち上がって、さらに回すと歪みというかザラつきが増してきて、倍音とサスティンが伸びてくるんですよ。それでいて音質が破綻することがないので、積極的な音作りにはピッタリだと思いました。

特に歌やギターとか、明るさや広がりを出したいトラックに対しては相性抜群だと思います。ただ、個性が強い分、いろんなパートで使ってしまうとケンカしてしまうかもしれないので、楽曲の中で際立たせたい主役用のコンプとして使うのがオススメですね。そういった意味でも、ジャンル的にはロック向きかもしれません。実際、歌にかけると、オケ中で前に出てくれて存在感が増した感じになりましたし、ギターでは粒立ちをキレイに整えることができました。

アタック/リカバリー(MODE)が3段階、リリースが6段階の切り替え式なので、グルーヴ感やスピード感の細かいコントロールという面では用途が限定されそうですが、逆に潔くて調整はしやすかったです。ただ、やはり注目は3つのモード切り替えですね。音色の変化がすごくよくわかるし、これをうまく使えば本機ならではのキャラを活かした、他では出せない音が作れると思います。
 

 

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こちらが3タイプの異なるコンプレッションモードを切り替えられるMODEツマミ。他のモデルにはない機能だ

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この「S.C.FILTER」は、サイドチェイン・フィルターを有効にするボタンで、これを押すと不要な低域に対してコンプが反応しなくなり、かかってほしい帯域だけが圧縮される
 

この製品について

[製品概要]
「Timbre」(ティンバー)は、ビンテージコンプの名器として有名なゲイツSTA-Levelのサウンドを、現代のレコーディング環境に合わせてリファインした真空管Vari-Muタイプのコンプだ。6段階のリリースタイム、3段階でアタック/リカバリーが変更できるMODEといった独自の機能を駆使して、美しく滑らかなビンテージサウンドを味わえる。

[SPEC]
●周波数特性:20Hz〜30kHz(0.5dB)
●最大ゲイン:45dB
●真空管:6386
●入出力端子:インプット(XLR)×1、アウトプット(XLR)×1、リンク(標準フォーン)×1
●外形寸法:88(H)×483(W)×235(D)mm
●重量:7kg
 

今回の試聴環境

 

今回の試奏では、僕がアビッドPro Toolsに録ったトラックから、ボーカル、ギター、ベース、スネア、キックといったピークが強いものを選んで、各デモ機の効きをチェックしています。また、2ミックスやリファレンスとして使っているCDを再生して、それを通した状態も確認しました。接続は、アビッドHD I/OからSSLのコンソールに立ち上げて、そこに各コンプをインサートしました。モニタースピーカーはジェネレック1031です。

チェック方法は、まず各機種のサウンドの特徴を確認しながら、コンプレッションが効いた時のレンジ感や、早くかかるとどうなるか、深くかかるとどうなるか、さらに歪ませるとどうなるかなど、様々な設定を試してみました。他に、操作性や各モデルの独自の機能についても確認しています。
 

エンジニア茨木直樹氏が教えてくれた「コンプを使うコツ」

 

──まず茨木さんは、どんな場面でコンプを使うのですか?
茨木:僕の場合、レコーディングではあまり多用はしませんが、ドラムのスネア、ベース、ボーカルといった主要パートのピークを抑えたい時に利用しています。ミックスでは、アタック感や存在感とかの調整をしたり、使用するコンプそのものの特徴を活かしたサウンドメイクをする際とかに使っています。

──どんなコンプを使っていますか?
茨木:録りの時は100%ハードです。一番使うのがウーレイの1176で、楽器によってはチューブテックのCL 1AやCL 1B、SSLのコンソールに組み込まれているコンプも使います。逆にミックスの時は100%ソフトですね。ウェイヴスのCLA-76と、同じくウェイヴスのChris Lord-Alge Signature Seriesに入っているコンプ、あとマスターアウトにユニバーサル・オーディオUAD-2のShadow Hillsのコンプもよく使っています。

──では、ビギナーにもオススメのコンプがあったら教えてください。
茨木:ある程度の価格帯で造りがしっかりしていて、操作性の優れているものがいいと思います。あと、音色の変化がわかりやすいものがオススメですね。効果がわかりにくいものや、最初から機能が多過ぎるものを使うと、「コンプは難しい」と感じる要因になると思うんです。

──宅録では、どんな場面でコンプを使うといいですか?
茨木:まずは歌のレコーディングですね。声を張り上げると、オーディオインターフェイスのピークメーターが赤く点くじゃないですか。そんな時にハードのコンプを薄くかけてあげればいいんです。そうすることで、耳にイヤなピークが出なくなりますし、歌いやすくもなるので表現の幅が広がると思います。

──では、読者の皆さんがミックスでコンプを使う場合はどうすればいいのでしょうか?
茨木:どのパートも曲中でレベルが上下するじゃないですか。そんなダイナミクスの揺れをコンプで抑えてやると、パート同士のバランスも取りやすくなるんです。コンプをかければレンジ感もグッと引き締まりますし、力強さみたいなものが出せます。ただし、たんにコンプを通せば必ずいい音になるというわけではなくて、そこは選ぶコンプにもよります。例えば、ウーレイ1176とかを使えば、本当にそれだけでいい音になりますから(笑)。今回、テストしたコンプは優れた製品が多かったので、いい音がするコンプをぜひ体験してほしいですね。
 

試聴車プロフィール

 

茨木直樹(イバラキ ナオキ)
1994年にビクターに入社。同社のビクタースタジオにてレコーディング&ミキシングエンジニアの業務に携わる。その後、フリーランスに転身し、プライベートスタジオ「MukuStudio」を設立。これまでに、Acid Black Cherryや芦田愛菜、SMAPなどの作品を手掛けている。現在は、東京・中野に「TSUBASA STUDIO」を構えて、精力的に活動中。
 

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