エンジニア飛澤正人氏がモニタースピーカーをチェック!
ヤマハ「HS5」徹底レビュー
ヤマハ「HS5」徹底レビュー
2018/09/16
音楽制作をするうえで、作品のクオリティを左右する重要なアイテムが「モニタースピーカー」です。ここでは一般家屋で導入するのに向いている、ウーファーが4〜5インチのモデルをセレクトして、サウンドをチェックしました。試聴を担当してくれたのは、敏腕エンジニアの飛澤正人さんです。
取材:目黒真二 写真:小貝和夫
音の粒立ちや倍音が正確に再生できる、まさに制作向けの音質
ヤマハ
HS5
オープンプライス(¥15,000前後/1本)
問:㈱ヤマハミュージックジャパンプロオーディオ・インフォメーションセンター
TEL:0570-050-808
https://jp.yamaha.com/products/proaudio/index.html
ルックスもそうなのですが、サウンドの印象としても定番モデルの「ヤマハNS-10M」に近いですね。ただ、NS-10Mよりもレンジが広くて、全体的に音がスッキリしています。NS-10Mが2kHzあたりの中域に特徴があるのに対して、HS5はもう少し上の3~4kHzくらいに特徴がある感じです。基本はフラットですけど、それもあって出音がさわやかな印象になっているのだと思います。
全体としてはコストパフォーマンスの高さも含めてよく出来ていて、オールジャンルで使える優等生的なスピーカーですね。音の粒立ちがよく見えて、クラシック系のピアノとかの倍音もよく出ます。パワードスピーカーにありがちな音が詰まった感じもないですし、鳴り自体に余裕を感じました。定位感と奥行きも見やすいですね。色付けもないですし、コンプやEQのパラメーターによる音質の変化もわかりやすいので、ミックスでもバランスが取りやすいはずです。
試聴中、色々なポジションに置いてみて気がついたのですが、本機は日本のそんなに広くない一般的な宅録環境で使うのにもピッタリだと思います。例えば、パソコンのディスプレイの両脇に置くとすると、大体左右の間隔が60〜70cmくらいになると思うんですけど、それくらい近くに置いた方が定位もハッキリするし、能力を発揮しそうです。もし壁の近くに置いてローが出過ぎる場合は、リアのROOM CONTROLの調整でイメージに近い出音を鳴らせるでしょう。
リアパネルにはローとハイのルームコントロールが用意されており、部屋の鳴りや設置環境によって適切な周波数バランスに調整することができる
リアに円形のバスレフポートが装備されており、豊かなローを再生できる。また、ケーブルはXLRのバランスタイプと標準フォーンの両方が挿せる
この製品について
【製品概要】
「HS5」は、同社の名機「NS-10M」のサウンドキャラクターを継承し、ミックス作業における、音色や音像定位の微細な変化を厳密に再現できるように設計された、白いウーファーがトレードマークの人気モデルだ。バイアンプ方式のパワーアンプや、不要な共振を低減するエンクロージャー設計、流体音制御技術による低ノイズ化など、どこまでも原音に忠実であることにこだわって設計されている。
【スペック】
●ウーファー:5インチ
●ツイーター:1インチ
●出力:25W(HF)+45W(LF)
●周波数特性:54Hz〜30kHz
●クロスオーバー周波数:2kHz
●外形寸法:170(W)×285(H)×222(D)mm
●重量:5.3kg
今回の試聴環境
今回の試奏では、クラシック、ロック、ポップス、R&B、ジャズなど、一般的な音楽リスナーが聴くであろう、あらゆるジャンルの音源をPro Toolsのトラックに貼って、それを切り替えていく形で各モデルのサウンドをチェックしました。
ちなみに、オーディオインターフェイスはDiGiGridのIOSで、クレーンソングのAvocetというモニターコントローラーに各モデルを接続しました。
主にチェックしたポイントは、再生帯域や左右の広がり感、ダイナミックレンジと奥行き、それからリバーブのかかりの見えやすさなどです。さらに音量を大きくしたり小さくしたりして、周波数バランスに変化があるかどうかも確認してみました。
飛澤氏が教えてくれた「スピーカーとヘッドホンの使い分け方」
──まず、飛澤さんがいつも作業で使っているヘッドホンとモニタースピーカーを教えてください。
飛澤:ヘッドホンはシュアのSRH1540という密閉型のモデルで、モニタースピーカーはB&Wの805 Signatureというパッシブタイプのモデルを使っています。SRH1540は密閉型にも関わらず、密閉型っぽくないナチュラルな音質で聴ける点が気に入っています。SRH1540 は805 Signatureに音質が近くて、レンジ的に違和感がないので導入しました。
──飛澤さんは、ヘッドホンとモニタースピーカーを制作中にどのように使い分けているのでしょうか。
飛澤:スピーカーから聴こえてくる音というのは、どうしても部屋の響きに影響されるので、そうではないピュアな状態のサウンドで音作りをするために、まずヘッドホンで聴いています。ヘッドホンでは、主に音源の周波数帯や空間表現に注目して、大音量でチェックをしています。その後にモニタースピーカーを鳴らして、もう一回最初からバランスを取りながら定位感も微調整していきます。全体のレンジ感や細かいバランスは、ヘッドホンで大きな音量で聴いているとわかりにくいんですね。ですので、スピーカーを小さい音量で鳴らしてバランスを取るようにしています。
──両方を併用しているのですね。
飛澤:そうです。ヘッドホンでは、細かいディテールや各パートの距離感とかもチェックしていて、逆にヘッドホンでは見えないところをスピーカーでチェックするという感じです。
──飛澤さんはどういう基準でスピーカーを選んでいるのですか?
飛澤:基本的には、色付けのないナチュラルな音を持っている、オールジャンルで使える製品を選ぶことが多いですね。それから、最近はイヤホンやヘッドホンで音楽を聴く人が多いので、そういう環境にも合わせる意味で、普通のイヤホンでもチェックをします。スピーカーについても、どんな再生環境で聴いても問題がないかを確認するために、ミニコンポやパソコン用のスピーカーも使います。
──その際、どういうところを特にチェックするのでしょうか。
飛澤:例えばスピーカーだったら、特性に注意しています。小さいスピーカーは低域が出ない代わりに、2kHzあたりを中心に中域が目立つ傾向にあるんですね。なので、ヘッドホンで作った音がその帯域で出過ぎていないかをチェックすることができますし、全体のバランスを平均に取るために役立つ訳です。大小両方のスピーカーの特性を活かして音質の調節をすることが、とても重要なんですね。それと、ヘッドホンとスピーカーのどちらでも、音量を大きくしたり小さくしたりして、どんな音量で再生しても問題がないかを確認します。
──モニタースピーカーやヘッドホンを選ぶ際に注意するべきことがあったら教えてください。
飛澤:モニタースピーカーを選ぶ際は、まずスピーカーを鳴らす部屋の環境を考えるべきですね。狭い部屋に大きいスピーカーを置いても鳴らし切れないですし、大きな部屋で小さいスピーカーを鳴らす場合は、距離感や部屋の反射などを考慮に入れる必要が出てくるでしょう。だから、楽器店に行ったら、自分の部屋の広さや、壁とか床の材質を店員さんに伝えるといいと思います。それから、スピーカーを背後の壁に近くセッティングしなけばならない場合は低域が増える傾向にあるので、低域の調整ができる機能が付いたモデルをオススメします。ヘッドホンは、自分がいつも聴いている曲を楽器店に持って行って、それがどういう風に聴こえるかをチェックしてください。フラットな特性のものがオススメですけど、クリエイター指向の人だったら、自分がトラックを作っていて気持ちのいい音が出るモデルを選んでもいいんじゃないでしょうか。やはり音楽制作は、モチベーションも大切ですからね。
飛澤氏がメインスピーカーとして使っている、B&Wの805 Signature というパッシブタイプのモデル。この筐体は1本の木からくり抜かれているという
飛澤氏がそのサウンドに最大の信頼を寄せている、シュアSRH1540という密閉型のモニターヘッドホン
オーディオインターフェイスは、デジグリッドIOSを使用している(ラック内の一番下)
飛澤氏はアビッドPro ToolsをメインのDAWソフトとして使っているが、デジグリッドDLI(ラック内の一番上)によってPro ToolsとデジグリッドIOSを連携させている
試聴者プロフィール
飛澤正人
(トビサワ マサヒト)
Dragon Ashなどの作品を手掛けている敏腕エンジニア。空間表現や奥行きの作り方に定評があり、時間軸に音を刻み込むようなミックスは多くのアーティストから厚い信頼を得ている。近年は作・編曲家、プロデューサーとしても活動を展開しており、藤本 健氏とのコラボレート企画『DTMステーションEngineering』もスタートしている。
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